『館内で本を修理する』 (11)
アルテミス・ボナデア
(伊藤美樹 訳) 2009/04/16
Ⅵ.上級修理 続き
B.くるみ製本の背ごしらえ直し
ジョイント部分が損傷していたり外れかけているもの、背が外れかけているものは、オリジナルの背のクロスを取り替えて修理することができる。
背ごしらえ直しをする前に、ヒンジ部分のオリジナルの寒冷紗を確認する。寒冷紗の天地の長さの4分の1以上が損傷している場合、背ごしらえ直しの前に寒冷紗を取り替える。その方法については、後述の「C.くるみ製本のくるみ直し」の項を参照のこと。
2通りの背ごしらえ直しの方法をこの項で解説する。1つ目は、オリジナルの表紙クロスの外側から新しいクロスで背ごしらえ直しをする方法。オリジナルの見返し紙の上に新しい表紙クロスを巻き込む。この方法が便利な場合もあるが、新しい背は本の構造からは外れているので、新しい背を位置に定めるのが困難な場合がある。外見的な観点からすると、オリジナルのクロスの上に新しいクロスが被るので、修理跡がよく分かる。また、ジェーン・グリーンフィールド氏著の「本におけるケアと修理Books : Their Care & Repair」にも解説がある。本書での同氏の解説と図解の引用には同氏から承諾を得ている。
2つ目は、オリジナルの表紙クロスの下での新しいクロスの背ごしらえ直しをし、見返し紙の下に巻き込む方法で、新しい背は見返しの下で巻き込みを接着する構造にする。オリジナルの背を取り替えると、新しいクロスが見えるのはジョイント部分だけである。本に応じて、適切な方法が異なるので、それぞれの方法を試し、採用する方法を検討すること。
1. 背ごしらえ直しのための準備
オリジナルの背のクロスを取り除く
背に印刷や装飾がある場合、新しい背のクロスに貼り戻すためとっておく。背に印刷や装飾がない場合は、取り除いた後に廃棄する。
本にオリジナルの背がまだ接着されている場合は、注意して除去する。
ジョイント部分のクロスに損傷やひどく脆弱になっている場合は、そっとゆるめる。
オリジナルの背が表紙にしっかり接着されている際は、表紙芯材の背側の端から2~3mmに定規をあて、カッターで表紙クロスを切る。
寒冷紗や見返し紙を切ることなく、また表紙の印刷や装飾を切ることがないよう注意する。
本をひっくり返し、反対側も同様に行う。

オリジナルの寒冷紗の確認
オリジナルの寒冷紗の天地の長さの4分の1以上に損傷がある場合は、背ごしらえ直しの前に取り替える。その方法については、後述の「C.くるみ製本のくるみ直し」の項を参照のこと。
本体の背のライニング
表紙の背を取り除いたら、紙の背のライナーが本体に接着しているか確認する。
この紙の背のライナーには、本体の括の接着と、本の開閉時の負担を分散させる役割がある。近代の製本業者は背のライニングに十分に良質な紙を用いている。しかし、紙の背のライナーが完全に貼り付けられてさえいない場合も多い。
図書館では背ごしらえ直しの際に紙の背のライナーを取り替えないことが多い。背を取り替えることで本の機能性が上がり、長持ちするのである。

本を真ん中あたりのページで開き、背の弓なり具合を観察する。緩やかな弓なりか、鋭い‘V’の字か。‘V’の字を描いている場合、本を開いた際の全負担が1箇所に集中している。緩やかな弓なりを描いている場合は、負担が均一に分散されている。
オリジナルの紙の背のライナーが本体の背に貼り付いていない場合は、そっと剥がして取り除く。寒冷紗や綴じ糸を傷つけないよう注意すること。紙の背のライナーを全て完全に取り除く必要はない。
オリジナルの紙の背のライナーはしっかり貼り付いているが、本を開いた際に緩やかな弓なりになる程の強度はない場合、紙のライナーを追加し弓なりになるようにする。
短冊状の紙で本体の肩から肩(寸法A)の厚みを測る。この寸法は修理が完了するまで残しておくこと。

背のライナーの紙に寸法Aを写し、ライナーの短冊を用意する。この短冊は本の芯材の天地の長さよりも長くしておくこと。ライナーの紙の目は必ず本の背の方向に通っていること。

本体の背のライニングには中程度の重さの紙を用いるのが良い。また、1枚の厚い紙より、薄い紙を2~3枚貼り合わせたものの方が良い。品質が確認された上質紙(PermalifeやMohawk Superfine)や和紙を用いる。必ず本の天地にライナーの目を通らせ、本体の背と同寸の天地の長さと厚み(束)であること。
本体の背にライナーをあて、本体の天地の長さと同寸のところに印をし、切り落とす。

背のライナーに放射状に接着剤を塗り、本体の背にあてる。
次の方法を1つか両方用いて、本体の背にライナーをしっかり貼り付ける。
1. ヘラで本体の背にライナーをなじませる。ライナーはしっかり本体に接着されていること。隅々まで(肩側や天地側)貼られたか確認する。

