図書館・文書館資料の保存修復のための季刊誌 Restaurator; International Journal for the Preservation of Library and Archival Materials の最近号から、『ほぼ日』関連論文をいくつか紹介する。
<Vol.29, No.2, 2008>
The Study of Two Humidification and Flattening Methods for Albumen Prints to Determine their Impact on the Evolution of the Cracks in the Albumen Layer
Christophe Vischi, Gregory Hill
紙焼き写真の基材として1855~1890年代に多用されたアルブミン紙への加湿とフラットニング(平らに直す処置)の効果。2つの異なった処置法がそれぞれアルブミンの塗布された表面にどのような影響を与えるか。卵白のアルブミンが塗布されたこの時代の写真は一般的に脆く、網の目のような細かい割れが発生している者が多い。加湿はこの損傷を拡大させるとしてこれまでは適用が制限されていた。まず19世紀のレシピ通りのアルブミン塗布紙を作り、これを加速老化させて割れを発生させ、(1) 加湿とフラットニングをして大きさや割れの数を顕微鏡とデジタル画像により調査、(2)ゴアテックスに挟んと加湿チャンバーでの加湿処置、(3)再度、デジタル画像での調査–を行った。ゴアテックス法では10分もたたない間に割れが変化し、チャンバーでは24時間後も変化がなかった。フラットニングもいくちか試みたが、 HomburgerとKorbelが開発した “hard-soft sandwich” 法がもっとも効果的だった。
A Preliminary Study on Paper Bleaching with Sodium Percarbonate
Alice Baldin, Paolo Calvini, Mariagrazia Plossi Zappalà
過炭酸ナトリウムによる新しい漂白法。処置後に塩化カルシウム液でリンスを繰り返して洗浄するとともにアルカリを残留させた。これまでの過酸化水素による変色した機械パルプ紙の漂白よりも紙を傷めることが少なく安定した結果が得られた。
Study of the Photochemical Stability of Paper Deacidified with Dispersions of Ca(OH)2 and Mg(OH)2 Nanoparticles in Alcohols
Emmanuel Stefanis, Costas Panayiotou
ナノレベルの粒径の水酸化カルシウムおよび水酸化マグネシウムをアルコールに分散させた液で脱酸性化した紙(セルロースだけのものと、リグニンが入ったもの)の光化学的な安定性を見る。280 nm の紫外線に晒したところ極めて優れた結果が得られた。
<Vol.29, No.3, 2008>
Assessment of the Effect of Various Bleaching Agents on Papers with Foxing Stains
Jasna Malešič, Meta Kojc, Vid Simon Šelih
フォクシングが発生している古い紙に対する5種類の漂白法を適用し、長期的な安定性への効果を調べた。フォクシング部の金属イオンをレーザーアブレーションICP-MS法により確認し、紙を洗浄・脱酸性化して、それぞれの漂白処置をした後に画像スキャンしPhotoshop 7.0でCIELab値を得た。さらにこれらの紙を熱劣化加速試験したところ、漂白法はそれぞれ効果があることが判った。高濃度の鉄イオンが紙に存在する場合には、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)と亜ジチオン酸ナトリウムとの組み合わせで処置するとフォクシング部および紙自体も明るくなり、長期的にも安定性が向上することが示された。また、金属イオン含有量が少ない紙には、洗浄・脱酸性化は、水素化ほう素ナトリウムと同様の効果があり、過酸化水素や次亜鉛素酸化カルシウムで処置した場合よりも、良い結果が得られることが示された。
Infrared Imaging of Corroded and Darkened Oriental Manuscripts with Standard Digital Camera
Thi-Phuong Nguyen, Stéphane Bouvet, Alexis Komenda, Brigitte Dumont
普通のデジタルカメラに赤外線フィルタを付けて撮影し、インク焼けで劣化し読めない文書を可読化する。
New Antioxidants for Treatment of Transition Metal Containing Inks and Pigments
Jana Kolar, Alenka Možir, Aneta Balažic, Matija Strlič, Gabriele Ceres, Valeria Conte, Valentina Mirruzzo, Ted Steemers, Gerrit de Bruin
没食子インクや緑青、マラカイトといった、紙の劣化に影響を及ぼすメディアの安定化策として、臭化テトラアルキルアンモニウム(tetraalkylammonium bromides)とマグネシウムエトキシド(magnesium ethoxide)を組み合わせたアルコール溶液の使用を提案してきた。 またこれとは別のタイプの抗酸化剤-臭化アルキルイミダゾリウム(alkylimidazolium bromides)-を、水性の抗酸化処置として広く使用されているフィチン酸カルシウム(マグネシウム)や、非水性である臭化テトラブチルアンモニウム(tetrabutylammonium bromide)とマグネシウムエトキシドをエタノールに溶解させたものと比較した。 2つの新しい抗酸化剤(1-エチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド(1-ethyl-3-methylimidazolium bromide)、1-ブチル-2,3-ジメチル-イミダゾリウムブロミド(1-butyl-2,3-dimethyl-imidazolium bromide)を、それぞれ、アルカリマグネシウムエトキシドとともにアルコールに溶解させたもの)は、アイロンゴールインクを含んだ試験紙の安定化に効果的であった。また安定化の効果は前述した抗酸化剤(臭化テトラアルキルアンモニウムやフィチン酸)よりも優れており、インクの色に対する影響も見られないため、現在使用されている水性のフィチン酸カルシウム処置の代替法として期待できる。
<Vol.29, No.4, 2008>
Treatment of damaged 18th- and 19th-century manuscripts: introduction to an interdisciplinary research project funded by the DFG
Ulrike Hähner
マーブルグ大学図書館が所蔵する法学者サビニ(Friedrich Carl von Savigny、1779-1861)の肉筆原稿への処置。インク焼けが生じているものへ水性の抗酸化処置を行う。その評価については保存科学者だけでなく法学者他の学際的な協力を得た。
Phytate treatment of metallo-gallate inks: Investigation of its effectiveness on model and historic paper samples
Ute Henniges, Antje Potthast
濾紙のモニター紙と実際の文書上のインクへの抗酸化効果を見る。水性処置の定番であるフィチン酸カルシウムによる処置後に分子量およびカルボニル基の変化を観察したが、インク部だけでなく基材の紙自体も極めて安定していることが判った。また、鉄だけでなく銅を含むインクにも効果があった。
Authentic characteristics in manuscripts: An analysis of relevant characteristics before and after aqueous treatment
Gudrun Bromm
水性処置を施した後の手書き文書の真正性、とりわけ筆致のダイナミズムへの影響を、字体学、法的な筆跡学から問う。
What is an original? The interests of the historian working with manuscripts, for example those of Jacob and Wilhelm Grimm
Ulrich Hussong
オリジナルとは? グリム兄弟の原稿に見る真正性の意義。コンテンツだけでなく、紙やインクを包含する全体こそ現物だけが持つオーラの源。
Work standard for the treatment of 18th- and 19th-century iron gall ink documents with calcium phytate and calcium hydrogen carbonate
Enke Huhsmann, Ulrike Hähner
18-19世紀の没食子インク文書を水性処置する時の11のステップを記した処置基準。目視での観察、イオンの確認、濡れ特性の確認、加湿、濡らし、洗浄、フィチン酸処置、アルカリの導入、ゼラチン塗布、乾燥、フラットニング。
(要訳文責:木部、久利、蜂谷)