中国古籍の修理 ― コンサーバターのために (8)
デヴィット・ヘリウェル
(福島 希 訳) 2008/12/26
<紙の修補>続き
2.3 不適切な修補のやり直し
2.3.1 不適切な修補の種類
修補が既に行われている本の中には、修補の技術が拙かったり、その場限りの手っ取り早い処置が行われたりしている場合がある。修補紙の色が本のオリジナルの色とうまく合っていなかったり、2枚に分割された書葉を修補する時に、書葉がずれて貼り合わされていたりする。また、糊が適切に使われていないこともある。裏打ちをする時に均等に糊を塗らなかったために、紙が層状に重なっているように見える(これは裏打紙に適切に糊を入れていない書葉で実際に生じるもので、裏打紙と本紙の間に浮きが見られる)場合などがそうである。これら全ての要因が本の見た目に影響している。また、特別な損傷は起こさないけれども、厚い紙で裏打ちしたことで書葉が硬くめくりにくくなり、更には虫を寄せ付ける要因を作ることもある。このような場合は全て、古い修補を取り除いて新しく修補し直す必要がある。それには2つの方法が挙げられる。
2.3.2 湯に浸して剥がす
まず本を解体し、浅い槽の中に全ての書葉を1枚ずつ並べる。もし紙自体が古く紙力を失っていたら、損傷を受けないように白い紙でそれぞれの書葉を養生しておく。それから書葉の上から湯を注ぎ、裏打紙が本紙から剥がれるように接着剤を柔らかくする。なお書葉を湯の中に浸けておくのは、裏打紙を剥がすのに適切な程度に接着剤が柔らかくなるまでの間である。この後、槽の栓を抜いて水を流す。そして次の日にピンセットで慎重に書葉から裏打紙を剥がす。
染みのついた書葉に水を使用する時と同様に(上記「クリーニング」の項を参照のこと)、湯を注ぐ前にはインクが流れないか必ず確認しなければならない。
2.3.3 指で擦り取る
紙が非常に古いものだったり、とても濃い糊で裏打ちされていたりすると、裏打紙が剥がしにくいことがある。そのような時はまず裏打紙にスプレーで水を入れてから、右手の中指を使って少しずつ剥がす。もし途中で紙が乾いたら、もう一度水を入れ、完全に裏打紙が書葉から剥がれるまで続ける。
裏打ちは基本的に最善策とは言えない。裏打ちをすることで本紙は硬くなり、柔らかさを失うからである。また、広範囲にわたって糊を使用するために、本に虫を寄せ付ける要因を作る。しかし、もろくなった非常に古い紙の場合や、書葉全体に激しい虫損が見られ、他の修補方法の見通しが立たないような場合は、裏打ち以外の方法はない。
2.4.1 準備
長さ60センチ、幅40センチのニス塗りの板を作業台の上に置く。これは裏打ちする本紙よりもわずかに大きい板で代用しても良い。もし漆塗りの裏打ち用テーブルが手に入るのであれば、それが一番良い。薄糊の入った容器を板の右上、書葉を右側、裏打紙を左側に配置する。準備が整ったら、以下のように進める。
2.4.2 方法
まず裏打ち用テーブルまたは板に、湿らせた油紙の紙片を置く。(油紙を湿らせておくとテーブルや本紙から簡単に剥がすことができる。ポリエステルフィルムやクラフトペーパー、ポリエチレンのシートでも代わりになる)油紙の天地の長さは、書葉の天地の長さの三分の一で良い。左右の幅は広げた書葉の幅よりもやや広くしておく。書葉を広げ、テキスト面を下にして油紙の上に置く。この時、地部分が油紙にかかるようにする。右手に排筆を持ち、薄糊を均等に書葉に塗る。書口から塗り始め、上下左右へと広げていけば、糊を均一に付けることができる。乾いた状態の裏打紙を両手で持ち、書葉の地小口に見当を合わせて置き、乾いた排筆で軽く撫でて書葉に貼り付ける。両手を使い、油紙の紙片ごと書葉の地部分で持ち上げて裏返し、前もって用意した濾紙の上に置く。そして油紙の紙片を取り除く。別の濾紙を書葉の上に載せ、その上から両手でしっかりと撫で付ける。濾紙を外して書葉を脇に除け、次の書葉の裏打ちに取り掛かる。その際は湿らせた布で油紙の紙片に付いている糊をぬぐうと良い。裏打ちを10枚程度行うごとに、湿った濾紙を乾いた濾紙と交換する。全ての書葉の裏打ちが終わったら、乾燥させるために竹棒に一枚ずつ吊るす。乾燥後は書葉にスプレーで水を入れ、フラットニングする(「スプレーをする」の項を参照のこと)。
2.4.3 裏打紙の種類
