処置報告/事例
■「ほぼ日刊資料保存」の記事
2008年9月22日(月)
米NEDCC、建国の証「マサチューセッツ湾植民地州憲法」など至宝5点へのコンサベーションの記録をサイトに

アメリカで最も古い歴史を持つ非営利記録資料コンサベーション機関 NEDCC (Northeast Document Conservation Center)はこのほど、マサチューセッツ州公文書館が持つ至宝5点にたいする一連のコンサベーション処置の記録をサイトで公開した。
州警察のパトロール隊に厳重に護衛されながらNEDCCに運ばれたのは、英国の植民地時代とそこからの独立の証になるマサチューセッツ州憲法(The 1629 Charter of Massachusetts Bay)、権利の章典(The Biil of Rights、14点のオリジナルの一つ)など5点。公文書館を建て直すのを機にコンサベーション処置をし、安定した状態にして開館展示の目玉にする。
表面のドライ・クリーニング、過去の修補時の接着剤残滓の除去、破れ補修、フラットニング、化学的に不安定なマウント厚紙の除去、洗浄、脱酸性化が行われ、最後にポリエステル・フィルム・エンキャプシュレーションされた。エンキャプ処置は、同公文書館がこれらの超貴重文書のための展示ケース(無酸素で環境制御されたもので米国立公文書館のそれと同等)に収まるまで、相対湿度の影響を抑えるのが目的である。また資料は初めて、NEDCCにより精細なデジタル撮影が行われた。再びなんらかの代替物が作成されるのは100年後、としている。こうした一連の処置には2ヶ月費やされた。
NEDCC Provides Conservation Treatment for Massachusetts Treasures
2007年9月4日(火)
Restaurator (Vol.28, 2006, No.1)、韓国仏国寺出土「無垢浄光大陀羅尼経」への保存修復手当て--等を掲載
紙媒体記録資料のコンサベーションのための雑誌 Restaurator (Vol 28, 2007, No.1)は以下の論文を掲載している。
Kim, S-S. and oark, E.G. “Restoration of Mukujungkwang Dharani Sutra: the oldest and extant wood-block printed Buddhist scripture”. pp. 1-10.
現存最古の木版印刷「無垢浄光大陀羅尼経」の修復報告。 【別項で少し詳しく紹介--木部】
Goltz, D.M. [et al.] “Enhancement of faint text: using visible (420-720 nm) multispectral imaging”. pp. 11-28.
デジタルカメラに分光フィルターを付け、ハイパースペクトラルイメージング技術(紫外-可視-近赤外線域で各波長毎のバンド情報を分光イメージングできる技術)を使い、判読が難しかった書籍(1905年ごろに出版)に水濡れで転移した文書のインク文字を判読する試み。
Bonet, M., Munoz- Vinas, S. and Cases, F. “A note on the reversibility of cellulose ethers: detection on artwork surfaces using modified FTIR”. pp. 29-38.
紙媒体のコンサベーションで多用されるセルロース・エーテル類の可逆性の程度をFTIR(フーリエ変換赤外分光光度計)を用いて計測。サンプル紙の表面に1~3回、各種のセルロース・エーテルを塗布し、これをエタノール液に浸して除去した後の残留を調べた結果、漬浸時間と関係なく、エーテルは残留していた。
Adamo, M., Magaudda, G. and Omarino, S. “Biological measurement of damage occurring to the inner structure of paper after gamma irradiation: preliminary tests”. pp. 39-46.
ガンマ線照射処理して内部構造に傷みを生じさせた紙と、傷みがない紙との、カビ被害の発生比較試験。
Calvini, P., Gorassini, A. and Merlani, A.L. “Autocatalytic degradation of cellulose paper in sealed vessels”. pp. 47-54.
密閉された環境下や、棚などに並べて保存される本等が生み出す揮発性の酸による自触媒反応劣化の実験。初期のpHは経時劣化プロットの形に関連性が、またVOCの量的な拡大は劣化の程度に関連性が、それぞれあることがわかったという。換気性がない環境下での加速老化や自然老化を研究するときには、重合度の変化以上に初期pHと参加の化学的なメカニズムをむしろ考慮する必要がある。.
Zervos, S. “Accelerated aging kinetics of pure cellulose paper after washing, alkalization and impregnation with methylcellulose”. pp. 55-69.
