今日の工房 2015年

週替わりの工房風景をご覧ください。毎日こんな仕事をしています。

2015年07月22日(水) スリムフォルダーに指かけ穴を。開閉がよりスムーズになりました。

昨年発売しご好評を頂いているスリムフォルダーが新しくなりました。今までのスリムフォルダーは、蓋がしっかり差込口にかみ合って閉まるため、開けるときに固さを感じることがありました。これを解消するため、新たに指かけ穴を作り、片手でもスムーズに開けるようになりました。今後御注文頂くお客様には、このデザインでお届けいたします。ぜひお試しください。

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2015年07月15日(水) 国立音楽大学様のリング式卒業アルバムの保存手当て

国立音楽大学校史資料室様よりお預かりした卒業アルバム 「國立音樂大學 昭和33年3月第3回卒業」への手当て。プラスチック製のリング式アルバムで、写真が貼られている台紙は酸性度が高く、綴じ穴付近には亀裂が起きている。台紙は、めくりによる破損を防ぐためリングから取り外した。写真に対しては劣化予防処置として、一時的に剥がして台紙を脱酸性化処置した後、貼り戻し、画像表面の保護のため間紙を挟み込んだ。台紙はまとめて中性紙で包み、リングにつけたままのおもて・うら表紙の間に挟んで、保存容器に収納。外見上はリング式アルバムの形態を残しつつ、安全に資料を保管・取り扱いできるようになった。

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2015年07月08日(水) 最適なアーカイバル容器作成は正確な資料の計測から

 弊社ではアーカイバル容器の製作にあたって、ご依頼があれば弊社スタッフが出張し資料の採寸作業を承っております。書籍はもちろん複雑な形状の造形物も、自社開発の採寸道具を使用してミリ単位で正確に計測いたします。寸法はタブレットに入力し、お客様ご希望の容器の形状や、壊れやすい資料の収納方法等の特記事項も記録します。採寸データを元に保護性と利便性を熟慮し、最適なアーカイバル容器をお見積りします。「容器に入れたい資料が大量にある」「サイズの大きい立体物がある」などご自身での計測が難しい場合も、是非ご相談下さい。

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2015年07月02日(木) 保存修復学会での当社製品へのお客様の声をまとめてみました

6月27日、28日の両日、京都工芸繊維大学にて第37回文化財保存修復学会が開催されました。参加者数は1,000名程で盛況でした。当社ブースではアーカイバル容器のほか、「防カビ・殺虫ができる無酸素パックMoldenybeモルデナイベ」、「簡易ドライクリーニング・ボックス」、「汚染ガス吸着シートGasQガスキュウ」を出展しました。ご来場くださった多くの皆様から、沢山のご質問やご意見を直接伺うことができ、大変参考になりました。弊社ブースにお立ち寄りくださった皆様に心より御礼申し上げます。

 

◎ブースに立ち寄って下さったお客様の声をまとめました。

 

モルデナイベをお寺での事前調査や虫害による損傷が激しい仏像や木工品の修復処理を待つ保管中に使ってみたい。

 

美術館、博物館から作品を預かることがありほとんど桐箱に入っている。漆器もなるべく預かり中に安定に保管したくGasQに興味を持った。現在は薄葉紙に包んでいることが多いが汚染ガス対策にはならないので、シートタイプのガス吸着素材を探していた。

 

薬草類の押し花は残存する匂いも大事で、現状のままだと揮発する一方で消えていってしまうらしい。モルデナイベを試したい。

 

モルデナイベは長期に無酸素がもつのが本当にいい。使用温度条件の縛りもないのも良い。ほとんどの収蔵庫、前室は温度調整ができないし、神社仏閣はひどいところが多い。一時的な避難法としても使える。虫が出たものも含めてこれにいれてしばらくほっておけば良いと勧めている。

 

資材を提供しているディーラーだが、学芸員の方から、GasQはどうなんですか?と結構聞かれる。機能の裏付けの話を添えつつバッチリですよ、と勧めている。桐箱内での使い方が一番売れると思う。

 

文化財の刺繍を預かることもあり保管用にGasQに興味。金糸銀糸はガスの当たり方でやはり変色、劣化していく。色の移ろいを味わうことも日本の文化だが、使用前の金糸、銀糸の保管にGasQを使えばちょっと安心。

 

