今日の工房 2019年

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2019年8月7日(水)【文献紹介】「紙と水—コンサーバターのための手引き」(英文)改訂版が出版

紙と水–コンサーバターのための手引き」

Paper and Water – A Guide for Conservators, 2nd and revised edition. by Gerhard Banik and Irene Brückle.  Anton Siegl Fachbuchhandlung GmbH, Munich, 2018, ISBN: 978-3-935643-91-7, 110,00 € , 動画DVD 付属

 

この本は紙を基材としたあらゆる文化財の保存に関わるコンサーバター(保存修復専門家)のための手引きである。初版は2011年に刊行、昨年(2018年)新たに改訂・ 出版された。保存科学者、民間企業の技術者、保存修復に携わるコンサーバター等、欧米の第一人者が結集し、紙製の文化財の保存実務に必須の「紙と水」の知識を、最新の研究成果の裏付けとともに網羅的に述べている。初版刊行以来、世界中のコンサーバターに高い評価を持って迎えられた。2013年にはアメリカ文化財保存修復学会(AIC)の出版文化賞を受賞している。

 

紙と水は不可分の関係を持つ。製紙は水が無ければできない。そして書籍、文書等の紙媒体の記録資料や、紙を素材とした美術作品の保存修復にも水は不可欠である。丸まった紙資料を平らにする、汚れを洗い流す、欠損部を水溶性の接着剤で補修する、酸性の紙の中にアルカリ性の水溶液を行き渡らせ、脱酸性化しアルカリ・ バッファを付与する—。修理の際に水が関連しない工程は無いと言って良く、適切な処置を行うには、紙と水、そして両者の相互作用を理解しなければならない。

 

また、図書や文書等の紙媒体記録資料を保存し末永く利用に供する責任のある図書館員やアーキビスト、紙基材の絵画や写真、立体的な芸術作品を集め保管し、展示等の利用に供する美術館のキュレーターにとっても、紙と水の知識は不可欠である。例えば保管時の適切な湿度やその変動と、それがもたらす劣化は、紙と水との相互作用に起因するといって過言ではないから。

 

なお初版(2011年)との大幅な変更はないが、新たに「9章.   紙の特性評価」が加わった。

 

章立ては以下の通り。

 

1. 関連する化学
2. 水の物性
3. 水の電離–酸と塩基
4. 湿紙と乾紙の構造と物性
5. パルプ化工程の紙と水の相互作用への影響
6. 紙と水の相互作用への滲みどめの影響
7. 製紙時の乾燥
8. 紙の老化と水の影響
9. 紙の特性評価
10. 紙への水の導入
11. 紙からの変色物の除去
12. コンサベーション時の洗浄
13. 水性脱酸性化処置
14. コンサベーション時の乾燥
15. 一連の作業の中の水性処置

 

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2019年7月31日(水)大きい資料や、重たい資料には、「底板補強」でより堅牢な箱の仕様に。

一人では持てないほどの大きな資料や、重たい資料を保存箱に入れたい場合、底板を底面に貼り付け、二重にして補強する、「底板補強」という仕様があります。 弊社の保存箱の中では、額装絵画や大型楽器、民具など、重量物を収納することが多い台差し箱や被せ箱にあわせてご提案させていただくことが多いです。

 

大きな保存箱を取り扱う際には、底面にどうしても「ねじれ」や「たわみ」が生じてしまいますが、底面を二重に補強することで、剛性が高くなり、ゆがみによる資料への負荷を軽減させ、資料をより安定した状態で持ち運ぶことができます。 また、特に重い資料は底面に大きな力が加わるため、剛性が高く、重みでつぶれることもない、ポリプロピレン製のプラスチック段ボールを底板に使用する場合もございます。

 

「底板補強」の仕様は、資料の大きさや材質、重さや量をお伺いして、ご提案させていただきます。

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2019年7月24日(水)新しい手ぬぐいが仕上がりました。

今夏もお客様にお届けする手拭いが仕上がりました。柄はこれまでと少し趣向を変えて弊社のロゴのアレンジです。包む、敷く、かけるなど使い方は様々ですが、例えば日焼け防止&冷房対策用のくびまきにいかがでしょうか?

