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スポット・テスト-資料の性質を簡便につかむ

スポット・テスト-資料の性質を簡便につかむ

小谷尚子 2006/06/12

はじめに

目の前の傷んだ資料が、なぜ現在この状態で存在するのか、また、それを癒すにはどのようにすればよいのかを考える場合、資料の保存環境などの因子だけでなく、資料そのものの物質的な構成やその成分と、化学的な性質を知ることは非常に重要である。それらは処置方法の検討や今後の保存計画に密接に関係する。成分分析などを行なう際、精密な検査を求めるならば専門的な分析機器を必要とするが、補修等の方向性を見定めたい時などにおいて、資料の持つ性質を簡便な方法で極めて短時間で判断できる手法としてスポット・テストがある。資料に試薬を滴下し、その様子を観察する手法である。試薬が直接、資料に付くために破壊的な検査になるが、簡便さと速さが利点であり、状況に応じて有効的に使用できると考えられる。

以下に、紙媒体資料のコンサベーションで使われる7種類のスポットテストを詳説する。

1.リグニンの検出

対象
紙、繊維、木材などに含まれるリグニン

原理
フロログルシノール溶液が砕木パルプなどリグニンを含む繊維を染色する。呈色の色の濃さはリグニンの含有量に比例する。

使用器具、装置

試薬*:(*薬品取り扱い上の注意、危険性、保護具、保管方法などについてはリンク先MSDSを参照のこと)

試薬の調整
フロログルシノール溶液(約5% w/v)…メタノール15mlと蒸留水15mlの混合溶液にフロログルシノール0.25gを加え、その後、塩酸15mlを加える。

サンプリング
繊維あるいは小片を採取、または資料中の目立たない箇所をテスト箇所とする。

手順
1. フロログルシノール溶液をサンプルに滴下する。
2. 1分待ち、呈色を確認する。

観察と解説
Positive→マゼンタ(赤紫)~紫色
Negative→変化なし

サンプル中に含まれるリグニン量が多い場合、試薬はマゼンタ~紫に呈色する。リグニン量が少量の場合、色の変化も弱くなるためルーペや顕微鏡下で観察した方が良い。また、試薬はメタノールを含むためスポット部分が広がりやすい。

<写真左>左:Negative 中央:微量のリグニンを含む。 右:Positive
<写真右>中央サンプルの拡大図。リグニンを含む繊維がごく少量混在していることがわかる。

試薬の保管について
作成したフロログルシノール溶液を保管する際は、遮光瓶を使用するか試薬瓶にアルミホイルを巻くなどして光を避けること。その他使用した薬品の注意点などは”試薬”項目の各MSDSを参照のこと。

参考文献
Nancy Odegaard; Scott Carroll; Werner S. Zimmt, “Material characterization tests for objects of art and archaeology”, Archetype Publications, 2005, p.156-157

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2. ロジンの検出 (Raspail test)

対象:
アラムロジンサイジングなど

原理:
砂糖(スクロース)の存在下において、ロジンが硫酸に触れると赤い生成物を生じる。

使用器具、装置:

試薬*:(*薬品取り扱い上の注意、危険性、保護具、保管方法などについてはリンク先MSDSを参照のこと)

試薬の調整:
・飽和ショ糖溶液…25mlの蒸留水へ、少々溶け残る程度に十分な量(約35~40g)の砂糖を加える。一晩置いた上澄みを使用する。

サンプリング:
小片を採取する。

手順:
1. プレート上のサンプルに飽和ショ糖溶液を滴下する。
2. 約10秒後に過剰の糖液をろ紙などで拭き取る。
3. サンプルに濃硫酸をガラス棒などで塗布する。
4. 呈色を確認する。

観察と解説:

Positive→ラズベリーレッド
Negative→変化なし、茶色

呈色は、ロジンが新しい場合は早く現れ、また塗布した硫酸の境界から滲むように現れる。また、飽和ショ糖溶液が多すぎる場合には硫酸とショ糖の反応により茶色を示す。このテストで炭化が見られた場合、砕木パルプの存在を示す。

<写真>左:Negative 中央:砕木パルプによる炭化 右:Positive

試薬の保管について:
密栓して冷暗所に保管。その他使用した薬品の注意点などは”試薬”項目の各MSDSを参照のこと。

参考文献:
Nancy Odegaard; Scott Carroll; Werner S. Zimmt, “Material characterization tests for objects of art and archaeology”, Archetype Publications, 2005, p.158-159

W.J.Barrow Research Laboratory, “Permanence/Durability of the Book-VI”, The Dietz Press, 1969, p.13

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3. アルミニウム・イオンの検出

対象:
アラムサイジング、ドーサなど

原理:
アルミニウム・イオンがアルミノンと反応し赤色レーキ沈殿を生じる。

アルミノンの構造式

使用器具、装置:

試薬*:(*薬品取り扱い上の注意、危険性、保護具、保管方法などについてはリンク先MSDSを参照のこと)

