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almost daily news of preservation and conservation

本紙掲載記事をカテゴリー別に整理してあります。また、関連する文献への本文もしくは/またアブストラクトへのリンクも載せました。


調査と計画


■「ほぼ日刊資料保存」の記事

2008年11月19日(水)
欧州の図書館等が共同で革新的な蔵書状態調査ツールを開発、光(NIR)に数秒当てるだけで非破壊で物性をデータ化

手前の箱型のがNIRの発光装置。上部に空けられた穴から発する近赤外線に紙をか ざし、パソコンでデータを吸い上げて分析する。オランダ国立公文書館(Nationaal Archief)での実施例。

スロヴェニア国立図書館、オランダ国立公文書館、英国図書館などヨーロッパの主要な図書館やアーカイブが協力し、欧州委員会(EC)の研究開発フレームワーク・プロジェクトとして開発をすすめていた SUrveNIR プロジェクトの成果がこのほど発表された。同プロジェクトの目的は、これまで人の目や触覚で、あるいはサンプルを得て破壊的に分析することでしか得られなかった紙の諸物性を、簡便なNIR(近赤外線)発生装置に資料を数秒かざすだけ得られるというツールの開発である。NIR分析はこれまでにも紙の重合度を測るなどの方法として保存科学分野でも用いられてきたが、今回のプロジェクトは1,000点を超えるさまざまな時代や質のサンプルを従来の破壊的な方法で分析しpHや重合度のデータを得る一方で、これらを計量化学(chemometrics)的な手法を用いてNIR分析したデータと融合させ、分析のための「ものさし」になるデータベースを作り、ソフトウェアに組み込んだことがポイントになる。ポータブルな装置(上記画像参照)を現場に持ち込んで計測することで、恣意性を排除した「客観的」なデータ(重合度 ・分子量 ・リグニン含有量 ・ゼラチン含有量 ・pH ・アルミニウム含有量 ・灰分 ・繊維組成 ・蛍光増白剤の有無 ・ロジン含有量 ・還元末端量 ・引っ張り強度 ・折りたたみ後の引っ張り強度)が、それも短時間で得られることになり、蔵書の状態調査のため画期的なツールとして活用が期待されている。実際の図書や文書の蔵書調査への実施例や、動画による計測の様子を載せた全容は下記ページに。

SurveNIR-Near Infrared Tool for Collection Surveying

※プロジェクトの背景から開発の経緯、技術の内容の解説を掲載しました。 スタッフのチカラ: 佐竹尚子「SurveNIRを用いた紙資料非破壊分析と蔵書の状態調査の可能性」

 

08年11月7日(金)
米議会図書館が100年経時老化試験プロジェクトを紹介、北米の10機関と協力し2098年まで定期的に加速老化と比較

アメリカ議会図書館のサイトは2000年からスタートした100年経時老化試験プロジェクトを紹介するページを掲載した。北米の10の図書館やアーカイブズと協力し、同じ15種の書籍・文書用の紙をそれぞれの保管環境下に置き、2098年まで自然に経時老化させて、その結果を定期的に持ち寄り、人工的に老化させる試験との比較を行う。

書籍や文書の紙が自然に経時して老化していくのくを”予測”するための加速老化試験(accelerated aging test)はこれまにも様々な人工的な環境下で行われてきているが、その結果がどこまで自然の経時老化を再現しているのか、明確ではなかった。アメリカ議会図書館は1994年から2000年にかけてアメリカ材料試験協会(ASTM= The American Society for Testing and Materials)が中心になり進めた「自然老化を再現できる加速老化試験法の開発」プロジェクトに参加し、密閉した試験管に紙を封印して熱劣化させることで自然に経時老化にかなり近い結果が得られる新しい試験法を開発、2007年にASTM D6819-02(2007): Standard Test Method for Accelerated Temperature Aging of Printing and Writing Paper by Dry Oven Exposure Apparatusとして規格化された。しかしこの試験法の確実さをさらに裏付けるのには図書館等の棚に置かれて50年、100年という長い時間の中で自然に老化して行く実際の書籍用紙や文書用紙と比較が必要とされ、今回の100年経時老化プロジェクトを発足させたもの。

同プロジェクトは綿100%の上質の紙から、リグニンの含有比率が高い低質の紙まで全部で15種類のサンプルを製紙し、密閉試験管法で人口老化させて結果を得る一方で、保管環境の異なる北米の15の機関に保管してもらい、2098年まで定期的に10回、老化状態を調べ、加速老化の結果や、環境の違う各機関での差異と突き合わせる。

すでに初回の2000年、第2回目の2003年の結果の比較が終了しているのに続き、第3回目の今年2008年の比較が行われる予定であり、成果の一部が国際法医学学会などで報告されている。

 100-Year Paper Natural Aging Project

 

2008年9月16日(火)
ノーマン・メイラーのデジタル「手稿」資料をどう保存するのか---アメリカ・アーキビスト協会大会分科会の報告から

8月に開催されたアメリカ・アーキビスト協会大会(SAA2008)のSession 203 は、Getting Our Hands Dirty (and Liking It): Case Studies in Archiving Digital Manuscripts をタイトルに掲げ、近年の小説家や詩人が紙媒体上とともにデジタルの形で残した「手稿」をどのように保存し、利用に供したら良いのかを論議した。このレポートを、メリーランド大学のArchives, Records and Information Management Program に在籍する学生 Jeanne Kramer-Smyth が自分のブログ Spellbound Blog に寄せている。

"Digital Manuscript "といわれるこの種の記録物のアーカイブ化の理論的な基盤を探るための今回の分科会には3名のアーキビストが、それぞれの所属機関が持つ作家の「原稿」についての事例を報告した。このうち、小説家 Norman Mailerの残した電子的な記録(Norman Mailer’s Electronic Records)をコレクションとして持つ Harry Ransom Center のアーキビストの報告は以下のとおり。

メイラーのデジタル「手稿」は、3台のラップトップ・コンピュータと400枚のフロッピーディスクに残されている。電子メールも作家の口述をもとに秘書が清書したのでどこまでが作家の「原稿」として見たらよいのか。没後、秘書に託されたラップトップとディスクは、秘書の死後に州政府の担当官に押収され、すべてのディスクは読み出せるものの、だれかがこれを読み出して、書き換えたかもしれない。 こうした問題への対策は、記録の保管管理権限をもつこと、作者がどのように電子的な記録を作成したかがる情報を集めること、ディスクその他の数を確定、ディスクの物理的な情報を反映したカタログを作る。出力した場合のインクの色やアンダーラインの情報も残す---等。こうした作業は早ければ早いほど良い。

