ホームスタッフのチカラ>『館内で本を修理する』(3)

スタッフのチカラ

『館内で本を修理する』(3)

『館内で本を修理する』 (3)

アルテミス・ボナデア
(伊藤美樹 訳)   2008/12/8

Ⅱ 基本情報<続き>

C.紙の修理材料

本の修理では一般に修理用の和紙や小麦粉糊、ヒートセット・ティッシュを使用する。紙の破れにはアーカイバル・リペア・テープを使用することもある。

1.修理用和紙

和紙は「ライス」ペーパーと呼ばれることもあるが、和紙はクワの木の繊維からできたもので、呼び名にあるような米からできたものではない。和紙が薄いにもかかわらず強いのは、長繊維でできているためである。

手作りの和紙は簾桁で漉いて作られるので、出来上がりの紙には、簾の目が残る。こうした簾の目は通常、紙の目の逆方向に見られる。簾の目は、ライトにかざしたり、透かすことで確認できる。また、紙の目は前述の裂きテストや曲げテストや水テストで確認できる。

一般に和紙は、切るよりも裂いて使用する。裂いた和紙の端には羽のような細かい繊維が現れ、直線の線ではないので修理する紙によくなじむ。

和紙の様々な裂き方については、「Ⅲ.本の修理道具と技術」の章で紹介する。

修理用和紙は、様々な重さや色で販売されている。一般に、3種類の重さの和紙があれば対応できると思われる。多くの紙は真っ白ではなく、生成りである。

・典具帖   文字や絵の上から使用する軽い和紙 
・生漉紙   多くの修理に使用できる中程度の重さの和紙
・石州和紙  重い紙に使用する重量のある和紙

修復用和紙は非常に高価に思えるが、一か所の修補に使用するのはごくわずかなので、和紙1枚あれば長い間まかなえる。

ヒートセット・ティッシュは熱可塑性(熱で活性する)アクリル系接着剤が塗工してある薄い紙である。シリコン剥離紙に覆われたもので、紙の破れや欠損部分に合わせてちぎったり、カットして使用される(剥離紙の上からアイロンを当てるので、ティッシュ自体はアイロンにはくっつかない。)熱いアイロン(40度C前後)を当てることによって紙に接着される。

ヒートセット・ティッシュは、修理製本材料店や手芸店で扱っている標準的な家庭用アイロンを使用して接着できる。シリコンの剥離紙に覆われて販売されている。

ヒートセット・ティッシュは、和紙のような長くて強い繊維でできていないので、修復用和紙よりももろく劣化しやすい。曲げたり折ったりすることが必要な箇所への使用はお薦めできない。ヒートセット・ティッシュは水分を含んでいないので、水で濡れると反ってしまう光沢のある塗工紙には適している。

3.ドキュメント・リペア・テープ

ドキュメント・リペア・テープは、一般的な透明のプラスチック・テープとは、いくつかの点で異なる。

接着剤のついたテープの部分は、薄く、プラスチックではなく無酸紙である。プラスチック・テープのように硬くないので、ページがめくりやすく、折りやすい。使用されている接着剤は、中性のアクリル系接着剤なので、年月を経て乾燥して割れることもなく、黄変もせず、テープの端から接着剤がしみ出ることもない。この接着剤が中性(酸性でもアルカリ性でもない)であるので、紙に化学的な反応を起こすことはない。

このようなテープのメーカーは、素材の人工的な劣化テストを行い、長期間安定し、簡単に剥がすことができると唱っている。だが、実際の経験からいうと、うまくいかない場合が多い。図書館員によると、こうしたテープは硬く乾燥してヒビが入ったり、接着剤が乾燥すると、紙をつなげていたところから紙を変色させて剥がれたりすることもあるという。また、可逆性のないテープもあるようだ。

こうした問題から、ドキュメント・リペア・テープは、長期的コレクションの一部となる本や、稀少本に使用されるべきでない。

ドキュメント・リペア・テープは、閲覧用蔵書にならば使用して良いとしている機関もあり、たしかに透明のプラスチック・テープよりも断然に良い。児童書や参考文献といった長期の蔵書とはならない本に対してドキュメント・リペア・テープの使用を選択する図書館もある。ドキュメント・リペア・テープは紙の破れを直すのに手間がかからないので、職員の少しの訓練で簡単に使用できる。

