
9月18日から神戸で開催される日本図書館協会全国大会の資料保存分科会のテーマは「マイクロ化とデジタル化-「利用のための資料保存」を支えるパートナー」で、神戸大学附属図書館、東京大経済学部学資料室、尼崎市立地域研究史料館の事例報告、デジタル時代の代替化のリスクマネジメント、京都大学の取り組みの報告、デジタル化とA-Dストリップを使ったマイクロフィルムの健康診断のワークショップが予定されている。詳細は下記ページで。
「マイクロ化とデジタル化-「利用のための資料保存」を支えるパートナー」
国立国会図書館主催の第19回保存フォーラムは9月11日(木)に、木川りか氏(東京文化財研究所)を迎えて「害虫を入れない・増やさない ―図書館における総合的有害生物管理― 」の講演と、国会図書館でのモニタリング調査報告で開催される。参加〆切は9月4日(木)。詳細は下記ページで。
オーストラリア国立公文書館(National Archives of Australia)はこのほど、タイプライターからレーザー・プリンターまでの事務用の複写技術の歴史と、複写物の同定および歴史資料として保存する場合の方法をまとめた The Office Copying Revolution: History, identification and preservation を出版した。複写機器のメーカー、商品名、複写方法、色材などを400以上の画像を盛り込んで解説している。著者の Ian Batterham は同館のシニア・コンサーバーターで、この分野のエキスパート。下記ページから入手できる。
The Office Copying Revolution; History, identification and preservation
英国図書館はこのほど Digitisation Strategy 2008-2011 を発表した。主な対象資料は以下の通り。
・19世紀に出版された文献 2千万ページ (書籍約8万冊に相当)
・歴史的な新聞 100万ページ (すでに完了している 300万ページに追加)
・録音資料 4000時間分 (すでに完了している4000時間分に追加)
・ギリシャ写本 10万ページ
Digitisation Strategy 2008-2011.
今年9月22日~26日までインドのニュー・デリーで開催される国際博物館会議コンサベーション分科会の大会のプログラムが公開された。このうち紙媒体や記録媒体に関連する GRAPHIC DOCUMENTSでは、インク焼けへの新しい対処法、遠赤外線とケモメトリクスによる歴史的な紙媒体のキャラクタリゼーション、インクの非破壊的分析法などが注目される。主な発表は以下のとおり。
Season Tse and Robert Waller
Developing a risk assessment tool for iron gall ink on paper
B.V. Kharbade, Shirish Rajmalwar, R.C. Manjunathachari
The use of turmeric, a traditional Indian material, in the preservation of old manuscripts
Matija Strlič et. al.
NIR/chemometrics approach to characterisation of historical paper and surveying of paper-based collections
Mandana Barkeshli, Ghasem Ataie, Mahmood Alimohammadi
Historical analysis of materials used in Iranian paper dyeing process with special reference to the effect of henna dye on paper based on scientific analysis
Lieve Watteeuw
The conservation assessment of an illuminated Book of Hours: understanding craftsmanship through interdisciplinary research. Preliminary investigation
Han Neevel et al.
Non-invasive analysis of Van Gogh’s drawing inks
日本写真学会の今年の画像保存セミナーは25周年記念特別企画として「画像保存の過去・現在・未来」をテーマに10月30日(木)に東京都写真美術館ホールで開催される。世界的な権威である米国ロチェスター工科大学画像保存研究所(IPI) 所長 のジェームス M.ライリー氏による二つの講演などが予定されている。詳細は下記のパンフレット(PDF)で。
平成20 年度 画像保存セミナー: 25 周年記念特別企画 -画像保存の過去・現在・未来-