この他に、サイバー詩人 Peter Ganick と小説家・ノンフィクション作家の George Whitmore の資料の事例が紹介された。

 SAA2008: Preservation and Experimentation with Analog/Digital Hybrid Literary Collections (Session 203)

 

2008年9月5日(金)
埼玉県立歴史と民俗博が資料保存箱等の内部空気環境を調査、桐箱などの木製収納用具からの有機酸を確認

埼玉県立歴史と民俗の博物館の紀要(平成20年3月)は野中仁「資料保存箱等の内部空気環境について---資料収蔵実態でのパッシブインジケータによる調査」を掲載している(p.66-73)。「古来、資料保存容器として用いられたきた木製用具は、有機酸が文化財に影響を及ぼすほど、内部に対流する場合があることを確認したもの」(『紀要』あいさつ)。これまで東北歴史博物館等の及川規氏らが研究を重ねてきた木製品からの有機酸の影響の知見と、東京文化財研究所の佐野千絵氏らの空気環境内の有機酸等を測るインジケータの研究の成果を踏まえて、歴史と民俗の博物館で実際の収蔵物を入れている桐箱、桐箪笥、中性保存箱、(ふつうの)ダンボール箱の内部環境を調査した。パッシブ・インジケータは発生する有機酸濃度に応じて変色するが、資料に対する影響の判断として、有機酸ならば7日を越えて完全に変色しなければ推奨濃度(佐野氏らの研究に拠る)以下であるため問題はないと言えるが、例えば桐箱C(平成9年ごろ購入)やふたつの桐箪笥(比較的あたらしい)では24時間後には完全に変色し、酢酸濃度が600ppbを越えていると推定された、としている。

野中氏は「5. まとめ」(p.71)のなかで「木製の保存箱や箪笥などは、外気の影響を緩和させる能力や防虫、耐火性にも優れているといわれ、古くから用いられてきた。伝統的な物の保存は、その保存用具も伝統の材料と技術とで作られ、伝統的な「目通し・風通し」によって総体的に保存されてきたものと思う。その総体の一部が損なわれた状態では、資料の適切な保存方法としては、未だ不十分と言わざるを得ない。外国輸入木材が大量に混在する中で、収納用具の製作過程等が不明なまま、収納する資料の種類、材質に関係なく、木製保存箱等を安易に使用することだけは避けたいものである。」としている。

現場性が活きている出色の研究報告といえる。

埼玉県立歴史と民俗の博物館「紀要」目次

 

2008年8月27日(水)
「ブログもんじょ箱」が東大東文研の大規模マイクロフィルム劣化調査の発表をレポート、サンプル調査から全点調査へ

特種紙商事の「ブログもんじょ箱」は、8月1日に開催された日本図書館協会資料保存委員会のセミナーでの田崎淳子氏(東京大学東洋文化研究所図書室)による発表「マイクロフィルムの保存対策--まずはサンプル調査から」のレポートを寄せている。TACベースフィルムの所蔵数の確認、同フィルムの酸性劣化状況の把握、以上に基づく今後の手当ての検討を目的に、全11,267点(ネガ 2,336点、ポジ 8,931点))のマイクロフィルムを対象に、まずサンプリングによる一次調査、そして全点を対象にした二次調査と、周到に進められた。酸性劣化の指針となる遊離酸度の測定にはA-Dストリップが使われた。またフィルム包材(箱、帯、スプール)もpHチェックペンで確認した。この結果、酸加水分解が急速に進む臨界を越えているものが20%以上、臨界以下のものも保管環境の改善が必要であることが分かった。包材では「中性紙」と表記されていてもTACからの強い酢酸によって酸性になっているものもあったという。一次調査の結果を踏まえてその対策を所内に訴え、二次調査(全点調査)を外部に委託できるとともに、TACネガフィルムの複製化経費を獲得でき、マイクロ保管スペースが確保できた、としている。

「ブログもんじょ箱」(8月12日付) 日本初、マイクロフィルムの大規模な全点調査

※当日の田崎氏の発表によると、400点サンプル抽出による調査(一次調査)の結果と、全点を対象にした二次調査との統計的な誤差は、あらかじめ予測されている範囲に収まり、400点サンプル抽出による調査の信頼性が確認できたとしている。

 

2008年8月25日(月)
現代の図書館』は保存と修復の特集号、「状態調査の歴史と方法論」、「小規模研究所図書館での取り組み」など

日本図書館協会発行の雑誌『現代の図書館』(Vol.46, No.2, 2008.6)は「情報の保存と資料の修復」の特集号(p.79-137)。このうち以下の2つの論文を紹介する。

日本の図書館等における蔵書の状態調査―その歴史と方法論(小島浩之、矢野正隆)
これまでに国内で行われた図書館・アーカイブズでの28の状態調査について、歴史的経緯をまとめ、代表的な調査での方法論を比較した。前者では90年代半ばまでの調査は酸性紙問題を中心とした紙質に端を発し、蔵書をマスとして捉える視点が出るとともに、科学的な計測や分析も導入されたとし、90年代後半から現在までの調査では、紙質だけでなく記録材料の種類や冊子形態そのものへの関心、漠然とした全体把握ではなく具体的な施策(代替化や脱酸性化等)を念頭にした調査が行われるようになったとしている(1. 国内における蔵書状態調査の展開)。さらに1983年~2007年の9つの事例による方法論の比較(2. 状態調査はいかにあるべきか)では、このうちの8つの調査で採用されている標本抽出において3つ以外は標本数の決定根拠が示されておらず、統計学的にどのぐらいの精度を期待したものかも明示されていないという(2-2. 調査方法)。また大多数の調査の共通項目になっている耐折強度とpH調査についても、完全に折り曲げて強度を見て最大5段階まで分類する既存の方法の現実的な対策との関連を問いかけている(2-3. 調査内容)。最後に調査を報告書としてまとめる際の記載要件(対象、目的、経過、方法・手順、結果の記述と考察、結論、資料編)を試案としてあげている。(p.79-89)