ドキュメント・リペア・テープはいくつかの商標で販売されている。Filmoplast P、 Filmoplast P-90、 and Document Repair Tapeといったものがある。

4.透明プラスチック・テープ

多数の図書館蔵書が透明プラスチック・テープで修理されている。この手っ取り早い解決法は、結果的に長期間、図書館での本の修理問題の頭痛の種となる。プラスチック・テープを使用する前に、本へどんな作用があり、どんな影響を与えるかを理解しておくことが重要である。

プラスチック・テープは、不安定であり、損傷の大きな原因となるため、本への使用は危険である。1つの修理箇所に二重三重のテープが重ねられていることがある。はじめのテープは修理というにはほど遠く、問題が出てくるので、続くテープが問題箇所を直すのに追加される。しかし残念ながら、さらにテープを重ねても、分厚いテープの層ができるだけで、本の修理にはならない。

プラスチック・テープは、透明なプラスチックのテープ部分と、紙に着く接着剤とでできている。テープは紙の上で古くなるので、接着剤がページの紙の繊維に浸透し、紙のシミになる化学反応を起こし、紙をもろくさせてしまう。接着剤が乾燥すると、プラスチック部分は剥がれ落ち、シミが残る。テープの接着剤はプラスチック部分の端にしみ出て、汚れを引き寄せたり、接している紙が着いてしまう。

本にテープが使用されていると、除去不能というのではないが、きれいに除くのは困難である。そのままテープを本紙から持ち上げると、本紙の表面がテープと一緒に剥がされ損傷を受ける。テープが本文部にかかっている場合、本文部への損傷なしに剥がすことはできない。プラスチック・テープを剥がすのは、化学や、専門道具の扱いに長けたコンサーバターでも困難である。

外れた本紙の接着にテープを使うと、ページの自由なめくりの妨げになる。テープの端は鋭く、元の紙より重くなるので、紙は本来のヒンジ部でなく、テープの端で、そこを軸にしてめくられるようになる。このためテープの端で破れて、ページが本から落ちる。そして二度目の修理が必要となり、再度プラスチック・テープで直される、するとまた同じ問題が起こる。

幅広で透明のプラスチック・テープは、背表紙や表紙の角の修理にも使用され、また「repair wing」と呼ばれるテープも表紙の角の修理に使用されている。傷みやすい、あるいは傷んだ表紙の背の天地を覆うように使う粘着テープだが、テープは問題を隠すことはしても、修理はしない。このテープもまた、接着剤を本の表紙に残したまま、テープ部分がもとの位置からずれたり、完全に剥がれて、汚れを引き寄せたり、本棚の隣の本とくっついてしまう。

修復製本を行っている図書館では、特定の場合に限ってプラスチック・テープを使うことがある。傷んではしまったが、今後は長期的に残さない児童書や、参考文献といった定期的に更新される本や、除籍前の最後の閲覧のものに使用されることがある。

いつ、どのようにして透明プラスチック・テープを使用するかは、保存の期間を見越して判断すべきである。プラスチック・テープで本を修理する前に、重要な長期に残す蔵書ではないか確認すること。くれぐれも、一度テープが本に貼られると、通常、本への損傷なしには取り除けないことを忘れてはならない。

ページトップへ

D.修理用接着剤

修復製本に使用する接着剤は主に2種類で、デンプン系の糊と、化学的な非デンプン系接着剤がある。それぞれ特有の特徴があり、特定の工程で使用すべきである。

1.糊

糊は一般的に、小麦や米といった植物性デンプンと水をあわせたものを加熱して作る。糊で紙を修理すると、糊は紙の表面だけでなく繊維にまで浸透して接合するため、他の接着剤での修理よりも強力な接着ができる。一方、糊は水を含んでいるため、紙がのびたり、シワができる。乾燥はゆっくりで、通常、水による可逆性があり、一度貼ったものも剥がすことができる。

小麦粉デンプン糊は破れた紙の修補に使用したり、古い糊や接着剤を軟らかくするのに用いられる。通常、製本用クロスの接着や、表紙をくるむ際には使用されない。小麦粉デンプン糊は未加熱やインスタント、準加熱の状態で販売されている。粉状のものに水を加えて加熱して作った糊は3~4日でカビが生え始める。糊は少量ずつ作り、冷蔵庫で保存する。