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2019年7月18日(木)汚れた紙資料の水性処置では、洗浄の前にまず「濡らす」ことがなぜ重要なのか?

紙資料の修理工程のひとつに、紙の汚れを除去するための洗浄処置があります。洗浄は、弱アルカリ性に調整した洗浄液に資料を浸したり、スプレーで噴霧して濡らしたりして、紙に付着している汚れや、経年により内部で生成された着色汚れ(発色団 chromophore)を除去し、可溶性の酸を洗い出すために行う処置です。見た目の仕上がりの良さだけでなく、紙の保存性を向上させる役割があることから、水性処置の第一段階として不可欠な工程を担っています。洗浄後は、やぶれの補修や、水性脱酸性化処置、抗酸化処置など、資料の劣化要因によってそれぞれの工程を選択しますが、特に酸化・酸性化が進行した紙への洗浄+水性脱酸性化処置は、紙の劣化に関する根本的な問題への対処方法です。そしてこれらの処置は、紙表面だけでなく繊維の奥深くまで水溶液が行き渡ることで、より良い効果が得られます。
 

 

紙の内部に水を行き渡らせるには、紙を均一に濡らせば良いのですが、文字情報が載っている紙資料の場合、サイズ剤(にじみ止め)が効いていて水分が浸透しにくいため水で濡らすのは意外と難しいことです。まずは、溶液が隅々まで行き渡るように「濡らし」という事前の準備を行います。
 

 

資料の基材(紙)とイメージ材料(インクなどの色材)が、水にもアルコールにも耐えられることをスポット・テストで確認したら、水とアルコール(エタノール、イソプロピルアルコールなど)の混合溶液を使って紙を濡らします。アルコールを加えて水の表面張力を下げることで、紙を素早く濡らし繊維の奥深くまで水分を運ぶことができます。紙が充分に濡れ色になったら紙を引き上げ、洗浄液に浸します。
 

 

水は表面張力が高い(※1)液体なので、時間をかけて無理に湿らせようとすると、資料に物理的な負担をかけることにもなります。水が紙に浸透するとき繊維を膨潤させる作用が働くため、繊維の構造的な変化と、紙に載っているイメージ材料の亀裂など、影響を及ぼす可能性があります。こうした変化を伴うからこそ素早く濡らすということも重要です。
 

 

※1 水の表面張力は72.75mN/m。対してエタノールは22.55mN/mで、ちなみに水銀は476.00mN/m。紙の修理に使われる溶液の中でも水の表面張力は高い方。

 

関連情報

 

参考文献
 
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2019年7月10日(水)虫菌害・保存対策研修会の展示ブースで弊社製品のIPMへの効率的な導入などを事例と共に紹介しました。

公益財団法人文化財虫菌害研究所主催による「第41回文化財の虫菌害・保存対策研修会」が7月4日(木)・5日(金)の2日間、国立オリンピック記念青少年総合センターにて開催されました。今年度は、文化財分野における虫菌害に関する基礎知識のほか、展示収蔵施設における虫・カビの調査と結果の解析、各施設における虫菌害防除の取り組みの様子などをテーマとし、計8つの講義が行われました。研修会には「文化財IPMコーディネーター」の有資格者や資格更新者、取得希望者、文化財を保存管理する博物館・美術館、図書館等の担当者など、文化財に関する生物被害防除業務に携わる方々を中心に200名を超える参加がありました。

 

機器展示の弊社ブースではアーカイバル容器空気清浄機付「ドライクリーニング・ボックス」無酸素パック「Moldenybe®モルデナイベ」汚染ガス吸着シート「GasQ®ガスキュウ」新薄葉紙「Qlumin™くるみん」を展示しました。ご来場された受講者の方々からは、弊社製品に関するご質問のほか、自館で実施しているIPMを中心とした生物被害防除にどの様に組み込めるか、また、今後具体的な対策を講じる過程でIPMを効果的にかつ持続的に行うにはどうしたらよいかといったご相談もいただき、 事例を交えながら実践的な技術や製品の適切な使い方をご紹介しました。お立ち寄りいただいた皆様に心より御礼申し上げます。

