(社)日本写真学会が主催する平成17年度画像保存セミナーが11月1日に東京都写真美術館(目黒区)で開催され、6つの講演が行われた。うち4つを、予稿集に拠り要約する。
写真室音寿命評価の新しい考え方と実際 (元富士写真フイルム、瀬岡良雄)
写真保存の暗保存性評価はアレニウス法で室温寿命を決める方法が基本になっているが、劣化データの使い方が経験的かつ非定量的であること、劣化プロファイルが温度で異なる場合には、そのままではアレニウス評価ができない–等の問題が指摘されている。これを克服する新しい概念として「プロファイル外挿法」を導入し、評価時間の短縮のために「サイクルサーモ」を、さらに予測制度を一層向上できる「確率予測法」を取り入れた寿命評価を詳説した。また、国内3カ所でおこなった様々な写真の15年間保存の劣化データを、新しい予測方法による寿命評価データと比べ、その相関性を示す述べるとともに、日本国内では高湿保存条件として70%RH、推奨保存条件としては40%RHと結論している。
インクジェットプリントの画像保存性と試験評価 (コニカミノルタフォトイメージング、須田美彦)
これまでメーカーや試験機関ではインクジェットプリントの暗所保存性や耐光性を銀塩写真と同じ方法で評価してきたが、間違った寿命予測を生じる可能性があることがわかってきた。そのひとつが酸化ガス、とくにオゾンの影響で、外気から持ち込まれ屋内濃度が高くなれば酸化による褪色が起こる。プリントが展示される通常の屋内オゾンの濃度についてははまだ合意がないが、数十ppm・hrの積算暴露量で一年相当と見なすようになってきている。しかしこの条件で加速劣化させてもその褪色が一年間の展示に相当するのかどうかははっきりせず論議が続いている。光褪色には顔料インクはほとんど問題がないが、写真プリント用紙のうち空隙型のものへ染料インクでプリントしたものの褪色が早いのは、光よりも空隙に入ったガスの影響が強い。耐光性試験も、インクジェットは湿度の影響が著しいので低湿度と高湿度の両方での試験が望ましい–等、課題が残る。Iプリント画像の寿命の規格化はSOでも行われているが、一部が規格化されているにすぎない。そこで現在わかっている範囲(屋内への酸化性ガスの進入を防ぐ–等)で少しでも好ましい保管方法を考えることを奨めたい。
保存用紙の見直しと保存環境を改善する機能紙について (特種紙商事、中野修)
「保存性の良い紙」は内外での指標や規格があるが、この評価のための試験法はサンプルを試験槽に吊るして暴露するハンギング法が一般的であった。しかしこの方法では、包材等の隣接する紙同士の影響(移行物質としての無機陰イオンによる)がわからない。そこでpHの違う紙で製本した束の中に各種のサンプルを挟み強制劣化させ変色や強度変化を見る「挿入法」を開発し、その成果を元に製造・販売してきた保存用紙の見直しを行った。そして内外のこれまでの指標・規格に加えて紙中の全無機陰イオン含有量の多寡による良否を判断することにした。特に硫酸イオンについては含有量を70mg/Kg 以下にした。写真用包材としても東京都写真美術館によるPAT試験に合格している。その他、調湿機能をもつ紙、汚染ガスを吸着する紙等も開発し、採用されている。
■関連Web
酸性紙・中性紙・アルカリ紙の新しい見方、「挿入法」で全面的な見直しが可能に
写真銀画像の劣化のメカニズムと化学修復について (コニカミノルタフォトイメージング、河野純一)
白黒の銀塩写真の劣化メカニズムと、これまで行われてきている化学的な修復処置について。劣化は、硫化によるものと、酸化によるものとに分けられる。前者は大気中からの影響もあるが一般には不完全な現像処理(水洗不良のためにチオ硫酸ナトリウムが残留する)により、褐色もしくは黄色の硫化銀を生成して変色やイエロー・ステインを生成する。また定着不良のため残留した硫酸・銀錯イオンが分化して硫化銀が生成し全体が黄ばんでくる。一方の酸化による劣化は、複写機からのオゾン、ホルムアルデヒドからのガス、大気中の窒素酸化物や硫黄酸化物などによるもので、材料によって異なるが褪色や黄褐色化として現れる。いわゆる銀鏡は酸化劣化の典型でバインダー層を持つ材料のほとんどに見られる。その他にはバインダーや支持体フィルムの劣化等がある。これらの劣化に対して、オリジナルを化学的に処理して修復する方法が昔からあるが、現在ではかえって画像を痛めることが多いので行うべきではないという認識が一般的である。