市販のインスタントの糊や加熱済みの糊が便利な場合もある。こうした糊は、「Ⅹ.製本材料の入手先」の章で挙げている。

① 濃い小麦粉デンプン糊(通常の糊)
6テーブルスプーンの小麦粉デンプン
2カップの水

小麦粉デンプンを鍋に入れ、水をかきまわしながら加える。混ぜ合わせたものを火にかける。弱火で加熱し、ぐつぐつ煮えるので絶えずかき混ぜる。ねっとりするまで加熱する。火から下ろし、冷ます。こし器にかけてから使う、冷蔵庫で3~4日保存できる。

② 薄い小麦粉糊(薄いPVA接着剤とともにに使用)
3+1/2テーブルスプーンの小麦粉デンプン
2カップの水

上記の濃い小麦粉糊の作り方と同様。

③ 電子レンジ小麦粉糊
1テーブルスプーンの小麦粉糊 
5テーブルスプーンの水

深さのある容器に小麦粉糊を入れ、水を加え、電子レンジに入れる。20~30秒高ワットで加熱してから、取り出してかき混ぜる。電子レンジに戻しもう一度20~30秒加熱する。再度取り出し、かき混ぜる。それぞれの電子レンジの電力によるが、この工程を3~4回繰り返す。糊はすぐに使わず、使用前に数分休ませる。

長年にわたり、様々なタイプの非デンプン系接着剤が製本に使用されてきた。なかでも動物性の膠が最も一般的であった。最近では動物性の膠がビニール合成樹脂のグルーに転換されており、なかでもポリビニールアセテート(PVA)が最も一般的である。

PVAは優れた万能な接着剤である。水分の含有が少なく、乾燥が速い。乾燥後も柔軟性があるので、ヒンジの修理や表紙の角の修補、はがれた表装ブック・クロスを表紙の芯材へ再接着するのにも使用できる。PVAはカビや菌に影響を受けることもない。しかし、冷凍によるダメージを受ける。凍ると、分離し接着力が低下する。

PVAは、水やデンプン糊で薄めることにより、濃度や作用を調節して使い分けることができる。水で薄めたPVAには接着剤に対する接着力を上げることはない一方、デンプン糊で薄めたPVAは接着力を上げる。製本家やコンサーバターは、こし器にかけたデンプン糊とPVAを半分ずつ混ぜたものを使用する人も多い。類似の修理マニュアルによっては、別の接着剤や混合物を紹介していることがある。

PVAはいろいろな商標で売られているが、その全てが本の修理に使用されているわけでない。例えば、Elmer's Glue と呼ばれる接着材は、乾燥すると柔軟性がなくなるので、本の修理への使用には限界がある。本の修理によく使用されるPVAとして、Colophon Book Arts Supply社のAT-1100と、Talas社のJade 403がある。「Ⅹ.製本材料の入手先」の章に載せてある。

3.接着剤での作業

本の修理を勉強している多くの人は、接着面積に対して接着剤の量を使い過ぎる。少なめは良いのだが、多めの方がもっと良いと思っているようである。本の修理においてはそうでない。薄っすらと接着剤がかかっているくらいが一番接着力がある。接着剤が多過ぎると修理箇所の端からはみ出して、本紙に付着してしまうことがある。また、紙にはシワができ、乾燥にも時間がかかる。修理箇所を注意深く観察し、余分な接着剤や糊がある場合は、ふき取ること。そして次回は、少なめの接着剤で試すこと。

接着剤を塗布する際には、表面積に見合った刷毛を選ぶこと。小さい部分に糊や接着剤を塗る時は小さい刷毛を使い、広い部分を塗る時は大きめの刷毛を使うこと。

ページトップへ

E.麻糸

本を閉じる際には昔から、とても強度があり、さまざまな太さを選択できる麻糸が使われる。適切な糸を選ぶことは、効果的な修理にとって重要である。糸が太すぎると背が膨らんでしまって、オリジナルの表紙に本体が収まらず本を傷めてしまう。逆に糸が細すぎると、丁の折り目で紙を破ってしまう。一般になるべく細い糸を使用するのが良いのだが、紙の種類や、何括綴じ直すのかによって、それに適した糸を選ぶ。

