2008 年 9 月 のアーカイブ
2008年9月5日(金)
埼玉県立歴史と民俗博が資料保存箱等の内部空気環境を調査、桐箱などの木製収納用具からの有機酸を確認埼玉県立歴史と民俗の博物館の紀要(平成20年3月)は野中仁「資料保存箱等の内部空気環境について—資料収蔵実態でのパッシブインジケータによる調査」を掲載している(p.66-73)。「古来、資料保存容器として用いられたきた木製用具は、有機酸が文化財に影響を及ぼすほど、内部に対流する場合があることを確認したもの」(『紀要』あいさつ)。これまで東北歴史博物館等の及川規氏らが研究を重ねてきた木製品からの有機酸の影響の知見と、東京文化財研究所の佐野千絵氏らの空気環境内の有機酸等を測るインジケータの研究の成果を踏まえて、歴史と民俗の博物館で実際の収蔵物を入れている桐箱、桐箪笥、中性保存箱、(ふつうの)ダンボール箱の内部環境を調査した。パッシブ・インジケータは発生する有機酸濃度に応じて変色するが、資料に対する影響の判断として、有機酸ならば7日を越えて完全に変色しなければ推奨濃度(佐野氏らの研究に拠る)以下であるため問題はないと言えるが、例えば桐箱C(平成9年ごろ購入)やふたつの桐箪笥(比較的あたらしい)では24時間後には完全に変色し、酢酸濃度が600ppbを越えていると推定された、としている。
野中氏は「5. まとめ」(p.71)のなかで「木製の保存箱や箪笥などは、外気の影響を緩和させる能力や防虫、耐火性にも優れているといわれ、古くから用いられてきた。伝統的な物の保存は、その保存用具も伝統の材料と技術とで作られ、伝統的な「目通し・風通し」によって総体的に保存されてきたものと思う。その総体の一部が損なわれた状態では、資料の適切な保存方法としては、未だ不十分と言わざるを得ない。外国輸入木材が大量に混在する中で、収納用具の製作過程等が不明なまま、収納する資料の種類、材質に関係なく、木製保存箱等を安易に使用することだけは避けたいものである。」としている。
現場性が活きている出色の研究報告といえる。
2008年9月4日(木)
米保存修復学会(AIC)、カラー写真で記録を採る際の規準になるColorChecker®プレートを頒布へ
アメリカ保存修復学会(AIC)はこのほど、保存修復対象の状態やコンサベーション時の工程を銀塩写真やデジタルカメラで記録したりするときに、対象物の横に置いて色の規準とするColorChecker® プレートの頒布を始めた。
George Eastman House の International Museum of Photography and Film、Art Conservation Department at Buffalo State College、AICのPhotographic Materials Group が協力して開発した。対象物の大きさに合わせて使えるように全部で4種類が用意されている。上記の上の三枚がセットで30ドル(AIC非会員)、下の大きな一枚のセットが25ドル(同)。それぞれの使い方もAICのサイトからPDFでダウンロードできる。
2008年9月3日(水)
ライプツィヒのプリザベーション・アカデミー、著しく劣化した楽譜への手作業でのペーパー・スプリット処置を報告
ドイツの資料保存のポータル・サイト Forum Bestandserhaltung は、ライプツィヒにある Preservation Academie Leipzig(PAL) による、インク焼けと冠水および虫・カビにより著しく劣化した楽譜(写本)への、ペーパー・スプリット(合い剥ぎ)法を中心にした修復手当てを紹介している。
対象はドレスデンのサクソン国立図書館が保有する楽譜(Mus. Pi Cod. VII)。元々はボロ布を原料にした丈夫な紙だったが、水や虫・カビの被害とともに鉄分を含んだインクの焼けと、冠水したことにより鉄イオンと酸が紙全体に及んだことで、酸化と酸性化が進み、紙力が極端に落ちている。また、以前に行われた修復処置が原因の傷みもある。
