紙を安全に洗う―クリーニング・ポケット法
2011年6月17日
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はじめに
紙を洗う---これはコンサベーションにおける最も重要な処置の一つである。変色や染みなどが軽減されるほか、経年や利用によって紙の中に生成され、それ自体が劣化の原因にもなる水溶性の酸性物質が流れ出る(Kosek. 2011)。また、乾燥時に新たな水素結合が生じることで、紙の強度が戻るなどの効果もある(van der Reyden. 1992)。紙の「洗濯」は、紙の見た目を綺麗にするばかりでなく、紙の劣化に関わる根本的な問題への対処とも言える。
このように、洗浄は様々な利点を有しているが、処置におけるリスクもある。その一つとして、水を含んだ紙は極端に強度が低下し、不用意に扱うと破れや歪みが生じてしまうことが挙げられる。そこで、洗浄を行う場合、資料をポリエステルやセルロース系の不織布、またはナイロン製のネットなどのサポート材に挟んで処置するのが一般的である(Harnley, et al. 1990)。しかし、この方法を用いたとしても、資料を安心して洗浄できるほどしっかりとした保護にはならず、取り扱いには細心の注意を払う必要がある。また、酸性劣化やカビの影響で紙力が著しく低下した紙や、図面・ポスターなどの大型資料に対しては、取り扱いの難しさから、洗浄処置を行えないこともあった。
上記の問題を解決し、安全かつ効果的な洗浄方法を実現するため、弊社では「クリーニング・ポケット法」を開発し特許を得ている(特許第4721042号)。以下、その概要を述べる。なお、公開にあたり、非営利目的での使用であれば、クレジットを明示する条件で、技術を無償提供することにした。公的機関における使用は勿論のこと、今回の東日本大震災によって津波などの被害を受けた被災資料のうち、この方法が適用可能なものには、洗浄法の一つとして有効活用していただきたい。
クリーニング・ポケット法の特徴
クリーニング・ポケット法の特徴は、「フィルムと不織布で作ったポケットに資料を封入する」ということである。資料を保護素材に挟むだけでなく、ポケット内に封入することで、洗浄中に資料がむき出しになる心配が無い。さらに、保護性の高いフィルムで資料を覆うことで、水中での資料にかかる負荷が大幅に軽減される。「取り扱いにおけるリスク」と「資料への負荷」という問題を改善することで、従来の方法では難しかった脆弱な紙や大型資料の洗浄、また、大量の資料を一度に処置するということが可能になる(ただし、かなり泥が付着しているような資料には不向きである)。必要な素材は不織布とフィルムだけで、一度作ったポケットは何度も使うことができる。
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| カビの影響で紙力が低下した資料とその洗浄 | 大量の資料の洗浄 | |
作り方と使用方法
<作り方>
・フィルム(ポリエステル製、剛性が高くてコシのあるもの)
・不織布(ポリエステル製、空隙が多く水の通りが良いもの)
<材料>
1.フィルムと不織布を、資料より一回り大きくカットする。
2.資料を不織布で挟み、一番上にフィルムを重ねる(下図参照)。
3.周辺部を超音波で溶着する。簡易的な手法としては、ステンレス製のステープルで周辺部を留める。
4.水の通りを良くするため、ポケットの角をカットする。
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| クリーニング・ポケットの構造 |
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| フィルムと不織布 | 資料を挟む | 超音波による溶着 |
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| ステンレス製のステープルで留める | ポケットの角をカット |
<使用方法>
1.フィルム面を上にし、洗浄水に浸漬させる(水の浸透が悪い資料については、一度アルコールを混ぜた水溶液で濡らし、表面張力を落としてから浸漬した方が良い)。
2.洗浄後、吸水シートなどを用いて水分を吸収する。
3.そのまま乾燥棚等で乾燥させる。
4.乾燥後、溶着部をカットし(あるいはステープルを外す)、資料を取り出す。
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| 洗浄 | 余分な水気を吸い取る | 乾燥 |
参考文献
Harnley, M., Mear, C., and Ruggles, J.E. (1990), Washing. Paper Conservation Catalog, Vol.16
Kosek, J. (2011), Washing Paper in Conservation. In; Paper and Water – A Guide for Conservator, 313-339.
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