「映画フィルムの保存方法」〜保存現場からの報告

株式会社 一如社
伊沢 巧


* アメリカを中心とした保存施設、推奨する保存環境、そして実際に我々が行っている映画フィルムの保存方法、最後に磁気テープの劣化と対策について述べる。

1.主な保存施設について

(1) 米国の施設

@米国国立公文書館(新館)
 カラーフィルム 「−5.5℃・33%RH」
 カラープリント 「+3.3℃・38%RH」
 白黒フィルム・白黒プリント・磁気テープ・ガラス乾板 「+18℃・38%RH」

Aスミソニアン博物館協会(アメリカ歴史博物館) 「+5.5℃・36%RH」

Bケネディー記念館
 冷蔵室 「+16℃・40%RH」
 ならし室 「+13℃・30%RH」
 冷凍室 「−18℃・39%RH」

Cカーター記念館
 オリジナルカラーフィルム(映画・写真) 「−18℃・40%RH」
 フィルム・ビデオ・レコード・プリント 「+13℃・40%RH」

Dシカゴ美術館
 白黒プリント 「+15℃・40%RH」
     カラープリント 「+4℃・40%RH」

 *設備的には−18℃で設計されている。

(2) ヨーロッパの施設

@The European House of Photography (Paris) 「+4℃・40%RH」
ADenmark Film Archives 「+5℃・50%RH」
BSwedish Film Institute 「−5℃・40%RH」

(3) 国内−国立近代美術館フィルムセンター相模原分館

 ・1986年設立 敷地15,000u 床面積4,510u
 ・B1/白黒フィルム 「+10℃・40%RH」
 ・B2/カラーフィルム 「+5℃・40%RH」

2.保存方法について(TACベースの映画フィルム)〜推奨する方法

*Vinegar Syndromeの対策をまず考慮する〜物理的劣化(寸法変化、脆化)は使用不能となる
〜Vinegar Syndromeによる劣化は避けられないので、適切な環境・手段によって開始点を伸ばしていくことが保存対策
〜Vinegar Syndromeの対策は褪色、変色の対策ともなる

(1) 施設について

@前室の設置
 〜持ち出し時の結露対策
 〜館内からの空気の侵入を防ぐ
A壁面、天井には断熱金属パネル(アルミパネルで発泡ウレタンをサンドする方法)を使用する
 〜冷蔵・冷凍倉庫仕様 50mm〜100mm厚
B塗装(壁面、天井、ラック)〜ポリエステル・パウダー・コーティング
C床〜エポキシ塗装
D電動ラックは自動散開型として、ラック内の空気流通を考慮する
E棚〜1缶ずつのセパレートタイプ
F照明は紫外線カットの蛍光灯
Gカードキーなどによるセキュリティーチェック

(2) 包材について

@アーカイバル仕様のプラスチック缶(ポリプロピレン製)
 *変形、脆弱等の問題もあるが素材の安定性、対腐食性、重ねても密閉されないこと、などから選択
 *米国にメーカー数社(保存用の缶は日本製はない)
Aプラスチック(ポリエチレン)バッグ(袋)の使用
 *リール巻きのプリントもコア巻きにして保管する
 〜保存には3インチコアを使用する

(3) 実際の収蔵プロセスについて

@フィルムの内容調査と登録
A酸性劣化度チェック(DANCHEK、AD-STRIPS)〜フィルムの劣化度合いを知り、コピーは必要か、必要な場合どれを優先するかの判断
B点検、つなぎ目の補修、リワインド(巻き直し)
C劣化度合いによっては、モレキュラー・シーブなどを封入する
D低温にて保存する場合はならし期間が必要〜低温保存の場、残留水分に注意を要す
E収蔵庫へ
F入出庫の注意事項〜結露対策 低温に限らず梅雨時と夏期では事務室、作業室の露点を確認する
G低温保存の場合は事故防止のため、必ずマニュアルを作成して正しい手順を熟知すること

(4) 日常の点検事項等

@温度・湿度のチェック〜毎日2回程度
A空気の酸・アルカリ度チェック(環境モニターによる簡易検査)
 *月1回程度、エアフィルターの交換時期の参考になる
B空気分析(イオンクロマトグラフ法)〜1,2年に1度
 二酸化硫黄  1μg/m3(0.4ppb)以下
 オゾン    2μg/m3(1ppb)以下
 二酸化窒素  1μg/m3(0.4ppb)以下
*フィルムに関する規定は定まっていないが、この数字を基準に考える
Cフィルムの点検、巻き直し〜劣化フィルムの対策(モレキュラーシーブの交換)

3.これだけはすべきこと〜一つの方法としての提案

@プラスチック缶、あるいは新しいスチール缶、黒のポリエチレンバッグを用意する
  Aフィルムの劣化・酸性度試験−酢酸臭である程度判断はできるが、AD-STRIPS あるいはDANCHEKを使用して劣化度合いを知る
    *フィルムは直にさわらないこと 静電防止の手袋使用〜劣化したフィルムに直接触れることは皮膚にも良くない
B試験の結果によってコピーフィルム作成(ネガからはマスタープリント、ポジからはインターネガ)
Cポリエチレンバッグへ入れる
 *劣化の見られるフィルムについては、モレキュラーシーブを封入する(状態にもよるが通常は2年で交換)〜この時に巻き直しを実施する
 *密閉に近い状態なので、モレキュラーシーブの交換とリワインドを忘れると逆効果となるので特に注意が必要
 *酢酸臭のある場合、できるだけの換気を心がける−酢酸臭のたちこめる庫内は健康面にも懸念がある
 〜ポリエチレンバッグにモレキュラーシーブとともに封入すれば酢酸臭も抑えられる
 *劣化のないフィルムについてはポリエチレンバッグに入れる必要はないが、2、3年に一度の巻き直しは必要
Dリール巻きのプリントもコア巻きにして、缶に入れる
E棚に重ねる場合は5缶までとする
 〜特にプラスチック缶は重ねても密閉されないので推薦できる
Fフィルム保存の場合、湿度の管理が大切〜低温低湿が望まれる
 〜低温保存の有効性〜「ANSI」、「JIS」でもカラーフィルムの長期保存は2℃以下と推奨している

4.磁気テープ類の劣化と対策(映画フィルムの場合、音声は必須条件)

(1) 磁気テープの劣化には2種類ある

@バインダーの劣化〜加水分解によってテープが粘り、ローラーや再生ヘッドに絡み付く現象で、再生すると「キーキー音(テープ鳴き現象)」を発する〜これを「Sticky Shed Syndrome」と呼ぶ
A潤滑剤の劣化〜再生時に粉状の物質が見られ、テープ走行が困難となる

(2) 対策

@バインダーの劣化
 〜目詰まりする再生ヘッドをこまめに清掃しながら、少しずつ再生してコピーする方法が安全だが、最終的な手段として業務用の食品温蔵庫を使用する強制乾燥法(庫内温度55℃にて2時間程度乾燥する)もあるが、大きなリスクを伴い十分な注意が必要
 *強制乾燥法を実施する場合は、劣化のタイプ(バインダーの劣化か潤滑剤の劣化か)をよく見極め、バインダーの劣化(Sticky Shed Syndrome)のみ実施する
A潤滑剤の劣化
 〜摩耗したヘッドを交換しながらコピーする

(3) 保管方法

 @変動の少ない乾燥した涼しい場所に保管する A頻繁に再生しないこと B2本コピーを取り、1本保管1本使用 C5〜7年に一度コピーを取る


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