法政大学大原社会問題研究所における資料保存―小規模研究所ライブラリーの取り組みから(若杉隆志)
1990年から現在までの、「利用のための資料保存」をコンセプトにし、個々の資料あるいは資料群ごとの「保存ニーズの把握」を踏まえた具体的な取り組み(調査と計画、保管環境の整備、保護・脱酸・修復、媒体変換)を紹介。取り組みの「ほとんどが、さほどの予算を必要とするわけではない。というよりも小規模の研究所ゆえに予算規模はもともと小額である。その中でやりくりしつつ、できるところから手がけてきている」。最後に、今後の検討課題として、収集・整理・利用・保存というトータルな資料管理に保存を組み込む(具体例として、ポスターのエンキャプシュレーション、組合資料のアナログコピー作成)、保存技術や資材の進歩と多様化への対応、所内での意志統一などを挙げている。(p.90-96)

(引用・要約文責:木部徹)

 

2008年4月23日(水)
ケンブリッジ大学図書館が「古い本が発する臭いから劣化レベルを判断する」技術の開発へ

英国BBCのニュースサイト BBC News (UK version, 13 April)は、Researchers sniff out an old book として劣化した古書が発する特有の「臭い」を分析することによって本紙の劣化レベルを知ることができないかという研究プロジェクトをケンブリッジ大学図書館が進めていることを報じている。

古書は劣化を始めると、揮発性の有機酸を含むさまざまな有機物を放散する。ケンブリッジ大学図書館の研究者らは保管庫の大気に混じるこれらのガスのうち特定のいくつかを検知するシステムを作ることで、破壊的な酸による膨大な蔵書の劣化進行をくい止める方法を開発しようとしている。研究者らによると、たとえ新しい本でも、古くて劣化が進行している本に混じって置かれると、その影響を受けて劣化が早まるという。

プロジェクトの第一段階として、別々の図書館の同じ本の本紙を比較する。同じ紙が違った保管環境下に置かれることで、劣化にどのような影響の違いが生じるかを見る。次にそれぞれの環境の大気をサンプリングし、この中にどのような酸がどの程度含まれるかを調べ、本紙の劣化レベルと突き合わせる---。

この研究成果は2009年に発表される予定だが、保管庫に有機酸を除去するフィルターを設置することで劣化の進行を抑制することが考えられるとしている。

「ただし、古書の、あの特有の臭いが好きだ、という人にはいささか剣呑な研究ということになるが」。
Researchers sniff out an old book

※このプロジェクトは英国図書館(British Library)が先導し英国内の複数の図書館・アーカイブが協力する形で進めているもの。『ほぼ日』の以下の記事を参照。

2006年3月2日付け:英国図書館、過去最高の補助金で書籍の劣化の「環境要因」と「劣化時の揮発性有機物」を研究へ

※弊社のスタッフによる次の報告も

小谷尚子 「非破壊方法による書籍資料の酸性度乾式測定方法の検討」 第28回文化財保存修復学会大会ポスター発表(PDF 120KB) 、要旨(PDF 284KB)

 

2008年4月17日(木)
第2回「書写材料の耐久性国際シンポジウム」が今年7月にスロヴェニアで、近赤外線による蔵書の非破壊調査など

NIR(近赤外線)を照射し蔵書の劣化を非破壊で調べる

「書写材料の耐久性国際シンポジウム」(Durability of Paper and Writing)が7月7~9日にリュビリアナ(スロヴェニア)で開催される。2004年の開催に続き2回目。紙媒体のコンサベーションに関連した保存科学の最新成果の発表と、二つのワークショップ(PAPERTREAT、SurveNIR)が予定されている。なかでも欧州各国の国立図書館やコンサベーション機関が協力してとりくんできたSurveNIRの成果発表に関心が集まっている。近赤外線(NIR)を照射して書籍の本紙の化学的・物理的な劣化状態を非破壊でデータ化する方法は蔵書調査法の決定版になると期待されている。

同シンポジウムの詳細なプログラムは近々、以下のページで公表される。
http://www.paperdurability.org/
SurveNIR:Near Infrared Tool for Collection Surveying

 

2008年4月21日(月)
Gary Frostらによるペルーの貴重書図書館の資料保存アセスメント、保護的な展示や保管法とコンサベーションを提言

アイオワ州立大学図書館のコンサーバター Gary Frost のホームページは、昨年11月にFrostらが行ったペルーの貴重書図書館の資料保存アセスメントの報告 Peru Arequipa を、パワーポイントのスライド10枚程度にまとめて簡潔に報告している。

アセスメントの対象になったのはペルーの高地にある Arequipaの図書館や文書館の貴重資料資料の約3万7千点。古い手稿本は過去5世紀前に遡り、16世紀にヨーロッパから伝えられた印刷技術を駆使した版本も含まれる。アセスメントでは地震が頻発すること、火山灰や自動車の排ガスによる大気の汚染が著しいこと等を考慮した保護的な展示や保管法、そしてコンサベーションを提言した。

Peru Arequipa - Power Point(30MB)

Gary Frostについては『ほぼ日』 2006年2月22日号「2006年PADG賞にアイオワ大学図書館コンサーバターのギャリィ・フロストが」を参照。


2008 年3月24日(月)
国会図書館、戦後の和図書191万冊の劣化調査結果と全調査データを発表、代替・脱酸性化・製本の指針が明確に

国立国会図書館はこのほど、同館が2005~2006年度にかけて実施した「和図書劣化調査」結果と、この調査のためにサンプリングした書籍の書誌およびその調査データを発表した。調査対象になったのは1950~1999年に国内で出版され、利用頻度が最も高い191万冊の書籍。その本文紙の物理的・化学的状態、版元で行われた元の製本の状態、受け入れ後の図書館製本の状態をサンプリング書籍(2,000点)で調べ、現時点で劣化がどの程度進んでいるのか、いないのかを概観し、今後に予想されるであろう劣化への対策の指針を明確にした。同館ではこの調査結果を踏まえて、酸性紙で紙の強度がまだ保たれているものの大量脱酸性化、強度が保たれていても見開き度が悪くコピー等で破損するおそれのあるものへの取り扱い注意や複写方法の見直し、本文紙の強度に応じた見開き度を保持できるより良い再製本法の採用等の具体的な保存対策を計画的に実施していくとしている。

191万冊からランダム・サンプリングした2,000点の書誌及び調査結果データも全て公開された。これにより同じ本を持つ他の図書館が同様の調査を行えば、自館での状態とともに、温湿度が管理された国会図書館との保管環境の違いによる劣化度の差異等も判ることになる。

