紙
■「ほぼ日刊資料保存」の記事
2008年11月10日(月)
紙の温度株式会社が代表的な紙の原料と漉き方に関する比較判定見本帳を頒布--ブログもんじょ箱が掲載
特種紙商事株式会社のブログもんじょ箱が、「紙の温度(株)が繊維判定用和紙見本帳発売」として、繊維分析研究者の宍倉佐敏氏の開発した判定法を元に、紙の温度株式会社(名古屋市熱田区)が、麻や楮(こうぞ)、三椏(みつまた)、雁皮(がんぴ)などの和紙や針葉樹パルプなど22種類の紙を束ねた比較判定のための見本帳を発売した、と掲載している。原料の産地や煮熟の方法、叩打やネリ剤の種類のデータ、漉き方や乾燥方法なども記載されている、という。
2006年11月21日(火)
宍倉佐敏著『和紙の歴史--製法と原材料の変遷』が上梓、古代から近代までの1300年を一望に

財団法人印刷朝陽会はこのほど、宍倉佐敏氏による『和紙の歴史--製法と原材料の変遷』を出版した。日本の手漉き和紙の歴史を、主として製法と原材料から辿ったもの。著者の長年に渡る製紙用植物繊維研究の集大成になる。古代・中世・近世そして近代に至る1300年の歴史を、百万塔陀羅尼を始めとした各時代の実物の調査と、自ら原料植物を栽培し実際に漉いてみるという作業での裏付けをしながら、一貫した視点で説き起こしたもので、類書がない。特に白眉といえるのが中世和紙の研究で、元奈良国立博物館館長の山本信吉氏の指導の元に、高野山の中世文書の料紙を研究することで、これまでの流し漉き法と溜め漉き法の他に、「半流し漉き法」と著者が名付けた製法があることを発見してゆくプロセスには興味尽きないものがある。
著者 宍倉佐敏
発行 財団法人印刷朝陽会
販売 株式会社印刷学会出版部
B5判/141頁
定価 2,400円 (本体2,000円)
『和紙の歴史--製法と原材料の変遷』
http://www.choyokai.or.jp/books_goods/washinorekishi.htm
宍倉ペーパー・ラボ
住所:静岡県沼津市大岡 2905-5
電話: 055-922-4107
FAX: 電話と同じ
■上記のラボの紹介と当社が依頼した分析の例は「ほぼ日」の2006年3月17日付の記事を参照
2006年9月26日(火)
カラー画像をふんだんに使った『紙の歴史--文明の礎の二千年』が翻訳・出版

創元社の「知の再発見」双書 のひとつとしてこのほど『紙の歴史―文明の礎の二千年 』(原書名:Le Papier, Une aventure au quotidian)が出版された。著者はフランス国立科学研究センター現代文献研究所(ITEM: L'INSTITUT DES TEXTES ET MANUSCRITS MODERNES)所長のピエール-マルク=ドゥ・ビアシ(Pierre-Marc de Biasi)、日本語訳監修は丸尾敏雄(紙の博物館学芸部長)。
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インターネットと電子データ隆盛の時代、紙は歴史的使命を終え、情報メディアとしての重要性を急速に失うであろうと予言された。しかし21世紀の今日、紙は生産量を伸ばし続け、その役割も用途も拡大している。本書は中国における紙の発明以来の歴史を探求し、人類の知的営為の中心にありつづけた紙の文化・歴史をわかりやすく伝える。工芸品としての紙、工業製品としての紙など紙の多様性と可能性もあますことなく伝える。紙のすべてがわかる本。(版元による内容紹介のママ)
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『紙の歴史―文明の礎の二千年』
ISBN:4422211897
190pp、180×130㎜
版元:創元社
・ビアシ,ピエール‐マルク=ドゥ【著】〈Biasi,Pierre‐Marc de〉・丸尾敏雄【監修】・山田美明【訳】
[B6 判] NDC分類:585.02 販売価:\1,680(税込) (本体価:\1,600)
第1章 アジアの紙
第2章 紙の道
第3章 ヨーロッパの製紙所
第4章 機械とパルプによる工業化の時代
第5章 新たな時代の紙
資料編
紙の歴史―文明の礎の二千年
■カラー画像を抱負に使った美しい本。歴史を辿り、未来を占うのに最良のテキストといえる。5章の「新たな紙の時代」には、紙と複製、有害な酸、保護政策、耐久紙の規格--の項があり(p.144-149)、簡潔かつ充分な内容になっている。些少の誤訳(例:p.31の「袋綴じ」は「折帖」であろう)はしかたがないが、p.149 のISO 9706(ISOの耐久紙規格)に関する説明の「アルカリの残留率は2%の炭酸カルシウム中に含まれる量より小さいこと」は「アルカリ残留率は炭酸カルシウム換算で紙の重量比の2%以上であること」の間違いである。