本体(テキスト・ブロック)は6枚で一括を構成、全体では約36括、219枚のシートから成なる。これを解体してそれぞれのシートにした後にドライ・クリーニングをし、フィルムと濾紙(処置時の養生のため)を両面にゼラチンで貼り付けて手作業で二つに裂いた。紙力の補強のために和紙(6g/㎡)をセルロース・エーテル糊でサンドイッチするように貼り付けて乾かしたのちに、酵素を入れた温水槽でゼラチンを溶かし、養生の紙を剥がした。一部は欠損部に繊維をはめ込むリーフ・キャスティングを施した。
こうして本体が修復された楽譜は、元の表紙の活かせる部分は最大限に活かし、再び一冊の本として蘇った。
※ Preservation Academie Leipzig(PAL)は旧東ドイツのドイツ国立図書館(ライプツィヒ)のコンサーバターが2003年に設立した企業で、技術顧問に同図書館の修復部門を統括していた Wolfgang Wächter 氏(ZFBの創立者でもあり、自動スプリット装置の開発者)を技術顧問として、脱酸性化(CSC Book Save法)や補修などのコンサベーションからマイクロフィルム化・デジタル化まで一貫して行っている、とある。
2008年9月2日(火)
国立公文書館が国際公文書館会議(ICA)クアラルンプール大会の報告、「修復の技術」の講演と実演も好評国立公文書館のサイトは7月にクアラルンプールで開催された第18回国際公文書館大会の報告を掲載している。同館は「日本におけるアーカイブズの発展」など3つのセッションの他に、増田勝彦・昭和女子大学教授の「日本における修復技術の変遷」と題した講演(英語での発表、概要とともにパワーポイントのファイルをPDFにして下記ページに掲載)と、参加者が体験できる修復のワークショップを開催した。ワークショップには予定人員を越える28名が参加した。大半が初の体験だったという。
2008年9月1日(月)
JHK・日図協共催シンポ「図書館・アーカイブズにプリザベーション・マネジメントを着地させるには」が10月29日に江戸博でJHK(情報保存研究会)と日本図書館協会の共催による資料保存シンポジウム「図書館・アーカイブズにプリザベーション・マネジメントを着地させるには—調査と計画、そして実行のケース・スタディ」が10月29日(水)に江戸東京博物館で開催される。前回(昨年10月)に続く第2回目。前回の「プリザベーション・マネジメント–資料保存の新しい地平」は定員300名を大幅に上回る380名の参加者を得て好評だった。今回は前回で投げからけれたメッセージをより具体的に明らかにするために、内外から講師を招き、資料保存のための管理の柱になる保存計画の立案と実行へ進むためのプロセスを紹介する。講演者と表題は以下の通り(敬称略)。
・Barclay Ogden カリフォルニア大学バークレー校図書館・保存部長
「資料保存のマネジメント ―ニーズ・アセスメントとリスク管理に基づく―」
・村本聡子 国立国会図書館資料保存課保存企画係
「国立国会図書館所蔵資料の劣化に関する調査」 -1950~1990年刊行の和図書について―
・伊藤正直 東京大学大学院経済学研究科経済学部教授、矢野正隆 東京大学経済学部資料室特任研究員
「山一證券資料の整理と公開」
・金山正子 財団法人元興寺文化財研究所記録資料調査修復室
「アーカイブズの資料保存― 状態調査とその活用」
・佐藤祐一 財団法人石川文化事業財団お茶の水図書館
「小規模な図書館の資料保存 ― これまでの20年、これからの10年」
日 時:2008年10月29日(水)10:00~18:00(受付9:30)
会 場:江戸東京博物館1階ホール〒130-0015 東京都墨田区横網1-4-1 TEL 03-3626-9974(代)
定 員:300名 申込締切は10月22日(水)
参加費:無料
申し込み:メールかFAXで(下記のJHKホームページから)
なお、前回と同じく、JHK会員企業による展示会(20社)も開催される。
2008年9月1日(月)
米保存修復学会(AIC)Book & Paper Groupe、1984~1994年に刊行したコンサベーションのマニュアルをPDFで公開アメリカ保存修復学会(AIC)の本と紙グループ(Book & Paper Groupe)が1984年から1994円にかけて断続的に刊行し頒布していた紙媒体のコンサベーション(Paper Conservation)のマニュアル Paper Conservation Catalog が、このほどPDF(スキャニング画像)化されて公開された。無料でダウンロードできる。
