『館内で本を修理する』 (17)
アルテミス・ボナデア
(伊藤美樹 訳) 2009/07/30
Ⅶ. 図書館蔵書の管理 続き
D. 棚入れ方法
館内においてでさえ、本は乱暴に扱われる場合がある。本棚から天側の背を引っ張って取り出されたり、本棚の窮屈な隙間に押し込まれたり、天地の高さが本棚よりも高いために前小口を下にして棚入れされる場合がある。図書館で使用されるブックエンドは、本の重みを十分支えられないものがあるため、本が不安定な角度に傾いてしまうことがある。
1. 本棚から本を取り出す
本は背を引っ張って本棚から取り出すべきでない。特に古い本の場合、背の表紙クロスが弱り破いてしまうことがある。
手間はかかるが、本を本棚から取り出すひとつ目の最善の方法として、ブックエンドを緩め、目的の本の周りの本を本棚の奥に少し押してから、目的の本を握って取り出す。本棚の奥に押した本達を元の位置に戻し、ブックエンドを添える。
ふたつ目の方法は、より実用的である。窮屈に並べられている本の場合、ブックエンドを緩めたら、天側の背を引くのではなく、人差し指を本の天側から2.5cm程のところに当て、本棚から引き出す。
本棚から取り出す際に最も重要なのは、無理に引っ張り出さない事である。
2. 本を本棚に戻す
本を本棚に戻す場合も、決して窮屈な棚に無理に押し込まないこと。必要であればブックエンドを緩め、そっと周囲の本達をずらし、本を戻し、ブックエンドを添えなおす。
ブックエンドも扱いによっては本を傷めてしまう。ブックエンドはとても薄く、本棚で本達に紛れやすいので、本の出し入れの際には注意すること。
3. 本の傾き
適切なブックエンドで本をしっかり支える。不適当な支え方の場合、本は不安定に傾き、ヒンジ部分に大きな負担をかけてしまう。
4. 前小口を下にして本棚に収める
本棚よりも大きな本の場合、前小口を下にして収められる場合がある。この慣習は本にとって致命的である。前述の「Ⅱ. 基本情報 A. 本の構造と構成」にあるように、ほとんどの現代の本の本体は、寒冷紗と接着剤でくるみ表紙に接合されているだけである。前小口を下にして本棚に収められると、常に重力が本の本体にかかり、表紙との接合に負担をかけてしまう。本が本棚よりも大きい場合は、大型本用の棚の導入を検討すると良い。
5. 大型本
大型本の取り扱いは図書館において課題である。最も適当な方法は、本棚に横に寝かせると良い。配架番号順に横に寝かせた大型本用の棚を用意している図書館もある。また、本棚の下段を大型本用の棚に決め、寝かせて置いているところもある。
本を寝かせて収めることで、扱いが不便な場合がある。閲覧者が重ねて寝かせた本の下の方の本を請求している場合、その本を引っ張り出しがちである。目的の本の上に乗っている本達を、空いた棚に一時的に除け、目的の本を取り出してから元に戻す。再び本を本棚に戻す場合も同様の方法で行う。
E. ステイプルとクリップの除去
ステイプルとクリップは、錆びてきた際や、コピーをとる際、パンフレット綴じをする際に、除去する必要がある。正しい道具の利用で、本紙を傷めることなく手早く取り除くことができる。
1. ステイプルの除去
昔ながらの、両あごステイプル・リムーバーは本紙を傷めやすい。

ステイプル・リムーバーはステイプルのわたり部分を押さえ、ステイプルの両脚を本紙から引き抜く。
本紙が薄い場合や弱い場合、ステイプルが取れる前に本紙を破ってしまう。本紙が厚い場合や強い場合は、ステイプルの脚が抜けるまで耐えられる。ステイプルの脚が抜ける際も本紙に大いに負担がかかってしまう。

特定の角度のついたステイプル・エキストラクターやオイスター・ナイフといった道具で、本紙を傷めることなく除去できる。

ステイプルの裏側のそれぞれの脚の下に、オイスター・ナイフの先を差し込み、そっと脚を持ち上げる。

括の外側に糸を引く。必ず綴じ方向に糸を引くこと。
2) 外れた括をラップ・リンク・ステッチで綴じる
次に、外れた括を綴じる。
一つ目と二つ目の括をクリップで留めておくと、綴じの最中に括の真ん中を探しやすいので便利である。

ステイプル・エクストラクターは製本修復用具店でも扱っているが、オイスター・ナイフの方が大抵の台所用品店でも扱っており、手ごろである。
2. クリップの除去
紙の束をまとめるのにクリップを用いるのは考えものである。長期間クリップで留められたままでは、錆びや、本紙をを傷めてしまう。本紙からクリップを外す際に本紙を破ってしまわないよう注意が必要である。
本紙を傷めずにクリップを取るには、慎重にクリップを開くことが大切である。
クリップの短い輪の方を上にして作業台にのせる。
クリップの長い輪を本紙の上から押さえる。