2006年7月18日(火)
Restaurator 最新号、「FT-IRによる和紙の分析」、「束の状態での新聞紙の光酸化」など
Restauraotr-International Journal for Preservation of Library and Archive Material 最新号(Vol. 27, No.2, 2006) の主要論文は次の通り。
Paolo Calvini, Andrea Gorassini und Rosanna Chiggiatto: Fourier Transform Infrared Analysis of Some Japanese Papers. (p.81-89)
市販されている和紙のFTIR(フーリエ変換赤外分光光度計)による分析。これらの和紙を、セルロースだけで製紙したもの、手漉き和紙と比較し、それぞれの紙に含まれるヘミセルロース、化学パルプ、炭酸塩等無機フィラー、リグニンの量の測定に対するFTIR法の可能性を見た。ヘミセルロースは1600と1660の、リグニンは1510の、木材パルプは810の、無機炭酸塩は1790 cm -1のスペクトラムで測るのが最も有効であるのが判った。
Sonja Titus, Regina Schneller, Gerhard Banik, Enke Huhsmann und Ulrike Hahner: The Copyinf Press Process: History and Technology, Part I. (p.90-102)
.プレス機による文書の複製は1780年から行われてきた。コピー・プレス用のインクで書かれた文書はインキが湿気を含んでいる間に平滑でサイジングされいない紙に圧されて複製物が作られた。こうした物性をもつインクだけに水に弱く、傷みが顕現化している。この論文はコピー・プレスの歴史と技術の変遷を明らかにし、コンサーバターが資料を同定するための糧とすることを目的にしている。
Vladimir Bukovsky, Maria Trnkova, Peter Nemecek und Peter Oravec: Light-induced Oxidation of Newsprint Sheets in a Paper Block. (p.114-131)
新聞を束にして、メトキシドメチル炭酸マグネシウムによる非水性脱酸性化したもとの、していないものを、改良を施した太陽光輻射設備で光酸化劣化させた。束にすることで、表面だけでなく、内側の紙への光による変色の影響を見る。予想以上に深いところにまで影響を及ぼしていた。脱酸性化処置は光酸化を著しく改良できることが判った。
Ulrike Hahner: Condition Report of the Ink Corrosion Damage in the Handwritten Estate of the Jurist Freidrich Carl von Savigny. (p.131-142)
18世紀の著名な法学者Freidrich Carl von Savignyの手稿資料のインク焼けの状態調査。資料のデジタル化を前提に、マーブルグ大学図書館に所蔵されている手紙約4,500点、原稿その他20,000点を調査した結果、大半が良い状態を維持しており、わずかに1% が酷いインク焼けの被害を生じていることが判った。以前に行われたランダム・サンプリングでのチェックではもっと高い比率だったが、チェックの方法が単純すぎたのではないか。この調査を元に、今後の保存計画の推進と、劣化の程度に応じた処置を図る。
Restaurator
http://www.saur.de/_google/titel/titel0000011987.htm
2006年7月10日(月)
教科書『紙と水:コンサーバターのための手引き』(Paper and Water: A Guide for Conservators)が完成
欧米のペーパー・コンサーバターや紙関連の保存科学者が協力して制作を進めてきた教科書 Paper and Water: A Guide for Conservators がこのほど完成した。静止画図やアニメーションを駆使したCD付きのテキストとして近く出版される(正式な上梓時期は未定)。