印刷されている本紙が棉紙であっても竹紙であっても、薄い棉紙のみが裏打ちに使われる。裏打紙に古い紙を使用する場合は、裏打ちする前に書口を補強しておく。裏打紙は本紙よりも四辺全てを少し大きくしておく。裏打紙には粗い面と滑らかな面がある。書葉に当てるのは滑らかな面にする。この原則は他の修補にも当てはまり、常に棉紙の滑らかな面を使う。
2.4.4 滲むインク
手稿本や赤や青の辺欄のある版本を裏打ちする時は、インクが流れるのを防ぐために、糊に少し明礬を加えると良い。もし効果が見られなかったら、次の方法で裏打ちすることが可能である。
2.4.5 裏打紙に糊を塗る
この方法では糊に含まれる余分な水分を吸収させるために、糊を塗った裏打紙の上に乾いた紙を被せる。そして裏打紙が湿っている間に書葉の上に載せる。裏打ちした書葉を2枚の紙で挟み、裏打紙と本紙を接着させるために挟んだ紙の上から棕櫚刷毛で撫で付ける。2枚の紙が糊に含まれる余分な水分を吸い取り、インクが流れるのを防ぐ。
別の方法として、ポリメタクリル酸メチル(アクリル樹脂)をスプレーして印刷面に層を作る方法がある。こうすれば、どのように裏打ちをしてもインクは流れないだろう。しかしながら、ポリアクリル酸塩メチルは近代の化学製品であり、将来的に本に対してどんな影響が起こるか、まだ分かっていない。そのため、この方法は通常の本に裏打ちする時に限って用いるべきであり、貴重書に適した方法とは言えない。
2.5.1 スプレーをする
書葉を修補したり、裏打ちしたりすると、使用する糊が引きつれの原因を作る。そこで、落ち着かせるためにスプレーをしなければならない。
修補や裏打ちをした書葉を5、6枚の束にし、少しずつずらしながら置いておく。濾紙の上に書葉の束を載せ、噴霧器を使ってスプレーをする。しかし、この時に濡らしすぎてはいけない。すぐに糊がゆるんで、修補箇所が外れてしまうからである。
2.5.2 濾紙の間で乾燥させる
3、4束をスプレーしたら、濾紙を被せ、その上から両手でこする。全ての束をスプレーし終えたら、濾紙の間に書葉の束を挟み込む(この時に使用する濾紙は、完全に清潔なものでなくてはならない。汚れていると、カビを含んでいるかもしれず、書葉に移る可能性があるからである)。作業台に載せた2つの糊用ボードの間にそれらを挟み、まずは軽く重石をして書葉全体に水分を浸透させる。そして、書葉の束を一度裏返し、重い重石を糊用ボードのそれぞれの角に置いて、しっかりと重みをかける。1日に一度、風を通すために書葉の束を裏返して乾燥を速めると良いだろう。
2.5.3 裏返す
書葉を束の上の方から1枚ずつ取り、裏返す。その際、同時に修補箇所も点検する。もし不適切な修補箇所があれば、速やかにやり直す。それぞれの束の書葉の数は変えるべきである。例えば、最初のものは5枚、次のものは4枚、下の方のものは5枚か6枚にする。このようにすると、それぞれの束の湿り気が均一になるだろう。その後、再度濾紙換えをする時は最後の束から裏返していく。
書葉がひどく汚れている時は、書口やその他の部分の修補をすると輪染みが生じることもあるだろう。この時は、お湯をまんべんなくスプレーすることで除去できる。
場合により、辺欄の一部やテキスト自体が欠損していて、利用に不便なことがある。以前は失われた辺欄の復元や、欠損したテキストをオリジナルと同じ版の同じ字体から忠実に写すことが行われていた。これらの行為は、資料保存に対する現代の考え方にのっとり、現在では行われていない。しかし、以前はどのように行われていたかを記録として残すため、以下に記述することにする。
作業台に紙を敷き、その上に欠損した書葉を広げ、辺欄が失われた箇所に定規をあてる。使用するのは作ったばかりのインクと細い筆、筆のホルダーである(墨汁や、作ってから時間が経ったインクを決して使用してはならない。それらは水に滲む傾向があるからである)。筆をホルダーにおき、右手で持つ。線を引く前には、インクの色がきちんと調和するかを何らかの別の白い紙に引いて確かめ、小さな紙片や針の穴でテキスト枠の角を印付けしておく。左手で定規をしっかりと固定し、右手で筆をのせたホルダーを持ち、定規に沿わせて天から地へと動かしながら線を引く(図3)。細い線なら1回で引けるが、より太い線を引く場合は、まず外側の線を引いた上で内側を埋める。そうすると、オリジナルと全く同じ太さの辺欄になる。
線を引いた後は少量の灰や焼いた泥、タバコ、もしくは似たような物を擦り込むと良い。新しく書き足したようには見えず、完全に周りと調和するだろう。
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