 

【関連情報】

▶︎『今日の工房』2019年6月19日 共立女子大学図書館様の貴重書1900点のカビ被害のクリーニングから保存容器収納まで

▶︎『今日の工房』2014年09月26日 カビが発生した資料のクリーニング

▶︎『スタッフの力』2015年12月2日 資料に付着した汚れやカビのドライ・クリーニング

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2019年7月3日(水)11月まで全国の5ヶ所での学会、研修会、展示会に出展します。

先月22、23日に開催された文化財保存修復学会第41回大会では、弊社ブースへお越しいただき、誠にありがとうございました。今年度は、11月までに全国5カ所でのブース出展を予定しております。それぞれの大会、集会、研修会での参加者の方々の関心に沿った展示ができるよう、準備を整えているところです。出展のたびに、新しい貴重なご意見をいただくこと、意見交換ができること、大変ありがたく思っております。現在予定している出展は、以下の通りです。会場へお越しの際は、ぜひ弊社ブースへお寄りください。皆様にお目にかかれることを、楽しみにしております。

 

▶︎第41回文化財の虫菌害・保存対策研修会
2019年7月4日(木)〜5日(金)
国立オリンピック記念青少年総合センター カルチャー棟 小ホール(東京都渋谷区)

 

 

▶︎第8回全国歴史民俗系博物館協議会  令和元年度年次集会

2019年7月11日(木)〜12日(金)
北海道博物館(北海道札幌市)

 

▶︎第33回日本看護歴史学会学術集会
2019年8月31(土)〜9月1日(日)
日本赤十字看護大学(東京都渋谷区)

 

▶︎第25回国際博物館会議京都大会 ICOM 京都 2019
2019年9月1(日)〜7日(土)
国立京都国際会館(京都府京都市左京区)

 

▶︎第21回図書館総合展
2019年11月12日(火)〜14日(木)
パシフィコ横浜(神奈川県横浜市)

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2019年6月26日(水)第41回文化財保存修復学会に出店し、お客様の率直なご意見やご要望を聞くことができました。

6月22日(土)、23日(日)の2日間、帝京大学八王子キャンパスにて第41回文化財保存修復学会が開催され、当社もブース出展いたしました。ご好評をいただいている「新薄葉紙Qlumin™くるみん」、「防カビ・殺虫ができる無酸素パックMoldenybe®モルデナイベ」、「汚染ガス吸着シートGasQ®ガスキュウ」、「ドライクリーニング・ボックス」については今年も多くの関心をお寄せいただき、海外からのお問い合わせもいただきました。両日ともあいにくの雨模様でしたが、お運びくださいました皆様には心より御礼申し上げます。

 

各製品に対してのお客様からのご意見やご質問を以下にまとめました。

 

▶︎「ドライクリーニング・ボックス」
・滅菌機能は付けられないか。
・紙資料だけでなく、博物資料に使ってみたい。
・定型より大きなものが欲しい。
・プルーフタイプの本体だけ購入できないか。
※定型外の特注サイズ、また空気清浄機を含まない本体だけのご購入につきましては対応できますので、お問い合わせください。

 

▶︎「モルデナイベ」
・ガスバリア袋は再利用は可能か。
・ガスバリア袋を開封しても脱酸素剤は引き続き使えるか。
※ガスバリア袋は、破れたり穴が開いたりしない限りは再利用可能です。使用済みの脱酸素材は有効性が失われていることがありますので再使用をお控えください。

 