製紙時はもちろん、コンサベーションのあらゆる行程で紙媒体に直接関わる水と、その影響については、誰もが認識しながら、これまで深く考えられたことがなかった。Paper and Water プロジェクトは、Institute for Paper Conservation (IPC)、International Centre for the Study of the Preservation and Restoration of Cultural Property (ICCROM)、そしてInternational Association of Book and Paper Conservators (IADA)という三つの国際的な機関の支援を受けて、Irene Bruckle(Head of Conservation, Kupferstichkabinett dok,独)とGerhard Banik(Head, Studiengang Restaurierung und Konservierung von Graphik, Archiv- und Bibliotheksgut, Staatliche Akademie der Bildenden Kunste Stuttgart, 独)の二人を中心に、欧米の関連エキスパートを結集し制作したもの。豊富な図解やアニメを駆使して、コンサベーションにおける紙と水の相互作用を科学的かつ実践的な視点から解説する。
主な内容は、乾燥そして濡れた時の紙の構造と物性、水の構造と物性、製紙時の紙と水との相互作用、湿った保管環境が紙の劣化に及ぼす影響、水性脱酸性化処置の原則、水性溶液の作り方と使い方、水性処置法とその効果が与える要素、製紙時の乾燥工程のメカニズム、コンサベーションでの乾燥法、ペーパー・コンサベーションの水性処置の歴史的・倫理的な側面--ほか。
主な著者は Vincent Daniels(英)、Steven Keller(米)、Joanna Kosek(英)、Anthony W. Smith(英)、Paul Whitmore(米)。動画はAlfred Vendl(オーストリア)。
Lehrbuch fur Restaurierung: "Paper and Water: A Guide for Conservators"
http://www.smb.spk-berlin.de/smb/forschung/details.php?objID=9503&lang=de&typeId=211&n=1
■ほぼ日2005年3月30日付け「『紙と水:コンサーバターのための手引き』の製作が順調に伸展」も参照
2006年4月14日(金)
フィンランドのEVTEKがコンサベーションのための紙の同定データベースを公開、パートナーも求む
フィンランドのエスポー・ヴァンター工業大学(EVTEK)の紙媒体コンサベーション教育科(paper conservation education)はこのほど「紙の同定データベース」Paper Identification Databaseを作成しネット上で無料公開するとともに、データベース拡充のためのパートナーを世界に求めることになった。
このデータベースは同科の主任教授であるIstvan Kecskemetiが中心になって構築を進めている。書籍や文書、絵画の基材として使われてきた歴史的な紙や、現在使われている紙を同定させるためのもの。ウオーター・マークだけでなく簀網でできる紙の表裏の状態や簀の間隔などを、精細な画像とともにつきあわせることで、同定させる。また、サイジングや色、酸性度、繊維組成なども盛り込んでいる。
データベースは無料で誰にでも公開されているが、パートナーとして登録すると、データベースの構築に参加できる。
Paper Identification Database
http://kronos.narc.fi/paperi/index_en.html
2006年3月31日(金)
『シーボルト和紙コレクションの紙質調査』、データベース化で江戸期の和紙製造技術を明らかに
稲葉政満・東京芸術大学大学院美術研究科助教授を研究代表とした『シーボルト和紙コレクションの紙質調査』成果報告書がこのほどまとまった。文部科学省の平成16~17年度科学研究費補助金によるもの(特定研究領域 A A06. 内外特定コレクションの総合的調査研究:課題番号 16018207, 169pp)。
この報告書は1826年(文政9年)にシーボルトが収集し、現在はオランダのライデン国立民族学博物館が所蔵する和紙を中心に約400点の同館所蔵コレクションの紙質(寸法、厚さ、坪量、地合、簀の目間隔等)感覚を調査し、データベース化したもの。
