中国古籍の修理 ― コンサーバターのために (4)
デヴィット・ヘリウェル
(福島 希 訳) 2008/10/30
<用語>
修理と製本の手順に関して正確に記述するには、書葉や綴じられた冊の様々な部位についての用語をまず説明しなければならない。このマニュアルは西洋のコンサーバターに向けて作成したものである。彼らの受ける教育は西洋の伝統にのっとったものであろうから、それらの伝統的な用語がそのまま中国書に当てはまる場合もある。双方の伝統的な用語は人の体を用いて表現する点が似ているが、異なる点が幾つかある。
中国書は通常多数の冊から成り、しばしば数十や数百に及ぶこともある。その全体を表すのに「本」という言葉が使われる。これらの冊における縦横の寸法は同じだが、それぞれの厚さはしばしば異なる。テキストがある書葉で冊は構成され、書葉は見返しと表紙によって保護されている。中国には「書品」という特別な言葉が存在し、物体としての本を本文内容を示すものと区別しているところが興味深いと言える。
1. 書葉
中国書の書葉は片面のみにテキストがあり、通例として何も書かれていない面を内側にして折る。そのため、「ページ」、ましてや「右ページ」「左ページ」といった言い方は正しくない。一般的に使用されている「double leaved」という言葉でさえ疑問の余地がある。というのは、洋本のように2つの書葉が用いられているという印象を与えるからである。(写真7、写真8)
書葉の天、地、左右とそれらの縁や余白に対する名前の付け方に関しては、何も問題がないだろう。ほとんどの伝統的な中国書は木版で印刷され、本文は通常、印刷された枠線で囲まれている。これは「text frame」と英訳されている。版面は通例として書葉の地寄りに位置し、天の余白は地の余白に比べて広く残されている。この部分は中国では「眉批」として知られている。書葉は中央で二つに折られるが、版面の中央にある柱は「版心」と呼ばれる。「版心」とは版本の中央部を意味するものである。書誌学者は、版心と書口を互いに取り違えて使う傾向があるが、厳密には正しいと言えない(「冊」の項を参照のこと)。版心には通常、少なくとも1つの「魚尾」がある。これは製本する人に対し、版面の中心を確実に知らせるための工夫であり、これによって書葉を正確に折ることができるのである。版心、魚尾、辺欄の様式や型は書誌学者の関心を大いに引くもので、版の同定に用いられる。
写真7 書葉(開いたもの)。1天の縁 2天頭 3辺欄 4左右の縁 5左右の余白 6注釈(印刷) 7魚尾 8版心 9地脚 10地の縁、明代の戯曲『南柯記』 |
写真8 書葉(製本後)。1天小口 2天頭 3辺欄 4魚尾 5地脚 6地小口、ボードリアン図書館、Sinica 3062 |
2. 冊
書葉は束ねられて冊となる。冊に関するほとんどの用語は、もはや解説の必要がないだろう。しかしながら、 「前小口」や「本の背」という言葉の使用は避けた。なぜなら、それらは西洋で言うところのものとは全く異なる機能をもつからである(写真9)。
本はまさに「本の口」を意味する書口で開き、書葉は「本の脳」を意味する書脳で綴じられる。これら2つの用語は単に縁のことを指しているのではなく、全体的な範囲を示している。英語にはそれを的確に表現する単語がないため、「書背」は「shunao edge」として訳されている。
線装においては版心が書口にさらされているため、書口と版心という言葉が混同して使われがちである。だが一方で、蝴蝶装における版心は糊付けされた書脳部分にあり、書口に見えているのは書葉の左右の余白である。版心というのは書葉の版面の中央にある柱部分を指すが、書口は製本形態における一つの部位であり、書葉が綴じられて初めて現れる部分である。そのため、このマニュアルではこれらの用語を正確に用いるよう試みている。
写真9 冊。 1題箋 2天小口 3天の書脳の角 4書脳の縁 5オモテ表紙 6ウラ表紙 7地の書脳の角 8書口の小口 9辺欄(地) 10書口 11地小口 12書脳 ボードリアン図書館、backhouse311 |
3. 本
中国書はその製本形態に関係なく、複数の冊から成り立っていることが多い。冊は適切な数で分割され、文字通り「容器」を意味する函に収納する。函には多くの種類があるが、重要なものを以下に記す。昔も今も変わらず、本は水平にして棚に置くのが一番良い方法である。しかし、現在は洋の東西にかかわらず、洋本と同様に直立させて並べている図書館が多い。
函の中で最も簡素なものは、冊を2つの木の板に挟んで結んだものである。これは夾板として知られ、通常クスノキやキササゲの板の表面を滑らかにしたもので作られる。クスノキは虫除けになるとされ、中国南部でよく使用された。また、夾板は調湿性もあり、害虫を誘引する最大の原因である糊も使われない。本の表題が刻まれることもある。
函の中で最も優れたものが木匣であり、非常に貴重で年代の古いものを保存するのに使われる。これもクスノキやキササゲで作られ、釘を一切用いず、膠で接着して組み立てている。本の表題が前面部に美しく刻まれ、その板を上に引き上げるようにして函を開ける。冊はクスノキの板の上にのせ、水平にして函に入れる。これらの板は虫損のみならず、冊を出し入れする際の摩擦からも保護する役目をもつ。こうした函では明らかに冊を水平に置いていることが分かる(写真10)。
より一般的な函として、四合套がある。厚紙を布で覆って裏打ちし、小鉤で固定したものである。布は通常藍染めの綿布を用いるが、本が貴重な場合には錦織が使われることもある。套には他に、天と地にも羽があるものや、時には内側の羽が巧みな嵌め込み式になっているものもある(写真11)。
函の目的は中にある冊を保護することであり、本が損傷を受けるとしたら、まず函からということになる。中国書の収集家やコンサーバターは、函が本にとって不可欠なものであるとの認識をしていなかった。そのため、函が損傷していると、簡単に捨てて新しいものを作ろうとする。しかしながら、明らかに特定の時代のものであったり、貴重なものであったりした場合、現代のコンサーバターであれば元の函を修理する可能性を考えるだろう。だが、その修理の工程は、肖振棠が残した簡単な処置例が知られるのみである。(「套の修理」、および「套を作る」の項を参照のこと)
写真10 夾板と木匣。夾板は複数の冊を一緒に保管し、損傷から保護する方法として最も単純なものであり、簡単に作ることができる。木匣は摩擦や埃、光から完全に本を守るだけではなく、クスノキで作られているため、害虫を寄せ付けないばかりか、本紙に上品な香りを移す。冊はこのように木の箱に収納されているため、少しの損傷も受けることがない。本の表題はそれぞれの木匣の正面に格調高く刻まれている。木匣は間違いなく中国書を保存する最高の方法だと言える。ボードリアン図書館(上から下、左から右の順に)、backhouse479、backhouse163、backhouse231、Sinica2623 |
写真11 四合套。様々な布で作られた套である。通常は藍染めの綿布を使用するが、貴重書には高価な錦織、官刻本には黄色の布を用いる。写真右上にある対の套のように天と地に羽があるのは非常に一般的なものである。しかし、ほとんどの套はより簡素な構造のものである。中国書は常に水平に置いておくのが望ましいが、写真左にある対の套における題箋が示すように、現在では洋本のように垂直に並べることが多い。ボードリアン図書館(左から右、上から下の順)、backhouse467、backhouse241、Sinica2869、backhouse311、backhouse576 |
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