▶︎「くるみん・GasQ」
・くるみんは表面が滑らかでカビが生えにくいので、漆器の保護用に関心がある。
・ガス吸着の限界やお勧めの交換時期があるのか。
※ご使用状況によって取り換え時期が異なるため、頃合いを見てインジケーターで測定していただくか、定期点検時などに交換していただいております。

 

▶︎「アーカイバル容器」

・品質はもとより木箱よりも軽く取り回しがいい点でも中性紙箱は重宝している。

・写真資料の整理用に特殊サイズに対応する包材と箱に関心がある。

 

 

皆様から頂いた貴重なご意見、ご要望は製品の改良と品質の向上に役立ててまいります。今後とも、何卒よろしくお願い申し上げます。

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2019年6月19日(水)共立女子大学図書館様の貴重書1900点のカビ被害のクリーニングから保存容器収納まで。

共立女子大学図書館様の所蔵する貴重書に対して、資料の一部にカビ被害が発見されたことを機に、資料と書架の一斉クリーニングを行い保存容器を導入して再配架しました。

 

貴重書室の資料は洋書・和書約1900点。まず資料全点を無酸素パック「モルデナイベ」にパッキングしてカビ残滓等の飛散を防止した状態で別室に運び出し、そのまま無酸素状態を3週間以上維持させて殺虫とカビ抑制処置を行った。経過後は開封し、ブラシを装着したHEPAフィルター付き掃除機で資料表面や小口に堆積した塵芥やカビ残滓を吸引した後、消毒用エタノールをしみ込ませたクリーニングクロスでふき取ってクリーニングを行った。

 

空になった書架は清掃し、「棚はめ込み箱」をはめ込んで、クリーニングが済んだ資料を再配架した。和書の布帙は、破損やカビ跡が見られるものが多かったため「タトウ式保存箱」に入れ替えた。重量がある大型資料は一点ずつ「タトウ式保存箱」「組み立て式シェルボックス」に収納することで、安定して配架、取り扱いできるようになった。

 

一連の工程のうち、無酸素パック「モルデナイベ」へのパッキング作業は、共立女子大学図書館スタッフの方々により行われました。「モルデナイベ」はスタッフ様自らが館内でのご使用可能です。ぜひご活用ください。

 

 

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スタッフの力 資料に付着した汚れやカビのドライ・クリーニング

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2019年6月12日(水)ロール・エンキャプシュレーションのサンプルを作る。

ロール・エンキャプシュレーションとは、一辺だけを溶着した2枚のポリエステルフィルムの間に、ポスターや図面などの比較的大きなサイズの紙資料を挟み、フィルムごと巻いた状態で保管する方法です。

 

資料をむき出しの状態で丸めて保管していると、周辺部に折れや破れが起こりやすくなります。ロール・エンキャプシュレーション処置により、そのような物理的な損傷からの保護に加え、A1サイズを越えるような大きな資料でも省スペースで収納することができます。

 

工房では、経年による変化、特に、長期間保管した後にロールを開いた際の巻癖の強弱を確認するために、挟み込む資料のサイズや厚み、紙質等、あらゆる場合を想定したサンプルを作成して実際の処置の参考にしています。例えば、直径の大きさの異なる筒にサンプル資料を入れ、直径の大小により、元に戻した時の巻癖の違いがどの程度、資料に影響するかなどを検証しています。

 

関連情報
『今日の工房』2018年2月21日(水)フィルム・エンキャプシュレーションの現在(1)

『今日の工房』2018年2月28日(水)フィルム・エンキャプシュレーションの現在(2)

『今日の工房』2018年3月08日(木)フィルム・エンキャプシュレーションの現在(3)

 

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2019年6月5日(水)放送業務用映像記録ディスクを持ち運びできる、窓付き保管ケース

某放送局様からのご依頼で、映像制作の現場で広く使用されているXDCAMファイル記録用光ディスクの保管ケースを製作した。

 

保管ケースの設計に関してお客様からの4点のリクエストを頂戴した。

 