先に行われた英国のV&A所蔵のパークスコレクション(1871年、明治4年、412種)の調査結果--今回の報告書に改訂版を掲載--と合わせると、他には、これだけまとまっての、生産地がわかっているコレクションがないことから、江戸時代の紙の製造技術を知る上での情報の基本がデータベース化されたといえる。地合や簀の目間隔についてはスキャナによる画像データの解析を行ったのも特筆されよう。
主な章目次は次の通り。
1. 研究の組織と概要
2. シーボルト和紙コレクションのキャラクタリゼーション
3. 画像処理による紙の分析
4. 琉球国文書と帰化紅紙
2006年3月17日(金)
宍倉佐敏氏が紙の繊維分析の専門ラボを設立、修復対象紙や用紙等の裏付けに

土佐雁皮紙のC染色液による染色(倍率は140倍)
和紙・洋紙の両方にまたがる各種の繊維分析の第一人者である宍倉佐敏氏(元・特種製紙)がこのほど繊維分析の専門会社「宍倉ペーパー・ラボ」を設立し、事業を開始した。
主事業の紙の繊維分析では、日本工業規格(JIS P-8120)に基づく方法で、資料に使用された植物繊維の判定と各種繊維の配合率推定、内部の添加物や加工剤の有無、叩解状況を判定する。また場合によっては製造年代も推定する。
分析の報告は報告書と繊維写真一対で、分析手順に従いその時点で得られた事柄を記し、資料の持つ総ての情報を報告する。写真は67もしくは100倍の繊維写真とC染色液で反応した実態写真になる。写真倍数は希望により25~500倍が可能という。
分析の費用は以下の通り(一回の依頼毎)
資料一点のみ 7,000円 (複数層紙は異層の数になる)
資料二点~九点まで 6,000円
資料十点~三十点まで 5,500円
これ以上の場合は事前の打ち合わせで。
以上の事業の他に、実物資料の出張調査、紙漉き、植物調査、講演会などの講師などになるが、事前の打ち合わせが必要になる。
宍倉ペーパー・ラボ
住所:静岡県沼津市大岡 2905-5
電話: 055-922-4107
FAX: 電話と同じ
■宍倉氏の仕事については「ほぼ日」内の次のリンクも
半流し漉きの発見--『高野山正智院伝来資料による中世和紙の調査研究』
山本信吉『古典籍が語る--書物の文化史』
■当社が依頼した分析の報告実例

「歴代通鑑輯覧」(19世紀頃)
吸水は遅い。非常に脆い紙で繊維が短く単繊維化が難しい。紙表面は強い酸性反応を示す。
表面写真に観られるように、紙の状態では繊維は本来のカタチをしているが、酸化劣化により非常に脆くなっているため、繊維分散時に砕け、微細化されやすい。
繊維をC染色液で染めると、黄色と淡い灰赤色に染まる。黄色に染まった繊維はGP(機械パルプまたはグランド・パルプと称す)で60%、灰赤色の繊維はN-BSP(針葉樹の晒し亜硫酸パルプまたはサルファイト・パルプと称す)40%で製造されている。
2006年1月17日(火)
Restaurator最新号- 500年経時の紙の化学的劣化、pHの新計測法、インク焼けの水性処置など
図書館・文書館資料の保存修復のための季刊誌 Restaurator; International Journal for the Preservation of Library and Archival Materials の最新号(Vol. 26, No.2, 2005)は、この9月にハーグ(オランダ)で開催された国際博物館会議保存修復分科会(ICOM-CC)の第14会国際会議の発表から、資料保存関連の6つの論文を掲載している。ちなみにこの6論文は同会議の予稿集には含まれていない。
■David Erhardt et al. Chemical Degradation of Cellulose in Paper over 500 Years.(p.151-158)
500年の時を経て紙の中に生成された糖類(グルコースやキシロース)の多寡を見ることで紙の劣化の指針にする。14-17世紀の紙と、18-20世紀の紙とを比べた場合、後者の紙の方の単糖類のレベルが高いことが分かった。酸加水分解の速度に倣う。
■Matija Strlic et al. A new electrode for micro-determination of paper pH. (p.159-171)
pHは紙の寿命を測る重要な指針の一つであるが、ポリアニリン・コートしたガラス電極と銀/塩化銀・塩化カリウム化により、従来法よりもさらに精度の高い計測が可能になった。この方法では3つの方法(直径1mm以下のサンプルを直接測る、サンプルを水に浸し水を測る、サンプル表面から5-10g採取して微破壊で測る)が選択できる。従来法の破壊的な冷水抽出法と同様の結果が得られた。
