『館内で本を修理する』 (4)
アルテミス・ボナデア
(伊藤美樹 訳) 2008/12/26
Ⅲ. 本の修復道具と技術
本書で紹介する修理を首尾良く実行するには、適切な道具と少しの専門技術があればよい。
すでに導入している技術と道具があるならば、ここで紹介している技術や道具も試してみて練習し、より良いほうを選ぶ。もしも道具や技術が同等の働きをし、本を傷めることがなければ、好きな方を選べば良い。
A. 本の修復道具

ヘラはおよそ6~8インチの長さで、1~1.5インチ幅である。一般的なヘラはおよそ厚さ1/8インチで、動物製の骨やプラスチックでできている。片方はとがっており、もう片方は丸い、表面の滑らかなものである。ヘラは、紙の折り目つけ、修理用和紙の貼り付け、接合部分へのクロスの接着など、さまざまな行程で用いられる。両端とも丸いプラスチックのヘラもある。ヘラを購入する際は、片方がとがっいて、もう片方が丸い骨べラ(bone folder)を試すと良い。使っていると用途によっていろいろな形のものがあったほうが良いことに気づかされる。骨べラは削りやすく、好みの形や大きさにすることが容易で、自分好みのヘラを揃えられる。プラスチックのヘラでは難しい。

マイクロスパチュラは金属の道具である。およそ6~8インチの長さで、片方はとがっており、もう片方は丸い。糊をつけた修理用和紙をすくい上げたり、表紙の芯材からクロスや貼り見返し(効き紙)を剥がしたり、接着剤や糊を狭い部分へ塗る際に使用する。マイクロスパチュラは元々とても薄く作られているが、製本家はこれをやすって、さらに薄くして使うことが多い。

千枚通しは狭い箇所に接着剤を塗る際や、カット線に印を付けたり、修理用和紙のちぎる際の線引きに使用する。
市販のものが入手できる。また、自作してもよい。木製の丸棒で柄にして、細い穴を開け、針を挿し込む。針は柄の穴にきっちり収まっていなくてはならない。針の根元(柄側)に接着剤を少量さすと、よりしっかり固定する。

様々な種類の刷毛を揃えておくと便利である。
糊付けする表面の面積によって使用する刷毛の大きさを決める。そのため、様々な種類(薄手、中手、厚手)を手元に用意しておくこと。丸い刷毛や極太の平刷毛も使われる。
通常、天然の毛の刷毛が修理作業に適しているが、天然の毛の刷毛についた接着剤を洗い落とすのが難しいため、PVA用には合成の毛の刷毛の利用を薦める図書館もある。PVAを付着したままにしておくと、刷毛は台無しになってしまう。糊と接着剤用に刷毛を使い分ける人もいる。
刷毛は、決して接着剤の付いたままで乾燥させてはならない。作業後、刷毛についた接着剤や水分は十分に落としておくこと。手洗い用石鹸や食器用洗剤で洗うことができる。水に浸けて刷毛を置いておく時は、毛が浸かるだけの水にすること。もしも刷毛の留め金(毛を固定する刷毛の柄のまわりの金具)よりも上に水があると、木製の柄が水分で膨張してしまう。木は乾くと縮むので、留め金や刷毛の毛が落ちてしまう。
接着剤や糊を刷毛につける前には、刷毛の水分を十分きること。

カッティングマットとメスや折れ刃式のカッターナイフがあれば、正確なカッティングが手早く楽に行える。本の修理でのトリミングやカッティングの際には、常に刃が良く切れるようにしておくことが大切である。鈍い刃でカットすると、更なる修理を招く結果になってしまう。
厚紙のカードボードの上でのカッティングは、ナイフの刃が過去のカットの跡に填まってしまうことがあるので、必ずしも適しているとは言えない。カッティングマットであれば、何度カットしても跡を残すことがない。このマットは、製本材料店や画材店や生地店にて、様々なサイズで販売されている。

ディバイダーは、ある点から別の点までを正確に測って印をつけるのに利用される。
その他の基本的な道具として、よく切れるハサミや正確な金属製の直線定規が挙げられる。
折り丁の括に綴じ穴を開けるのが、難しい場合がある。パンチングジグや括用パンチング台があれば簡単にこなすことができる。
パンチングジグを作るには、本の天地の方向に紙を半分に折り、向かい合う角を切り落とす。この切り端を本文ページの上側の印とする。

鉛筆で、折り山の外側に綴じ穴を決めて印を付ける。

ジグの内側を外に折り返すと、鉛筆の印がジグの折り線の内側にくる。
パンフレットや折り丁の括の内側にパンチングジグを当てる。括の折り線と本紙の天と地を間違わずに示す。
作業台の上にパンフレットや括を平らに置き、千枚通しで注意深く穴を開ける。

(ジグの斜めの切り端が本紙の天側に当てることを忘れてはいけない。)
括用パンチング台は綴じ穴の位置を定めるのに便利で、合板やマットボードやカードボードで組み立てられる。
カードボードボックスで簡易な台を作るには、箱の両側の面に45度の’V’の字を切り込む。