①ディスクのタイトルラベルが覗ける窓が欲しい。
②局内等で安全に持ち運びできるよう持ち手が欲しい。
③外部への持ち出しも想定し、汚れや少々の水濡れに耐えるようにして欲しい。
④収録内容のデータをプリントアウトした紙が収納できるホルダーを付けて欲しい。

 

ケースの基本形状は、蓋の開閉が容易に行えて且つ持ち運びの際に不用意に開かぬよう、ポリアセタール製留め具付きで蓋と身がつながっている箱にした。覗き窓にはポリエステル製のフィルムを使用し、天面にはポリエチレン製の提げ手を取り付けた。ケース表面には不活性フィルムをコートするプルーフ加工を施し、撥水性と汚れが拭き取れる防汚性を持たせた。収納するディスクに付随するカードを差し込めるホルダーを、ケースの外面2か所に取り付けた。

 

弊社で製作する各種アーカイバル容器は、ご要望に合わせて細かい設計変更が可能です。是非ご相談ください。

 

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・今日の工房 「2016年9月2日(金)大容量磁気媒体 LTO用の専用保存容器を開発」

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2019年5月29日(水)夏休み明けの書庫にカビを発生させないために今、できること

昨年は猛暑が続いたこともあってか、特に夏休み明けの8、9月、さらに10月になってからも、書庫の資料にカビが生えてしまったので何とかしたい、という問い合わせをたくさんいただきました。ここ数日の5月とは思えない猛暑を体感すると、今年の夏も昨年並みになりそうで、カビ被害が増えるのではないかと心配しております。

 

昨年のカビ発生要因として一番多かったのは空調管理の不備によるものです。

 

・メンテナンスを怠り、空調が故障していた。
・冬の間、除湿器を停止し、そのまま春夏もつけ忘れてしまっていた。

 

など、特に閉架書庫などで人の出入りが少なく、気づいた時にはカビが発生していた、といことが多かったようです。

 

カビ胞子は空気中どこにでも存在するもので、カビが好む環境が整えばすぐに活性化したカビとなります。上記のような書庫の場合は、空気中に浮遊しているカビ胞子が資料表面の塵や埃を温床とし、空調の停止により湿度があがり、カビが活性化したということです。

 

これからの季節に備え、今の時期に書庫の空調の確認、資料のクリーニングをお勧めいたします。

 

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今日の工房 2014年9月16日(金) カビが発生した資料のクリーニング

スタッフのチカラ 「資料に付着した汚れやカビのドライ・クリーニング」

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2019年5月22日(水)アーカイバル容器の折り筋に骨ヘラでひと手間加えると、仕上がりがいちだんときれいになります。

弊社ではさまざまな形状や用途の保存箱を製作していますが、どの箱も弱アルカリ性のアーカイバルボードを折り込んだり貼り合わせて箱の形にしています。特に折り部分の加工は箱の成形にとって重要な部分で、そのひとつひとつが仕上がりに関わってきます。

 

この折り部分の加工で活躍するのが骨ヘラです。骨ヘラはボードや紙に筋を入れたり、折ったり、角をおさえたり、ほとんど手のように使う一番身近な道具です。

 

ボードの折り込み部分には機械で押圧した罫線や切込を入れますが、保存箱の素材として使われるアーカイバルボードは普通の段ボールをはるかに上回る硬さと強度をもつことから、そのままボードを折り込むと折線に沿って重なる紙同士の厚みで「反発」が生じます。この反発を解消せずに組み立てた箱は折り込み箇所が膨らみ、隙間や歪み、サイズが合わないなどといった不具合の原因になることがあります。

 

そこで、骨ヘラを使い、折線がV字型になるような筋をさらに入れて、ボードの反発を相殺し抵抗なくきれいにボードを折り込めるよう正確な折り込みラインを入れます。

 

また、完成した箱の角をヘラでひと撫でするだけでフォルムが整うので、見栄えの良いきっちりとした箱に仕上げる決め手として大変重宝しています。

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2019年5月15日(水)NPOゲーム保存協会様からのご依頼でフロッピーディスクを長期保管するための専用容器を作成した。

