『館内で本を修理する』 (16)
アルテミス・ボナデア
(伊藤美樹 訳) 2009/07/10
Ⅵ.上級修理 続き
b. ラップ・リンク・ステッチ
1)外れた括を綴じ合わせる
ラップ・リンク・ステッチの場合、綴じ穴は偶数にしておく必要がある。括の両端はケトル・ステッチをする綴じ穴になり、その他の綴じ穴は対になる。
図解中では綴じ糸が短く描かれているが、実際には綴じに必要なだけ用意する。綴じ糸の足し方については、「Ⅱ. 基本情報 E. 麻糸」の項を参考にするとよい。
外れた括のひとつ前の括から綴じはじめる。
ひとつの括の一番初めと最後の綴じ穴をケトル・ステーションという。“ケトル”の語源は、ドイツ語の‘キャッチ・アップ・ステッチ’あるいは‘小さいチェーン型のステッチ’に由来するといわれている。
針を綴じ穴1に通し、括の内側に糸を引き、括の外側に5cm程度糸を残しておく。

注意:針や千枚通しで括の内側から刺しておくと、綴じ穴を定めやすい。
括の内側から綴じ穴2に針を通し、括の外側に糸を引く。くれぐれも糸は綴じ方向(綴じ穴3に向かって)に引くこと。

重要:綴じ糸は必ず綴じ方向へ引くこと。反対に引くと綴じ穴間の本紙が破れることがある。
麻糸はとても強いが、引っ張り過ぎると切れてしまう。また、糸を強く引き過ぎると本紙を破ってしまう。綴じ糸を引く際は、指でしっかり押さえておくこと。
テープやコードに沿って綴じる。綴じ穴3の外側から針を通し、括の内側に糸を引く。綴じ穴4に向かって糸を引く。

括の内側から綴じ穴4に針を通し、括の外側へ糸を引く。
同様に綴じを繰り返し、綴じ穴6のケトル・ステーションの括の外側に糸が出るまで進める。

括の外側に糸を引く。必ず綴じ方向に糸を引くこと。
2) 外れた括をラップ・リンク・ステッチで綴じる
次に、外れた括を綴じる。
一つ目と二つ目の括をクリップで留めておくと、綴じの最中に括の真ん中を探しやすいので便利である。

2括目の外側から綴じ穴6(ケトル・ステーション)に針を通し、括の内側に糸を引く。

ここで2つの括がケトル・ステーションで繋がった。
テープやコードに沿って綴じを進め、綴じ穴1のケトル・ステーションの外側に糸が通るまで進める。

片手で2本の糸端をつまむ。そっと糸を引いて、糸のたるみをなくす。

一つ目と二つ目の括を綴じ終えたら、両糸端をスクエア・ノットで結ぶ。

3) 2つ目の外れた括を綴じ合わせる
本体に次の括をのせ、必要であれば2つ目と3つ目の括をクリップで留めておく。
3括目の外側から綴じ穴1(ケトル・ステッチ)に針を通し、括の内側に糸を引く。

テープやコードに沿って綴じ穴6の括の外側に針が通るまで綴じを進める。

本紙を破らないよう、必ず綴じ方向に糸を引く。
4) ケトル・ステッチ
こうして綴じ穴6で2つの括が綴じ合わさった。ここにはスクエア・ノットをするもう1本の糸はないので、2括を隣の括に接合させるため、ケトル・ステッチを行う。
綴じ穴6の始めの2括に渡っている糸の後ろに針を通す。
直径1cm程度の輪ができるまで、糸を引く。
その輪に針を通し糸を引く。

