ホームスタッフのチカラ>中国古籍の修理 ― コンサーバターのために(5)

スタッフのチカラ

中国古籍の修理(5)

中国古籍の修理 ― コンサーバターのために (5)

デヴィット・ヘリウェル
(福島 希 訳)  2008/11/14

<準備>

1. 道具

昔から言われているように、良い仕事をしたいなら、職人は使う道具についてまず知っておくべきである。この章では、中国書の修理で使われる幾つかの重要な道具とその使い方について記述した。特に西洋では馴染みのない道具に関しては詳述した。

中国の工房では、作業台以外に漆塗りの裏打ち用テーブルが使われる。これは長さ2メートル、幅1.2メートルのもので、モミで作られている。板に赤い漆を塗っているため、表面が滑らかで、堅く、平らであり、その上で紙を扱いやすい。巻子や、例えば地図のような大きなシート状の資料、大きな書葉、表紙などの裏打ちに使われる。漆塗りの裏打ち用テーブルがない時は、ニス塗りの板で代用できる。これは60センチ四方、2センチの厚みの板で、完全に平らなものがふさわしい。表面には縦横の罫線を引き、その上からニスを塗ると良い。

裏打ちした紙はシワを伸ばして乾燥させるため、仮張り板に糊で貼り付ける。長さ1.8メートル、幅1メートルのものが良い。3センチ幅の細長い棒を組み合わせて長方形の骨組みを作る。その上に白い紙を数層、糊付けする。表面は完全に平らにし、骨を覆う白い紙はしっかりと糊付けされていなければならない。紙の修補は糊用ボードの上で行われる。これは長さ50センチ、幅40センチ、厚みが1センチのボード(板紙)である。粗い地のボール紙を数層重ねて作ったものであり、両面は白い紙で覆い、綿布で縁取っている。表面の白い紙が汚れたら、上にきれいな紙を新しく糊付けする。

プレス板は様々なサイズのものが必要である。クスノキやキササゲでできており、修理や製本の多くの過程で使われる。表、裏、側面はやすりがけをして完全に滑らかにしておく。もし誤ってプレス板で書葉を擦っても、損傷を与えないようにするためである。プレス板の大きさは修理する本よりも少し大きめの方が良い。

カッターボードは紙を切ったり、本をトリミングしたりするのに使われる。長さ60センチ、幅40センチ、厚みが3センチの板である。これはポプラやシナで作られる。目打ち台はカッターボードと同じ大きさにし、綴じ穴を開ける時に使う。

叩き均しする(「叩き均し」の項を参照のこと)ために本を載せる石は、長さ35センチ、幅25センチ、厚みが5センチのものである。大理石で作られ、表面は完全に平らでなければならない。プレスするときの重しとしても使うことができる。

長方形の石槌は長さ11センチ、幅7センチ、厚みが3センチのもので、これも大理石で作られている。6面全てが完全に平らでよく磨かれているものが良い。これは角裂を付ける時や(「角裂付け」の項を参照のこと)、表紙の四辺を折り曲げる時(「表紙作り」を参照のこと)に使われる。

紙を切ったり、トリミングをしたりするために、色々なサイズのカッターがあると良い。カッターは直線定規をあてて使う。定規は長さ50センチ、幅5センチ、厚みが1センチのものが良い。モミでできていて、周辺が竹で縁取られている。また、ハサミと三角定規も必要である。

他にも紙の修補に必要な道具は幾つかある。噴霧器は霧を吹くのに使われる。(「スプレーとフラットニング」の項を参照のこと)小さな紙片を扱うのにピンセットが必要なこともある。竹べらや骨ピンは固着した書葉を一枚ずつ剥がす際に用いる。

糊を作るために(「糊」の項を参照のこと)、糊盆、鍋、漉し器、へら、すりこぎも必要である。すりこぎはニレやアカシア、もしくはその他の似たような木で作られる。先端は丸みを帯びていながらもやや平らであり、糊を混ぜるのに適している。

糊や水を付ける際には刷毛が必要である。通常、安い書道用の筆が使われる。刷毛はヤギの毛でできていて、とても柔らかい。排筆は文字通り「筆が並んだ」形状をしており、うまく名付けられている。というのは、竹の棒で一つに束ねられたヤギの毛の筆を並べて作っているからである。通常は裏打ちをする時、紙の広い面積に糊を付けるのに使う。排筆は毛が抜けて作業の妨げにないようにするため、使う前に膠と明礬の水溶液に浸け、その後よくすすぎ、陰干しをしておくのが良い。または、高い濃度の膠の水溶液を柄と毛の付け根に注入しておいても良いだろう。棕櫚刷毛はヤシの繊維からできている。そのため排筆よりも硬い。毛の部分が精巧に編み込まれて様々な意匠の柄が形作られていることもあれば、木で作られた柄もある。大抵の場合、裏打紙をしっかりと定着させるために乾いた状態で使用する。しかし、例えば絹の裏打ち(「表紙作り」の項を参照のこと)や蝴蝶装での書脳の糊付けなど(「蝴蝶装 方法1」の項を参照のこと)、糊を塗るのにも使うことがある。排筆、棕櫚刷毛ともに刷毛の幅は様々であり、数センチから30センチ以上のものまである(写真12参照)。