NPOゲーム保存協会様からのご依頼でフロッピーディスクを長期保管するための専用容器を作成した。

 

ゲーム保存協会では、旧世代のデジタルゲームを扱う中で、フロッピーディスクやカセットテープなどのメディアを数多く所蔵しており、なかでも80年代のゲーム文化黄金期を伝える資料的意義の高い5.25インチフロッピーディスクと3.5インチフロッピーディスクの現物保管に注力している。併せてゲーム・デジタル・アーカイブとデータベース構築をすすめており文化財として継承に耐えうる適切な形での資料の保存に力を尽くしている。

 

フロッピーディスクには8インチ、5.25インチ、3.5インチなど様々な種類があり、これら磁気ディスクは湿気やホコリなどの汚れ、汚染ガス等の影響を受けやすい非常にデリケートなメディアだが、特にカビによる劣化に弱く、湿気の多い日本では保管に特別な注意が必要な資料である。

 

保存容器は酢酸他のVOCを吸着する汚染ガス吸着シートGasQ®を組み込んだ新きりなみ仕様。ガス吸着機能とともに、容器内の相対湿度を安定させる調湿効果を発揮し、環境要因からくる収納物の劣化を最大限に抑制できる。ゲーム資料は各々QRコードで管理され、中性紙でできた封筒と専用の保存容器に収納し、一定の温度・湿度管理のもとに保管されている。

 

関連情報

◆  Yahoo!Japan ニュース 2019年4月26日  コレクションは何と10万点! 有志の熱意と技術を結集したゲーム保存協会の取り組み

『今日の工房』2017年1月12日(木) ゲーム資料保存の喚起を促す小冊子『ゲーム保存の意義とその実践』–国内外の現状と課題、データ記録媒体の基本知識や保存等の実例も

『今日の工房』2016年6月1日(水)「GameOn ゲームをどう残すか」フォーラムに参加しました。

『今日の工房』2016年3月9日(水) ゲームソフトのフロッピー、テープ、CDを保存するには。

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2019年5月8日(水)差し込み箱から、より安全・容易に資料を取り出すためのお包み(上智大学史資料室様)

上智大学史資料室様から額装絵画を、これまでの茶段ボール製の差し箱からアーカイバル容器への入れ替えのご依頼をいただきました。

 

保存容器は保存容器の側面から資料を出し入れする差し込み箱。出し入れの際には、額装絵画に直接触れずに安全かつ容易に行いたいとのご要望です。

 

そこで、これまで使用されてきた不確かな素材の布袋に代わり、 アーカイバルボードでのロの字お包みを作製しました。強度もあり、資料に負担のない出し入れが可能となりました。

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2019年4月24日(水)紙の酸性度を測るためのメルク社のpHストリップの使い方。

資料の修理にとりかかる前の作業として、カルテの作成、状態撮影、スポット・テストとpH測定(※1)があります。なかでも、紙の酸性度合いをみるためのpH測定は、紙媒体記録資料の修理においてかかせない工程のひとつです。

 

和紙に墨書きされた文書や版本とは異なり、種類が豊富な近現代の文書や書籍の紙は、その劣化要因も損傷状況も様々です。特に、近現代の資料は、酸性紙問題(※2)として指摘されるように、紙の内部で化学的な酸性化が進むことで、紙力低下、それに伴う破れや欠損などの重篤な物理的損傷につながる恐れがあります。

 

こうした紙に対する修理技術の一つとして、紙中の酸を中和し内部にアルカリ・バッファー(※3)を残すための「脱酸性化処置」があります。pH値は、その化学的損傷度合いと、脱酸性化処置が問題なく、また、万遍なく行われたかを見るための指標として計測されます。pH値と、中和後のアルカリ・バッファー量とは全く別のものではあるものの、劣化度合いを測るためのいくつかある指標の中で、紙の保存性と密接につながっているといえます。