資料の保管環境が非常に悪く毎年壁やガラス、棚にもカビが生えてくる場所。モルデナイベに入れた資料の

経過をみているがカビは全く生えていない。

 

地方で文化財調査をやるときは所有者の家の部屋をお借りして数日間作業をやることが多い。モルデナイベとドライクリーニング・ボックスの組み合わせで使ってみたい。

 

民俗資料の殺虫にはモルデナイべはこれ以上ない商品で、ぜひ購入したい。

 

郷土品を薄葉紙で巻いてから、モルデナイベの大型タイプに入れて保管している。充分な機能で、使い勝手がとても良い。

 

 

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2015年06月24日(水) 京都での文化財保存修復学会にブース展示をします

6月27,28日の両日、京都工芸繊維大学で開催される第37回文化財保存修復学会 に出展するための準備。配布用のカタログや展示サンプルの確認をした。

 

ブースでは新商品の「スリムボックスとスリムフォルダ」をはじめとするアーカイバル容器のほか、ご好評をいただいている「防カビ・殺虫ができる無酸素パックMoldenybe®」や、「汚染ガス吸着シートGasQガスキュウ® を出品します。当日ご来場される方はぜひお立ち寄りください。

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2015年06月17日(水) 歴代延岡藩主の印章を保管するー多様な素材と形にシンク式容器とGasQ®で対応

明治大学博物館様のご依頼で印章を収納する保存箱を作成した。収納される資料は江戸時代の延岡藩主、内藤家が残した5万点に及ぶ資料のうち、歴代藩主の印章を中心とした印章群「内藤家伝来印章資料」である。

1箱に7顆から60顆の印章を収納し付属のガラス製の扉のついた木箱も同梱する保存箱。収蔵庫のラックのサイズに合わせるため、収納数の多い保存箱は重箱のように積層した。印章の素材は木や石、金属など多彩で、腐食や変色の要因となる汚染ガス対策と、移動時の振動や衝撃の保護のため従来の薄葉紙の代わりに GasQガスキュウ® を印章や木箱のサイズに合わせて断裁し、凹凸の多い印章と木箱をやさしく包んだ。

 

 

関連情報

 

スタッフのチカラ 2011年10月21日
明治大学博物館様所蔵「時田昌瑞ことわざコレクション」いろはカルタの収納事例

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2015年06月10日(水) 教科書図書館東書文庫から工房見学のお二人が。修理や保存容器制作の現場などをつぶさに。

東京書籍株式会社附設教科書図書館東書文庫の田草川様、橋口様が工房見学にいらした。同文庫は日本で最初にできた教科書専門の図書館。公開は昭和11年で、蔵書保有数は約15万冊。重要文化財に指定された貴重な資料を含む。現在弊社がお預かりしている資料の処置の様子を中心に、処置後に提出する報告書(ドキュメンテーション)だけでは伝わりにくい修理の作業工程や保存容器の設計・制作の現場を熱心に見ていかれた。

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2015年06月03日(水) インク焼け処置前のチェックのための指示薬紙を作る

バソフェナントロリンという薬剤とエタノールの混合溶液にろ紙を浸漬し乾燥させ、二価鉄指示薬紙を作製する。この指示薬紙は、没食子インクかどうかを素早く簡単にチェックするために、オランダ国立文化財研究所で開発されたもので、わずかな水分でインクのチェックが出来るため、没食子インクかどうかの有効な判別法として世界的に広く利用されている。チェックする時は、指示薬紙を水でわずかに湿らせ、調べたいインクに接触させる。もし使われているインクが二価鉄を含む没食子インクであれば、水に可溶性の二価鉄イオンが指示薬紙に移行し、淡いピンク色の呈色反応を示す。

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2015年05月27日(水) この夏の手拭いのデザインは男子組が決めました

毎年夏にお客様に配っている手拭い。夏らしい爽やかなデザインが候補に挙がり、今年は弊社の男子組に選んでもらった。ちなみに、年に2回、正月と夏の時期に製作する手拭いは「本染め」の弊社オリジナル品。プリント染めには無い柔らかく深みのある独特の風合いが魅力で、お客様にも好評です。お客様のお手元に届くのは6月末からになります。

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2015年05月20日(水) クロスや革装丁の修理にも染色した和紙を使う