特種紙商事の「ブログもんじょ箱」は、8月1日に開催された日本図書館協会資料保存委員会のセミナーでの田崎淳子氏(東京大学東洋文化研究所図書室)による発表「マイクロフィルムの保存対策--まずはサンプル調査から」のレポートを寄せている。TACベースフィルムの所蔵数の確認、同フィルムの酸性劣化状況の把握、以上にもどづく今後の手当ての検討を目的に、全11,267点(ネガ 2,336点、ポジ 8,931点))のマイクロフィルムを対象に、まずサンプリングによる一次調査、そして全点を対象にした二次調査と、周到に進められた。酸性劣化の指針となる遊離酸度の測定にはA-Dストリップが使われた。またフィルム包材(箱、帯、スプール)もpHチェックペンで確認した。この結果、酸加水分解が急速に進む臨界を越えているものが20%以上、臨界以下のものも保管環境の改善が必要であることが分かった。包材では「中性紙」と表記されていてもTACからの強い酢酸によって酸性になっているものもあったという。一次調査の結果を踏まえてその対策を所内に訴え、二次調査(全点調査)を外部に委託できるとともに、TACネガフィルムの複製化経費を獲得でき、マイクロ保管スペースが確保できた、としている。
「ブログもんじょ箱」(8月12日付) 日本初、マイクロフィルムの大規模な全点調査
※当日の田崎氏の発表によると、400点サンプル抽出による調査(一次調査)の結果と、全点を対象にした二次調査との統計的な誤差は、あらかじめ予測されている範囲に収まり、400点サンプル抽出による調査の信頼性が確認できたとしている。

国際古書店連合協会(International League of Antiquarian Booksellers)はこのほど、版元の Oak Knoll 社と英国図書館の了解の下に、John Carter の名著 ABC for Book Collectors 全文をPDFにし、サイトに掲載した。無料でダウンロードできる。書誌学者 Carterが執筆したこの本は、コレクターだけでなく洋書を扱う図書館員にもバイブルとして使われてきたもので、Carter の後を受けて英国図書館の貴重書部門の責任者だった Nicolas Barker による改訂が継続的に行われてきた。
国立公文書館の機関紙『アーカイブズ』(第33号、8月発行)は中島康比古「大韓民国国家記録院 Nara 記録館見学記」を掲載している(p.50-58)。120億円を投じて昨年末に建設工事が完了、今年4月に正式オープンした同館は地上7階、地下3階、総面積は約6万2千㎡。専門職員だけで117名を擁する。見学記の4章「記録保存の最前線」では、マイクロフィルムによる媒体変換、AV資料の修復・媒体変換、デジタル・スキャニングの作業室と作業風景とともに、伝統的な韓紙(ハンシ)資料の手作業による修復、脱酸性処理機が、さらに書庫棟では記録様式別の温湿度設定(例:フィルムは温度4.2度、湿度34%)が行われており、中性紙製保存箱も導入されていることが、豊富なカラー画像とともに紹介されている。
国立公文書館の刊行物のHP
韓国国家記録院のHP(英語、中国語、日本語あり)
※Nara の英語サイトで組織図を見ると、Archives Management Department(記録管理部) の下に、Preservation Management Division 、Preservation-Conservation & Research Division がある。Preservation と Conservation を区分していること、Preservation Management (保存管理)の部門が独立してあることに注目したい。
『ほぼ日刊資料保存』は7月24日付けを最後に、ほぼ一ヶ月の休載をいたしました。これは弊社のサイト全体のリニューアル作業のためです。弊社が初めてサイトを開設した6年前には予想もしなかったインターネットの世界の激しい変化と興隆は、好むと好まざるとに関わらず、ごらんのようなささやかなホームページであっても、見た目のページの裏側にあるフォーマットと記述方法の「進歩」を余儀なくさせます。今回、現行のウェブの標準にほぼ即したサイトを作成できたと自負しております。デザインも統一され、見やすく、アクセスしやすくなったと思います。もちろん、コンテンツにおいても、アーカイバル容器では新製品や導入事例の紹介、資料のコンサベーション(保存修復)では、処置事例や海外の関連文献の紹介、館内での洋装本の補修マニュアルや漢籍のコンサベーション・マニュアルなどの翻訳連載--等々、逐次新しいものを盛り込んでゆきます。週替わりで掲載していた「今日の工房」も復活させました。この『ほぼ日』も内外の資料保存の動きを、これまで以上にタイムリーに皆様にお知らせしてゆきます。ご支援ください。
本日付で掲載した新しいコンテンツは以下の通りです。
「蔵書の状態調査のためのサンプル系統抽出法」改訂版
「百万塔陀羅尼への保存修復手当て」
新製品のご案内:着物用保存箱
日本図書館協会発行の雑誌『現代の図書館』(Vol.46, No.2, 2008.6)は「情報の保存と資料の修復」の特集号(p.79-137)。このうち以下の2つの論文を紹介する。
日本の図書館等における蔵書の状態調査―その歴史と方法論(小島浩之、矢野正隆)
これまでに国内で行われた図書館・アーカイブズでの28の状態調査について、歴史的経緯をまとめ、代表的な調査での方法論を比較した。前者では90年代半ばまでの調査は酸性紙問題を中心とした紙質に端を発し、蔵書をマスとして捉える視点が出るとともに、科学的な計測や分析も導入されたとし、90年代後半から現在までの調査では、紙質だけでなく記録材料の種類や冊子形態そのものへの関心、漠然とした全体把握ではなく具体的な施策(代替化や脱酸性化等)を念頭にした調査が行われるようになったとしている(1. 国内における蔵書状態調査の展開)。さらに1983年~2007年の9つの事例による方法論の比較(2. 状態調査はいかにあるべきか)では、このうちの8つの調査で採用されている標本抽出において3つ以外は標本数の決定根拠が示されておらず、統計学的にどのぐらいの精度を期待したものかも明示されていないという(2-2. 調査方法)。また大多数の調査の共通項目になっている耐折強度とpH調査についても、完全に折り曲げて強度を見て最大5段階まで分類する既存の方法の現実的な対策との関連を問いかけている(2-3. 調査内容)。最後に調査を報告書としてまとめる際の記載要件(対象、目的、経過、方法・手順、結果の記述と考察、結論、資料編)を試案としてあげている。(p.79-89)