■John Havermans et al, NIR as a tool for the identification of paper and inks in conservation research. (p.172-180)
近赤外線分光法(NIR)による紙の種別の判定と、没食子インクの構成および劣化挙動の識別。NIRにより基準になる紙とインクをが得られ、未知の紙とインクや、劣化挙動の域別が可能になった。比較的簡単で、信頼性と再現性の高い方法としてコンサベーションの現場で活用できる。
■Jana Kolar et al , Stabilisation of paper containing iron gall ink with current aqueous processes. (p.181-189)
現在行われているインク焼け水性処置は、キレート性を持つ化合物による抗酸化か、もしくは腐食性の遷移金属を紙中から洗い流すことで紙を安定化している。この効果はしかし、複合的なものなので、そのメカニズムのより深い理解は、より安定した処置に結びつく。効果的な処置の鍵がpHである。pH5.0のフィチン酸カルシウム水溶液ので処置した紙は、pH6.2で処置したものよりも2,3倍速く劣化した。これは高いpHでの鉄キレートの溶解性が高く、この結果紙の中の鉄分がより良く除かれるためだ。促進劣化試験では、同じような効果を持つと期待されたDTPA(ジエチレントリアミン5酢酸)は、炭酸水素カルシウム水溶液で脱酸しただけのものと比べて、わずかに安定化が向上したに過ぎなかった。
■Birgit Vinther Hansen, Improving ageing properties of paper with iron gall ink through interleaving with papers impregnated with alkaline buffer and antioxidant. (p.190-202)
水処置を前提とした現在のインク焼け処置法は、水に流れるような色材を使ったものには使えない。そこで抗酸化力を持つ臭化ナトリウム(NaBr)と炭酸カルシウムを含ませた間紙を挟むことで、どのぐらいの抑制効果が得られるかを見た。加速劣化の後、引張り強度、pH、変色度を測ったが、この二つを含浸させた間紙は、没食子インクで書かれたサンプル紙でも、なにも書いていないサンプル紙でも劣化が抑制された。ただし後者のサンプルについては、引張り強度があるていど損なわれた。高い湿度の下での短期の処置においても、長期の保管のために半永久的に間紙をしても効果があることが分かった。
Restaurator;International Journal for the Preservation of Library and Archival Material
http://www.reference-global.com/toc/rest/26/2
The 14th Triennial Meeting of International Council of Museums – Conservation Committee, The Hague
http://www.icom-cc2005.org/intro/schoonhoven/?set_lang=en
文責:木部徹(資料保存器材)
2005年10月3日(月)
Barrett の『日本の手漉紙--その伝統、道具、技術』が再版

70年代末から80年代の初めにかけて日本に滞在し、徹底した調査と技術の習得を元に執筆され、それ以降の欧米での「和紙」に対する認識を一変させたティモシイ・バレット(Timothy Barrett)のJapanese Papermaking; tradition, tools, techniques が再版された。初版は1983年に東京とニューヨークWeatherhill社から出版されたが、今回はアジア関連書籍の出版社 Floating World Edition社から。Part 1 の日本の和紙の紹介に続き、Part 2 “The Craft in the West ”は、ステップ・バイ・ステップで和紙の漉き方を詳説し、欧米での手漉き紙の工芸家たちが Nagasizukiを導入する契機になった。
Japanese Paper Making; tradition, tools, techniques.
