図書館・文書館資料の保存修復のための季刊誌 Restaurator; International Journal for the Preservation of Library and Archival Materials の最新号(Vol. 26, No.2, 2005)は、この9月にハーグ(オランダ)で開催された国際博物館会議保存修復分科会(ICOM-CC)の第14会国際会議の発表から、資料保存関連の6つの論文を掲載している。ちなみにこの6論文は同会議の予稿集には含まれていない。
■David Erhardt et al. Chemical Degradation of Cellulose in Paper over 500 Years.(p.151-158)
500年の時を経て紙の中に生成された糖類(グルコースやキシロース)の多寡を見ることで紙の劣化の指針にする。14-17世紀の紙と、18-20世紀の紙とを比べた場合、後者の紙の方の単糖類のレベルが高いことが分かった。酸加水分解の速度に倣う。
■Matija Strlic et al. A new electrode for micro-determination of paper pH. (p.159-171)
pHは紙の寿命を測る重要な指針の一つであるが、ポリアニリン・コートしたガラス電極と銀/塩化銀・塩化カリウム化により、従来法よりもさらに精度の高い計測が可能になった。この方法では3つの方法(直径1mm以下のサンプルを直接測る、サンプルを水に浸し水を測る、サンプル表面から5-10g採取して微破壊で測る)が選択できる。従来法の破壊的な冷水抽出法と同様の結果が得られた。
■John Havermans et al, NIR as a tool for the identification of paper and inks in conservation research. (p.172-180)
近赤外線分光法(NIR)による紙の種別の判定と、没食子インクの構成および劣化挙動の識別。NIRにより基準になる紙とインクをが得られ、未知の紙とインクや、劣化挙動の域別が可能になった。比較的簡単で、信頼性と再現性の高い方法としてコンサベーションの現場で活用できる。
■Jana Kolar et al , Stabilisation of paper containing iron gall ink with current aqueous processes. (p.181-189)
現在行われているインク焼け水性処置は、キレート性を持つ化合物による抗酸化か、もしくは腐食性の遷移金属を紙中から洗い流すことで紙を安定化している。この効果はしかし、複合的なものなので、そのメカニズムのより深い理解は、より安定した処置に結びつく。効果的な処置の鍵がpHである。pH5.0のフィチン酸カルシウム水溶液ので処置した紙は、pH6.2で処置したものよりも2,3倍速く劣化した。これは高いpHでの鉄キレートの溶解性が高く、この結果紙の中の鉄分がより良く除かれるためだ。促進劣化試験では、同じような効果を持つと期待されたDTPA(ジエチレントリアミン5酢酸)は、炭酸水素カルシウム水溶液で脱酸しただけのものと比べて、わずかに安定化が向上したに過ぎなかった。
■Birgit Vinther Hansen, Improving ageing properties of paper with iron gall ink through interleaving with papers impregnated with alkaline buffer and antioxidant. (p.190-202)
水処置を前提とした現在のインク焼け処置法は、水に流れるような色材を使ったものには使えない。そこで抗酸化力を持つ臭化ナトリウム(NaBr)と炭酸カルシウムを含ませた間紙を挟むことで、どのぐらいの抑制効果が得られるかを見た。加速劣化の後、引張り強度、pH、変色度を測ったが、この二つを含浸させた間紙は、没食子インクで書かれたサンプル紙でも、なにも書いていないサンプル紙でも劣化が抑制された。ただし後者のサンプルについては、引張り強度があるていど損なわれた。高い湿度の下での短期の処置においても、長期の保管のために半永久的に間紙をしても効果があることが分かった。
Restaurator;International Journal for the Preservation of Library and Archival Material
http://www.saur.de/index.cfm?content=kurzanzeige.cfm?show=0000006512&menu=catalog1
The 14th Triennial Meeting of International Council of Museums – Conservation Committee, The Hague
http://www.icom-cc2005.org/intro/schoonhoven/?set_lang=en
文責:木部徹(資料保存器材)