純粋なセルロースだけで作られた紙(ろ紙のような)を洗浄・アルカリ化・メチルセルロース含浸処理し、加速劣化により得られた自触媒老化反応速度の指数モデルを応用すると、図書館やアーカイブの紙媒体資料は直線的な劣化モデルよりも早く劣化することが解った。保管庫の換気および清浄な空気の還流が紙の劣化が生み出す有害な酸を除く決定的な役割を果たす。
「無垢浄光大陀羅尼経」への修復処置報告(要訳)

国立中央博物館所蔵
Kim, S-S. and oark, E.G. “Restoration of Mukujungkwang Dharani Sutra: the oldest and extant wood-block printed Buddhist scripture”. pp. 1-10.
この経典は1966年に韓国南東部・慶州の仏国寺で発見された。704~751年に、当時の新羅で作成されたもので、楮紙に木版印刷されている。日本の百万塔の経典よりも古いために、現存最古の印刷物としてユネスコの「世界の記憶」遺産にも登録されている。石塔に収められていた1300年の間にホコリや温湿度の変化、酸化、虫カビに侵され、発見時にはすでにひどい傷みが生じ、また発見後も1989年に韓国国立中央博物館に収められるまで特別なケアはされていなかった。今回、学術研究者と韓国政府の肝いりで、修復処置が摂られた。
巻物は12シートで構成され、黒インクでの木版刷り。天地は6.4~6.7センチ、全体の長さはほぼ6.4メートル。楮紙で紙の坪量は65.2グラム/平方メートル、厚さは0.08ミリ、密度は0.815グラム/立方センチ。密度が現在の同種の紙の約二倍あり、これは抄紙後に良く打紙加工が行われていたため。
裸眼と顕微鏡により大きさ、色、染めの状態、厚み重さ、密度を調査した後に、巻物が開かれて平らにされ、刷毛によるドライクリーニングで表面の汚れを落とした。水を用いたウェットクリーニングには紙力が絶えられないと判断された。欠損部が補填され、裏打ち用にオリジナルに可能な限り近い製法で紙をつくり、染められた。特に打紙加工が入念に行われた。裏打ちの接着剤には小麦デンプン糊を使った。桐製の軸はオリジナルの29ミリよりも太くして巻いたときの負荷を軽減された。最後は桐箱に収められた。
※この「「無垢浄光大陀羅尼経」は、現存する世界最古の印刷物ではないのではないか、とする論議が今年(2007年)春に巻き起こった。「無垢浄光大陀羅尼経」とともに発見された「釈迦塔重修記(修理記録)」が最近判読され、「無垢浄光大陀羅尼経」が11世紀に作られたことを証明する内容が記録されていた。以下のように朝鮮日報のスクープだった。
韓国木版印刷物は世界最古じゃなかった!? (日本語版)
世界最古とされてきた「無垢陀羅尼経」の真実(同)
(文責:木部徹)
2007年8月6日(月)
IDPニューズレターがチベットの手稿文書のコンサベーション事例、洋製本仕様を本来の貝多羅葉に戻す


20世紀の初頭にオーレル・スタインにより大英博物館に持ち込まれ、当時の手法で手当てを施されたチベットの手稿仏典が、本来の貝多羅葉に戻された、と国際敦煌プロジェクト(IDP)のニューズレター(IDP News Issue No.29)が伝えている。洋式製本された状態(写真上)は、生成の和紙で補修、糊はデンプン、台紙のひと折り一括の裏はシルクで裏打ちという当時の代表的な方法を採用したものだが、デンプン糊のため台紙からの剥離は容易なものの、糊の量が過剰で括が硬く仕上がっていること、シルクの酸が台紙の加水分解を促進させていること等の理由で、製本を解体して本来の貝多羅葉し、無酸の厚紙で両面から挟んで、無漂白キャラコ(棉布)でくるまれた(写真下)。
The Conservation of the Stein Tibetan Manuscripts
2007年2月23日(金)
ドイツの貴重書図書館が火災から4年後の10月に再開館へ、資料修復等を含め19億円を投入
2004年9月2日に起きた火災により休館を余儀なくされていたアンナ・アマーリア后妃記念図書館(独・ワイマール)が10月に再開館できることになった。同図書館は一万点のシェイクスピア関連コレクション、マーチン・ルターと宗教改革に関連する16世紀のコレクションを持つことで知られている。火災は三万点の貴重書に被害を与えたが、うち 1534年のルター聖書、フンボルト・コレクションなど6千点は救出された。建物の再建も含め、復興には1200万ユーロ(19億円)が費やされた。貴重資料の修復作業は2015年までかかるという。
※このニュースは下記の、国立国会図書館 Current Awareness Portal の2月22日付け記事に教えてもらいました。リンク先、参考リンク等は下記ページから
2006年5月22日(月)
欧州委員会、コンサーバターの個人記録とドキュメンテーションのアーカイブ化を呼びかけ