1.糸の太さ

麻糸の一般的な太さは、12/4、18/3、25/3、35/3というように表記し、番手という。一本の糸をよく観察すると、3~5本の細い糸を撚りあわて作られていることがわかる。元の細い糸の太さを表すのが表記の最初の数字、後の数字はそれを何本撚り合わせたかを示す。つまり12/4は、12の太さの糸を4本使って撚り合わせた糸ということになる。

35/3、30/5、18/3番手の糸は、綴じなどの手作業で扱うのにちょうど良い。特定の糸の太さを見分けるのが難しいことがあるので、包み紙を捨てる前に、巻き芯の内側に糸の番手を明記しておくと良い。

2.蝋引きと麻糸の糸通し

あらゆる糸がそうであるように、麻糸も絡まりやすい。蜜蝋で綴じ糸を蝋引きすると、絡まりを防ぎ、糸が滑ることによる傷みを防ぐことにもなる。2~3度蜜蝋で蝋引きをした後、指の間に糸を走らせる。摩擦により熱が生じ、糸に蝋が浸透する。

3.糸の長さを測る

糸の必要量は、本の天地の長さや綴じ直しの括の量によって変わる。本自体をものさしにして必要な糸の量を測り、時間を節約する。例えば、1括外れた本には、少なくとも本体の高さの3倍と、結び目を締めるのに本体の厚さ分の長さが必要である。

4.糸の追加

1回の綴じに、本の天地の長さの4~5倍以上の長さの糸で作業するのは避けたほうが良い。糸の追加には二通りの方法があり、「6.糸の結び方」で紹介する。

5.針で糸を留める

修理の途中で綴じ糸が針から抜け、とてもイライラすることがある。修理中に針から糸が抜けないように、修理前に糸を針に留めておく。

①通常通り針に糸を通す。
②糸の端をつまみ(端は針の穴に通っている)、親指に一度巻く。

親指に巻く

③注意して親指の爪に針を当て、糸に刺す。

④その刺された糸に針を通す。
⑤綴じ糸を持ち、刺された糸が綴じ針に留まるまで引く。

糸に針を通す

6.糸の結び方

ウィーバーズノットとスクエアノットの2通りの基本的な結び方を紹介する。

ウィーバーズノット

長い麻糸で綴じるのは困難であるので、ウィーバーズノットにより糸を追加し、短い糸でも作業できるようにする。
針に約15センチの糸が残っている場合の糸の追加。
なるべく端の綴じ穴に近い、括の内側で結び目を作る。結び目は綴じ穴を通りにくいので、結び目は括の内側の綴じ穴の間に作るほうが良い。
①残っている糸で輪を作り、左手で持つ。輪の短いほうの糸端を下にする。
②新しい糸で輪を作り、輪の短いほうの糸端を下にして右手に持つ。

右の輪に通す

③左手の輪を下から右手の輪に入れ、両方の糸を左手の親指で持つ。
④右手で作った輪の短いほうの糸端を左手で作った輪に図のように通す。

糸端を通す

⑤左手の輪の短いほうの糸端を引き、右手の輪の両端を結び目が留まるまで引く。それぞれの糸端を切る。

留まるまで引く

 

スクエアノット

スクエアノットは、本紙の綴じ直しやパンフレット綴じのものに資料を接合させる際に使用される。

①それぞれの手に糸の端を持つ。
②右手の糸を左手の糸の上にのせ、輪に通す。しっかり結ぶ。

輪に通す

③もとの右手の糸は左側にきている。これを右手の糸の上にのせて、輪に通し、しっかり結ぶ。もとの糸端を切る。追加した糸は決して切らないこと。

結ぶ

ページトップへ

F.綴じ針

適した針を使用することで、綴じを滞りなく完了させられる。針はなるべく細いもの、針先は尖っていなくにぶいもの、そして針穴は針の太さよりも太くないものであるべきである。もしも綴じ針が、使用する糸よりもずっと太いと、綴じ糸で埋められない穴を作ってしまう。
太い針を薦めてくる製本材料店が多く、綴じ糸よりもはるかに太いことがある。馬具の革製品を縫う時に用いられるEgg Eye Needlesと呼ばれる針は、ほとんどの糸が対応する。革製品店で扱っている。「Ⅹ.製本材料の入手先」にも挙げている。

前へページトップへ次へ