328 pp • 7 x 10 • Soft
91 monochrome photos, 75 line drawings
Appendixes, glossary, bibliography
ISBN: 1-891640-26-7
$50
http://www.floatingworldeditions.com/index.html
著者のBarrett は現在、アイオワ大学Paper Research and ProductionFacility の長。
http://www.uiowa.edu/~ctrbook/people/Staff/Barrett/barrettresume.html
2005年9月30日(金)
京大大学院農学研究科、和紙の力学的性質の特徴をまとめる
紙パルプ技術協会機関誌『紙パ技協誌』の最新号(第59巻10号、2005)は京都大学大学院農学研究科の山内龍男・宇佐見直治による「和紙の力学的性質の特徴」を掲載している(p.104-116)。
これまでの和紙の研究は、抄造の際のトロロアオイの粘液特性や構成繊維の研究が主で、その物理的特性についての研究は充分ではなかった。本研究では美濃紙に代表される和紙と、汎用的な洋紙とを対比し、力学的な性質を明らかにした。手漉き和紙は美濃紙、黒谷紙、石州紙、雁皮紙を、機械漉き和紙として江宣紙を、一方洋紙は市販のUKP包装/袋用紙とPPC用紙を対象に、引張強度、耐折強度、引裂強度等を試験した。
その結果、和紙は坪量が小さく、厚さは比較的薄いこと、またシート密度と弾性率は小さく、繊維間結合もさほど発達していないことがわかった。しかし、紙面方向の各種強度は大きく、特に耐折強度、引裂強度は極めて大きいこと、その一方で厚さ方向の強度である紙層剥離強度はかなり小さいこともわかった。
紙パルプ技術協会『紙パ技協誌』
http://www.japantappi.org/gikyoushi_top.html
2005年9月7日(水)
ダード・ハンターの主著書がWeb上でデジタル画像により閲覧可能に
『日本・韓国・中国への製紙行脚』(1935)からユタ大学マリオット図書館貴重書室は、紙の歴史家であり造本家としても名高いダード・ハンター(Dard Hunter)の主著8点の全頁をデジタル画像にし、Web上で閲覧できるようにした。どの本もハンター自身が手漉きした紙に、印刷から製本までを指示したもの。デジタル画像化にあたっては、書物としての美しさがわかるように、見開きの片面ずつを、やや斜め上から撮影している。
Webでブラウジングできる著書は、 A Papermaking Pilgimage to Japan, Koreaand China(日本・韓国・中国への製紙行脚、1935)を含む以下の通り。
A Papermaking Pilgrimage to Japan, Korea and China
Chinese Ceremonial Paper
Laid And Wove
Old Papermaking
Old Papermaking In China And Japan
Papermaking By Hand In America
Papermaking by Hand in India
Papermaking in Indo-China
Papermaking in Southern Siam
Papermaking through eighteen centuries, by Dard Hunter
Dard Hunter Book Collections
http://www.lib.utah.edu/digital/Dard/
ダード・ハンター友の会(Friends of Dard Hunter)ホームページ
http://www.friendsofdardhunter.org/
2005年7月1日(金)
手漉き紙のトロロアオイとは?--東大農学生科研らが分析
紙パルプ技術協会機関誌『紙パ技協誌』(652号、2005年7月)は研究報文として韓允煕氏らによる「伝統的手漉き紙製造で用いられる粘着物質の分析=Analyses of Mucilaginous Compounds Used in Making TraditionalHandmade Paper」(英文)を掲載している(p.121-130)。和紙や韓紙の手漉き工程で用いられるトロロアオイやノリウツギからの粘着物に対する本格的な分析であり、韓氏を中心とした東京大学大学院農学生命科学研究所と森林総合研究所の成果。
