何で書くか?―資料保存のための 水性ペン
木部徹 2006/08/18
1. 封筒やラベルへの筆記に使えるインキは?
資料整理の時に、収納する箱や封筒、あるいはラベルに資料の表題や出納番号などを手書きで記すことはよくある。そこで、「長期の安定性が確認された筆記具はありませんか?」 というご質問をよく受ける。「水性ならば、顔料系で耐光性を明示している黒いインクのものならばたいてい大丈夫です」とお答えしてきたが、もう一歩踏み込んだデータが欲しい、という要望には応えられなかった。
今回、いくつかの「水性顔料インクを使ったペン」 のメーカーにお願いしたところ、株式会社サクラクレパス様から同社の「サクラピグマ」で丁寧な回答を得たので、以下に紹介する。

この商品は「サクラピグマ」という名称である。海外では「アーカイバルな品質を持つ水性ペン」として資料保存の分野では知られている。品質確認もアメリカ国立公文書館他で行われており、アメリカ自然科学博物館による次のような試験結果があきらかにされている。
Rose M. Wood and Stephen L. Williams, "An Evaluation of Disposable Pens for Permanent Museum Records," Curator 36/3 (1993): 189-200.
ピグマには0.05 ~3 ミリまでの太さが揃っており、使いやすい。
水性顔料ペンはたいていの文房具屋で手に入る筆記具だが、日本ではこうした試験が行われても公にされることがすくなかった。
2. ピグマの品質データ
下記のデータは、ISO14145(JIS S6054) 水性ボールペンの公文書用の品質性能の規格に基づく筆記線の試験で規格を満足していることを示すものである、と同社では説明している。
| 品質項目 | 備考 | 評価 | データ |
| 耐光性 | ブルースケール5級露光 | 5段階評価 | 4~5 |
| 耐水性 | 耐水性(JIS S6037) | 5段階評価 | 3~5 |
| 耐薬品性 | ISO 14145 水性ボールペン準拠 | ||
| 耐エタノール | - | 5段階評価 | 5 |
| 耐酸性 | - | 5段階評価 | 3~5 |
| 耐アンモニア | - | 5段階評価 | 5 |
| 耐漂白 | - | 5段階評価 | 5 |
| 耐酸化還元 | - | ||
| pH 3 | - | 5段階評価 | 3~5 |
| pH 4 | - | 5段階評価 | 3~5 |
| pH | - | - | 8~10 |
各試験方法は注1を参照。上記表の「評価」および「データ」は次のようなものである。
【評価基準】
5:異常なし
4:少し変色している
3:元のインキの色が判読できる
2:完全に変色している
1:退色し判読できない
また、サクラクレパスからは、上記のデータとともに次のような回答が寄せられた。
ピグマインキに用いられている水溶性樹脂はアルカリ可溶性樹脂で、樹脂中のカルボキシル基アンモニアや有機アミンによって中和することで水溶性になっています。この段階ではインキはアルカリ性ですが、インキを筆記すると乾燥工程で水といっしょにアンモニアが揮発して樹脂は水に不溶化します。この乾燥工程は筆記後一分以内という短い時間に起こります。したがってペンには耐水性という表示をつけています。
pHは水に溶けるものについてだけ測定できるもので不溶性となった筆跡についてpHを測定することはできませんので、pHのデータはございませんが、上記のようなメカニズムから筆跡はほぼ中性と判断しております。
3. 戸籍簿と入国管理書類へのピグマの使用
公文書のなかでも、後々に紙の上の情報が消滅しては困るものの筆頭が戸籍簿等だろうが、法務局ではピグマの使用を認めている。
4850 サインペン「ピグマ」により戸籍簿等に記載することの可否について
(昭和五十九年三月十六日付け戸第一八三号宮崎地方法務局長照会、同年七月十六日付け法務省民二号第三五九九号民事局長第二課長回答、同日付け法務省民二、第三、六〇〇号各法務局民事行政部長、地方法務局長あて民事局第二課長通知)
(通知) 標記の件について別紙甲号のとおり宮崎地方法務局長から照会があり、別紙乙号のとおり回答しましたので、この旨貴管下支局長及び市区町村長に周知取り計らい願います。
(別紙乙号) 本年三月十六付け戸籍第一八三号をもって照会のあった標記の件については、照会の用具による戸籍簿等の記載を認容して差し支えないものと考えます。
一、外国人登録事務におけるピグマペンとリソーオーケーペンの使用について
(昭和60年2月16日付け法務省管登278回答)
照会に係る筆記用具による原票・登録証明書jへの記載を認めて差し支えありません。
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耐光性
連続筆記によって作成した筆記見本または色度測定で測色後の試料をカーボンアークフェードメーターによって露光させた変退色の判定を行う。なお連続筆記できない場合は【K色度-*】と同様に作成した試料を使用する。露光時間はブルースケールを同時に露光させブルースケールの変色度合いを見ながら決める。露光時間は銘柄毎に設定する。
<フェードメーター試験条件>
温度 63±3℃
相対湿度 50% 以下
<評価基準>
標準光源下において下記の標準と目視で判断する。
変退色用グレースケールにより9段階評価(1~5号)とする。
水性耐水性
[ 紀州上質紙64g連続筆記用紙] に連続5回手書きで螺旋状に筆記し、試料を2等分してブランクと試験片にする。筆記後1分放置した試料の下の方を静水中に1時間浸した後、取り出し筆記線の状態を調べる。
<評価基準>
5: 滲みが出ない(退色しない)
3: 滲みがあるが筆跡が判読できる(退色)
1: 滲みがあり筆跡が判読できない(完全退色)
耐薬品性
連続筆記にて作成した筆記見本を試料として2等分してブランクと試験片とする。
(1)耐エタノール性
筆記1時間後、試験片をエタノール水溶液(50vol %) 中に10分間浸漬し乾燥後筆記線の状態を調べる。
(2)耐塩酸性
筆記1時間後、試験片を塩酸水溶液(10wt %) 中に24時間浸漬し乾燥後筆記線の状態を調べる。
(3)耐アンモニア性
筆記1時間後、試験片をアンモニア水溶液(10wt %) 中に24時間浸漬し乾燥後筆記線の状態を調べる。
(4) 耐漂白性
筆記1時間後、試験片を漂白液(クロラミンT水溶液 30wt %) 中に24時間浸漬し乾燥後筆記線の状態を調べる。
(5)耐酸化還元性(公文書の対象外)
試験片を塩酸で弱酸性(pH 3, pH4)とした2%過マンガン酸カリウム溶液に10分間浸漬し、その後水洗し、15%亜硫酸水素ナトリウム溶液に試験片の紙が脱色するまで浸漬し、この紙を取り出し10分間水洗した後乾燥させ筆記具の状態を調べる。
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