No.8 国立国会図書館所蔵和図書(1950~1999年刊)の劣化調査報告
報告書 本編 (7.6MB)

ランダム・サンプリングした2,000冊の書誌および調査結果データ (1MB)

※上記調査作業は弊社・有限会社資料保存器材が委託され実施しました。すでに公表されている東京大学経済学部図書館資料室での調査http://www.lib.e.u-tokyo.ac.jp/shiryo/hozon/top.html等を元に、館内で実施するための、より一般的な調査票のひな形を下記に掲載しました。ご参考に。調査目的に応じて調査項目を加除してお使い下さい。資料の状態調査はそれを持つ図書館の方が自ら行うのがイチバンです。なお、ご不明な点はご質問をどうぞ(mail@hozon.co.jp)。

書籍資料の劣化状態調査票のひな形(XLS:26KB)

 

2008年2月27日(水)
Pearlstein 著『コレクションを保存する--環境整備の原則と方法』がこの5月に上梓

文化財全般の保存に関わる環境の問題と対策を要領よくまとめた Conserving Collections: Environmental Principles and Methods がこの5月に刊行される。著者は20年近く博物館のコンサーバターを、また大学院レベルのコンサベーション講座の準教授も努めたEllen J. Pearlstein で、本書では特に大気汚染、照明、温度・湿度について、その文化財に与える影響と対策を、現在までの各分野での研究成果を的確に組み込んで概説している。

Conserving Collections: Environmental Principles and Methods
Paperback
May 2008
192 pages
ISBN: 9781844071500
Earthscan Pubns Ltd

http://www.earthscan.co.uk/?tabid=787

 

2008年1月23日(水)
英国内6図書館の共同プロジェクト「同一の所蔵資料400点の経時劣化の研究」の現状

英国図書館(BL)を中心に国内6つの法定納本図書館が協力し、それぞれが所蔵する書籍資料のなかから同じものを400点選出、これが通常の保管環境の下で経時と共にどのように劣化して行くかを研究するプロジェクト The Identical Books Project の現状を国際図書館連盟(IFLA)資料保存分科会機関誌 International Preservation New (No.42, October 2007)が伝えている(p.18-20)。

2006年10月にスタートしたこのプロジェクトはメロン財団から69万8千ドルの資金を得て、保管環境下の紙媒体の劣化を知るためのモデルとなる紙を作成と試験、書籍としての状態を非破壊的に測る方法の開発、各機関のコンサベーション部門の協力体制の構築、コンサベーション研究の規準の創設、国内の保存科学のレベルの向上--を目標にしている。参加機関は英国図書館、ケンブリッジ大学図書館、スコットランド国立アーカイブ等8機関。これとは別に国内3大学そしてリュブリアナ大学(スロヴェニア)が研究支援を、またオランダ王立図書館、米議会図書館、ドイツ国立グラフィックアーツ・アカデミイが諮問機関になっている。

書籍用紙が経時と共にどのように変化するか、保管環境の影響はといった比較研究と共に、紙の束としての書籍から発生する揮発性有機化合物(VOC)を計測することで書籍の劣化状態を知ることができないかという研究も行われている。また、これまでの劣化調査の定番である表面pHによる酸性度計測とページの端を折り曲げて物理的強度を測るダブル・フォルド法の欠点を凌駕する微細サンプル抽出pH計測法等も導入されている。

プロジェクトは2009年3月に終了し、これを記念しての国際的なコンファレンスの場で成果が発表されるという。

International Preservation New (No.42, October 2007)

 

2007年11月6日(火)
「博物館の屋内環境--予防的保存手当て(Preventive Conservation)」国際会議が19日からコペンハーゲンで

「博物館の屋内環境---予防的保存手当て」国際会議が11月19~23日にコペンハーゲンのデンマーク国立博物館で開催される。屋内の諸環境がどのように資料に影響を及ぼすか、その知見を元にどのような環境基準が考えられるか、規準に則した保管環境を整えるためにはどのような積極的な(active)な、または受動的な(passive)な方法があるかについて、各国から200名が集い、下記のテーマ別の5つのセクションで計36の発表が行われる。参加者は全ての発表の予稿集(PDF)を会議のサイトからあらかじめダウンロードできる。各発表の要約は非参加者もダウンロードできる。

Session 1: The effect of the environment on artefacts.
Session 2: Measuring the environment.
Session 3: Applying knowledge of the effects of climate: surveying actual collections.
Session 4: Use of enclosure to control climate – the larger environment.
Session 5: The showcase and picture frame.

詳細は下記サイトで
Museum Microclimate --Conference on Preventive Conservation

 

2007年7月24日(火)
Forde著『アーカイブ資料の保存管理』が上梓、プリザベーションの視点から総合的に解説

英国国立公文書館(National Archives of the UK)プリザベーション部門長(Head of Preservation Services)を長く努めたHelen Fordeによる Preserving Archives がこのほど上梓された。「保存無くしてアクセス無し」とし、アーカイブ資料のプリザベーションのための理念、保存アセスメント、多様なアーカイブ資料の種類と特徴、デジタル記録の保存、環境管理、防災・救助計画、コンサベーション部署の設置、資料の移動、展示、カビ・虫害管理、代替物の作成、計画から実行へ---と、現時点でのアーカイブ資料の保存管理に関する総合的なハンドブックになっている。

Preserving archives
by Helen Forde
London: Facet Publishing, 2007
ISBN: 1 85604 577 3
Hardback: 320 pages
Price: £39.95

著者のHelen Forde のホームページ

 

2007年7月13日(金)
NDL英文ニューズレター、「国立国会図書館の資料保存」で50~90年代の国内書籍190万冊の劣化調査を公表

国立国会図書館の英文ニューズレター NDL Newsletter(No.155, June 2007)は"Preservation and Mass Conservation at the National Diet Library" として同図書館の最近の資料保存の取組みを紹介している。国際図書館連盟(IFLA)の中国PAC(Preservation and Conservation)センターで今年1月に開催されたアジア・オセアニア地域センター長会議での小林直子氏による報告の転載。章立ては以下の通り。

1. Acid paper problem and the beginning of the efforts to resolve the problem
2. Microfilming of deteriorated collections
3. Survey and implementation of mass deacidification
4. Survey on use rate of acid-free paper and growth in publications using acid-free paper
5. Emergence of difficult new problems