箱の長さよりも2インチ長く、箱の'V'の字の切り込みの1辺よりも1インチ長いカードボードを2つ作る。

その2つのカードボードの片側の長辺を1.5インチ幅の短冊状のブッククロスでつなぎ合わせる。
PVAで'V'の字の谷にそのカードボードを貼る。

資料の括の中央を開き、台に乗せる。資料は必ず台にきちんと沿って乗っていること。パンチングジグを資料に当て、千枚通しで穴を開ける。

紙で包んだ煉瓦や、コインや弾丸を詰めた容器が、修理中の乾燥の間の重しに使われる。

端をやすった1/4インチのガラスは、平らにならす作業や、表面を乾燥させる際に役立つ。ガラスは移動するときに割れたりするので、18インチ四方以下のものが扱いやすい。薄い合板やメラミン板でも代用できる。
道具の管理
修理製本に使用する道具は常に清潔に保つ。特に糊や接着剤を扱う道具は、きれいにしておくべきである。
ヘラ、ナイフ、千枚通しや刷毛を石鹸や水で洗う。もしも接着剤が道具に残ったまま乾くと、接着剤の固まりが取れず、道具を傷めてしまう。刷毛は特に注意が必要である。
B. 本の修理方法
1. 修復用和紙をちぎる
ナイフやハサミによる鋭い切れ端ではなく、端を喰い先にするため、修理用和紙は通常ちぎられる。喰い先であれば、本紙に修理和紙がなじみやすい。修理和紙は水をひいてちぎるか、針を使ってちぎられる。針でちぎった喰い先は、水でちぎった喰先よりも毛羽立ちが少ない。
修理用和紙を水引きでちぎるには、先の細い天然毛の小筆で和紙に水で線や形を描く。直線の場合には、定規や真っ直ぐなものに沿って和紙に水をひく。水が入ることで和紙の繊維が柔らかくなるので、ひいた線に沿ってちぎることができる。
修理用和紙を針でちぎるには、和紙の表面に千枚通しで線をひく。あるいは針先で、ちぎる線を和紙の表面に描く。

欠損した角や、本紙の中央の穴を繕う際など、修理用和紙を特定の形にちぎるには、以下のように行う。
黒いマットボードや紙を欠損部分の下に敷き、欠損部分の輪郭をより鮮明にさせる。
欠損部分の上にポリエステルフィルムをのせ、水や針から本紙を保護する。そして、2枚重ねた修理用和紙をフィルムの上にのせ、欠損部分に適した和紙の小片を水をひいてちぎる、もしくは針でちぎる。

損傷のあるページが本体から外れていれば、ライトテーブルに載せたり、窓に向けて日にかざして欠損部を確認することができる。本紙をライトテーブルに載せたり、ガラス窓に当てて、ポリエステルフィルムを載せ、一番上に補修用の和紙を載せる。フィルムによって本紙が保護され、針や水により適合する形にちぎることができる。
2. 和紙に接着剤を塗る
接着剤を塗る際には、塗る表面積にふさわしい刷毛を選ぶ。表面積が小さければ、小さい刷毛を使い、広い表面積には幅の広い刷毛を使う。
表面に均一に薄く接着剤を塗るのが最も良い。接着剤が多過ぎると、修理部分の端からにじみ出し、まわりにシミを残してしまうことがある。
中央から外に向けて放射状のパターンを描き、紙やクロスに刷毛で糊や接着剤を塗る。

紙やクロスの端の破れた箇所には、刷毛が引っかかったり、紙の端をめくり上げて折り返してしまうことがある。刷毛を中心から外側に向かって放射状に動かすことで、紙やクロスの端を守ることができる。
接着剤を直接紙に塗る方法に加えて、間接的に塗る方法もある。この方法は特に、ごく小さい紙やクロスへの作業に役立つ。
ガラスやプラスチックの小片に接着剤を塗り、その上に紙やクロスをのせる。紙やクロスはスポンジのように下の接着剤を吸収する。筆や指を使って、和紙に糊を浸み込ませる。和紙が透明になれば、糊が十分に浸み込んでいる。

マスキングは、紙に接着剤を塗る際のまた別の方法である。不用な紙の短冊を使って、本紙を保護し、特定の部分にだけ接着剤を塗ることができる。特に、ページのティッピング・イン(外れた本紙の貼りこみ)といった作業に有効である。

3.修理箇所の乾燥
ほとんどの修理に、糊や接着剤のように、何らかの水分が使われる。水分が紙やボードやクロスに入る場合は、特に注意が必要である。
修理で水分が含まれる場合には、他の本紙と隔離しなければならない。さもないと、隣接する本紙と接着してしまい、正しく開かなくなる。本の表紙の修理においても同様である。
修理する紙を隔離、保護する最も簡単な方法は、ワックスペーパーやポリエステルフィルムや、ポリエステルの不織布とろ紙の組み合わせを使うことである。
水分はワックスペーパーのようなバリアには浸透しないので、修理箇所をゆっくり乾燥させることができる。
ポリエステルの不織布も修理の際に便利である。水分を通すので乾燥は早いが、本紙に水分が移ることがないように、水分を吸収させるためのろ紙を使うことを忘れてはならない。
ろ紙とは、ラグ(ボロ布)や綿クズからできた、厚手でサイジンクされていない紙である。ろ紙には、普通の紙に含まれるサイジング材が含まれていないので、水分を吸収しやすい。ろ紙を本の修理の水分吸収に利用する際は、こまめに乾燥したろ紙と取り替えるべきである。そうすればろ紙の水分は本に残らない。
紙が割れたり反ったりしないように、滑らかな台の上で重しをのせて乾燥させなければならない。端をやすって面取りした1/4インチ厚のガラス片や、メラミン板で覆った合板により、どんなところでも滑らかな台を得られる。ガラスや合板は重ねて積み上げることができるので、作業スペースの節約につながる。紙で包んだ煉瓦、コインや弾丸を詰めた容器が重しとして利用される。

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