レーザー・クリーニングやインク焼けのような派手な話題にはならないが、世界中の紙媒体資料のコンサーバターがその完成を待ち望んでいる教材作成プロジェクトが順調に進んでいる。paper and water : a guide for conservators と名付けられたこの『手引き』は来年央にdvd付きで上梓される予定である。ドイツ、イギリス、オーストリア、アメリカ、イタリアのコンサーバターが協力し、2001年にスタートして現在まで製作を進めてきたものだが、この作業の中核を担う gerhard banik(department of paper conservation, state academy of art and design, stuttgart, germany) と irene br/uckle (art conservation department, buffalo state college, united states)が現在の進展状況を hand papermaking (vol.19, no.2)に寄せている。br/uckle 氏からのメール(私信)も合わせ、現状を紹介する。
紙そのものを作るときにも、そこに記された記録を保管するときにも、環境その他の原因で傷んだ紙媒体を治すときも、全て水(水蒸気も含む)が関連する。クルクル丸まった紙を平らにするときには水が必要だし、澱粉糊を溶くのも水だ。紙の酸性劣化とは酸が触媒となった加水分解だし、この酸のうち水溶性の酸(圧倒的な割合になる)を洗い流すのも水である。さらにアルカリを紙の繊維の奥深く入り込ませて不溶性の酸を中和しバッファにする脱酸性化処置も水性に勝るものはない。
水は、紙媒体資料のコンサベーションではこれほど身近で、ごく普通に使用しているモノであるにも関わらず、いやそれ故にか、紙とのインターフェイスが抜本的に考えられることはなかった。紙が濡れるときにどのような物理的・化学的変化が生じるのか、同じく紙が乾くときはどうか、オリジナルと、水に接して「修復」された紙媒体はなにがどのように違ってくるのか、「紙中の水分」というが、分子レベルではそれはどのような状態なのか、セルロースの繊維とどのように結合あるいは分離しているのか—等々、知っているようで実は知らないことが沢山ある。
2001年に開始されたこのプロジェクトは、アメリカ文化財保存修復学会(aic)を窓口にした samuel h. kress 基金と、欧州連合(eu)のレオナルド・ダビンチ基金から資金援助を得て、iccrom、ipc、iada、icort 等からそれぞれ専門家を招聘し、教材の中身についてこれまで8回のセミナーを開催、練り直しを重ねてきた。紙媒体のコンサベーションに関わる者ならば誰もが認識しておくべき「水と紙」について、基本から徹底的に学ぶことで、より良いコンサベーションを実践することを目的にした教材である。
教材は印刷された本とdvdから成る。全体の構成は次の7章。コンサベーションの実技そのものではなく、それを支える理論を学ぶことになる。
1. 基礎:紙の基本的な構造、水の性質、純水の純粋なセルロースに与える影響。
2. 製紙:水との関わりを中心にした製紙について。
3. 環境の中の紙:湿度と紙の変化、紙の劣化と水。
4. 水性溶媒:コンサベーションで使う水溶性物。水の浄化、自イオン化とph、水性脱酸溶液の作り方と働きほか。
5. 水性処置:水性コンサベーション処置における水と紙の相互作用、濡れた時になにが起こっているか、効果的な洗浄とは。
6. 紙の乾燥:製紙の際の乾燥、コンサベーションの際の乾燥。
7. 水性コンサベーションの際の一般的な注意事項
図表を豊富に駆使するととともに、関連する動画をdvdで見ることができる。
gerhard banik, irene br/uckle, "paper and water: a guide for conservators", hand papermaking (winter 2004, vol. 19, no.2), p.19-22.
hand papermaking
http://www.handpapermaking.org/
leonardo:water in paper
http://www.sabk.de/forschung/description_leonardo.htm
workshop at iccrom:paper and water – training of trainers pilot course
http://www.iccrom.org/eng/news/iccrom/2004/
meetings/03_01paper&water.htm