このうち最終章「困難な新しい問題の出現」の要訳は以下の通り。

インターネットによる検索サービスの浸透等でコピー請求数が、2005年度は2002年度の約3倍の30万件と、飛躍的に増加しているが、これによる資料の劣化が懸念されるものの、統計的には把握されていない。しかし、劣化した本を全て直すことはできないが、コレクション毎の劣化の概要を把握することでそれぞれのコレクションに適した劣化予防策が講じられる。利用率が最も高い50年代から90年代に国内で出版された書籍190万冊を対象に、2005年と2006年に劣化調査を実施した。

調査方法は各年代毎に400冊を抽出するランダムサンプリング法。手法は1983年に国会図書館が行った劣化調査と同じだが、83年調査では前者の用紙の劣化状態を見るだけだったのが、今回はが製本の構造的な状態と問題点も採り上げたのが特徴。具体的には本としての見開き易さ(openability)を調査項目に加えた。また、調査の主目的を、本として「現物利用」に耐えるかどうかを見るという点に絞ったため、用紙の劣化度も Fair と Not Fair の二段階評価だけと単純化した。

この調査による主な知見は次の通り。

・酸性紙の使用比率は80年代以降、劇的に減じている。
・用紙の強度は1960年代以降、明らかに上昇している。
・70年代以降、接着剤製本の比率が急速に拡大している。
・見開き易さの比率は大きく変化していない

Dates
Characters (%)

1950-1959

1960-1969

1970-1979

1980-1989

1990-1999

 酸性紙 

95

96

96

66

26

 用紙強度 Fair

48

82

96

100

100

 接着剤製本

0

2

26

56

78

 見開き性良好

75

75

73

54

69


この調査結果を基に、どのぐらいの規模の蔵書がマイクロフィルム化の対象になるか(対象は酸性紙ですでに brittle になっているもの)、大量脱酸性化処置の対象と規模は(酸性紙だが、まだ brittle に達していないもの)等が推測できる。一方、接着剤製本は「綴じ」の接着剤が角質化すると、一度コピー機にかけただけで壊れてしまう。これは新しい「劣化問題」といえる。

以上のような書籍の劣化問題と共に、セルロース・アセテート(TAC)ベースのマイクロフィルムのそれも浮上している。2003年から12万のマイクロフィルムと460万のフィッシュを対照した調査と収納容器の入れ替えを行い、2005年までに8万マイクロフィルム、80万フィッシュを終了している。ただ、2006年に中性容器に代替したにも関わらず、フィルムからの酢酸により早期に「酸性」容器になってしまうことが判った。劣化が著しいTACフィルムは早急に別置しなければならない。TACフィルムの劣化問題は欧米では周知のことになっているが、日本でも今後、注意を喚起し、情報を交換して行く必要がある。

Preservation and Mass Conservation at the National Diet Library

国際図書館連盟(IFLA)の中国PAC(Preservation and Conservation)センターのホームページは、地域センター長会議での全報告を掲載している。同会議のテーマは①保存管理:制度とプロセス、②事例:問題と解決。計6つの報告が行われた。以下に。

Conference of Directors of Centers of IFLA-PAC Asia-Oceania Region & Preservation Meeting among China, Japan and Korea

http://www.nlc.gov.cn/en/services/iflapac_chinacenter/conf.htm(英文)
http://www.nlc.gov.cn/service/fuwudaohang/tulian/conf.htm (中文)

(要訳文責:木部徹)


2007年7月09日(月)
オランダ国立図書館と公文書館が同一資料の14年後の自然老化状態を調査、酸性劣化が確実に進行

オランダ国立図書館(Koninklijke Bibliotheek)と同公文書館( Nationaal Archief)は、1990年に劣化態調査した特定コレクションが自然老化の後に、2004年時点でどのような状態になっているかを調べた報告書 VOORTSCHRIJDEND VERVAL EN VERZURING:Een studie naar het effect van 14 jaar natuurlijke veroudering op de papierkwaliteit in de collecties van de Koninklijke Bibliotheek en het Nationaal Archiefを発表している。それによるとこの14年間に酸性度が上がり、紙力の低下が明らかであるという。この調査はオランダの記録資料保存のための国家プロジェクト「メタモルフォーゼ」事業の一環として行われた。

1990年に両館はランダム・サンプリングした400点の資料を対象に、その化学的・物理的状態を調査した。今回の報告書は14年後の今日、同じ資料を同じ調査方法で調べ比較したもの。結果は以下の通り。(以下は英文での要約 Paper Degradation and Acidification in Progress, http://www.metamorfoze.nl/publicaties/rapporten/paperdegradation.pdf )に拠る。

・最も酸性度の高い記録資料は14年間の自然老化でその強度は著しく低下した。酸性度と劣化度の相関関係は、アーカイブ資料よりも書籍に顕著である。

・書籍の酸性度は著しく高まっているが、アーカイブ文書資料は顕著ではない。

・酸性度の高い紙は物理的劣化度も高い。酸性度の低いものは物理的劣化度も低い。

・酸性度と物理的劣化度の相関性の確認は、理論的な知見を裏付けるものである。

・この結果を踏まえると脱酸性化は不可欠である。

・書籍の黄変・茶変色したものは変色していないものに比べて紙力が低下している。アーカイブ資料は変色していてもいなくとも、著しい紙力の変化は求められなかった。

・老化による変色と紙力の低下には相関関係があることが明らかになった。

・アーカイブ資料の紙力低下と酸性度および変色との関係は書籍のそれほど明確ではないが、概して同傾向が見られる。この理由としては、公文書等と書籍の使用紙が違うこと、公文書の形態が書籍と比べるとコンパクトな構造であること、そして公文書等は清浄な大環境の中で保管されているが、書籍はそうではないこと--が挙げられる。

・「永久に」ということからすると、14年の自然老化はいかにも短い。自然老化の影響調査を将来に渡って長期に継続する必要がある。このため将来の試験が、同一環境と同一方法を用いて行われるように保証されなければならない。

Voortschrijdend verval en verzuring. Een studie naar het effect van 14 jaar natuurlijke veroudering op de papierkwaliteit in de collecties van de Koninklijke Bibliotheek en het Nationaal Archief / H. Porck en H. Voorbij - Den Haag : Koninklijke Bibliotheek, 2006

http://www.metamorfoze.nl/publicaties/rapporten/voortschrijdend.pdf


2007年2月5日(月)
アメリカ議会図書館、際立った劣化蔵書(brittle books)を中核にしたデジタル化に200万ドルを投入


アメリカ議会図書館は Alfred P. Sloan 基金からの支援を得て、同図書館が持つ際立った劣化本(brittle books)やアメリカの歴史に関する本を対象にしたデジタル化プロジェクト(Digitizing American Imprints at the Library of Congress)に乗り出すことになった。投入資金は200万ドル(2億4千万円)。