法政大学大原社会問題研究所における資料保存―小規模研究所ライブラリーの取り組みから(若杉隆志)
1990年から現在までの、「利用のための資料保存」をコンセプトにし、個々の資料あるいは資料群ごとの「保存ニーズの把握」を踏まえた具体的な取り組み(調査と計画、保管環境の整備、保護・脱酸・修復、媒体変換)を紹介。取り組みの「ほとんどが、さほどの予算を必要とするわけではない。というよりも小規模の研究所ゆえに予算規模はもともと小額である。その中でやりくりしつつ、できるところから手がけてきている」。最後に、今後の検討課題として、収集・整理・利用・保存というトータルな資料管理に保存を組み込む(具体例として、ポスターのエンキャプシュレーション、組合資料のアナログコピー作成)、保存技術や資材の進歩と多様化への対応、所内での意志統一などを挙げている。(p.90-96)
(引用・要約文責:木部徹)
小林啓治・京都府立大学文学部准教授を研究者代表とした『京都府行政文書を中心とした近代行政文書についての史料学的研究』がまとまった(2005年~2007年科学研究補助費基盤研究(B)研究成果報告書、課題番号17320101)。京都府立総合資料館が所蔵する京都府行政文書のうち、わが国で初めて、地方公共団体所蔵の行政文書して重要文化財に指定された、明治元年から昭和21年までの15,407点の資料への、史料学・保存科学の両面からの研究成果である。研究目的は、「近代行政文書に特徴的な形状・素材の多様性・多様な筆記方法などを分類整理して損傷状態の評価方法を検討する」、「資料論的観点から整理分類する基準を検討し、本資料の中心を占める簿冊類を形態論的に分類する。年次ごとに整理された現在の目録に加えて、確定された分類基準の則したデータ・ベース化を推進する、劣化状況などの保存状態もデータとして集積する」、「府内各地および他府県の行政文書の保存実態や保存方法についても調査を行い、適切な保存および利用のありかたを検討する。各市町村の行政文書と「京都府行政文書」との体系的関連について解明し、近代行政文書の体系的把握を目指す」の三つ。報告書の目次は以下の通り(総ページ数、385頁、他に資料編として調査マニュアルや結果をまとめたCD-ROMが付属)。
第Ⅰ編 論考編
総論
京都府行政文書の史料学的研究
京都府行政文書と近代史研究
文化財として近代行政文書
近代行政文書の修復と保存
第Ⅱ編 記録編
シンポジウム
全体研究会の記録
出張調査
第Ⅲ編 資料編(付属 CD-ROM)
このうち「近代行政文書の修復と保存」では、近代行政文書の保存科学(稲葉政満)、文化財としての近現代資料の保存修復(川野辺渉)、劣化調査(入山洋子、海野彰子)、保存と修復(金山正子)、修復事例(田中淳一郎)、複写物の保存と修復(加藤雅人、坪倉早智子)として7つの論文が掲載されている。調査については、調査結果を踏まえた「次」があらかじめイメージされていないこと、サンプリング法が明確でないことが相変わらずであるが、「次」については、シンポジウムでの発言も含めて、大半がまず補修・修復ありき、最良の手段は修復とするなかで、以下に、いくつかの正鵠を得た言葉を拾う。
※掲載論文から
「これまで議論されてきた近代文書の保存修復に関する問題意識の中で、留意すべき論点」は、「第一に修復を個別に論じるのではなく、史料の保存計画の中に体系的に位置づける必要性があるという点である」。「青木睦氏は(史料保存計画の)「範囲は「保存環境・条件の整備」、史料を「維持保存」していくための保存容器への収納などの予防的「保護」、急速に劣化が進行している史料のマイクロ化、複製による「代替化」、そしてすでに劣化損傷した史料の「修復」、保存を考えた「利用」のあり方までが含まれる。こうした保存をめぐる問題は、これまで個別に論じられることが多かったが、総合的観点で記録史料の保存をとらえる必要がある。」としている」(地主智彦、p.202)。
「重要文化財としての行政文書は、本当に全部、どのような手段を用いても残さなければいけないのかも論点となろう」、「オリジナルの利用頻度を下げる方法としては代替物の利用を考えるべきである」、「当該資料を代表する極少量の資料を選び、これらについては特殊な環境での保存を行うことを提案する」、「少なくとも酸素のない環境で、光を遮断し、低温度とし、脱酸性処理も行い、資料に他の力がかからないようにして、オリジナルは原則閲覧にも供しないようにすれば、通常の保存寿命の10倍持たせることも可能となるであろう」、「「群としての文化財」の「利用のための保存」のために、新しいルールとシステムの確立が求められる」(稲葉、p.215-226.)。
※シンポジウムから 〔口頭での発言を活字にしたものを、木部の責任において要約した〕
「公文書の保存で一番問題になっている時代の資料をどう保存すればよいのか。当館(国立公文書館)でも具体的な回答はない。例えば、仮に紙の酸性化をとめても、紙力がすでに失われたものの強化を何万冊という単位、何百万枚の単位でやる方法はないというのが現状だろう。当館の場合だとマイクロフィルム化によってとりあえず文字記録は残す、これだけは失わないようにしようとしている。」「いったい何を残すべきかということもふくめた上でないと、大量の資料を後世にきちんと伝えてゆくことはなかなか難しいのではないか」(大賀妙子、p.352-353)。
(引用・要約文責:木部徹)