今日の工房 2017年 12月

週替わりの工房風景をご覧ください。毎日こんな仕事をしています。

2017年12月20日(水)小ぶりの真鍮製の重石は、さまざまな作業で使い重宝しています。

手元での修理作業に使う小さめの重石。直径50㎜、重さ約330g。真鍮の円柱を20㎜の厚さに輪切り加工してもらい、滑り止めと資料へのあたりを和らげるために、表面にポリエチレン不織布のタイベックを貼ったもの。片手でも扱いやすく、資料を抑える適度な重量がある。

 

立体的な資料を処置する時の支えや、高さの調整、糸の結び目をつぶしたり目打ちなどを叩く道具としても使う。多用途に使えるこの重石、工房には100個近くもあり、各々の作業に使用されています。

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2017年12月13日(水)強い衝撃から資料を守るポリエチレンフォームAZOTE®を組み込んだ保存箱

物理的な衝撃に弱い資料の保管には緩衝材付きの保存箱をお勧めしている。緩衝材にはポリエステル製の綿布団以外に、腐食ガスが発生しない、ポリエチレン樹脂を特殊発泡させたフォーム材AZOTE®(プラスタゾート)を採用している。

 

一般的なフォーム材の製造には化学発泡剤が使われており 、発泡体に残留したホルムアルデヒドやアンモニア系のガスが接触した資料に腐食や染みを起こす原因となることがある。AZOTE® は化学発泡剤を用いない超臨界窒素ガス発泡方式で製造された、有害ガスを放出する危険がないクリーンなフォーム材だ。また純粋なポリエチレンが原料なので対候性や耐薬品性も高く、一つ一つの気泡が均一なため物理的強度が高く耐水性も優れている。 AZOTE® はヨーロッパ諸国では何十年もの間、多くの博物館・美術館などで保存用クッション材として採用されており、精密機器や軍需品など様々な分野での輸送にも使われている。 PAT(ISO18916:2007 写真保存用包材のための写真活性度試験)もパスしており、直接資料に長期間接しても問題のないことが確認済みだ。

 

AZOTE® を使用した保存箱の事例をいくつか紹介する。

 

①ガラス乾板用のシンク付き保存箱

割れや画像の剥離が起きている乾板は縦置きでの保管ができないため、乾板サイズに合わせたシンクに平置きして箱に収納する。 AZOTE®で作る乾板用シンクはクッション性があり、たわまない強度も保持している。

 

②小物をまとめて収納するための仕切り付きの保存箱

陶器製の香合の身と蓋をそれぞれ落とし込む部屋をAZOTE® で作った。加工性が高く、資料がぴったりと収まる設計で作ることができる。

 

③複雑な形状の陶芸作品用の保存箱

立体的な造形作品などは「薄葉紙 Qlumin くるみん」で包んでから、AZOTE® を内側に貼り込んだ保存箱へ収納すると、より安全に保管ができる。

 

④額装作品用にコーナーを取り付けた保存箱

額などを四隅で固定するコーナーにAZOTE®を使用した。接触面の摩擦が少ないので、額に対してタイトに取り付けても額を傷つけない。蓋の内側の額に接触する箇所にAZOTE®を取り付けると、描画面に接触させずに額をしっかりと固定ができる。

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2017年12月7日(木) 国立女性教育会館主催の保存修復研修実技コース後のアンケートで、さまざまなご感想、ご意見をいただきました。

11月20日(月)から11月22日(水)に開催された国立女性教育会館女性アーカイブセンターが主催する平成29年度アーカイブ保存修復研修のうち、21日(火)と22日(水)の実技コースとオプション(弊社工房見学)を、昨年度に続き担当しました。

 

実習内容は昨年度と同様で、「ソフトカバー(小冊子)などの図書資料への簡易処置」、「ハードカバー(くるみ製本)などの図書資料への簡易処置」を行いました。昨年度は資料管理を業務としている参加者が多く、日常的に手を動かして処置をしているわけではないが、資料の構造や適切な処置の方法を知ることで、今後の資料の保存や管理に役立てたいと考えている方々が多かったように感じましたが、今回の参加者は、自館で修理業務に携わっている方や、修理技術を身に着けたいという目的で参加された方も多く、実習の最後に行った質疑応答では、昨年度に比べ技術的な質問を多く頂きました。

 

また、研修後に実施された「平成29年度アーカイブ保存修復研修(実技コース)アンケートの集計結果」によると、研修内容についての満足度では、参加者26名のうち、「非常に満足した」が20名、「概ね満足した」が5名、「少し物足りなかった」が1名と、大半の方に満足していただけました。

 

 

各設問に対して自由に記述するアンケートでは、以下のような回答をいただきました(抜粋して掲載)。

 

「どのような点に興味を持ち参加しましたか?」

▶︎補修の研修を受けたことがなく、職場で所蔵資料の劣化を見るにつけ、何とか自分でもできる技術を学ばせていただきたいと思いました。

▶︎プロの講師の方の指導を受けられる点、「自館でもできる処置」という実用性の高さとハードルの低さ。

▶︎日頃は委託スタッフさんにお願いしている針抜き和綴じの作業やハードカバーの簡易製本の修理など、製本担当なので、しくみとして知っていた方が修理の依頼も出しやすいので希望しました。

 

「研修の内容はいかがでしたか。」「実技コースの満足度は?」

▶︎ ていねいにわかりやすく進めてくれました。実際にやってみるので、話を聞いただけではうろ覚えになってしまうことを確認しながら身につけることができました。

▶︎ 作業のスピードも丁寧でたくさん質問をする機会もあり有意義でした。

▶︎ 通常業務にすぐ活かせる内容でとても役に立つと思います。撮影OKなのもあとで復習する際の助けになるのでたいへん有り難かったです。

▶︎ 各自の館で出来る修復の基本がわかって良かったと思います。一つ一つの作業や手順も難しいものではなく、初心者でも知っていればできるようなものなので現場で役立てられると思います。専門家に相談した方がよいのか判断するのにも参考になる内容で良かったです。

▶︎材料や道具を用意していただけるのが良いと思いました。自分で準備するとどのようなものがよいかわからないため、身近にあって使いにくいもので間に合わせてしまいがちなので何から揃えればよいのかがわかって参考になりました。

▶︎ 厚紙・伸縮包帯・市販のりなど手近にあるものでも一応の修理ができるというアイデアを教えてくださったのは、実に有意義でした。

 

「今後、どのような内容の研修を希望しますか?」

▶︎ 背の壊れたハードカバーの修理
▶︎ 水濡れ資料の処置

▶︎ 切れたり破れた頁の補修

▶︎ 無線綴じや和綴じの本の補修

▶︎ 防虫、防カビ、カビからの修復や手当など

▶︎ 資料クリーニング等の実技研修

▶︎ 打ちなど一枚モノで紙が劣化している資料の修復や手当の方法の実習

▶︎ レベル別(初級・中級・上級のような感じ)でより様々な保存修復処置。

 

ご参加いただいた皆さま、誠にありがとうございました。いただいたご意見、ご感想は、今後弊社で行う実習等に取り入れさせていただきます。

 

なお、実習で使用した配布資料は国立女性教育会館リポジトリからご覧になれます。

 ・ソフトカバー(小冊子)などの図書資料への簡易処置

・ハードカバー(くるみ製本)などの図書資料への簡易処置

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