このプロジェクトは、現在行われている本を見開いた状態でのスキャニングだけでなく、画面上でページをめくってアクセスできる技術や、原本にある折り込みページのスキャニングと表示技術の開発、目次や章節やインデックスのメタデータ化などのパイロット・プログラムの開発も含んでいる。また、これまでのデジタル化・プロジェクトでは、際立った劣化本はスキャニングに耐えないという理由で除外されていたが、今回のプロジェクトではこうした本の撮影時等の取り扱いを厳重ものにして臨むとしている。

$2 Million Sloan Foundation Grant To Help Digitize Thousands of Books


2006年12月15日(金)
日図協資料保存委員会が保存管理チームを発足、「資料保存管理」(Preservation)の理解の徹底へ


日本図書館協会の資料保存委員会は、下部組織として「保存管理」に特化したチームを発足させた。事務局は安江明夫氏(元・国会図書館副館長)と村上直子氏(資料保存委員会委員)が担当する。安江氏による趣旨は以下の通り(原文ママ)。

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資料保存委員会「保存管理チーム」について

このほど資料保存委員会に「保存管理チーム」を発足させた。保存管理はPreservation Administrationの日本語訳だが、平たくプリザベーションと考えていただいても良い。

チーム設置の趣旨を述べると、資料保存をプリザベーションとコンサベーションの2つのレベルで区別することが大事だ。(「用語の定義」を参照のこと)

コンサベーションについては、1990年代、木部徹さんや佐藤祐一さんが中心となった資料保存委員会の資料保存基礎技術WGの活躍などにより、日本でもその考えが明確になり、理解と実践が大きく前進してきた。これは高い評価に値する。

しかし、プリザベーションについては、「利用のための資料保存」の方針とコンセプトは良かったが、それ以外では前進していない。

ここでプリザベーションのレベルと言うのは、製本・補修、予防的保存、維持管理、マイクロ化・電子化、環境整備、災害対策、利用者教育・職員教育、収集方針・廃棄方針との連携、利用者サービスとの関連、図書館協力などを包括するコンセプト。このように多岐に亘る責務に、図書館が統合的、体系的、計画的に取り組むことが重要。それ無しでは蔵書の保存、サービス基盤の適切な確保はできない。それが保存管理のコンセプトだが、この点の理解と実践が日本では薄いのが現状。それを打破して前に進みたい。そうしないと資料保存が萎み、図書館が責任を充分に果たせない。

趣旨は以上。但し、本チーム、当面は歩きながら考え体制を整えていく。現在の事務局は安江明夫と村上直子(資料保存委員会委員)の二人。チームの設置期間は2年半(平成18年度~20年度の3か年度)を予定している。

チームは、テーマ毎の研究会等の開催、セミナーの開催(研究成果の発表など)、成果の刊行物、HP等での提供に取り組んでいく。必要に応じて研修会なども開催したい。そうした作業を通じて、日本の図書館での保存管理が徐々に軌道に乗ってくることを願っている。
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保存管理チームのホームページ

 

保存管理チーム、「戦略的資料保存 -- 残すために何を考え、どう実践するか」で2月2日にセミナー

日本図書館協会資料保存委員会保存管理チームは、「調査から計画へ」と題した連続セミナーの第一弾として「戦略的資料保存--残すために何を考え、どう実践するか」を来年2月2日に開催する。講師は小島浩之氏(東京大学経済学部図書館)。東京大学経済学部図書館で実施した蔵書劣化状態調査と調査結果に基づく保存対策についての報告。紙媒体資料だけでなく、マイクロフィルムの劣化調査を実施、蔵書の優先順位付け、資料保存のHPを立ち上げ調査結果を一般公開、など画期的な取組みの紹介になる。

調査から計画へ -1-
「戦略的資料保存 -残すために何を考え、どう実践するか-」

講師: 小島浩之氏(東京大学経済学部図書館)
日時: 2007年2月2日(金) 18:30~20:30
会場: 日本図書館協会会館 2階研修室
http://www.jla.or.jp/kaikan.htm
申込: 不要 参加自由です
主催: 日本図書館協会 資料保存委員会


2006年10月16日(月)
英Facet 社が『図書館・文書館・博物館の保存管理』を刊行





図書館・情報学関連の国際的な出版社であるFacet社(前英国図書館協会出版局)はこのほどG. E. Gorman と Sydney J Shep の共同編集による『図書館・文書館・博物館の保存管理』(Preservation Management for Libraries, Archives and Museums )を刊行した。図書館・文書館等の「記憶保存機関」(memory institutions)はこれまでの図書や文書等のアナログ記録と、デジタル記録という新しい「記憶」を共に蓄積し、後世に伝えて行くという使命がある。この本は、蔵書管理、利用と保存の在り方、文化財指定、基金とその維持、行政の指導--等々、保存管理に関連する幅広い課題とその現状について、世界の専門家を結集して論じている。見出しは次の通り。

What is preservation management in memory institutions?
Policy and planning; risk assessment and disaster preparedness
Resource Issues: assessing the value of heritage objects
Preservation administration
Cooperative/collaborative networks and partnerships
Preservation, conservation and managing new media
Reformatting and migration as preservation strategies
Ethics and responsibilities, education and practice
Access and the social contract in publicly funded institutions
Negotiating cultural sensitivities
Rights and the legislative imperative
Preservation management in countries in transition
Surrogacy and the artefact
Challenges of managing the digitally-born artefact
Global standards
Redefining the collection in the 21st century
Preservation Management for Libraries, Archives and Museums.
Edited by G. E. Gorman and Sydney J. Shep
(August 2006, 224pp, ISBN:1-85604-574-9, £44.95



編者の G.E. Gorman はウェリントン・ビクトリア大学図書館・情報管理学の教授、Sydney J. Shep は同大学印刷・書物文化学の専任講師で自らプライベイト・プレスも運営している。