修補箇所は金槌で叩いて落ち着かせる(「叩き均し」の項を参照のこと)。金槌の頭の部分は鉄でできており、3センチ角で長さは7センチである。面は完全に平らなものが良い。柄は木でできている。

目打ちは紙縒りや糸綴じのための穴を開けるのに使う。長さは12センチで、軸部分は3ミリ厚が良い。鋼鉄製で、片側は尖っているが、反対側は樫矢で叩けるように幅がある。頭の部分は通常は楕円形か長方形である。目打ちは樫矢で叩くが、樫矢は長さ32センチで厚みが4センチのものを使う。幅は片側では5センチあるが、徐々に細くなり反対側は4センチになっている。断面は楕円形か長方形で面取りしてある。ナツメ、ナシ、ニレなどの堅い木でできている。目打ちは樫矢の幅の広い方で叩く。

その他に、より精密に作業ができるけれども、必ずしも必要というではない機器としてはプレス機と裁断機がある。

上記の道具を全て同じように用意する必要はない。コンサーバター個人が道具を手直ししたり、おかれた環境や自分の経験によって代用品を作ったりすれば良い。けれども、これは常に道具の使い方をよく理解した上で行わなければならない。中国のコンサーバターの仕事は非常に高いレベルであるが、使用する道具にこだわりを持つことは稀である。その点が、より職人的で専門的な道具を使用している日本のコンサーバターとは異なっている。工房で使っているような道具はどこで買えるのかを杜偉生に尋ねたら、彼はただ笑って、古い鋼鉄と金属用の鋸、やすりを手に入れて自分で作りなさいと答えた。こういったことは西洋の製本家たちも実際に行なってきたことである。

刷毛

写真12 刷毛。右側にある大きさの異なる2つの刷毛は棕櫚刷毛である。左下にあるのは普通の筆、その上にある2つは大きさの異なる排筆である。これらは全て北京にある文具の販売店に行けば購入することができる。

ページトップへ

2. 紙

2.1 紙の種類

麻紙は大麻から作られ、中国の紙の中では最も初期の紙の1つである。麻紙は優れた紙であり、唐代には手稿本と版本の両方に使用されていたが、次第に他の繊維の紙に取って代わられた。最近の紙は3つの種類に分けることができる。まず、樹皮繊維から作られる皮紙である。クワ科による紙が最も一般的である。次に竹や藁のような草繊維から作られる竹紙である。また、大きい括りになるが、繊維を混合して作った紙があり、宣紙や、以下に述べるような他の紙の大半が含まれる。皮紙(「bark paper」)は綿繊維が全く含まれていないにもかかわらず、棉紙(「cotton paper」)と通常呼ばれるため混乱を招くことがある。一般的に樹皮繊維の割合が多くなれば、紙の質はよくなる。そのため、宮廷によって出版された本は通常、棉紙に印刷されている。一方、大衆向けに大量生産された本は、ほとんど例外なく竹紙に印刷されている。例えば、武英殿聚珍版書は宮廷で利用するために20冊が開化紙(下記を参照のこと)で作られたが、300冊は竹紙で出版された。

多くの種類の手漉き紙が近年中国で生産されているが、入手しやすいものは僅かである。北京の琉璃廠や王府井で売られている大半の紙は絵画や書道用であり、性質や質感が本の修理には適さない。それらは非常に吸水性がよく、きめが粗い、もしくは薄いのが特質だからである。しかしながら、現在は修理に適した約20種類の紙を琉璃廠で入手することができる。

河南棉紙はクワ科の植物100%で作られており、白く薄く滑らかで、長い繊維をもち、非常に強い。まず本の書葉に合わせて染めて(「紙への色付け」の項を参照のこと)、書口や穴、破れの修補に用いられる。染めずに裏打ち、紙縒りに使われることもある。こうした用途に適した他の紙は上海棉紙か、非常に上質の宣紙のみである。

上海棉紙は実際のところは、浙江省や安徽省、江西省で生産されている。河南棉紙と同等の品質であり、代用品として使われる。河南棉紙、上海棉紙ともに生産が非常に少量であり、現在は入手できないと思われる。北京図書館や上海図書館でも最近は全く入手できず、両館は20年以上前に蓄えておいたものを使用している。西洋のコンサーバターは、より簡単に手に入り、馴染みの深い日本の薄い楮紙で代用しなければならないだろう。

棉紙は他にも幾つか種類があるが、その厚さから通常、見返しや表紙を作るのに適している。だが、比較的高価であるため、その目的にさえ、あまり用いられない。浙江皮紙は最も厚い。貴州棉紙はより暗色である。廣西棉紙は貴州棉紙に似ているが、より厚く暗色で強度がある。