試薬の調整:
・アルミノン水溶液(0.1%)…蒸留水100mlにアルミノン0.1gを加える

サンプリング:
小片をプレートに準備、あるいは資料へ直接行なうこともできる。

手順:
サンプル紙片またはテスト箇所に試薬を細いライン状にのばす、あるいは滴下する。スポット乾燥後に呈色を確認する。
(多少の液溜りが見られるくらいの量の方が結果がわかりやすい。元から薄いピンク色の試薬を使用し、呈色はその濃淡で表れるため結果が判りづらい。結果の判っている中性紙と酸性紙などを同時に同じ操作でテストし比較するなど基準を作ると判別しやすい。)

観察と解説:

Positive→明るく鮮やかなピンク~深いピンク
Negative→淡いピンク色のまま、あるいは無色
鉄の検出→深い紫

赤またはピンクに呈色した場合はアルミニウムイオンの存在を示している。スポット箇所は時間と共に呈色が濃く現れ、アルミニウムイオンが存在しない場合は時間と共に色が薄くなる。
注:ピンクに紫が含まれているような呈色の場合、鉄とアルミの両方を含むことを示している。また、アルミノン溶液は呈色の様子をみながら、必要があれば濃度を調整して使用すること。

<左>試薬を塗布したところ。上部の線は水ペンを用いて薄くひき、下部は液溜りをつけた。呈色の濃さは試薬の量に左右されるため、液量は比較サンプルと同量にする。 < 中>液溜りの様子  <右>乾燥後。左:Negative 右:Positive

試薬の保管について:
密栓して冷暗所に保管。その他使用した薬品の注意点などは”試薬”項目の各MSDSを参照のこと。

参考文献:
Nancy Odegaard; Scott Carroll; Werner S. Zimmt, “Material characterization tests for objects of art and archaeology”, Archetype Publications, 2005, p.34-35

W.J.Barrow Research Laboratory, “Permanence/Durability of the Book-VI”, The Dietz Press, 1969, p.12

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4. タンパク質の検出

対象:
にかわ、ゼラチンなど

原理:
タンパク質は、多数のアミノ酸が自身のカルボキシル基と、隣接するアミノ酸のアミノ基が脱水縮合して形成されたアミド結合により連結している。タンパク質にみられるアミド結合をとくにペプチド結合とよぶ。タンパク質の検出反応の一つにビウレット反応があるが、反応で検出するのはアミド結合である。水酸化ナトリウム水溶液を加えたタンパク質に、硫酸銅(Ⅱ)水溶液を加えるとペプチド結合中の窒素原子が銅イオンに配位結合し、赤紫色の錯体を形成する。

使用器具、装置:

試薬*:(*薬品取り扱い上の注意、危険性、保護具、保管方法などについてはリンク先MSDSを参照のこと)

試薬の調整:  
・硫酸銅(Ⅱ)水溶液(2%)…25mlの蒸留水に0.5gの硫酸銅(Ⅱ)を加える。
・水酸化ナトリウム水溶液 (1.0mol~1.2mol)…市販1.0M水酸化ナトリウム溶液を使用。または、5%溶液(約1.2mol)を以下の手順で作成。25mlの蒸留水に1.25gの水酸化ナトリウムを加える。水酸化ナトリウムを水で溶かす際は発熱を伴なうため注意すること。

サンプリング:
テスト箇所から、試験に足りうる少量の紙繊維を採取する。可能であれば欠片などを試験片とする。

手順:
紙での場合
1. サンプルに硫酸銅(Ⅱ)水溶液を滴下する。
2. 数分待つ。
3. 余剰分の硫酸銅(Ⅱ)水溶液をろ紙などで拭き取る。
4. 同じ場所へ水酸化ナトリウム水溶液を滴下する。
5. 呈色を確認する。

紙以外でのタンパク性物質
1. 小片をサンプルとして採取し、テストプレートに置く。
2. 硫酸銅(Ⅱ)水溶液を滴下する。
3. 数分待つ。サンプルが溶液を吸収すると薄く青みがかる。
4. 余剰分の硫酸銅(Ⅱ)水溶液を拭き取るなどして除く。
5. サンプルに水酸化ナトリウム水溶液を滴下する。
6. 呈色を確認する。

観察と解説:
Positive→赤紫色~すみれ色
Negative→青色~水色
タンパク質存在の有無を調べるこの試験において、薬品の濃度を厳密に遵守する必要はない。ものによっては反応に1時間を要する場合がある。青い色は硫酸銅と水酸化ナトリウムの反応によるものであるため無視してよい。サンプルが非常に小さい場合は顕微鏡下で観察を行なう。

薬の保管について:
硫酸銅(Ⅱ)水溶液、水酸化ナトリウム水溶液はともに密栓して安定した環境に保管する。硫酸銅の廃液は業者へ委託するなど適切に処理すること。その他使用した薬品の注意点などは”試薬”項目の各MSDSを参照のこと。

