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リグニン含有紙に対する漂白効果試験 1

リグニン含有紙に対する漂白効果試験 (Ⅰ)

蜂谷伊代 
2009/06/02

1. はじめに

近現代の紙媒体資料の中でも、特に新聞用紙や、一時期の公文書に多用されたわら半紙などには機械パルプ紙が多用されてきた。機械パルプ紙はリグニンを多く含み、変色(黄変・茶褐色化)の原因となる。長期に保存されてきた新聞や公文書には、マイクロ化やデジタル化の際に、鮮明な画像を得るのに妨げになるほど茶褐色に変色しているものもある。このような資料の地の紙の白色度を上げる場合、どのような方法が効果的かをみるため、新聞資料に対して、過酸化水素による酸化漂白、水酸化ホウ素ナトリウムによる還元漂白、および水性と非水性の脱酸性化処置を適用した。また、現物として長期保存することを前提とし、漂白後の資料の加速劣化試験を行い、色戻り、漂白効果の安定性を調べた。さらに自然光曝露試験を行い紫外線の影響をみると共に、加速劣化試験後のサンプルとの比較を行った。

2.サンプル作成

『昭和34年4月11日付け 北海道新聞』紙を対象に、オリジナルと、処置方法の違いごとに下記のA~Iのサンプルを作成した。

  

 

【オリジナル】 未処置

【A】 濡らし+洗浄 洗浄水の浸透性をよくするため、イソプロパノール水溶液に濡らした後、水酸化カルシウム水溶液を加えた弱アルカリ水(pH7.7)で、可溶性の酸性物質が出なくなるまで30分間洗浄を行ない、乾燥させた。(Hey 1979)

  

【B】 A+水性脱酸性化(水酸化カルシウム)

Aの後、水酸化カルシウム飽和水溶液(pH12)を同量の水で希釈した液に20分間浸漬し、脱酸性化処置を行なった。(Hey 1979)

 

【C】 A+非水性脱酸(Bookkeeper)

Aの後、Bookkeeper法による脱酸性化処置を行なった。処置後、湿したろ紙に挟んでプレスし、フラットニングをした。

 

【D】 A+水酸化ホウ素ナトリウム(+洗浄)

Aの後、水酸化ホウ素ナトリウムによる還元漂白を行った。1Lの水に対し、10gの水酸化ホウ素ナトリウムを溶かした溶液(pH9.0前後)に、資料を3分間浸漬した。漂白終了後、残留ナトリウムを洗い流すために、pH6.5~7になるまで洗浄を行なった。(Carter 1995, Hey 1977)

  

【E】 A+過酸化水素(+洗浄・水性脱酸)

Aの後、過酸化水素による酸化漂白を行った。過酸化水素溶液(pH3前後)にアンモニア液を少量ずつ加え、pHをアルカリ側に設定した溶液(pH9前後)に、資料を3分間浸漬した。漂白終了後、洗浄と、水酸化カルシウムによる脱酸性化処置を行った。(Hey 1977)

  

【F】 B+水酸化ホウ素ナトリウム(+洗浄)

Bの後、水酸化ホウ素ナトリウムによる酸化漂白を行った。

 

【G】 B+過酸化水素(+洗浄・水性脱酸)

Bの後、過酸化水素による還元漂白を行った。

 

【H】 C+水酸化ホウ素ナトリウム(+洗浄)

Cの後、水酸化ホウ素ナトリウムによる酸化漂白を行った。

 

【Ⅰ】 C+過酸化水素(+洗浄・水性脱酸)

Cの後、過酸化水素による還元漂白を行った。

 

3.試験

自然暴露試験

オリジナルサンプルとサンプルA~Iの紙片をポリエステルフィルムに,封入し、太陽光下に6日間放置して自然曝露した。

 

加速劣化試験

1サンプルにつき三枚の紙片を用意し、1つの密閉型試験管につき1枚の紙片を入れた。蓋をして完全密閉し、定温乾燥器(95℃に設定)に114時間入れた。この試験法は ASTM D 6819-02: Temperature aging methodに基づくが、比較試験を目的としていることからエージングの時間は短縮した。

 

4.結果

<目視観察>

オリジナルと漂白処置後のサンプルを観察するため、実体顕微鏡で紙表面を観察した。

 

結果:

オリジナルに比べ、処置を行ったD~Iの紙表面は若干スポンジ状になっており、毛羽立っているように思われた。これは、水酸化ホウ素ナトリウム溶液の処置過程における水素の発生、過酸化水素溶液の処置過程における酸素の発生が原因であると考えられる。また、どのサンプルも、水に浸漬した後に乾燥したことによって繊維間が詰まったように思われた(オリジナルとHの写真を比較)。写真は、67倍に拡大して斜光を当てたもの。<クリックで拡大>

   
  オリジナル          A              B              C

   
 D             E               F               G

 
  H               I

 

<pH測定>

pH測定を行い、各処置工程における変化をみた。

 

結果:

pHの変化をTable2に示した。処置前の全サンプルの計測の結果、pHは平均4.4だった。漂白処置後、中性および弱アルカリ性域にpHは上がった。しかし、洗浄処置のみのAと、洗浄+水酸化ホウ素ナトリウムで漂白したDのpHは少し低めであった。

 

 

自然暴露、加速劣化後の測定において、A以外のサンプルがほぼ中性域のpHを示した。しかし、水酸化ホウ素ナトリウムを使用したD、F、Hの値が酸性に近づいていた。それぞれのサンプルのpHがほぼ同じ変化の仕方をしていることから、加速劣化試験によって自然経年劣化と似た結果を得られたといえるだろう。

 

 