宣紙は中国の紙の中で最も知られている紙であり、元々は唐代に宣州の涇縣(現在の安徽)で生産され、宣城の省都から頒布していたため、この名が付けられた。最も上質な宣紙は今でも安徽、四川、福建、浙江で作られている。檀樹皮の繊維に藁を加えて作られている。宣紙は完全な白色できめが細かく、滑らかで柔軟性があり、虫を寄せ付けない上に非常に長持ちする。絵画や書道に最適な紙だと長年考えられてきたが、場合によっては本の修理の目的にも適している。例えば、書口や穴、破れの修補、裏打ち、間紙(書脳の足付けや「金鑲玉」も含む)、見返し、紙縒り、表紙の作成である。河南棉紙や上海棉紙を修補に使用するならば、まず紙を染めなければならない。宣紙には様々な質や厚みがあるので、状況に応じて選択する必要がある。最も一般的な宣紙で本の修理に有用なのは、薄くて単宣紙として知られる紙である。

夾宣紙はより厚いタイプの宣紙で、元は四川省の夾江で作られていた。

棉連紙は樹皮繊維と植物繊維を混ぜて作られた紙である。白く滑らかで柔軟性があり、間紙や見返しの作成に適している。適切に染色して裏打ちをすれば、表紙の作成にも使える標準的な紙である。加連紙はより厚いタイプの棉連紙で、厚い紙に印刷された本の間紙に使用されることもあるが、そうでなければ、見返しや表紙にのみ用いられる。

羅文紙は棉連紙の一種で、漉く際にできる特有の網模様からその名が付けられた。その網模様が特徴的なので簡単に判別が付くだろう。白く柔軟性があるため、修補箇所が馴染みやすく、間紙に最も適した紙である。

開化紙もまた棉連紙の一種だが、現在ではもう生産されていない。金代に浙江省の開化で作られた非常に質の高い柔らかな風合いの紙である。武英殿の修書処で内府本の印刷に使用されていた。

毛辺紙はその安さから、どの紙よりも本の印刷に使われている。福建省の将楽、江西省の泰和などで生産されている。毛辺紙は竹繊維に藁を加えて作られ、柔らかな風合いであり、非常に薄く漉くことができる。表面は平滑で、裏面は少しきめが粗い。強度はあるが、破れやすい。新しいものはクリーム色をしているが、経年と共に暗色化する。細かい簾の目をはっきりと確認することができる。竹紙に印刷された紙に限り、穴や破れの修補、間紙、見返しや表紙の作成に使える。棉紙に印刷された本の場合、毛辺紙は表紙の裏打ちにのみ用いることができる。書口の修補、竹紙に印刷された本の書葉の裏打ちに関しては、河南棉紙や上海棉紙を染めたものを使用する方が良い。

毛泰紙は竹紙の一種で毛辺紙に似ているが、より薄く、若干厚さが不均一である。簾の目が非常にはっきりしている。毛辺紙と毛泰紙は明代後期の本の収集家や印刷工の毛晋(1599‐1659)によって大量に使われた。

連史紙もまた薄い竹紙で、江西で作られていた。填料を混ぜていたことから、粉連紙としても知られている。高価な紙は貴重書に使用されるため、羅文紙や棉連紙よりも廉価である連史紙が一般的な本の間紙として用いられる。

ページトップへ

2.2 紙の選択

適切な紙の選択というのは、古籍の修理の工程で最も重要な位置を占める。色合いや厚さ、簾の目に関する歴史的な違いは、全て考慮に入れなければならない。もし適切な紙を選べば、完成後に損傷箇所を見つけるのが難しくなるはずである。しかし、不適切な紙を選んだ場合は、仕事をする人がいかに技術に長けていようとも、調和の取れたものにはならない。そのため、損傷した本を修理する際は、調和の取れる紙を用意できるかどうかによって仕事の質が決まってくる。本の書葉にできる限り調和させるには、古い紙を使うのが最も良い方法である。しかしながら、違う種類の紙を沢山集めるのは簡単なことではない。特に工房の設立当初などは尚更である。そこで通常は、修補する書葉に合わせて染めた新しい紙を使う必要がある。書口や穴、破れの修補に使う紙に関しては、古い紙であっても染めた新しい紙であっても調和を取らなければならない。

 

2.2.1 古い紙の確保

非常に状態の悪い古籍を修理する場合、大量の古い紙が必要となるだろう。そのため、他の修理で出るあらゆる断片は注意深く収集しておくべきである。例えば、袋折りの葉を多束ねて綴じた一般的な本を修理する時や、見返しや間紙を取り替える時などに、古いものを取っておいて、将来の修理のために蓄えておくと良い。また、廃棄される古籍や、裁ち切られた天や地、書脳などの文字のない部分も集めておいた方が良い。こうした方法で徐々に沢山の紙が集められるだろう。集めたものは種類別に分類し、使用に備えておく。もし古い紙が全く見つからないならば、修補するものと同じ厚さの新しい紙を調和が取れるように色を付けて使用することができる。

注:過度に明るかったり、逆に暗かったりする照明の下で、修理に使用する紙を選んではいけない。本来の色合いを判断することができないため、修理の質に影響を及ぼすからである。

 

 

前へページトップへ次へ