この研究では、日本と韓国のトロロアオイと日本のノリウツギのサンプルからそれぞれ粘着物を抽出、この三つの粘着物を化学的に分析し、中性糖(ブドウ糖等)とウロン酸の組成の違いを明らかにした。また日本のトロロアオイとノリウツギはナトリウムとカルシウムが、韓国のトロロアオイにはカリウムが、それぞれ主要な金属として含まれている。三つの粘着物の区別は熱分解クロマトグラフのパターンで判別できる。多角度光散乱-サイズ排除クロマトグラフ(SEC-MARS)ではトロロアオイはどれも230万~250万の分子量を示し、日本のトロロアオイとノリウツギは同様のランダムコイル構造を持つ。このサンプルによる区別が、全てのトロロアオイ等に当てはまるかどうかは、さらに検討
する必要がある。
著者らの最近の関連論文としては--
韓允煕, 江前敏晴, 磯貝明, "和紙の抄紙技法と繊維配向の関係", 第 55 回日本木材学会大会(京都)研究発表要旨集, 114(2005)
韓允煕, 江前敏晴, 磯貝明, 保立道久, "和紙の簀の目解析-古文書の分析結果を中心に-", 第 55 回日本木材学会大会(京都)研究発表要旨集, 114(2005)
いずれも下記からダウンロードできる。
江前敏晴論文リスト
http://psl.fp.a.u-tokyo.ac.jp/hp/enomae/publish.htm
http://www.oclc.org/research/projects/pmwg/
2005年4月6日(水)
半流し漉きの発見--『高野山正智院伝来資料による中世和紙の調査研究』
宍倉佐敏、山本信吉 編著『高野山正智院伝来資料による中世和紙の調査研究』(2004年9月刊、特種製紙株式会社)を紹介する。
この調査研究は高野山正智院と、宍倉佐敏氏(元・特種製紙株式会社)および山本信吉氏(元・奈良国立博物館長)により平成11年から行なわれた。中世和紙の研究は、奈良時代(古代和紙)や江戸時代(近世和紙)のそれに比べ遅れていたが、今回、中世の古典籍・古文書の調査を通じてその実態が明らかになった。
成果を一口に言うと、「和紙が古代の溜め漉き技法から、近世の流し漉き技法に発展する過程の中で、半流し漉きと呼ぶべき技法が存在していたこと。その技法は我が国で典籍・文書の利用が進展するに伴って、それに適応できる和紙を作るため、工夫・開発された技法であり、それは厚紙から薄紙へという和紙の変化の過程を示しています。」(「ご挨拶」から引用)ということになるが、一章の「調査の概要とその成果」を元に、いま少し詳しく紹介したい。目次は以下の通りである。
ご挨拶
図版
一 調査の概要とその成果
二 高野山正智院の歴史と所蔵資料について
三 紙質調査について
四 中世印刷本の料紙について
五 中世書写本の料紙について
六 中世文書の料紙について
七 中世の高野紙について
参考資料
おわりに
高野山正智院伝来資料による中世和紙の調査研究
発行:平成16年9月31日
発行所:特種製紙株式会社 代表取締役 三澤清利
編集者:山本信吉、宍倉佐敏
非売品
入手等の問い合わせ先:(株)TS. スピロン 電話03-3256-7661
■文献史料と実物資料との乖離がもたらしたもの
これまでの日本の和紙の研究は豊穣であるが、その理由は、日本人の和紙への深い愛着とともに、文献史料が数多くあること、実物資料が多く残されていることが挙げられる。しかし、文献史料と実物資料との相互の交流検討が不足しており、和紙の実態、とりわけ中国からの影響の濃い古代と、日本独特の発展を遂げた近世に挟まれた「中世和紙」の研究はほとんど行われなかった。たしかに近世和紙は、加賀前田藩の『百工比照』の和紙の実物資料のように、産地その他との関連が解るものが数多く作られてきたが、このことが逆に、古代和紙も中世和紙も、江戸時代の近世和紙から類推して論じるという弊害をもたらした。しかし実際は、平安・鎌倉・室町の各時代のかけて紙質に改良が加えられ、江戸時代の和紙へとつながってゆくのだから、古代と近世の狭間の中世和紙そのものを理解しなければならない。またそうして初めて、厚紙から薄紙へという変遷の所以を突き止めることができる--。