オリジナル

A

B

C

D

E

F

G

H

I

漂白処置

 -

5.0

8.1

6.1

5.8

8.1

7.1

8.5

7.7

8.5

自然暴露

4.2

4.5

6.8

6.1

5.3

7.1

5.8

6.5

5.8

7.4

加速劣化

4.2

4.7

6.5

6.1

5

7.1

5.3

7

6.1

7.4

Table1: pHの変化

 

 

<色の変化>

色の変化をみるために、オリジナル、処置後、自然曝露後、加速劣化後のサンプル片を同一条件でスキャニングし、Adobe Photoshop CSによってCIELab値を得た。

 

結果:

漂白処置前後の色差をTable2に示した。オリジナルと処置後サンプルA~Iを比較すると、そのほとんどでL値(明度)が上昇、b値(黄色度)が低下し、白色度が増していることが確認できた。一方、自然暴露させた場合、Table3により処置後と自然暴露後を比較すると、一部を除いて全体としては明度低下と、黄変の確認ができた。特に色差が大きいのはサンプルE、F、Gであった。また、Table4により加速劣化後を比較しても、そのほとんどで明度低下と、黄変が確認できた。特に色差が大きいのはサンプルD、F、G、Iであった。

 

得られたCIELab値の結果から、漂白処置を行ったサンプルの白色度は増していることが確認できた。しかし、過酸化水素溶液による漂白を行ったものは、自然暴露、加速劣化後の黄変が激しいことが判明した。

 

 

A

B

C

D

E

F

G

H

I

L

1.5

-5.25

-0.75

4.75

9.5

3.5

14.25

1.25

14.75

a

-1

-1

-2

-6

-7.75

-3.5

-8.5

-2.75

-7.75

b

-6.5

-12.75

-1.5

-10.75

-14.25

-10.25

-16.75

-10.5

-14

Table2: 漂白処置前後の色差

 

 

オリジナル

A

B

C

D

E

F

G

H

I

L

-4

-1.75

-3.25

-2.5

-3

-2.75

-1

-8.25

-2.5

-9.75

a

-0.75

-1

0.25

1

6

3.5

-1.25

2.5

1.25

3.5

b

-6

2.5

6.25

-9.5

1.5

9.25

9.5

8.5

5

4.5

Table3: 自然暴露前後の色差

 

 

オリジナル

A

B

C

D

E

F

G

H

I

L

-1.25

-3.75

4.5

4

-5.75

-5

0.25

-5.75

-3

-8.5

a

-2.75

2.5

0.25

-3.75

5.5

5.25

1.75

1.75

-2

1

b

-1.75

2

9

3.5

8.25

0.75

14.25

8.25

4.5

8.75

Table4: 加速劣化前後の色差

 

下段から、漂白処置後、自然暴露後、加速劣化後<クリックで拡大>

 
左からオリジナル, A, B            C,  D,  E               

 
F, G, H                   I  

 

 

5.まとめ

水酸化ホウ素ナトリウム溶液と過酸化水素溶液による漂白効果と違いが確認できた。過酸化水素溶液による酸化漂白は白色度がかなり増したものの、過剰に白色化したと感じられた。一方、水酸化ホウ素ナトリウム溶液による漂白は、試験前に予想していたよりも目視観察によって白色度を感じるまでに至らなかった。これは、両処置を平均化するため漂白時間をそろえたために起きたと推測される。処置時間についてHey は「望む白さになるまで」としているが(Hey 1979)、実際の処置においては、マイクロ化やデジタル化を前提とする場合でも、過剰に白色度をあげることは慎むべきであろうし、特に現物としての保存が必要とされる資料には、自然に経時した資料として違和感のないレベルの処置にとどめるべきであろう。また、自然曝露、加速劣化後の結果を見ると、水酸化ホウ素ナトリウム溶液で還元漂白を行った方が黄変の程度は低かったと言える。しかし、どちらの処置においても漂白反応中に、過酸化水素溶液からの酸素の発生、水酸化ホウ素ナトリウム溶液からの水素の発生が起こるために、処置後の資料は手触りや風合いが変化してしまうということを考慮しておかなければならない。また、物理的損傷を与えないよう処置中の取扱いにも注意が必要である。

なお今後、種々のリグニン含有紙に対する同一試験、光による漂白試験、および加速劣化後の物理強度試験を行い、比較検討する。

 

参考文献

Carter, Henry A. (1995), A Simple Recipe for Whitening Old Newspaper Clippings, Journal of Chemical Education V72 N7, 651. [abstract]

Dianne van der Reyden et al. (1989), 19.Bleaching, Paper Conservation Catalog Sixth Edition, 1-38. [full text]

Hey, Margaret (1977), Paper Bleaching: Its Simple Chemistry and Working Procedures, The Paper Conservator  2, 10-23. [abstract]

Hey, Margaret (1979), The Washing and Aquous Deacidification of Paper, The Paper Conservator 4, 66-79. [abstract]

木部徹, 坂東優美 (2006), 紙媒体資料へのポリエチレングリコール含浸法の適用(Ⅰ)-リグニン含有紙に対する光変色抑制効果-, 文化財保存修復学会 第28回大会研究発表要旨集, 112-113. 要旨 発表ポスター

マーガレット・ヘイ著 増田勝彦訳 (1987), 紙本の漂白-その簡単な化学と作業工程(Ⅰ), 古文化財の科学 第32号, 100-105.

マーガレット・ヘイ著 増田勝彦訳 (1988,), 紙本の漂白-その簡単な化学と作業工程(Ⅱ), 古文化財の科学 第33号, 68-78.

マーガレット・ヘイ著 増田勝彦訳 (1989), 紙本の漂白-その簡単な化学と作業工程(Ⅲ), 古文化財の科学 第34号, 71-82.

 

 

 

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