『館内で本を修理する』 (13)
アルテミス・ボナデア
(伊藤美樹 訳) 2009/05/21
Ⅵ.上級修理 続き
くるみ製本の本で最も弱いところがヒンジである。本体とカバーはそれぞれで構成されている。本体の背には寒冷紗が貼られ、その寒冷紗が表紙芯材に接合され、上から効き紙に覆われる。
長期間かけて重力で本体の重みがカバーや寒冷紗にかかり、本体がカバーから外れてしまう。カバーが健全であれば、本体をオリジナルのカバーにくるみ直すことができる。
本体がカバーに見合わず、大き過ぎたり重過ぎて、カバーから外れやすいものもある。こうした場合、カバーと本体の地を揃えてくるみ直し、カバーへの負担を軽減させる方法もある。
くるみ製本のカバーを再利用して修理する場合、ジョイントは必ず健全であること。
ジョイント部分に損傷がある場合は、前述の「Ⅵ. 上級修理 B.くるみ製本の背ごしらえ直し」での方法でカバーを直すこと。本体が芯材に接着されていない場合、若干修理は異なるが、基本的にはかわりない。
背ごしらえ直し(背とヒンジの修理)の完了後、本体をくるみ直す。
見返しを観察し、再利用が可能か、代替にするか、修理が必要かを判断する。見返しの除去や代替については、後述の「E. 見返しの処置と修理」を参照のこと。
1.片側のヒンジが損傷した本のくるみ直し
両側のヒンジに修理が必要でないか、観察して確認する。ヒンジの寒冷紗の4分の1が損傷している場合、修理が必要である。両側のヒンジのくるみ直しについては、後述の項を参照のこと。
損傷のあるヒンジの寒冷紗を本体から切り離す。

オリジナルの背のライナーを確認する。ライナーが接着されていなければ、PVAやPVAと糊を混ぜたものを、背のライナーと本体の背に塗る。ヘラを使ってライナーをなじませる。
背のライナーに損傷がある場合や、ライナーに十分な強度がない場合は、背に新しい寒冷紗を貼った後に、前述の「B. くるみ製本の背ごしらえ直し」本体の背のライニング」の解説を参考に背に再度ライニングをする。
見返しを確認する。見返しのどちらかが欠損あるいは損傷している場合は、まずその代替や修理を行う。後述の「見返しの処置と修理」の項も参照のこと。
別の本を支えにして外れた表紙を開き、ヘラ等を効き紙と表紙芯材の間に滑り込ませる。
効き紙を破らないように注意しながら新しい寒冷紗を挿入するに足るだけ効き紙を持ち上げる。

効き紙は破れやすいので持ち上げる際は、ヘラ等をオリジナルの寒冷紗の下に滑り込ませてその寒冷紗とともに持ち上げると良い。
縦が本体の天地の長さよりも1.2cm短く、幅が本体よりも5cm広くとった新しい寒冷紗を用意する。
本体に重しをのせ、PVAやPVAと糊を混ぜたものを本体の背に塗る。
新しい寒冷紗を背に貼る。
寒冷紗は背の幅を覆い、本体の肩から4cm程度のハネが出ていること。

ヘラで背に寒冷紗をなじませ、乾燥させる。
寒冷紗が乾燥したら、背のライニングを確認する。前述の「B. くるみ製本の背ごしらえ直し」本体の背のライニング」の項の解説にならって、さらにライナーが必要か確認する。
ライナーに損傷がある場合や、ライナーに十分な強度がない場合は、前述の「B. くるみ製本の背ごしらえ直し 本体の背のライニング」の解説を参考に背に再度ライニングをする。それぞれの本に応じた素材のライナーを重ねる。
再度ライニングする必要がない場合でも、薄い紙や和紙を寒冷紗の上から貼り、本体を固定させると良い。一旦、乾燥させる。
持ち上げた効き紙の下に寒冷紗を滑り込ませて、収まり具合を確認する。寒冷紗が大き過ぎる際は、収まる大きさにトリミングする。

寒冷紗を引き出し、角を三角に切り落とす。効き紙の下に挿入する際に寒冷紗がゴロつきやすいために切り落としておく。
表紙芯材に接着剤を塗る。効き紙には糊を付けないこと。
寒冷紗を持ち上げた効き紙の下に挿入する。寒冷紗にシワやゴロつきがないよう注意する。
ヒンジ部分にワックスペーパーをはさみ、表紙を閉じる。ヘラでジョイント部分をなじませる。
本を開き、別の本で表紙を支える。
効き紙を持ち上げ、効き紙と(寒冷紗を貼った)芯材の間に接着剤を塗る。
ヘラの平らな部分で効き紙を前小口側からヒンジ側へなでる。余分な接着剤は取り除く。

