『館内で本を修理する』 (1)
アルテミス・ボナデア
(伊藤美樹 訳) 2008/10/22

翻訳連載にあたって
以下はAltemis BonaDea 著 Conservation Book Repair: A Training Manual の全訳である。専門的な訓練を受けてはいない図書館職員等が、傷んだ一般の蔵書を館内で修理するときのマニュアルとして、アラスカ州立図書館から1995年に刊行された。PDFファイル(190ページ、12MB)を無料でダウンロードできる。類似の修理マニュアルはこれまでにも国内でも海外でも紙媒体で刊行されているし、ウェブ上の文献としても数多く見つけることができる。BonaDea氏によるこの本は、表題が示すように、旧来の修復(restoration)ではなく、現在の書物のコンサベーション(conservation)という考え方を、一般書の修理において一貫させていることに特徴がある。すなわち、書物の見た目ではなく機能の回復を優先させる、後々に悪い影響を及ぼさない材料や技術を選ぶ、可能な限り可逆的な方法を採用する---等々である。目次が示すように、本の構造から説きおこし、傷みの部位や程度に応じて初級・中級・上級の修理へとステップアップしてゆき、災害対策と復旧にまで及ぶ本書は、館内修理に取り組んでいる人たちやこれから取り組もうという人たちへ過不足ない有益な情報を提供する好著といえる。
今回、日本語への翻訳を快諾して下さったAltemis BonaDea(アルテミス・ボナデア)氏に心からお礼を申し上げます。
原文が掲載されたURL :Conservation Book Repair: A training manual by Artemis BonaDea
序文
アラスカ州のいくつもの図書館での、コンサベーションという考え方にもとづく修理計画は著者がいなければ実行にはいたらなかった。アルテミス・ボナデアは1988年からアラスカ州立図書館で館内修理の先鋒を務めてきた。彼女の要を得た実演やマン・ツー・マンでの研修は80年代から始まったが、1990年からは州の各地でワークショップを開くまでになった。
1990年にアラスカ図書館協会の生涯学習委員会(AkLA)とアラスカ州立図書館の管理責任者は、本の修理とコンサベーションの研修が館員研修の優先課題になるとして、コンサベーションの考え方にもとづく修理ワークショップを州内で3回開催するために、図書館相互協力助成金を申請し獲得した。80年代の実演での内容に加えて、すくなくとも本書の2、3章分の新しい内容が各地でのワークショップでお披露目されている。実演の時間も場所も様々であるが、職員に向けての訓練が最も役に立つし、手ずから教わることが一番と確信した。ただ、ワークショップでの実習はとても参考になるが、研修を終えて各々の図書館へ戻り、いざ修理に向き合うと必ず問題を抱えてしまうことが分かった。実習による研修は最も有効であるにしても、州のいろいろな場所でこうしたワークショップをたびたび開くことができるわけではない。ビデオテープでの代替ではどうかとも考えたが、小規模な図書館でも利用しやすいのは、説明文とともに豊富なイラストレーションを盛り込んだ媒体、つまりはこうした出版物だろうという結論に落ち着いた。
各地で開催されたワークショップも終わりに近づくにつれ、この本の具体的な内容が見えてきた。アルテミスはワークショップ用の配布資料を作成し、電話による問い合わせにも応じた。また、本書での方法を実践し、説明文やイラストレーションをできる限り解りやするためて提言をしてくれる個人のボランティアもいた。またこの本は、ワークショップに参加できなかった人にも同様に実際に実践され検証されている。
本書は、アラスカ州立図書館とアラスカ図書館協会の共同出版であるが、一番の功績はこの本の出版のため熱心に取り組んだアルテミス・ボナデアにある。アルテミスは、ワシントン大学、アイオワ大学、ジョンス・ホプキンス大学で研修を受けてきた。本書における彼女の研究は、彼女の修理同様、巧みで、理解しやすく、聡明で、妥協が無い。この本をアラスカの図書館に発表することは光栄であり、また、大いに役立つことを願ってやまない。あらゆる意見、提案も得られれば幸いである。
キャサリン・H. シェルトン
アラスカ州立図書館アラスカ教育課歴史資料コレクション部門司書
1995年8月
謝辞
このマニュアルは、多くの方々の惜しみない時間と才能により支えられました。アラスカ州立図書館においては、積極的な支援を下さったケイ・シェルトン氏、また草稿を読み大いに励まして下さったソンドラ・スタンウェイ氏、そしてあらゆる草稿の中の修理を試し研究して下さったエレン・フィッツジェラルド氏、さらに現在に至るアシスタンスとユーモアをくれたアジャ・ラズムニイ氏に、お礼を申し上げます。
