アメリカ文化財保存修復学会の機関誌(Journal of the Amrican Insutitute for Conservation of Historic & Artistic Works:JAIC)の最新号(Vol. 46, 2007)は以下の論文を掲載している。
John Baty and Timothy Barrett: Gelatin size as a pH and moisture content buffer in paper. (紙のpHと含水量のバッファとしてのゼラチン・サイズ), p.105-121.
紙の耐久性へのゼラチン・サイズの効果として、pHのバッファとしての役割、相対湿度の変化に伴う紙の含水量変化のバッファとしての役割を試験した。前者は滴定法によりバッファ機能が、それも長い間の自然の経時老化により生じることを確認した。後者は一定の周期で湿度を変化させ、ゼラチン・サイジングしてある紙とそうでないものとの含水量を比較したところ、出入りに伴う紙へのストレスを抑制できるバッファとして機能していることを確認した。コンサベーション時の洗浄、脱酸性化等の後にリ・サイジングすべきかどうかの選択に寄与する研究。
Soyen Choi: Foxing on paper – a literature review. (紙上のフォクシング– 文献レビュー), p.137-152.
経時した紙媒体の上にできるフォクシング(茶褐色の斑あるいは点状の着色物)についてはこれまで多くの研究が行われてきた。当論文は1930~2003年までの同テーマに関する研究論文をレビューするとともに今後に向けての議論と研究を示
唆することを目的したもの。走査型電子顕微鏡や有機・無機化合物の分析により発生の要因は紙中の金属か微生物(カビ)、もしくはこの組み合わせとされてきたが、近年の研究はフォクシングの被害を受けた紙そのものの劣化(酸化と酸加水分解)によるフリー・ラジカルやその他の反応基の生成に焦点が当てられている。ある種のフォクシングは金属もかびも関連していない。特定の繊維あるいは紙中の水分の偏在がフォクシングの形成に関与しているのではないかという仮説が登場している。フォクシングへの処置では、金属を含む部分やカビの部分の物理的な除去、水性洗浄、酸化・還元漂白、金属のキレート封じ込み、酵素利用などが挙げられる。
Deborah La Camera: Crystal formation within iron gall ink– observation and analysis (没食子インク焼けの結晶化–観察と分析), p.153-174.
ボストン美術館ほか複数の機関が所蔵する絵画の没食子インクに見られる結晶の生成の研究。色は白色、灰色から黄色、オレンジ色まで多様、形も多様、形成部は相当量のインクの溜まりがある紙上。エックス線蛍光分析、走査型電子顕微鏡、フーリエ変換スペクトル赤外線分析等により、結晶は鉄を含む硫酸塩であることが確認された。織物上の没食子インクの12サンプルによる加速老化試験で、生成に関連するインクの構成と環境の役割が実験的に行われた。構成物では没食子とバインダーのアラビアゴムとの比率が結晶の多寡に明らかな相関があり、硫酸鉄が多くバインダーが最少のもので結晶生成が繰り返されることが分かった。
(要訳文責:木部)