IFLA 保存と修復の原則(1979年) -- 抄訳



前文

1. 本原則の性質と目的(略)

2. 保存の一般的所見(略)

3. 物理的損傷からの防護(略)

4. 生物的被害からの防護(略)

5. 化学的被害からの防護(略)

6. 修復の一般的所見

7. 資料本体、紙葉の修復

8. 製本の修復



前文

 図書館の志と目的は、言葉のもっとも広い意味における保存である。すなわち、過去および現在の記録資料(手稿本、版本、その他の形態における)を収集し、それを現在および未来の利用者が使えるよう保全することである。
 過去および現在の重要な蔵書に対し、今世紀および未来の世紀にわたって手引となる原則を提示することは極めて困難なことである。この困難さは、たんに地域的で束の間の興味の対象と目されながら、実はそれぞれの文明の証拠の一部でありうるある種の分野の記録資料が、いま図書館蔵書から欠落しているという事態にはっきりと表われている。
 そしてまた、図書館における既存の知られた文化遺産についても、これを未来永劫に伝えるための予防的および治療的手段を総括的に述べることは簡単な問題ではない。以下に掲げる原則は、こうした保存と修復の手段に関わるものである。
 この極めて特殊な任務を担う図書館員が、保存・修復の問題をよく理解するために身につけるべき知識と感覚は、基礎的な科学、技術、材料にとどまらず、内容と同時に物質的構造を拠り所にしての蔵書中の各資料の起源ならびに歴史にまで及ばなければならない。図書館員と修復家には、多様な歴史的文化、伝統、技術から生まれた様々な種類・性質をもつ対象を扱うのだという自覚が必須である。修復の処置は、可能なかぎり、対象の起源に対する配慮をもって施さねばならない。

1〜5    (略)


6 修復の一般的所見

 6・1 劣化の過程を逆行させることは不可能である。したがって、純粋な意味での修復はありえない。図書館蔵書中の傷んだ資料の修復とは、利用に支障がないように安定化させることと復元である。機能面で問題なく使えるかぎり、もとの材料を使うが、必要に応じて新しい材料も使う。もとの材料のうち、ある特徴は保存されるが、それは他の特徴を犠牲にしてのことであるかもしれない。この変更が許容されるものであるか否かを決めるのは図書館員である。修復の目ざすところは、本来あった機能的・視覚的・触覚的性質を、修復後の資料にできるだけ多く残すことである。
 6・2 資料を修復する前に、保存や修復の専門家の技術的助言をあおぎながら図書館員が判断しなければならないことは、はたして修復が本当に必要であるのか、あるいは適切な保存・保護の手段をもってすれば、通常の利用に対しても適切に保存されうるのではないか、という点である。どうしても避けられない場合でないかぎり、修復は施すべきではない。
 6.3 どんな形の修復であれ、それが必要となるのは、その資料がもはや利用できないほど劣化・損傷が進んでいる場合である。ほとんどの場合、修復を施さざるをえない理由は、劣化・損傷の度合であるよりは利用のはげしさである。悪い状態にある図書でさえ、もし利用からはずされ、良好な保存条件下で保管されるなら、少なくとも短期的な意味では、さほど危険ではない。
 6.4 どんな修復が必要かを知る助けとするためには、かぎられた規模のものであってもそれ用の目録が必要であり、またそれはつねに蔵書の最新状態が詳細に記録されているよう、定期的に修正を加えていなければならない。
 6・5 図書館蔵書の修復の仕事は、本来的に労働において、また時に材料において、高価なものである。目的は資料をできるだけ長期に利用できるようにすることであるから、本文が必要な利用者には別の図書なり、マイクロフィルムやコピーを提供した方が経済的で、原本は利用からはずしたうえで適切な保管により安定化を図ればよい、と図書館員は考えることができる。
 6・6 修復が必要な大量の資料(特に古い蔵書の場合)と修復方法の広範な種類を前にして、図書館員は修復専門家の助言をえて必要な修復の種類と度合を決めなければならない。それを決める前には、各々の図書の構造および材料についての綿密な研究を行わなければならない。こうすれば最適の方法と材料が使われることになろう。また、歴史上興味深い細部が観察され、記録されよう。
 6.7 修復の仕事のための材料(紙、革、薄葉紙、接着剤など)と、とりわけ化学物質(溶剤、漂白剤、脱酸溶液など)の使い方については、特別の知識をもつ、また修復での使用経験をもつ化学者に助言をあおいだ後でなければ使ってはならない。
 6.8 どんな資料についてであれ、あらゆる形の修復の仕事は完全に記録しておかなければならない。場合によっては、写真による記録が採用される。処置前の資料の状態についての記述(または写真)ならびに処置の詳細(使用した材料・化学物質を含む)は必須であって、それは修復のもたらした変更について完全な証拠を提供するものとなる。修復を施された資料は、そのことがはっきりわかるようになっていなければならず、また修復記録(処置の時期と処置者名)は、その図書の利用者が参照したい時はいつでも使えるよう保存しておくべきである。