コンサベーションとプリザベーションの各分野の多くの専門家の方々も、このプロジェクトのために時間を費やし、支えて下さいました。特に、ワシントン大学のケイト・レオナルド氏には様々な修理についての解説や、基本的な質問への返答に時間を費やして頂きました。彼女の助言のおかげで、より良いマニュアルができました。
また、オレゴン大学のノーマンディ・ヘルマー氏、ユージーンのプライベートコンサバターのキャロル・プラット氏、アラスカ州ピーターズバーグのピーターズバーグ公立図書館のジョイス・ジェンキンス氏も、多くのドラフトを読み、意見を交わして頂き、感謝しております。
本書のためにイラストレーションや解説の再版の許可を下さったニューヨーク植物園図書館のジェーン・グリーンフィールド氏、アメリカ図書館協会、ライブラリーカンパニー社のアンドレア・クルップ氏、アメリカ哲学学会の職員の方々にも感謝申し上げます。
アレックス・プレンティス氏とも仕事ができて光栄でした。執筆者の方々、イラストレーターの方々、共同制作者の方々に対し、これまで同様の活躍を願うばかりです。
アルテミス・ボナデア
アラスカ州立図書館アラスカ教育課コンサーバター
1995年8月
Ⅰ はじめに
公共図書館の大半の人的資源と経済的資源は、資料の収集、目録作り、資料の貸し出し業務に費やされる。本その他の紙媒体資料の収集に多大な努力が向けられる一方で、その保存のためのフォローはほとんどない。
本棚から乱暴に引き出される、鞄に無理に詰め込まれる、コピー機に押し付けられる、返却ポストに投げ込まれるというように、本や紙資料は頻繁に利用される。さらに、利用者や職員の利用によって図書館の蔵書は確実に老いてゆく一方、買い替えには費用がかかり、困難なものが多い。
図書館蔵書の保存は大きな課題である。各図書館は、図書館の規模にかかわらず、蔵書の保存方法を検討しなくてはならない。確実な本の修理こそ、蔵書の構築と維持計画の重要な要素である。
以前は、蔵書の処置にセロファンテープや家庭用接着剤がよく使用されていた。残念ながら、こうした製品では有効な修理は得られない。本は繰り返し修理され、手に負えなくなると除籍される。多くの場合が、処置方法の過失であり、本自体の過失ではない。
安定した、可逆性のある材料を使用した本の修理(conservation book repair)の基本概念は、本来、貴重書を処置するために提案されたのだが、こうした方法や材料は貴重書以外にも適応可能である。貸し出し本や参考図書に適応させる方法を伝えることがこのマニュアルの意図である。
A. このマニュアルの利用
本から実技を学ぶのは易しいことではない。しかし、だからといって解説を読まずに修理に取りかかるのはどうか辛抱してほしい。それぞれの方法の解説では、特定の処置方法の選び方や、なぜほかの方法でなく、その方法が有効かを説明している。こうした基本的な知識や方法の正確な理解により、損傷のある本への迅速な対応と、有効な修理を導く処置の選択が可能である。なお、巻末の用語集では、このマニュアルの中で使われる用語を解説している。
B. 修理する本の選択
どの本を修理するかの選択は、有効な本の修理計画の第一歩になる。各図書館には特色があるので、ある図書館の保存や修理のガイドラインは、別の図書館とは全く異なるかもしれない。蔵書に必要な現実的で持続性のあるガイドラインの組み立てに時間を費やすことで、図書館資料の健康と職員の時間の効果的な利用を確保することができる。
修理する本を選択する前に、以下のような質問を挙げてみよう。
・ 除籍対象ではないか。修理する手間をかけるに足る内容が盛られている本か、すでに新版や、他のより内容が優れた本で代替されてはいないのか。あるいは新刊やより適当な本によって代替できないのか。文学的または科学的な価値に乏しく、利用者のニーズや興味に応えるには足らないのではないか。
・ 以前に不適切な修理や、損傷を与える処置が施されていないか。修補や再製本をされているか。代替物を選ぶ、あるいは館内で修理するのではなく、外部の製本業者に預けるべきではないか。修理するよりも新しい代替本の購入の方が簡単で安く済むことはないか。
修理しないという判断は困難ではある。しかし、効果的な修理が望めない本もあるし、むしろ代替したほうが良いものもあるのだから、傷んでいるからといって全ての本を救出しようとするのは非現実的である。図書館蔵書としてよりよい状態を保ち、職員の手間を軽減させるために、本を修理するかしないか選択するべきである。