欧州委員会(European Commission)は、各分野で文化財のコンサベーションに関わったコンサーバター個人の記録と、その個人によるコンサベーション・ドキュメンテーションのアーカイブ化を目的としたプロジェクトを始めた。この数十年の間に公的な機関でのコンサベーション・ドキュメンテーションの導入とその保存は定着してきたが、一方で官民問わずコンサーバターその人の記録や、民間で行われたきたコンサベーションのドキュメンテーションのアーカイブ化はほとんど手つかずになっていた。コンサベーションで使用される各種材料の安定性試験として世界的に知られる Oddy Test の開発者 William Andrew Oddy (元・英国博物館所属保存科学者)が中心になったこのプロジェクトは、次の情報を求めている。
1. 新聞や雑誌などに掲載されたコンサーバター(保存科学者、教育者も)の訃報
2. コンサーバター(同)の思い出を記した手稿
3. すでにあるコンサーバターとそのドキュメンテーションのアーカイブの在所
4. 以前にコンサーバター(同)だった人の個人的なアーカイブ
5. 介入的なコンサベーション(interventive conservation)の記録の在所
問い合わせ先は
Andrew Oddy
<waoddy [at] googlemail__com>.
2005年10月28日(金)
上海図書館の文献保護研究室による古典籍と貴重文献へのコンサベーション
国際図書館連盟・資料保存委員会(IFLA-PAC)が発行する InternationalPreservation News の最新号(No.36, September 2005)は上海図書館文献保護研究室(Preservation and Conservation Institute of the ShanghaiLibrary) による同図書館の資料保存事業のうち、特に古典籍および貴重な文献に対する保存手当てについて掲載している(p.29-31)。著者は同室副室長。
Zhizhen Tong: Conservation and Preservation in Shanghai Library.
中国における古典籍・文書の修復処置は、対象物の歴史と同様、古くにさかのぼり、現在にまで続いている。書籍、手稿、絵画、手紙、拓本、地図類は、さまざまな形態に表具や製本が行われており、これらへの修復処置は高い技術を要求されるが、上海図書館の古典籍・文書に対する本
格的な保護(Conservation and Preservation)処置は、この50年ほどの間にめざましく進展したといえる。
上海図書館の開設は1952年で、1958年にはすでに古典籍・文書への保護処置の必要性が叫ばれた。全国から集められた、優れた技能を持つスタッフ--拓本の製作と裏打ちの専門家、絵画や手稿・書籍のマウンティングの専門家など--が、現在の保護サービス事業の基礎になっている。
こうした人たちが次の人材を育て、新しい知見が加わり、次の世代へと受け継がれた。1964年には二人の若い人材を北京の国立図書館に2年間、研修のために派遣、1980年からは特に、伝統的な古典籍・文書の保護のための技術の確立に力を入れるように教育プログラムが組まれた。ここで育った人たちがいまの保護研究室の中核になっている。
1995年に保護研究室(Preservation and Conservation Institute)が設置され、古典籍・文書へのさまざまな処置が加速されることになった。上海図書館はこうした範ちゅうに入る資料を約200万点保有しているが、うち20~30%が補修もしくは修復処置を必要としている。一例を挙げれば、約1万点に上る家系図である。そのうち近代のものでは李鴻章、左宗棠、魯迅、蒋介石などの、中国の近代史のキー・パーソンの系図も含まれるのだが、虫やカビの害に加え、質の良くない近代の紙を使っていて、傷みがひどく、処置を必要としていた。しかし、特別な予算措置が執られ、助手が配置されたおかげで、4万点の家系図と数千点の古典籍・文書への手当てが施された。
上海図書館の資料保存事業は自館のrための仕事だけでなく、周辺地域の図書館などのニーズにも応えている。例を挙げると江蘇省の泰昌州図書館、貴重書図書館として名高い天一書楼、華東師範大学図書館などから補修や修復の相談、あるいは委託処置の依頼を受けている。
こうした資料を手当てしていると、極めて貴重な資料を発見することがある。明朝のある書籍を補修していたら、「水滸伝」の極めて古い時代の印刷された葉が見つかった。これはおそらく世界で唯一のものだろう。