 

pHは、元々液体の水や水溶性の液体の酸性やアルカリ性を示す指標ですが、固体である紙にはそのままでは適用できません。厳密に紙のpHを測るときは、細かくカットした紙片を水の中に入れて、しばらく置いてから電極式のpH計測器で測定(JIS P 8133 1)しますが、この方法はいわゆる破壊的なサンプリング・テストになるので、修理の工程で行われることはほぼありません。代わりに使用されるのが「pHストリップ」です。これは、指示薬が塗布されている面をわずかな水分で濡らし、紙の表面と接触させ、その変色具合でpHを測定するという方法で、弊社ではメルク社のpHストリップを使用しています。

 

この方法で計測するのは紙の表面pHなので、厚みがあるものや、水の浸透性がよくない紙の内部のpHを測ることはできません。ただし、裏まで水が抜けるような紙質であればかなり正確に測定できます。

 

pHストリップの指示薬は水に濡れても色移りすることはありませんが、あまり水分が多いと、計測する紙の方がヨレたり、輪染みといわれる円形のシミを作ってしまうことがあります。pH測定もスポット・テスト同様、接触させる面をなるべく最小限に留めるために、例えば指示薬部分を半分に切って使用したり、計測後はすぐにろ紙を当ててしっかりと水分を取り除いたり、もちろん、水に滲むようなインクや色材の箇所では行わないなど、事前の準備を整えて行います。

 

[測り方]
①pHストリップを縦半分に切り、指示薬の部分も半分くらいにカットする。ポリエステルフィルムなどの小片を、計測する紙の下に敷く。
②蒸留水(脱イオン水であること)で、pHストリップの指示薬のついた面を湿らせる。浸したり、スポイトなどで滴下する。余分な水分はろ紙に吸い取らせる。
③指示薬の面を紙表面にあてて、上からもう一枚のフィルムで挟みマリネする。指で軽く押さえたり、ごく軽い重しを載せる。
④1分ほど経ったらストリップを外して、変色具合をカラーチャートと比較しpH値を確認する。

 

 

※1 pH:「水素イオン濃度指数」のこと。0~14までの数値によって水溶液の酸性またはアルカリ性の程度を表す。水溶液中のイオン化した水素イオン(H+)と、対極する水酸化物イオン(OH-)が同量存在するときが中性(pH7)、水素イオン濃度が上回ると酸性、逆に水酸化物イオンが多いとアルカリ性を示す。pはポテンシャル(potential)、Hは水素(Hydrogen)。

 

※2 酸性紙問題:紙の製造過程において、サイズ剤(にじみ止め)である「ロジン(松ヤニ)」の定着剤として、「硫酸アルミニウム(硫酸バンド)」が、19世紀後半から1980年代にかけて生産された紙に用いられた。硫酸アルミニウムと紙中の水分が反応することで強い硫酸が生成され、これが触媒となって紙のセルロースを加水分解し破断させる。さらに、硫酸の脱水作用により、潤滑油のような役割を担っている紙中の水分が奪われ、繊維の角質化が起こり紙が脆くなる。製造から50年足らずで紙力が極端に落ちてしまう資料が図書館やアーカイブズに大量に所蔵されていることが世界的な問題となり、これを契機に、中性紙の国際規格制定へとつながった。

 

※3 アルカリ・バッファー:紙中や大気中の酸性物質による劣化を予防するために紙に保持させるアルカリ残留物。ISO9706:1994 Paper for documents Requirements for permanence(永く残る紙)で定めている長期保存用紙の場合、「乾燥重量比で2%の炭酸カルシウム相当量を含んでいること」とされるが、文書や書籍の紙として長期に置かれ、かつ、すでに酸性化した紙に対して行う中和後のバッファー付与で、これだけの量を残留させることは難しい。

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2019年4月17日(水)バインダー内の分類や仕切りに最適なタブ付きインデックスシート。

アーカイバル・バインダー内での分類・仕切りに使う中性紙製タブ付きインデックスシート。タブは見やすい山ずれ見出し式で、資料リストと連動したコードや管理番号などを印刷したラベルを貼れば、 ファイリングした資料をすばやく検索し、かんたんに識別できます。