修理で使う染色した和紙。一枚物や本の本文紙の破れや欠損部の補修はもちろん、洋装本の表紙のクロスや革などの装丁の修理など、さまざまな用途向けに色や厚み、質感の異なる紙を揃えている。新しく染める場合は、過去の色出しデータ(2枚目の画像)を参考にレシピを調整して、目的の色を作る。なお、この度、『シリアス染料による補修用和紙の染色』を改訂しました。最近海外からの問い合わせが寄せられるため、英訳を併記しました、

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2015年05月13日(水) 様々な梱包用粘着テープを使い分ける

商品を梱包する際に使う粘着テープは一見どれも同じように見えるが、様々な厚みや幅のものがあり用途に応じて使い分けている。段ボール梱包向きの強力な厚手テープのほかに、例えば比較的軽い物やエアキャップ用には剥がしやすい薄手のものを使う。特にエアキャップ用は、キャップを破くことなく剥がせるので、「開梱しやすくなった」とお客様にも好評である。

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2015年05月11日(月)内外ニュース&レポート編:正倉院は虫・カビや、桐箱容器からの有機酸対策をどのようにしているか 

文化財保存修復学会誌』の最新号(Vol.58, 2015)は成瀬正和「正倉院の保存環境をめぐって」を掲載している(p.41-46)。昨年1月に開催された公開シンポジウム「文化財を考える–奈良時代の美術工芸品を継承する」での著者の講演の記録。「文化財の保存環境に関わる因子には、温湿度、空気(有害物質濃度)、虫害。黴害、獣害、光、振動に加え、火災・地震等の天災、盗難等の人災などがある。ここでは、空気環境に関することを中心に、正倉院の保存環境にまつわる話題を提供したい。」(p.41 )。構成は次の通り。

 

1. はじめに

2. 正倉院の保存環境

3. 新宝庫建設の頃

4.  現在の保存科学専門職員による保存環境調査

5.  おわりに

 

このうち「4.  現在の保存科学専門職員による保存環境調査」では、空気環境調査、害虫・カビ調査と対策、点検と清掃、桐製の容器からの有機酸対策、動物被害対策について簡潔に紹介している。

 

空気環境調査

イオンクロマトグラフ装置を使い、アルカリろ過紙に捕集、イオウ酸化物と窒素酸化物を測定。金属板腐食試料(神戸大学により調整された三種類の板)を書庫内に配置し約二ヶ月に一度、反射率を測定し評価している。

 

害虫・カビ調査と対策

平成11年に昆虫トラップでヒメマルカツオブシムシ、ヒメカツオブシムシが捕獲された。これを踏まえて庫内の隠れた場所に作用させるためにシフェノトリン炭酸ガス製剤燻蒸作業を行うこともある。ヒメマルカツオブシムシの被害が疑われるフェルト類などの宝物についてはガスバリア内に密閉し脱酸素などによる個別の処置を行っている。温湿度は相対湿度60%、温度5〜28%を目指しているがカビの発生は免れないので、毎年発生が見られる宝物を記録し、エタノールによる拭き取りや防カビ剤を添えての密封処置などを行っている。

 

点検と清掃

点検は毎年10月・11月の開封期間中に保存課職員全員により宝物一点ずつ害虫・カビの有無を確認し問題があれば前述の処置を行い、職員全員が宝物の健康状態の情報を共有している。

 

桐製の容器からの有機酸対策

昭和40年代頃までの桐製容器には有機酸の発生はほとんど認められないが、最近製作したものについては有機酸濃度が高いものが少なくない。マルチガス吸着シートを容器に内装して濃度の低減する処置を試みている。

 

動物被害

1270年経った正倉ではクマバチが営巣し素木に孔が600余りあるが2年に一つの割合になり特に対策を講じる必要のない許容範囲と判断した。平成20年にアライグマによる傷痕が認められたが、捕獲檻設置や敷地を囲む柵の足周りを塞ぐなどの対策を講じている。

 

「文化財は与えられた条件下で、そばにいる人間が責任をもって最大限ケアを行うというのが、古今不変の保存上の基本ではないかと考えている」(p.46)

 

 

 

 

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2015年04月30日(木) 鉄線で綴じられた(wire sewing)本の修理