本の適切な修理方法を選択し、知識と技能を注いで修理を行う。小規模な図書館では、修理の判断をする人が修理を行うことになるだろう。大規模な図書館では、2人の職員が作業を分担するかもしれない。いずれにせよ、両者とも本の構成や修理の基礎知識を理解する必要がある。
修理する本を決めたら、最善な処置を選ぶ。もしも本を代替することが前提である場合や、もしくはもう一度貸し出しをした後には除籍するとか、代替本が購入済みというのならば、セロテープのような、コンサベーションの基準には外れた一時的なものを利用して修補することも考えられる。しかし、これからもずっと長い期間利用される本や、その図書館にとって永続的に保存するコレクションの本というのであれば、ここで紹介するような修理方法を採用するべきである。
C. なぜ本が修理を必要としているかを考える
なぜ本が修理を必要としているか、それを考えることが重要である。
・ 不注意や、通常の利用によって損傷を受けたのか。
・ 損傷を引き起こす方法で製本されたものか。
・ 過去の修理が不適切であったのか、または更なる損傷を引き起こしたのか。
・ 過去の修理が、本の構造(本の開閉やページのめくり)をどのように妨げてきたか。
本体(テキスト・ブロック)に使用された紙の種類や、本の構造にも着目する。
・ 本体は、括(セクション)で構成され、それを糸で綴じたり接着剤で束ねたものか。
・ 本体は、ペラで構成され、それを接着剤やオーバーソーイングで束ねたものか。
・ 本文紙は、塗工紙あるいは光沢紙か。
修理する本を選択する際に、またどういった方法を取るかを決める際に、こうした要素を考慮しなければならない。
本をよく観察し、どのような構造かを考える。本の構造については、別項に詳細を記してある。構造のどの部分に問題があるのか、どういった修理方法が最も相応しいのかを特定する。修理できる構造を持たない本や、復元できないものもある。修理には時間も技能も必要なので、それに見合う本を選ぶこと。修理しないという選択は、本の内容の価値の判断ではないことを忘れてはならない。考慮すべきは、本に施す処置方法の選択である。
D. 修理と作業スペースの準備
・ 修理にかかる前に、採用する方法の全部の工程について読んでおくこと。
・ 作業場が快適な作業を行うのに十分であることを確かめる。不要なものは排除し、必要な道具や材料を手元に置く。
・ 修理した本を乾燥させる場所についても考えること。接着剤や糊を使った資料は、重石をのせて乾燥させないと、紙が波打ってしまう。
・ 複数の問題がある本の修理の場合、最も簡単な修理から始め、続いて複雑な修理に進む。一般に、本体の修理から始め(ページの破れ、括の損傷等)、その後、表紙を直す(背ごしらえ直し、損傷したコーナーの修補等)。そして最後に本体と表紙の接合を行う(寒冷紗や見返し)。
・ 似た種類の修理をまとめるとよい。時間と材料の節約にもなり、また、同じ作業を繰り返すことは、修理技術を上達させるのに良い方法である。
E. 修理の訓練
・ はじめに、蔵書から除籍された本や不要な紙で練習するとよい。異なる種類の紙や本の構造は、糊や接着剤の反応もそれぞれ違うはずである。例えば、光沢のある塗工紙は、加工されていない紙のようには水分を吸収しないので後者のような紙には少なめの糊を用いる。紙の種類については、他の項目を参照してほしい。
・ 修理を始める前に、解説を読むこと。解説で挙げられている道具や材料を全てきちんと揃えること。
・ 2~3回練習したら、再度解説を読み直すこと。そうするとおそらく、より理解が深まり作業中の疑問点の答えも見つかるかもしれない。なぜ、どのようにすれば修理が有効であったのかがわかると、記述の解説をあてにせずに、適切な修理方法を選択しやすくなる。
修理が有効でない際に、やり直しができるよう、修理では本に損傷を与えない材料や方法を使用するべきである。自分の技能レベルと限界を自覚すること。修理が手におえない場合は、もっと経験を積むまで待つこと。技能を上達させるために、こうした技術を訓練すること。何よりも継続させること。
各部の名称

Text block: 本体
Joint: ジョイント
Cover Board: 表紙ボード
Spine: 背
Tail: 地
Head: 天
Square: チリ
Hinge: ヒンジ
Fore Edge: 前小口
Fly Leaf: 遊び紙
Pastedown: 効き紙
Endsheet: 見返し紙

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