IFLA(国際図書館連盟)資料保存分科会のニューズレター International Preservation News (IPN) の最新号(No.37, December 2005)は、「白手袋に関する誤解」(Misperception about White Gloves)を掲載している(p.4-16)。貴重資料の取り扱いとコンサベーションで長い経験を持つ二人の著者、Cathleen A. Baker とRandy Silverman による。
「汚れた手で貴重資料を扱うのは論外であるが、白い綿の手袋を着用することは、資料を傷めないどころか、むしろ有害であることが知られていない。白手袋着用は資料を丁寧に扱うことを意味するというのは、全くの神話だ」と著者らは言う。
この理由は、「綿手袋は素手の指先が持つ微妙な感覚を失わせるので資料を落としたり、ページめくりがしにくくなって無理が生じ、資料を傷める可能性が高くなる」。「触って得る情報が遮断される」。ここまではだれでも理解してもらえるだろうが、もっと大事なのは次の事だ。すなわち、「綿手袋は塵埃等の汚れを吸着する一方で、手袋内部では汗が揮発せず、手袋に吸収され、汗が資料に移りやすくなる」。ただし写真資料を扱う時は手袋の着用を奨める。
手袋神話はまた、資料にとってもっと悪い影響を及ぼしている事柄を心理的に隠蔽してしまうことがある。保管場所の大気の汚染、高温、多湿、紙の中の酸性物などの方が、資料にとっては、はるかに有害であるのだが。
石鹸で洗い、乾燥させた清潔な手の方が悪い影響はずっと少ない。もし頻繁に手を洗うことができない場合には市販の使い捨てのウェット・ティッシュやタオル(消毒用のアルコールを含ませてある)を使うのはとても良い選択だ。
Misperceptions about White Gloves
IPN, No.37, December 2005.
http://www.ifla.org/VI/4/news/ipnn37.pdf (1.2M)
■「手袋問題」については、図書館員やコンサーバターのメーリング・リスト Exlibris でも1999年10月に、 Glove のテーマで盛んなやりとりが行われているが、素手派が優位。
http://palimpsest.stanford.edu/byform/mailing-lists/exlibris/1999/10/
■以下のメーリング・リストも
Nishimura, D. "White Glove"
http://palimpsest.stanford.edu/byform/mailing-lists/cdl/1997/0562.html
■弊社では
貴重な資料をお預かりし修復のために工房で扱うときには、当然ですが、手袋を着用することはありません。「素手の指先が持つ微妙な感覚を失わせるので資料を落としたり、ページめくりがしにくくなって無理が生じ、資料を傷める可能性が高くな」り、「触って得る情報が遮断される」。要するに仕事にならないからです。では、お客様のところにうかがって資料を手ずから扱わなければならないときはどうするか? もしお客様の許可が得られれば、上記のように「清潔な手」を作って扱わせてもらっています。扱っている間も、いわゆる市販の「使い捨てのウェット・ティッシュ」(エチルアルコールが入ったもの)で回数多く、手を拭くことにしています。しかしながら、白手袋着用が義務づけられている場合には、その指示に従い、資料を傷めないように注意しながら扱います。なお、また聞きですが、正倉院の宝物を扱っておられる職員の方々は、清潔な素手で扱うそうです。
資料保存の分野には、よく考えるとなにも根拠が示されていない「神話」があります。「桐神話」、「コピーの光神話」、そしてこの「白手袋神話」が”三大神話”です。
(文責:資料保存器材 木部徹)