ワイヤー・ソーイング(wire sewing) で綴じられた資料の修理。この度処置した資料は昭和女子大学様の所蔵するトルストイ著「戦争と平和」。本体を綴じている金属が腐食し、綴じはバラバラに外れている。金属を除去し、傷んだ本紙の背を和紙で補修した後、麻糸で全体を綴じ直す処理を行う。綴じの支持体にはテープ状に切った不活性不織布を使用した。それぞれのテープの幅をオリジナルの綴じ穴の間隔に合わせてカットできるので、元の綴じ穴を活かせるし、十分な強度があるが綿や麻のテープよりも薄いため、背表紙やヒンジ部(表紙との接合部)に段差が出来にくく、すっきりと仕上げることができる。

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2015年04月24日(金)内外ニュース&レポート編 英国図書館での伝統的なイスラム式手漉き紙のワークショップ

英国図書館(BL)のコレクション・ケア部門のブログは、このほど同図書館で開催された4日間の伝統的なイスラム式手漉き紙ワークショップの様子を伝えている。中国で発明された製紙技術は8世紀にイスラム圏にまず伝わり、その後に西洋へという歴史があるが、今回のワークショップは手漉き紙研究の第一人者 ティモシー・バレット(Timothy Barret)らを講師に迎えたコンサベーションの専門家向けのもので、原料や道具などが昔のそれに倣っておこなわれている。

 

主な原料は亜麻と大麻。漉き簀は竹ひごを馬の毛で編んだもの。漉き枠の左右は簀から湿ったシートを外しやすいように、はめ込み式で取り外しができる。束ねてプレスし水切りと乾燥が行われたシートは滲み止めのサイジングが施され、再び乾燥、その後にフラットニングと、表面の平滑化のためのメノウ石による磨きが行われる。

 

なお同ブログでは、伝統的なイスラム式の手漉き紙の技術がいまだ色濃く残っているのはインドであるとして、その動画を紹介している(7:15ごろから)。 http://youtu.be/9HdUXD-RhcI

 

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2015年04月22日(水) 人が乗っても潰れない組み立て式ガラス乾板保存箱

新しい仕様の組立式ガラス乾板用保存箱の耐荷重テスト。従来の完成型の製品に比べ40%以上価格をダウンし、使用ボードの厚みも約半分になっていますが、弊社男性スタッフが乗っても変形することなく形状を維持できる堅牢な構造になっています。棚やキャビネット内で箱を積み重ねて保管しても問題の無い保護性があり、容器サイズもコンパクトなため省スペースで収納ができます。

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2015年04月15日(水) 日本航空史を語るグライダー部品用の大型保存箱を東京文化財研究所に

東京文化財研究所 保存修復科学センター 近代文化遺産研究室様からのご依頼を受け大型保存箱を作成した。収納される資料は、同研究所と財団法人日本航空協会様との共同研究「航空資料保存の研究」のため、研究所に収蔵されているグライダーの部品類(水平尾翼、主翼の一部、方向蛇)。日本の航空史を物語る貴重な資料として現在調査・保存処置などを実施している。

 

全長が3メートルを超える長尺の箱は歪みが生じないよう堅牢な作りに。また巨大な湾曲形状の翼をしっかり支えられるように弾力のある綿布団を作成し土台に組み込んだ。絵画や木製彫刻、陶芸品などの美術工芸品の収納・保管に使う綿布団は、外部からの衝撃や振動を和らげるだけでなく、立体面のカーブ、凹凸など、ものの形状に合わせ包み込むように支えるため、箱内部で文化財を安定させる。コットンライクな柔軟性とクッション性を持ち、部分的に入れるだけでも充分に固定できる。綿と表面の不織布は不活性の100%ポリエステル製。緩衝材としての機能を維持しつつ、文化財の長期保存に適した素材を使用している。

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2015年04月08日(水) 最適な姿勢で修理作業を行うためのカウンターチェア

修理の作業は立ったり座ったり、前かがみになったりと様々な体勢で行う。その体勢に最適な高さや位置を保つために、弊社では専用のカウンターチェアを導入している。高さが自由に変えられ、座面の回転も容易なので動作がスムーズになり、作業の効率化に繋がっている。

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2015年04月01日(水) 2双の屏風をコンパクトに収納。東洋大学井上円了記念博物館様向け保存容器の事例

東洋大学井上円了記念博物館は、東洋大学内に設置され、大学の歴史資料を保存展示しており、学祖井上円了の建学の精神を学内外に広める役割を担っている。今回、質も損傷度合いも悪い木箱に収納されている屏風用に、アーカイバル容器の製作依頼があった。屏風サイズに合わせるだけでなく、新収蔵庫のデッドスペースを有効活用するという命題もあった。