または
2. 1インチのステンシル用筆(型紙染めの筆)が、本体にライナーを貼り付けるのに適している。本体にライナーがなじむよう筆でトントンとたたく。隅々まで(肩側や天地側)貼られたか確認する。

ライナーを乾燥させ、本を開いてみる。背が弓なりでなく、‘V’の字を描いていたら、もう一度ライナーの工程を行う。特に大型の本や重量のある本は、1枚以上のライナーが必要な場合が多い。
2. 方法1:オリジナルの表紙クロスの外側での背ごしらえ直し
注:この「方法1」で掲載した図は、J. Greenfield “Books: Their Care and Repair” 1983 に拠る。
代替の背表紙クロスをこしらえる
寸法A(本体の肩から肩の厚み)を用意する。寸法Aの背の幅を両側に2.5cmずつ足す。本体の天地の長さ(寸法B)を測り、その寸法に4cm程度足す。
寸法AとBをクロスにうつす。クロスの目が本の背の上下に通るよう確認し、クロスを切る。

代替クロスはできるだけオリジナルに近い色、風合いであることが望ましい。色合わせが難しいようであれば、コントラストの少ない色を選ぶと良い。例えば、濃紺のクロスに黒の代替クロスというように。
代替クロスを表紙に乗せ、天地が側に同量はみ出させ、そこで折り目を付けて仕上がりの天地の長さを決める。

寸法Aをクロスの中央にあて、印と折り目を付ける。

本体の背の寸法に相当する印の折り目部分に、Vの字の切り込みを入れる。
無酸の紙をクロスの補強とライニングのため用意する。このライナーは背のインレイと呼ぶ。無酸紙を2~3枚貼り合わせてライナーに用いる場合もある。
くれぐれもインレイの目は本体の背と同じ方向に通っているよう確認すること。さもなければ、本の開きが悪くなる。
インレイをヤレ紙にのせ、裏側に放射状に糊を塗る。
本体の寸法の印と折り目に合わせて、クロスの裏側にインレイをあてる。
クロスの天地の背の巻き込み部分に糊を塗り、折り返し、ヘラでなじませる。

ワックスペーパーでクロスを挟み、重しをのせて乾燥させる。
オリジナルの背を生かせる場合は、巻き込みを持ち上げ、背のクロスから紙のインレイを剥く。
紙のインレイが背にしっかり貼り付いている場合は、スパチュラで剥ぎ取る。インレイを湿らせてオリジナルの接着剤を剥がすのも良い。紙のインレイの除去が困難な際は、必ずしも完全に除去する必要は無い。背はゆがみ易く損傷し易いので、丁寧に扱うこと。

カッターと定規でオリジナルの背の不揃いな端を切り落とす。

オリジナルの背は本体よりも幅が狭くなるはずなので、本の開閉の際に、代替の背のジョイント部分で支障をきたすことはない。文字や装飾を決して切り落とさないこと。オリジナルの背を生かす場合は、残しておくこと。
オリジナルの背を生かすには損傷が大き過ぎる場合、本の背ラベルには他の方法で対応する。紙のラベルに手書きやタイピングを行い、代替クロスに貼り付ける。油性マジックで直接代替クロスに書くのも良い。ヤレのクロスで試し書きを行うこと。ラベルの文字が読みにくい場合は、代替を検討する。
代替の背の表側にオリジナルの背や新しいラベルをのせる。その上にヤレ紙をのせ、ヘラでなじませる。すみずみまでしっかり接着されていること。

ワックスペーパーでクロスを挟み、重しをのせて乾燥させる。
新しい背のクロスを本体に接合する
背を本体にあて、表紙の天地に合わせて本体の背の巻き込み部分を貼り付ける。表紙にクロスの端の印を付ける。

表紙に短冊状のヤレ紙を先程の印に合わせてあて、ヤレ側から背に向かって糊を塗る。本体の背には糊を塗らないこと。

次へ進む前に、本体と背の天地が間違っていないか再度確認すること。
代替クロスを本体に合わせ、天地の位置を確認し、代替の背の端を表紙の糊付け部分にあてる。
表紙に代替クロスを貼り付け、ヘラでジョイント部分をなじませる。

ジョイント部分に棒をあて、重しをのせて数分乾燥させる。
本をひっくり返し、代替クロスを本体にきつく巻きつけ、反対側の表紙にもクロスの位置の印を付ける。

印に合わせてヤレ紙をあて、ヤレ紙側からジョイントに向かって糊を塗る。くれぐれも本体の背には糊を付けないように。
代替クロスは本体の背にぴったり収まるようにし、ヘラでクロスをジョイント部分になじませる。
別の本の束などで表紙を支え、天地にはみ出したクロスに糊を塗り、見返し(効き紙)の上に折り返し、ヘラでなじませる。

ジョイントに棒をあて、プレス機にかけるか重しをのせ、一晩乾燥させる。


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