この Catalog は同グループに所属する複数のペーパー・コンサーバターが、それそれの専門性を活かして、処置前のスポット・テストや分析法、状態のドキュメンテーションの方法、クリーニング、洗浄、脱酸性化、漂白、欠損補填–等々のコンサベーション処置の方法やマッティング・フレーミング等までをマニュアルとして執筆、公開したもの。1984年のFirst editonから1994年のNineth editionまで9冊、刊行された(注:9回の改訂があったのではない)。この分野で仕事をするペーパー・コンサーバターがお互いにどのような技術や方法を使って処置をしているかという情報が明らかになり、これを契機として全体的なレベルの向上と標準化、さらには方法の積極的な公開と評価の交換が行われるようになった。
しかし、長期に渡るプロジェクトであるため、当初に予定していた内容の構成は edition が新しくなるに従い見直しを余儀なくされ、また盛り込まれるはずだった内容が無いなど、完全なマニュアルにはなっていない。なによりも、最後の Nineth editon であっても1994年の刊行と、今から15年前になるわけで、現在から見ると out-of-date な内容も多い。だが、ペーパー・コンサベーションの方法を一望でき、ここから派生したり展開してゆく現在までの流れを考えるきっかけにすることで、今もなお有効な Catalog であるといえよう。
2008年9月1日(月)
英国図書館(BL)の貴重書『ラーマーヤナ』のコンサベーション、長期保存と利用のためにあえて解体しページをマウント
英国図書館(BL)のコレクション・ケアの事例を紹介するページでは貴重書の『ラーマーヤナ』(Ramayana)に対するコンサベーションの事例を載せている。極めて精緻で豪華な装幀が施された写本であるが、装幀そのものは中身のテキスト・ブロックが作られたずっとあとに再び行われたものでオリジナルではない。もちろん現在の装幀そのものも美術的にも歴史的にも意味があるものなのだが、問題は本が大きく、開きが悪く、しかも製本自体が脆弱で、展示などで開くたびに壊れて行く。
そこでコンサーバターとキュレーターが話し合い、あえて表紙を外し、テキスト・ブロックも解体して、それぞれのページに、両面から見ることができるような一枚物用のマウンティングを施した。また、この際に彩色された画像の絵の具の剥離やページの破れも補修された。外された表紙は、アーカイバルなプラスチック・フォームで支えられて専用の箱に収納され、BLの『ラーマーヤナ』を構成する大事な「部分」として保存されることになった。
2008年9月1日(月)
国会図書館のカレント・アウェアネス・Rが弊社サイトのリニューアルと、陀羅尼経への保存修復手当て等のコンテンツを紹介国立国会図書館の情報ポータル「カレント・アウェアネス」が弊社のサイトのリニューアルと、「百万塔陀羅尼への保存修復手当て」および「蔵書の状態調査のためのサンプル系統抽出法(改訂版)」の紹介をしてくれました。感謝いたします。
2008年9月1日(月)
アメリカの Library Preservation のブログも『ほぼ日』と弊社サイトを紹介シカゴ在住のブック・コンサーバター Kevin Driedg 氏のブログ Library Preservation も紹介してくれました。 "it always looks like there is interesting stuff going on here." というコメントが、私どもにとってのなによりの励みです。We all thank you so much, Kevin !!
2008年9月1日(月)
弊社「スタッフのチカラ」に「文化財保存修復専門家育成実践セミナー受講記」を掲載弊社のスタッフによるレポートのページ「スタッフのチカラ」に、8月3日から14日にかけて行われた文化財保存支援機構(JCP)主催「「文化財保存修復専門家育成実践セミナー」の受講記を掲載しました。