 

とくに資料形態が多様な写真系資料の整理には最適で、形態・種類・年代などの大まかな分類で整理したものでもインデックスシートで仕切ればアーカイバル・バインダー1冊で一括収納・保管できます。

 

中性紙を使用しているのでインデックスシート自体にも印刷できます。例えば、資料形態(紙焼き、ネガ・ポジフィルム等)、撮影年月日、資料の中身(何の写真か)、保管場所などの「索引情報」をシートに印刷すれば、開かなくても中身が分かるような写真台帳としても使えます。

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2019年4月10日(水)様々な機関様から寄贈していただく除籍本は、このように活用しています。

様々な機関様から、館で不要となった除籍本を譲って頂くことがあります。パンフレット、ハードカバーのくるみ製本、仮綴じ本、革装丁本、和装本、図版、図面、布帙など、種類や形態は様々です。資料の状態として、綴じ糸外れ(画像①)、過去の補修で使用された粘着テープの劣化(②)、金属留具の腐食(③)、革装丁本のレッドロット現象(④)、くるみ製本の表紙外れや背表紙外れ(⑤)、布帙の変色(⑥)、図版に掛けられた薄紙のフォクシングや変色(⑥)などが見られます。(画像は、ラベル等を一部加工しています。)

 

図書館総合展などの展示会での形態や損傷のモデル(⑦)、処置前のテストサンプル、お客様へ処置方法をご紹介する際のモデル(⑦)、実技講習の参加者の方に使用していただくサンプル(⑦)としてなど、多くの場面で活躍しています。心置き無く試すことができる資料がたくさんあるおかげで、日々の業務を円滑に進められ、大変助かっています。ご協力くださっている各機関の皆様、本当にありがとうございます。

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2019年4月3日(水)大型箱の組み立ての時は、複数のスタッフで「せぇの!」と掛け声を合わせながら。

1辺が150㎝を超えるような大型箱を製作するときは複数のスタッフで組み立てを行っています。大きな部材の取り回しや接着剤の塗布、成形など、ひとりではとてもできない作業を分担し、無駄のない動線や立ち位置、道具の置き場所にも気を配りながら作業の流れを作っていきます。

 

また、動作のタイミングを合わせるときには必ず「せぇの!」と掛け声をかけるのが習わしで(うっかり言い忘れると怒られることも・・・)、お互いに息を合わせながら梱包までの作業を進めます。毎日様々なサイズや構造の箱を手掛けますが、こうしたスタッフの緊密な連携作業が常に製作を支えています。

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2019年3月27日(水)作業台の上で大型本を固定して修理するためのベンチ・ プレス機を特注しました。

作業台(ワークベンチ)の上で大型本を固定して修理する際に使用するベンチ・ プレス機を、新しく特注しました。継ぎのない無垢の樺(カバ)の木から作られたプレス機で、通常のプレス機には入らない大きいサイズの本も挟めるように、ネジ間が大きくとれる仕様で作っていただきました。木製のネジも滑らかに動き、重量のある大型本もしっかりと締めて固定できます。製作は柏木工房様にお願いしました。作業に適した良い道具を使用すると修理の作業も捗ります。

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2019年3月20日(水)お客様の元へ出向しての資料のクリーニングや解体・ 復元作業に必須の道具を定期的にメンテナンスします。

今年度も資料のクリーニングやデジタル化に伴う解体・復元等で、多くのお客様のもとにお伺いして作業する機会を頂きました。こうした出向作業の際に大いに活躍してくれたドライクリーニングボックスや掃除機、プレス機も、労をねぎらいメンテナンスをしてあげます。特に、ドライクリーニングボックスに付属する空気清浄機のフィルターは、十分な集塵・脱臭効果を得るためにも、定期的な掃除や交換が必要となります。フィルターの埃を取り除き、プレス機には油を差して、この先に控える出向作業に備えます。

 

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