Preservation Management for Libraries, Archives and Museums
アマゾンではここで


2006年8月4日(金)
国立公文書館『アーカイブズ』最新号、尾立和則氏の「資料所蔵施設における防災と救済計画」を掲載

国立公文書館の機関誌『アーカイブズ』最新号(第.24号、2006/7)は尾立和則氏(絵画・文書修復家)による「資料所蔵施設における防災と救済計画」を掲載している(p.57-63)。以下は各章の要約。章タイトルは原文ママ。

 

はじめに
阪神・淡路大震災(1995年)を契機として資料所蔵施設における防災意識が高まり、これに応えて施設の機材販売業者は展示ケースの改良や内装材の改良を行い、施設側も防災対策の見直しを行った。それも震度7クラスの大きな災害への対処というだけでなく、現実的な策として、既存の設備でどのように対応するのかという情報の交換が行われるようになったことは注目して良い。

1. 防災計画
防災担当部署を設置し、建物の構造と設備への理解から始め、被害を最小限に抑えるための必要なことを明文化し、改善可能なことから順次実施する。

1.1. 防災計画は誰が作る
防災計画の作成は、自館の条件と同等の他機関でのそれを参考にし、保存担当部門と他の各部門とが共同して行う。防災意識を館全体のものにするためにも共同作業は必要であり、逆に失敗例として多いのが保存担当者任せにする場合である。建物本体や周囲への環境問題は法規則に準じて対策を講じる。備品の確認は職員自身で行うことが必要だ。


1.2.  緊急連絡網
災害発生時の、職場内と外との緊急連絡網を整備し、いつでも目に触れるようにしておく。

2.  救済計画(館蔵品への対応)
あらゆる被害に対してひとつの救済計画というのではなく、被害の規模によって、①被害時に館内にいた職員だけで対応、②出勤していない職員も動員しての対応、③外部の専門家(消防署、空調、冷暖房、コンピュータなどの建物や一般設備関連、防火設備関連、収蔵庫や書庫等の収蔵設備関連等々の各分野での専門家を指す)の応援による対応--というように複数用意し、それぞれに細かな作業マニュアルを作る。この際も他館のものを参考にすると共に専門家に助言をもらう。

2.1.  救済計画の目標
業務全体の復旧の進行に合わせた、救済の期間や程度を設定する。救済活動は応急手当というべきものだが、この活動によって被害の実態が明らかになり、復旧予算全体が把握できるようになる。活動の写真や映像の記録を残すと、復旧予算だけでなく、各種保険への基礎資料になる。また、緊急に行う保全処置ではあるが、処置のままの状態で何年も経過することもあるので、これを考慮した救済時の方法や資材を選択する。修復作業は可能な限り専門家の立ち会いや助言を求める。修復の優先順位の判断は館が行うが、処置難易度の判定は修復家に頼るしかない。

2.2.  館内の指揮系統を明確化
計画遂行のためのマニュアル完備と共に重要なのが指揮系統の明確化である。救済計画は防災担当部署が管理し、各部署との円滑な連携を図る。もうひとつ重要なことは広域災害時の対応である。自館が被災していない場合でも、周辺が被害を受け、その影響が自館に及ぶことがある。また、救援活動を求められる場合もあり、こうしたことを救済計画に盛り込むかどうかも協議する。さらに広域災害時には緊急の支援組織が立ち上がる場合があるが、主体が行政か任意団体かで支援内容が異なってくるので、組織に加わると依頼する場合とに応じた意思統一を図っておく。

まとめにかえて(防災計画とは大災害用なのか)
資料収蔵機関における災害とは震災だけではなく、豪雨による水害、火災や施設損壊による資料の損傷、台風等の被害も含む。また開館時の閲覧者への安全対策、停電や不法侵入者、落書き、害虫の発生からテロ対策なども含む。これらへの緊急連絡から応急処置までの流れを明確にしておく。

【要約文責:木部徹】

国立公文書館『アーカイブズ』第24号は同館から入手できる。また、12号から 再近号(No.23)までの全文が、以下のページにPDFで公開されている。

国立公文書館刊行物のご紹介
http://www.archives.go.jp/event/kankou.html



2006年6月9日(金)
国会図書館の50年代和図書の劣化調査、ほぼ全部が酸性紙だが「見開きやすさ」ではGood が75% も


国立国会図書館はこのほど開催された第28回文化財保存修復学会において「国立国会図書館における和図書の劣化調査--図書館資料の劣化とは」を発表した。

同図書館は1984年に所蔵資料の劣化調査を行ったが、このときは資料本紙の耐折強度、変色、酸性度だった。今回の調査は「動かされる構造物」としての図書が、閲覧やコピーなどの通常の利用に耐えうるものかどうかを見るために「見開き度」という調査項目も加えたのが特徴である。

調査対象は1950年代の和図書、総数12万点。図書館資料の調査のためのランダムサンプリング法により400点を抽出した。この結果は95±5% の確率で全体に敷衍できる。

調査項目は本文紙の物理的強度(端を撓ませる程度での2段階評価)、変色(3段階評価)、酸性度(A-D ストリップ、pH チェックペン)、製本の綴じの材質と綴じの位置、葉の構成、綴じの状態、表紙の接合等と「見開き度」(3段階評価)の41項目。

結果は以下の通り。、チェックペンでは96%、A-Dストリップでは98%が酸性紙だが、耐折強度はFair が半数で、本文の紙としての強度をまだ保持している。見開き性はGoodが75%。これは50年代図書の大半が糸での中綴じ(いわゆる本縢り)で、ノド一杯まで見開くことができる製本構造のためである。利用による破損の危険性は比較的少ないといえる。


「国立国会図書館における和図書の劣化調査--図書館資料の劣化とは」(国立国会図書館:山口佳奈、小林直子、 資料保存器材:小谷尚子ほか)
文化財保存修復学会第28回大会研究発表要旨集、p.84-85(2006)

(要約と文責:木部徹。上記の「動かされる構造物」という言葉は木部の造語で、発表文内にはありません)


3月22日(水)
英国資料保存室が最大規模のニーズ調査、環境管理面での弱点を浮き彫りに


英国資料保存室が最大規模のニーズ調査、環境管理面での弱点を浮き彫りに



英国ナショナル・プレザベーション・オフィス(National Preservation Office: NPO)はこのほど英国内の79の図書館や公文書館を対象にした保存ニーズ調査をまとめ Knowing the need: a report on the emerging picture of preservation need in libraries and archives in the UK, 2006 としてPDF(
1.45 MB)で出版した。この種のニーズ調査では過去最大の規模になる。