ヒンジ部分にワックスペーパーをはさみ、本を閉じる。
ヘラでジョイント部分をなじませる。
ジョイントに棒を添えて重しをし、乾燥させる。
2.両側のヒンジが損傷した本のくるみ直し
両側のヒンジが損傷している場合、本体を表紙に接合する前に寒冷紗を取り替える必要がある。
ヒンジ部分に残っている寒冷紗をきれいに除去する。
見返しに代替や修補が必要な場合は、後述の「見返しの処置と修理」の項を参照のこと。
背を整える。簡単に剥がすことのできるオリジナルの寒冷紗やライナーを除去する。糸綴じの本の場合、綴じ糸を傷つけないよう注意する。
必ずしもオリジナルの寒冷紗やライナーを完全に除去する必要はなく、剥がせるものだけ剥がす。
綴じ糸を確認する。修理が必要な場合は、後述の「F. 損傷した本体の綴じ直し」の項を参照のこと。
括を確認する。修理が必要な場合は、後述の「D. 損傷または外れた葉、丁、括の再接合と修理 1.括の修理」の項を参照のこと。
正確なコンサベーションの修理方法として、本体はくるみ直す前に背を和紙でライニングする。この際、和紙は糊で貼られるので、水による可逆性が得られる。背には構造上重要な役割があるので、長期間所蔵される場合は、なおさらのことである。
和紙によるライニング:紙の目を本体の背と平行に走らせた和紙を、本体の天地と幅に切り、用意する。和紙に糊を塗り、背に貼り付ける。ヘラで和紙を背になじませ、乾燥させる。
本体の天地の長さよりも1.2cm短く、本体の背の幅よりも10cm幅広くとった寒冷紗を用意する。
作業台の端に本体を置き、重しをのせる。
PVAやPVAと糊を混ぜたものを背に塗る。寒冷紗をあて、ヘラでなじませる。乾燥させる。

背にライニングをする。本の大きさに応じた素材のライナーを重ねる。「B. くるみ製本の背ごしらえ直し 本体の背のライニング」の項も参照のこと。
効き紙が芯材に貼りついている場合は、「方法1」を用いてくるみ直す。
効き紙が持ち上がっている場合や、効き紙を取り替えた場合は、「方法2」を用いる。
オリジナルの効き紙を再利用する場合は、ヘラ等をそれぞれの背側の効き紙の下に滑り込ませ、効き紙を芯材から持ち上げる。ヘラはオリジナルの寒冷紗の下に入れると効き紙の支えになり持ち上げやすい。

新しい寒冷紗を挿入するに足るだけの効き紙を持ち上げる。本体を表紙にのせる。
方法1:効き紙が芯材に貼りついている場合
本体をくるみ直す前に、本体と表紙の天地を確認する。
持ち上げた効き紙の下に、寒冷紗を挿入する。
寒冷紗が大き過ぎる場合はトリミングし、角を三角に切り落とす。

寒冷紗の収まりを確認したら引き出す。表紙芯材に接着剤を塗る。持ち上げた効き紙には接着剤をつけないこと。
持ち上げた効き紙の下に寒冷紗を挿入する。表紙芯材になじませる。寒冷紗にシワやゴロつきがないように注意する。
ヒンジ部分にワックスペーパーをはさみ、本を閉じる。ヘラでジョイント部分をなじませる。
本を開き、別の本で表紙を支える。
効き紙を持ち上げ、効き紙と寒冷紗に接着剤を塗る。
ヘラの平らなところで効き紙をなじませ、余分な接着剤をヒンジ側に寄せて、ふき取る。

ヒンジ部分にワックスペーパーをはさみ、本を閉じる。もう一度、ヘラでジョイント部分をなじませる。
乾燥したら、表紙を開き、修理箇所を確認する。仕上げや修理箇所のカモフラージュの方法については、前述の「Ⅳ. 簡易修理 B.くるみ製本のヒンジの修理」の項を参照のこと。
方法2:効き紙が持ち上がっている場合や、効き紙を取り替えた場合
本体が表紙に正確に収まっているか再度確認する。本体と表紙の天地は揃っていること。
見返しの水分を浸透させないよう、大き目のワックスペーパーをはさむ。ワックスペーパーは、見返しよりもひと回り大きくしておく。
ワックスペーパーをヤレ紙で覆う。ヤレ紙も見返しより大きくとること。

大き目の刷毛で見返しの寒冷紗を貼る部分に接着剤を塗る。ヘラで寒冷紗を見返しになじませる。本体の肩に寒冷紗を貼る際は十分注意する。

見返し全体に接着剤を塗る。刷毛は放射状に動かす。

接着剤の水分が見返しに浸透すると、見返しは丸まりだす。丸まりの逆向きに紙を丸ませて、紙を落ち着かせる。接着剤が乾燥するには数分かかるので、落ち着いて見返しを扱う。
ワックスペーパーははさんだままにし、ヤレ紙を外す。
見返しに接着剤を塗り、見返しが落ち着いたら、表紙をそっと閉じる。表紙を押さえ、ヘラでなでても良い。
表紙を少しだけそっと開き、見返しの接着具合を確かめる。表紙を開ききらなくても確認できるので、表紙を絶対に完全に開かない。
見返しの貼り位置がずれている場合は、すぐに再度見返しを持ち上げて正しい位置に修正する。
見返しにシワができたり、空気が入った場合は、表紙を作業台にあてて、手のひらでシワを逃がす。見返しの真ん中から小口側に向かって逃がす。

ヘラでジョイント部分の表紙クロスをなで、ジョイントに棒を添え、重しをのせて乾燥させる。
見返しは少なくとも1.5時間は乾燥させてから、反対側の表紙の見返しも同様に貼り付ける。両側貼り付けたら、一晩休ませる。
乾燥の際は必ず重しをのせなければ、表紙芯材が反り、見返しにもシワが寄ってしまうかもしれない。