7 資料本体、紙葉の修復

 7.1 修復の目ざすところは、原本の耐用性に匹敵するか、またはそれを凌駕することでなければならない。ただし、視覚的・触覚的性質はできるだけ変化させないことが重要である。
 7.2 修復の仕事のための材料、そしてそれを使う技術を選ぶ際にまず考慮すべきことは、適合性、耐用性、安全性、処理の可逆性(可能なかぎりの)である。速くて安い処置とか、楽に入手できる材料とかいうことは、右の要件をまず満たしたうえではじめて考えるべきことがらである。
 7.3 図書館員と修復家は、修復を通じての偽造と毀損との危険を十分自覚しなければならない。このことは、無くなっている口絵なり本文なりを他から補おうとする時、とりわけ必要となる。こうした場合の代替の記録は、特にそれがすぐには同一物と気づかれない時などは、特別注意して作っておかなければならない。


8 製本の修復

 8.1 製本の目的は図書の中身が傷まないようにし、また、劣化の進行を遅らせることである。したがって不可避的に、製本それ自体は特に傷みやすく劣化しやすいものであって、多くの図書館では製本に処置・修理・修復などを要する非常に多くの蔵書を抱えている。
 8.2 製本の修復は、それが機能上必要な場合にのみ施すべきである。(6・2参照)多くの場合、箱やケースが適切な保護となる。
 8.3 修復を要する製本を大量に抱えている図書館では、例外的に美しく価値の高いものの修復だけでなく、蔵書全体としての修復を考慮すべきである。
 8.4 傷んだり劣化した製本の修復には、できるだけもとの材料と技術を採用すべきである(もとの材料や技術が頑丈な構造をもっているかぎり)。もとの材料が満足すべきものでなかったり入手不能な時は、できるだけもとのものに近くて丈夫な代替品を用いるべきである。歴史的な製本の技術・材料を使う修復家は、その機能を認識しなければならない。
 8.5 製本の傷みがひどくて修理ができないため、古いものを利用しながら新たに作り直さざるをえないような時でも、いろいろな情報を担っているあらゆる部分(装飾の端切れ、所蔵者を示すもの、古いタイトルラベルや配架用ラベル、製本工程で使われて残っている反故の紙やヴェラムで文字の記されているもの)を、たとえ内容や価値がすぐにはわからなくても移しておかなければならない。そうした細部を新しい製本に移す際、できるならすべてをそのもとの位置に使い、もとの製本における機能と同じ機能をもたせるべきである。これらもとの細部は、容易に見えるよう、また、十分に保護されているよう注意を払うべきである。容易に識別できない変更(断片の除去など)は、その巻の利用者にそれがすぐわかるような方法で示されていなければならない。
 8.6 もとの製本がわずかな端切れ程度しか残っていない場合は、完全に新しい機能的な製本を施し、もとの端切れは別個に保存するのがよい、と図書館員は考えてよい。
 8.7 もとの製本が何ひとつ残っていない場合は、図書の中身にふさわしい技術と材料を用いて、こだわらない製本を施すべきである。


原本は Principles of conservation and restoration in libraries. (IFLAJournal 5(4):292-299, 1979)。邦訳「IFLA 保存と修復の原則(1979年)」は金谷博雄により『コデックス通信・資料』No.1(1986)として発表された。また、1987年に日本図書館協会により刊行された1986年版『IFLA 資料保存の原則』には<参考>として1979年版の6,7、8の章が訳出されている。今回の掲載に当たっては金谷訳を基本にしているが、CON-CON LIB 編集担当により若干の補訳が行われている。


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