この括で綴じが終了の場合は、ケトル・ステッチをもう一度行い、2.5cm程度の糸端を残して糸を切る。
次にまた括を綴じる場合は、その括の綴じ穴6に針を通す。前述の工程を進めて綴じていく。
注意:綴じ方向は逆になるので、綴じ穴の番号を逆に辿っていく。
最後の括を接合したら、ケトル・ステッチを2度行い、2.5cm程度の糸端を残して糸を切る。1括目の綴じ穴1の糸も2.5cm程度の糸端を残して糸を切る。
本体の綴じ直しが完了した。背にライニングや寒冷紗の貼り付けが必要な場合は、前述の「Ⅵ. 上級修理 C. 本体をカバーにくるみ直す」の項を参考にするとよい。必要であれば表紙を修理し、本体と表紙を接合する。
G. 特定の本の修理計画
損傷した本を1箇所の修理だけで復元するのは困難な場合が多い。不適当な構造で綴じられていたり、再利用不可な素材を用いられていることもある。修理方針を立てる際には、修理する箇所や、修理に使用する素材の性質や、構造の利点と欠点を検討する。
まず本の構造を調べ、なぜ修理が必要か、過去に修理が行われたかを確認する。そして以下の点を確認する。
●本の機能性はどんな具合か? 括構造であるか? 無線綴じかステープラー綴じか?
●なぜこの構造では良くないのか? オリジナルの製本に構造に問題があったのか? 過去の修理が損傷を引き起こしたのか?
●過去の修理がある場合、不適当な素材が用いられたのか? 今回修理に使用する素材は適当であるか?
●本の利用中に損傷した場合、修理は有効であるか? 修理しても再び壊れることはないか?
●オリジナルの製本方法が不適当な構造である場合や、本紙の紙力がない場合、館内の修理でまかなえるか? 厚みのある無線綴じの場合、館内での修理は困難である。
●修理前の本の機能性と、修理後の本の機能性を想像してみる。
他の図書館員や修復家にも手当てについての意見を聞いてみると良い。だが、本の修理は図書館員の専門分野ではないことを心得ておく。また、本に損傷を与えた素材についても注意を払うべきである。
本の修理やコンサベーションについての文献を読み、何度か処置を練習した後、再度解説を読むと、より理解が深まる。
Ⅶ. 図書館蔵書の管理
いずれの図書館においても、資料を健全に保ち、閲覧を可能にするために、資料の正確な取り扱いと手当てが必要である。方法を選び、習慣化することで図書館蔵書を長持ちさせることができる。
A. 透明プラスチック粘着テープ
透明プラスチック粘着テープの危険性については、前述の「Ⅱ. 基本情報 C. 紙の修理材料」の項を参照するとよい。
B. ポスト・イット
ポスト・イットは図書館資料のブック・マーク(栞)としてよく利用されている。だが、資料を傷めるので、できる限り早く止めるべきである。実際、ポスト・イットの使用は、プラスチックテープの使用と何ら変わりない。ポスト・イットは剥がすのが簡単ではあるが、長期間貼り付けたままにしておくと、剥がした後に本紙に接着剤が残り、ホコリを寄せて本紙を変色させるなどの損傷を引き起こしてしまう。
C. コピー機
コピー機は時間の節約もできて大変有効ではあるが、資料には多大な損傷を与えるものでもある。
本の背は必ずしもどれも柔軟性があるとは限らない。現代の本で接着剤が使用されているものは、非常に硬く崩れやすい。オーバーソーイングされた本の背は、タイトバックでの形態である。こうした本をコピー機に押し当てると、背に大きな負担がかかり損傷の原因を引き起こすことになる。
重量のある本は特にコピー機による損傷を受けやすい。持ち上げてページをめくり、コピーをすることで、ヒンジ部分と本体の背に大きな負担をかけてしまう。また、落としたり、誤って破ってしまうこともあり得る。
閲覧者によるコピーが多い場合は特に注意が必要である。資料の保護のため、コピー機の利用のためのガイドラインを立てることが有効である。
●閲覧者や図書館員の取り扱い方に注意を注ぎ、本の背をコピー機に押し当て過ぎている人には、説明をして理解を求める。本に損傷を与えたい人はまずいないはずである。
●脆弱な本や損傷を受けている本のコピー機の利用は避けたほうが良い。貴重書である場合は特に避けた方が良い。
●新規にコピー機を買い換える際は、本のコピーに特化したものの購入も検討するとよい。このコピー機であれば、本を完全に平らに開かずに複製がとれる支えがあるので、背への負担を軽減できる。