反対の手の親指でゆっくり短い方のクリップの輪を持ち上げる。スパチュラやステイプル・リムーバーでもクリップの短い方の輪を持ち上げることができる。

クリップが錆びている場合、本紙とクリップの間(両面とも)にワックスペーパーを挟みんでから、除去作業をする。
F. ペーパー・バックとリング製本の本
近頃の雑誌や文芸書は、ペーパー・バックやリング綴じのものがほとんどである。こうした本の保管や閲覧は、特に注意が必要である。
1. ペーパー・バック
多くの図書館で、大量のペーパー・バックの本を所蔵している。残念ながら、ペーパー・バックの本は構造上の問題で修理を要することが多い。ペーパー・バックの本は修理されることを前提に構成されていないので、修理を試みても、図書館員の時間のロスになりストレスが溜まる。
ぺーパー・バックの本はペラの本紙を接着剤で接着されているため、修理の際に大きな問題をかかえる。図書館製本家による、柔軟な接着剤を用いたダブル・ファン・バインディングとは違い、量産されたペーパー・バックの本の構造は応用に欠ける。ファン・バインディングにもなっておらず、使用される接着剤も速乾性だけを重視した、脆くなりやすいものである。
高品質なペーパー・バックの本は、括を綴じて構成されているので、括構造のハード・カバーの本と同様に修理できる、
莫大な数のペーパー・バックの蔵書を持つ図書館の選択肢として。
●小型や薄いペーパー・バックの本は、後述のパンフレット綴じで保管できる。
●参考図書のような貴重書のなかにペーパー・バックがある場合、書庫に収める前に館内で補強するか、または利用の前に図書館製本家に預けると良い。
●貴重書ではないペーパー・バックが緊急の利用を請求されている場合は、最小限の修理や補強を行う。すでに修理を行ったことのあるペーパー・バックや、除籍対象のものや、代替の予定があるものは、利用の前に補強や綴じ直しを行う。ペーパー・バックは修理を前提に構成されていないので、修理の繰り返しは避けたほうが良い。
●ペーパー・バックの本が最小限の利用の対象である場合は、最小限の補強と修理を行う。
ボードと和紙でペーパー・バックの本を補強する
自然な折れ線で表紙を開き、ヘラで折り目をつける。
おもて表紙と、うら表紙の内側の情報をコピーにとる。コピーしたものをトリミングし、本体に貼り込む。
2.5cm幅の和紙の短冊で表紙のヒンジを補強する。短冊の幅の4分の1を本体に貼り、4分の3を表紙に貼る。表紙を開いたまま重しをのせて乾燥させる。

薄いボードを2枚用意する。ボードは、表紙と天地の長さを同寸に、よこ幅は表紙よりも5mmほど短くしておく。
ボードの片側にPVAを塗り、その面を上にしてボードを本体にのせる。ボードの天地側と前小口側の位置を確認し、表紙をそっと閉じる。ボードは表紙よりも5mmほど短くしてあるので、表紙のヒンジ側とは揃っていない。

ヘラでボードと表紙を接着させる。
反対側の表紙も同様に貼り付け、重しをのせて乾燥させる。
透明プラスチックテープでペーパー・バックを補強する
ペーパー・バックの本の保護と補強のための透明プラスチックテープが、図書館用品店でよく扱われている。ペーパー・バックの蔵書の保護に、こうしたプラスチックカバーが役立つことがある。
こうしたカバーは貴重書や代替のないものには利用するべきでない。プラスチックカバーを用いた本は、綴じ直しがきかないので注意する。
プラスチックカバーは柔軟性のあるものを選ぶこと。カバーに加えられた堅さにより、背と本体の間に大きな負担をかけてしまう。ヒンジにかかる負担がかかり過ぎると、本体と表紙が外れてしまう。
こうした量産の表紙には、テープを利用した表紙と本体の接合の補強がつきものである。くれぐれもカバーのヒンジ部の補強には柔軟性のあるものを選ぶこと。テープが柔軟でないと、本紙のめくりに支障が出てしまい、めくりに自由がきかなくなると、テープの端のあたりで本紙に折れ線がつき、そこから破れてくる。
リング製本
リング製本による補強で寿命を延ばすことができる。この方法はミシガン大学図書館で生み出され、タイベックと呼ばれる製品が用いられた。タイベックとは、強度のある軽量のポリエステル製の破れない‘紙’である。タイベックとPVAはよく似た化学的な性質であり、接着がよい。
タイベックは図書館用品店や画材店で取り扱っており、また郵便局で購入できるタイベック製封筒を使いまわすこともできる。その際は、印刷面を下にして使うとよい。
おもて表紙とうら表紙の内側の情報をコピーにとる。とったコピーをトリミングし、本体に貼り込む。
2枚のボードを用意する。
天地の長さ=表紙と同寸
幅=リングから前小口の長さより5mm短く
ハサミで天地側と真ん中のリング3つを切る。切る数は、本の大きさや重さにより調節する。
リングを切ってできた隙間よりも少し幅の狭いタイベックの短冊を、その隙間にPVAで本体にかけて貼り付ける。

PVAをそれぞれのボードに塗り、天地と前小口の位置を確認して、おもてと裏の表紙を接着させる。
必要であれば、効き紙を作っても良い。ボードと同寸の効き紙を用意し、ボードを貼り付け、重しをのせて乾燥させる。

