図書館・文書館資料の保存と修復のための唯一の専門誌Retaurator :International Journal for the Preservation of Library and Archival Material の最新号(Vol 26, No 1, 2005) は、水性処置の際の水溶性インクへの滲み止めと脱酸性化の効果と影響、インク焼け熱湯浸漬処置の影響、インク焼け抗酸化化のためのフィチン酸キレート処置の影響、そしてドイツで実用化されている各種の脱酸性化技術の評価など、以下の5つの論文を掲載している。概要を紹介する。(文責:木部徹)
Restaurator
http://www.saur.de/index.cfm?content=kurzanzeige.cfm?show=0000006512&menu=catalog1
■B. HAVLINOVA, J. MINARIKOVA, L. ?VORCOVA, J. HANUS, & V.BREZOVA : Influence of Fixatives and Deacidification on the Stability of Arylmethane Dyes onPaper during the Course of Accelerated Aging.
滲み止めは一種類だけで全てまかなえない
水性の脱酸性化処置等を行う場合には、水に滲んだり流れたりする色剤に耐水性を持たせる処置が必要になる。なかでも緑や紫のインクの染料であるアリルメタンは滲み止め、流れ止めが必須である。著者らは酸性の紙基材をアリルメタン染料8種で染め、耐水性付与はSandfix WE とチクロドデカンで、脱酸性化は炭酸水素マグネシウムと同カルシウムの水溶液で行い、それらを加速老化させて効果を見た。それぞれ長所と欠点があり、1種類の耐水性付与の方法で全てをまかなうのは無理なことが分かった。
この論文の関連Web
J. Hanus, J. Minarikova, B. Havlinova, L. ?vorcova, V. Brezova, E. Hanusova :
CHANGES OF SOME ARYLMETHANE DYES ON PAPER
DURINGCONSERVATION TREATMENT
www.infosrvr.nuk.uni-lj.si/jana/ICOMd/29JHanus.pdf
■SEASON TSE, HEATHER HENDRY, PAUL BEGIN, P. JANE SIROIS
&MARIA TROJAN-BEDYNSKI: The Effect of Simmering on the Chemical and Mechanical Properties of Paper.
インク焼けの熱湯処置は紙に悪い影響を与えない
インク焼け資料を熱湯(90-95℃)に浸漬して焼けを防御する方法は、対策のひとつとして長く使われてきたが、紙への悪い影響が懸念されていた。著者らはリネンのラグ紙(おそらく1758年の)と、ろ紙を水酸化カルシウム(pH 8.5)液に15分浸漬し、この処置を行わなかった試料と、アルカリ水で洗浄しただけの試料を、共にチューブ法により熱老化させ、その影響を、重合度、含水率、pH、耐折強度、引き裂き強度、色の各変化で見た。また、走査型電子顕微鏡、SEM/EDS、FTIRでも観測した。その結果、化学的・物理的なダメージはないことを確認した。さらに室温の洗浄水だけの洗浄と浸漬は耐熱老化性が非常に良好で、特に新しい紙の場合に顕著だった。なお、老化してブリットルになった紙の柔軟性が浸漬後に良くなったのは、水溶性のサイズ剤や添加剤が紙中から流されたためと推測される。
この論文の関連Web
Season Tse, Sherry Guild, Roberta Partridge, Maria Bedynski, Kyla
Ubbink :Activities at the Canadian Conservation Institute and Library and
Archives of Canada
http://www.knaw.nl/ecpa/ink/research_2.html
■ANTONIO ZAPPALA, CAROLINE DE STEFANI: Evaluation of the Effectiveness of Stabilization Methods. Treatments by Deacidification,Trehalose, Phytates on Iron Gall Inks.
抗酸化剤トレハローゼとの組み合わせで好結果
ろ紙に没食子インクを含浸させ、フィチン酸カルシウムによるキレート処置と炭酸水素カルシウムによる脱酸性化に加えて、トレハローゼを抗酸化剤として用いた場合の効果を見た。重合度とpHを計測した結果、キレート処置と酸化剤との組み合わせが最も効果が高く、脱酸性化と抗酸化剤のみでは充分な効果は得られなかった。また概して、一口に没食子インクといっても、歴史的に使われてきたレシピは多用で多種であることを考えると、劣化の実際の状態を化学的な術語で正確に表すことは難しいといえる。
■LORENA BOTTI, ORIETTA MANTOVANI & DANIELE RUGGIERO: Calcium
Phytate in the Treatment of Corrosion Caused by Iron Gall Inks: Effects on Paper.
フィチン酸カルシウムによるインク焼け処置は紙に悪い影響を与えず効果が
高い
没食子インクインク焼けはインクの中の過剰なFe2+イオンが触媒として機能し、セルロースの酸化劣化を加速させるものだ。フィチン酸カルシウムによるキレート処置はこうした焼けの進行を食い止める方法として世界的に定着しつつあるが、その処置の基材の紙への影響を見た。フィチン酸カルシウムと炭酸カルシウムとの組み合わせの効果が最も高く、紙への悪い影響も無かった。
この論文の関連Web
Lorena Botti, Orietta Mantovani and Daniele Ruggiero: Calcium Phytate, a
Natural Antioxidant to Counter Paper Corrosion Caused by Iron Gall Ink
www.asrm.archivi.beniculturali.it/CFLR/Dobbiaco/Poster/Abstract/Fitato_en.pdf
■GERHARD BANIK: Mass Deacidification Technology in Germany and its Quality Control.
ブックキーパー等の微粉末脱酸法は、紙中に生成される酢酸に効果なし
ヨーロッパですでに実用化されている脱酸性化法(ペーパーセイブ、ネッシェン、ブックキーパー、リベルテック)の効果を、German Research Association(Deutsche Forshungs-gemeinschaft: DFG)が開発した非破壊的な試験法で評価した。この方法はGC/MSを使ってセルロース劣化の指標となる二つの劣化生成物(酸加水分解によるフルフラル、酸化劣化による酢酸)を測るというもの。酸性紙をそれぞれの脱酸性化処置後に、これらがどの程度残っているかで各方法の効果を見た。いずれも液体の中で処置するネッシェン(水)とペーパーセーブ(HMDOという非水性液)は満足できる結果が得られた。しかし
酸化マグネシウムや炭酸カルシウムの微粉末を使う方法(ブックキーパー、リベルテック)は望まれる中和効果を達成するには遠く及ばなかった。さらに酢酸は、ネッシェンとペーパーセーブでは完全に除去できるが、ブックキーパー、リベルテックでは紙から除去することはできない。またこの論文の後半は脱酸性化法を実際に導入する場合の選択の仕方について、それぞれの方法の利点と欠点をどう組み込んでゆけばよいのかをワークフロー図(p.72)と共に述べている。
この論文の関連Web
Gerhard Banik "Technische Verfahren zur Papierentsauerung, Stand der Entwicklung Qualitatssicherung."
http://www.artconservation.nl/massaconservering.html