その意味で、今回の調査研究の対象になった高野山正智院の経蔵は得難い史料群といえる。奈良時代から江戸時代までの典籍・古文書の筆写本も印刷本もあり、用途別の多用な料紙がある。また製作地域も推定できる。以上から和紙の紙質の変遷が判る。さらに、一部だが、文献資料との関係を確認できるものもある。
■調査の方法
調査は次のように行われた。まず、対象資料を印刷本、筆写本、古文書の三種類に分け、さらに時代別(平安、鎌倉、南北朝、室町、江戸前期)に分けた。紙質は日本工業規格「紙の繊維組成試験法」(JIS P-8120)に基づき、紙の寸法、坪量、厚み、密度、簀跡、地合の良否、添加物の有無、打紙等の加工などについて行ったが、特に流し漉き、溜め漉きなど漉法は注意した。
分析調査は印刷本から始めたが、春日版、西大寺版、高野版などの印刷本が豊富なことと、これらに関する文献史料との関連性が密接であるためである。このことで杉原紙、檀紙、高野厚紙などの中世の厚紙の特質が把握できた。筆写本は本の体裁や内容、筆写の身分などによって使用した紙に紙質が異なることに留意したが、連歌関係典籍は室町から江戸前期にかけてのもので、料紙の薄手の和紙は中世から近世へと移行してゆく紙質の変化を見るのに最適であるため、他と区別して扱った。文書は公文書か私文書か、原本か写本か、発信者の身分によって料紙に差があることを考慮し、時代別、内容、性格別に分類し調査した。
■半流し漉きの発見
こうした調査の結果、中世和紙の特徴は「半流し漉き」というしかないことが明らかになった。これまでの和紙の製法は、溜め漉きか流し漉きのどちらかとされきたが、中世和和紙の紙面を観察すると、両面の繊維の動きが異なるのである。片面は一方向に繊維が流れている。初水(うぶみず)または化粧水と呼ばれる工程があったことになる。近世和紙の流し漉きと同様であるが、しかし、この工程の後に、漉き枠の中に原料液を多量に汲み込み、最後は枠の動きを停止して濾水することが行われたと見ることができる。近世和紙の「捨て水」の工程がないのである。この製法の紙は繊維は切断がない長い繊維で、粘り強く、柔らかく、なによりも中世書写材料に向いた厚みを備えている。
■用途による特徴
この半流し漉き紙を、印刷本、筆写本、古文書と、用途によって見ると次のような特徴がある。
印刷本は木版の鮮明さを出すために打紙加工をして表面の凹凸を修正したものが多い。鎌倉から室町前期頃までは手漉きの途中で枠の動きを停止して厚みを調整したと推測される。ところが室町後期から江戸前期頃までは停止時間が短くなり、繊維の流れが多くなって紙の表面が平らになる製法が取り入られ、打紙から、石などで磨く瑩紙(えいし)加工になってくる。
筆写本は、毛筆で文字を書くので打紙が少ないので表裏の違いも明確である。柔らかく厚みがあり、手触りも良いので豪華な書物が作りやすい。ただし、連歌関係の典籍は、室町後期以降の料紙が多く、連歌師が各地へ持ち運ぶため、軽く薄い料紙が求められ、近世紙に近い流し漉きのがある。
古文書の料紙は打紙は少ない。重要文書や証文などには高級紙が多く半流し漉きによる表裏の繊維の動きが異なる厚紙が多い。
南北朝から室町時代になると、漉簀の材質が萱から竹に変わり竹簀漉きの紙が多くなる。近世手漉きに近づき、薄い紙が主流になりつつある。
以上、第一章を元に、紹介したが、詳細は第二章以下になる。なお、今回の調査では厚み、坪量、密度の基礎的性質を測定し、数値化できた。これにより紙の柔軟度や剛度などが推定でき、原材料の違い、原料の洗浄量、公開の程度、内部添加剤の有無、打紙処理などの製法の違いも見いだせた、と宍倉氏は述べる(p.14)。さらにルーペによる表面観察や、一部は虫損細片での繊維分析もできたことで、「紙の本質」にまで迫れたのでは、としている。とかく「お宝」として、調査分析を許さない中世典籍や写本を、ここまで開示してくれた所有者の英断も敬したい。
以下は余談。著者の宍倉氏はある時に「半流し漉きというコトバが、特に文献史料に依拠して研究してきた研究者の間で受け入れられるようになるまでには、あと10年も20年もかかるかもしれません」と語ったことがある。
文責:木部徹(資料保存器材)
■主要文献へのリンク
「紙」に関する文献は大量にあるため、この項目は作成しません。(09/04/03)

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