79機関の97コレクションと、43,687点の個別資料(総数で約2,800万点の図書、文書、写真他からランダムサンプリング法で抽出)を対象にした過去5年間にわたる資料保存ニーズ調査の結果、資料保存に関わる取り組みが全体に不足しているが、特に保存環境管理面ではこの傾向が顕著で、不安定な保管環境に置かれていたり、環境基準そのものが不適切であることが明らかになった。また、1850年代以降の資料が悪い環境下に置かれ劣化が進行していること、すでに媒体としての安定性がなくなっているものや利用されない資料を可能なかぎり少なくすること、他の安定した媒体への代替を効果的に行うことの必要性も浮き彫りになった。NPOはこの改善に向けて主要な機関と協力し、国や地域レベルでの大量脱酸性化や分担保存等の、ニーズに見合う保存戦略を進めて行くという。

 

左から 取り扱い、保管、環境、セキュリティ、防火、明文化された防災計画

適切 不適切


http://www.bl.uk/services/npo/pdf/knowing.pdf


2006年3月3日(金)
東京大学経済学部資料室が蔵書の劣化調査報告書を上梓、脆弱化した本紙は全体の20%にも



東京大学経済学部資料室はこのほど『蔵書劣化調査報告書』を上梓した。昨年末に行った所蔵資料18万点の劣化状況と、その結果を踏まえた各種の対策をまとめたもの。

同資料室の所蔵資料は、政府や地方自治体の刊行物、民間団体刊行物、旧植民地資料等、多岐に渡る。いわゆる灰色文献や、国や企業、労働組合の意志決定に関わる一次資料も多く、現在では同資料室しか所蔵しないものもある。しかし、その保存状態は一般の書籍に比べると良好とはいえず、特に戦中から昭和30年代の資料の劣化が著しい。その劣化状況の全体を把握し、講ずべき対策を明らかにする目的で行われたのが今回の調査である。

同種の蔵書劣化調査は、過去にも他機関での例があるが、今回の調査は、いわゆる一般書籍ではない蔵書が対象であること、また本文紙の酸性劣化と同時に製本の構造的な劣化も調べたところに特徴がある。具体的には、資料を見開いた場合の「見開き易さ/難さ」や「綴じ方」、「綴じ位置」等を調査項目に盛り込んだ。例えば針金で平綴じされていて本文紙の劣化が激しいものは、現在は損壊していなくとも、閲覧やコピーで損壊する可能性が高いことになる。こうした「利用」による劣化を予測するとともに、具体的な対策であるマイクロ化等の代替や再製本の難易も予測できることになる。

18万点の中から、約800点をランダムサンプリングし、43の調査項目でチェックした結果、本文紙が酸性の資料は71%、本文紙が脆弱化(brittle, very brittle) しているものは21%、見開き性が悪く、閲覧やコピーで損壊する可能性があるものが48%--等々が明らかになった。

また、今回の調査は、以上の劣化に対する具体的な対処策を提示していることにも特徴がある。本文紙が脆弱化している資料はマイクロやハードコピー等の代替化を優先させる、本文紙が酸性だが、まだ脆弱化していないものは脱酸性化する--等々である。

なお、この調査は企画段階から当社もお手伝いをした。

『蔵書劣化調査報告書』(2006年1月20日発行)に関する問い合わせは東京大学経済学部資料室(電話:03-5841-5591)へ。




『蔵書劣化調査報告書』(PDF 2.3M)
http://www.lib.e.u-tokyo.ac.jp/shiryo/hozon/hokokusho_01.pdf



資料室のホームページ

http://www.lib.e.u-tokyo.ac.jp/shiryo/shiryo.html


2005年4月20日(水)
コロンビア大図書館--多用なアーカイブ資料の保存調査ファイルを提供


コロンビア大学図書館(CUL)のホームページに、同図書館が2003年10月から2004年7月にかけて行ったアーカイブ資料の大規模な保存調査のために作成された調査方法が掲載されている。同館の調査はまだ目録化されていないものや目録化途中の資料を対象にしたもの。調査時間は延べ1,585時間、コレクション数は569(87,498点の簿冊資料、100,903点の設計図面、158,478点の写真資料ほか、マイクロフォルム、音響レコード、ビデオテープ等々)。メロン財団基金からの支援を受け、アクセス、状態、現物価値等の項目を含む調査を行い、データベースソフトのAccessに入力されデータベース化された。方法の説明(Word形式のファイル)も含め、Accessのファイル形式で以下からダウンロードできる。

CULでは今後、この信頼性の高い調査結果を保存計画、資源配分の優先順位付け、保存目標の設定に活かしてゆくとしている。

Special Collections Materials Surveys Instrument

 http://www.columbia.edu/cu/lweb/services/preservation/surveyTools.html

 

2005年4月5日(火)
IFLA、資料保存の規格・実践指針等のカタログ"FIRST, DO NO HARM"をウェブで




国際図書館連盟・資料保存分科会(IFLA Preservation and Conservation Section)はこのほど、資料保存に関する規格、実践指針、ガイドライン等をテーマ別に編集したカタログ "FIRST, DO NOT HARM; A Register of Standards, Codes of Practice, Guidelines Recommedations and Similar Works relating to Presrevation and Conservation in Libr /aries and Archives" をPDFで刊行した(無料)。90年代から2004年までの図書館と文書館の資料保存に関する世界の規格、実践指針、ガイドラインほか関連文献を集約し、以下の10のテーマ別に分類、主要なものには解題が付いている。PDF中の数多いインターネット・アドレスからは直接、該当ページに飛ぶことができる。

1. Standards in general
2. Dictionaries of terminology: general
3. Preservation & Conservation in general
4. Education & Training
5. Environmental management
6. Security
7. Emergency planning/Disaster preparedness
8. Preventive conservation and storage
9. Preservation treatment/Restoration & repair
10. Reformatting/Creation of surrogates

"FIRST, DO NO HARM" とは、ヒポクラテスの医者の心得 "The sooner, the better, but first do no harm" から摂ったもので、「まず何よりも 患者に害をなすなかれ」という意。資料保存における現在の考え方「治療よりも予防」と重なる。

FIRST, DO NOT HARM; A Register of Standards, Codes of Practice, Guidelines Recommedations and Similar Works relating to Presrevation and Conservation in Libr /aries and Archives
Compiled by: John McIlwaine
March 2005
PDF 79p (756KB)

http://www.ifla.org/VII/s19/pubs/first-do-no-harm.pdf

 

 

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