国レベルでの要請に応えるため上海図書館は1970年代から古典籍・文書のコンサーバター養成の教育コースを設けて育成している。こうして育った人材がそれぞれの機関に戻り、中核になって仕事をしている。上海図書館は1996年に新しい建物が完成したのを機に、われわれが行っている仕事を公開する事業も始めた。具体的には Ancient Book Restoration Showroom、Artistic Handicraft Display Roomの二つの展示室である。海外からの図書館人等を招き、我々の成果を見てもらう。
海外の機関との交流も盛んになってきた。香港やニューヨークの図書館での我々の技術の紹介、マカオや台湾の図書館との技術交流講習などを行っている。
International Preservation News (No.36, September 2005)
www.ifla.org/VI/4/news/ipnn36.pdf
上海図書館、図書の修復及び保存業務 (日本語でのサイト)
http://www.library.sh.cn/japanese/guide/fw10.htm
2005年3月29日(火)
米pbsが『独立宣言』、『合衆国憲法』『権利の章典』へのコンサベーションをdvdで

アメリカの公共放送に関する非営利団体pbs(public br/oad-casting service)の科学ドキュメンタリー制作部門であるnovaはこの2月に、アメリカ国立公文書館が所蔵する『独立宣言』『憲法』『権利の章典』へのコンサベーションの記録 saving the national treasures を放映したが、好評のためvhsとdvdに起こして頒布することになった。4月に頒布される。novaのサイトでも2分38秒の動画(quicktimeやreal player等による)のプレビューを見ることができる。
この三つの文書は charters of freedom と呼ばれるもので、アメリカのいわば「出生証明書」である最重要文書。1954年に不活性ガスのヘリウムを充填した「密封容器」に収納され、以来そのまま、同公文書館の展示の目玉として公開されてきた。今回、同公文書館の二人のコンサーバター(m. ritzenthaler, k. nicholson)が初めてこのケースを開き、劣化の有無とその原因を調べ、より負荷のない容器を開発し収納した。コンサーバターだけでなくエンジニア、化学者、物理学者を始め、容器に使われる金属やガラスの供給業者の協力をあおぎ、5年間、500万ドルをかけて2003年に終了したこのプロジェクトは「月にヒトを送る」のに等しいといわれたほどの困難を伴い、その扱いは特別な慎重さを要するものだったという。以前に収納された際の記録がほとんど残されていなかった。
いくつかトピックを拾うと---
※50年代に容器に充填されたヘリウムは、予想と違い、ほとんど抜けていなかった。
※パーチメント(皮紙)資料のため作業環境は温度20℃、相対湿度38~39%に維持。
※独立宣言には誰のものとも解らない手形があり、これを除去するかどうかで議論があったが、そのままにした。
※文書の皺ひとつ、汚れのひとつにいたるまで、現状の全てを記録した。50年後、100年後の比較のためである。
※国立公文書館に収められる前にインクはかなり退色していたが、その補彩はしなかった。記録物として貴重なものには"お化粧"的な処置を行うことはしない。
※端の破れた箇所に限って、パーチメントと違和感のない和紙を食い裂きにして補修した。
※一般に貴重な資料を扱う際には手袋をつけることが推奨されるが、手袋そのものが資料の端にひっかかり資料を破損することがある。また、微妙な手触りから判ることがある。今回の扱いは基本的に清浄な素手で行った。
※収納ケースはアルゴン・ガスを充填した特別な構造のものを新たに作った。
saving the national treasures
http://www.pbs.org/wgbh/nova/charters/
dvdの入手(予約)はアマゾンからもできる
http://www.amazon.com/exec/obidos/asin/b0000b1og1/ref%3dnosim/ricksphotograpag/002-0645746-9284804
2005年2月14日(月)
英公文書館が自館の「修理報告書」をデジタル化
英国国立公文書館(pro/national archives) は自館が過去25年間行ってきた公文書の補修、製本等の報告書のデジタル化を終えデータベース(pro 12/25-32 registers and repairs, 1978-2003) にした。どのよう方法でなにを使って治したかが解るという。
http://www.nationalarchives.gov.uk/preservation/digitalarchive/holdings2.htm
■主要文献へのリンク
主として海外での紙媒体記録資料のコンサベーション事例は多数あり、多岐に渡るため、この項目は作成しません。

カテゴリーのトップへ
ページトップへ