これまでは、屏風1隻につき1箱を作製していたが、2双まとめて収納できるようにした。資料の取り出し及び現状確認が容易にできるよう、蓋は前面パネル式とし完全に取り外せるようにした。また、地震などの振動で勝手に開くことがないよう、マジックテープでの固定式とした。上げ底にもすることで、地面から吹き上げられた埃の侵入を大幅に抑えることができる。

元から備え付けられた什器のように、周りとの違和感もなく、資料にも隙間にもピッタリの保存容器ができた。元の木製の箱が排除されたことで環境も整備され、また、スペースも生まれたことでよりよい収蔵庫環境となった。

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2015年03月30日(月) 内外ニュース&レポート編:視覚障害者用の本(1840年刊)を修理する

凹凸のエンボス加工が施された視覚障害者向けの本(braille-embossed book)の修理は、平滑な紙面に印刷された普通の本とは異なる修理法が必要になる。その本が古く貴重な資料の場合の修理のポイントは、利用や経時によって劣化したエンボスを、再び人がなぞって読めるようにする「安定化と強化」処置だ。その事例がIADA(Internationale Arbeitsgemeinschaft der Archiv-, Bibliotheks- und Graphik-Restauratoren)の機関紙 Journal of PaperConservation  (2014, 15−4)にHAND-READING:The Conservation of Braille-Embossed Books として掲載されている。

 

処置対象は1840年に発行された視覚障害を持つ学生向けの数学の教本  Elements d’arithmetique。いわゆる「点」字ではなく、エンボス形状は普通の活字の凸型である。(ルイ・ブライユがアルファベット点字を開発したのは1842年、これが普及したのは1850年代から)。「安定化と強化」のために次の材料が試された。デンプン糊と楮和紙、ポリメチルヒドロキシセルロース(Tylose® MH 300 P)、エチルアクリレート+メチルメタアクリレートのコポリマー(Plextol B500©)、アクリル樹脂(Paraloid B72©)。これらを塗布含浸させたサンプル紙(点状のエンボス)を、人の指先の「なぞる」のを模した装置にかけて、その後に耐摩耗性を測った。この結果、Plextolは好結果だったが、水とエタノールに溶解させたTyloseはさらに良好な耐久性を示した。しかしその他の材料はドット状のエンボスの先や形状に影響が出た。Tyloseはまた可逆性にも優れることも解った。

 

 

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2015年03月27日(金) 無酸素パックの大型タイプを開発—-段ボール4箱をそのままパックして安全に殺虫

「無酸素パック Moldenybeモルデナイベ®」の大型タイプを開発した。図書や文書向けの従来サイズ(40L:ほぼ段ボール箱ひとつの容積)に比べ容積は約10倍(450L)。茶段ボール製文書箱や中性文書保存箱を積み重ねて密封できるので、資料の移送時や受け入れ時に箱ごとまとめて、また民具資料、博物資料、遺物等、大型の文化財も、容積内ならば簡単に無酸素殺虫処理ができる。袋の中には脱酸素剤を入れるだけで、他の化学薬剤を使用せず、なおかつ材質への影響がほとんどない方法で、資料にも人にも安全である。

 

文化財の害虫12種類(カツオブシムシ、オビカツオブシムシ。ヒラタコクヌストモドキ、ヒメマダラカツオブシムシ、キクイムシ、タバコシバンムシ、マダラシミ、アメリカカンザイシロアリ、コイカ、チャオビゴキブリ、チャバネゴキブリ、ワモンゴキブリ)の成虫、幼虫/若虫、卵に対して、どのぐらいの期間、無酸素下で生存し、その後に致死するかはタバコシバンムシが「指標」になる。

 

成虫、幼虫/若虫、卵のいずれでも無酸素下でタバコシバンムシがもっとも長く生存する。成虫は約120 時間、幼虫/若虫は約144時間、卵は約192時間。無酸素下でこの時間が経過すれば致死する。また、タバコシバンムシ以外の害虫の成虫、幼虫/若虫、卵は、これらの時間以下で致死する。したがって、封印して無酸素環境が形成されたと確認されてから10日間放置すれば、これらの害虫は駆除できることになる。

 

参考文献   Shin Mekawa et al.  The Use of Oxygen-Free Environments in the Control of Museum Insectm Pests, Getty Publications (2003)

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