参考文献:
Nancy Odegaard; Scott Carroll; Werner S. Zimmt, “Material characterization tests for objects of art and archaeology”, Archetype Publications, 2005, p.144-145

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5. デンプンの検出

対象:
サイジング、接着剤などに含まれるデンプン

原理:
よう素デンプン反応。デンプン分子のらせん構造の中によう素分子が入り込むことで呈色する。

使用器具、装置:

試薬*:(*薬品取り扱い上の注意、危険性、保護具、保管方法などについてはリンク先MSDSを参照のこと)

試薬の調整:
よう素よう化カリウム溶液…5mlの蒸留水に0.9gのよう化カリウムを加えて作成したよう化カリウム溶液に0.04gのよう素を加える。よう素が飽和するまで溶けるのを待ち、溶液に35mlの蒸留水を加え希釈する。

サンプリング:
資料中の選定したテスト箇所、あるいは繊維や小片を採取する。

手順:
紙の場合
1. サンプルによう素よう化カリウム溶液を滴下する。
接着剤などの場合
1. サンプルをすりつぶすなどして粉状にする。
2. テストプレートに置く、あるいはキャピラリーチューブ(試験管など)に入れる。
3. サンプルによう素よう化カリウム溶液を滴下する。

観察と解説:
Positive→濃い青色
Negative→淡い青色など、濃い青色以外

デンプンが存在すると濃い青色が現れる。

左:炭酸カルシウムを水で溶いたもの、右:正麩糊。

試薬の保管について:
密栓して冷暗所に保管。よう素よう化カリウム溶液は光を避ければ1ヶ月ほど保存できる。その他注意点などは”試薬”項目の各MSDSを参照のこと。

参考文献:
Nancy Odegaard; Scott Carroll; Werner S. Zimmt, “Material characterization tests for objects of art and archaeology”, Archetype Publications, 2005, p.128-129

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6. 酸性度の確認

対象:
紙媒体資料全般

原理:
クロロフェノールレッドによる呈色

使用器具、装置:

試薬*:(*薬品取り扱い上の注意、危険性、保護具、保管方法などについてはリンク先MSDSを参照のこと)

試薬の調整:
蒸留水1000mlにクロロフェノールレッド0.42gを加える。

サンプリング:
資料のテスト箇所、あるいは小片を採取する。

手順:
1. プレート上のサンプルあるいは資料のテスト箇所へ、薬滴あるいはガラス棒などで、作成した試薬を細長く塗布する。このラインは2~3cmが望ましく、できるだけ液溜りはないほうが良い。
2. 試薬の乾燥を待ち、呈色を確認する。

観察と解説:
pH 6.0以下→黄色
pH 6.0~6.7→黄緑色、緑色、灰色
pH 6.6以上→紫色
簡易的に紙の酸性度を測る、pHチェックペンと原理は同じである。ここでチェックしたpHは目安として使用できるが、値が疑わしい場合や正確さを求める場合はpHメーターなどを使用して測定すること。

左:酸性上質紙 pH4.2  中:学術誌 pH6.2  右:コピー用紙 pH7.3
上の細いラインは水ペンを用いてひいたもの、下の太いラインは薬滴を用いてひいたもの。液量によって色の濃さは変わるが色調の変化はないことがわかる。

試薬の保管について:
密栓して冷暗所に保管。その他注意点などは”試薬”項目の各MSDSを参照のこと。

参考文献:
W.J.Barrow Research Laboratory, “Permanence/Durability of the Book-VI”, The Dietz Press, 1969, p.11-12

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7. 炭酸カルシウムをはじめとする炭酸塩化合物

対象:
紙中の填料など

原理:
炭酸カルシウムの場合、塩酸と反応して二酸化炭素を発生する。

使用器具、装置:

試薬*:(*薬品取り扱い上の注意、危険性、保護具、保管方法などについてはリンク先MSDSを参照のこと)

試薬の調整:
・希塩酸(1molあるいは約4%)…・市販1mol/L塩酸、あるいは濃塩酸を希釈。濃塩酸を希釈する場合、蒸留水100mlに濃塩酸4mlを加える。決して濃塩酸に水を滴下しないこと。

サンプリング:
小片を採取する。

手順:
1. サンプルを蒸留水に浸し、サンプル中の空気を抜く。
2. 希塩酸にサンプルを浸す。

観察と解説:
Positive→表面から気泡が発生
Negative→変化なし
炭酸カルシウムをはじめとする炭酸塩鉱物が紙中に含まれている場合、サンプル中から気泡(二酸化炭素)が発生する。

試薬の保管について:
密栓して冷暗所に保管。その他使用した薬品の注意点などは”試薬”項目の各MSDSを参照のこと。

参考文献:
W.J.Barrow Research Laboratory, “Permanence/Durability of the Book-VII”, The Dietz Press, 1974, p.37

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