ホームスタッフのチカラ>「スタッフのチカラ」に出会う―資料保存器材見学記―

「スタッフのチカラ」に出会う―資料保存器材見学記―

「スタッフのチカラ」に出会う―資料保存器材見学記―

宇野淳子 (学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻博士後期課程)
2010/12/24

 

 

私が在籍している学習院大学大学院人文科学研究科アーカイブズ学専攻に「アーカイブズ・マネジメント論研究Ⅲ 記録史料保存論」という講義がある。安江明夫先生の講義が中心だが、簡単な紙のpH試験や紙資料補修実習など、実見や実習を大切にしている授業である。その一環として2010年11月19日に安江先生と受講者、学習院大学史料館のスタッフの計11名で株式会社資料保存器材を見学させていただいた。  

見学は、最初に代表の木部さんから事業の概要を伺い、一階で資料への直接的な保存修復手当て、二階でアーカイバル容器の製作を拝見し、最後に質疑応答、という流れで行なわれた。 木部さんによる概要は、一階では傷んだ資料を修復する(治す)様子を、二階では保護容器を作る(防ぐ)様子を見学できること、そしてこれにマイクロフィルム化やデジタル化などの代替(取り換える)を組み合わせて対応することが資料保存において一番経済的かつ合理的であるというお話から始まった。資料を扱う上では「治す」だけではなく、容器を用いることで資料が直接触れる保管環境を改善する等の「組合せ」が大事であり、利用に不都合がなければ「傷みがあっても敢えて治さない」ことを方針にしているとのことだった。  

一階では、Paper conservationについてスタッフの福島さんと久利さんに、Book conservationについて木部さんに説明いただいた。クリーニングや脱酸処理、リーフキャスティング、エンキャプシュレーションやその技術を支える劣化試験、コンサベーションのドキュメンテーションと、授業で習ったことを実際に見て確認したり、初めて知ることに驚いたりしながらの拝見となった。 個人的に印象深かったのは水性クリーニングである。汚れを落とすことは予想できたが、紙の中に蓄積された水溶性の酸性物質を抜くことには考えが及ばなかったからである。特許申請中のポリエステル不織布で包んでクリーニングすることで、資料を傷めずに大量処理できることも勉強になった。この方法は水濡れ資料にも対応できるそうで、日常の延長線上に災害対策があることを再認識することになった。

また、私に限らず見学者の皆が大いに関心を持ったのは処置報告書だった。例えば劣化資料の調査では、資料の形態、見開き度、綴じ等を基に傷みや酸性劣化などを提示するとのこと。同じ資料を扱う時の基礎データにも、同様の資料を扱う時のシミュレーション材料にも、資料保存器材の修復の記録にもなる大切な報告書である。この記録は社に保管されると同時に依頼主に渡されているそうで、その記録は依頼者側では原資料の重要な参考資料となり、かつ次に手当てが必要になった時に大いに役に立つ。  

 

 

 

二階ではまず、アーカイバル容器の作成を拝見した。ここで出てきたのは機械の活用。機械化というと一定の規格で大量に作成することを考えがちだが、CADを駆使したオートメーション機械の活用と、四半世紀に亘り培った手作業のノウハウをプログラミングしたことで、時間と作業者の手間、それらに伴うコストが下がり、様々なサイズと形状の容器の作成が可能になる。つまり機械が手作業の一部の代替や補完を行なっているように感じた。その差配を専門の方がなさっているからこそ、多様な形態やサイズ、用途に対応できるのだろう。拝見した様々な容器は、一つひとつ重さの負荷を織り込む等の考慮がなされていた。  

 

 

 

その後の質疑では、拝見したことや保存箱の換え時といった見学者の日常業務に係る様々な質問が出た。特に皆の印象に残ったのはP研、B研、箱研というPaper、Book、箱についての社内勉強会があり、スタッフが常に学んでおられることだった。技術の向上を支えるスタッフの方の意欲と熱意を強く感じた。  

保存論を教室で学ぶだけではなく、今回見学させていただいたことで、実際に目で見て、考えて、スタッフの皆様の思いに触れ、「保存」とは何かを各々が再考する機会となった。

お忙しい中、私たちの見学を受け入れてくださった資料保存器材の皆様、また丁寧にご説明くださいました木部さん、福島さん、久利さんに心より感謝申し上げます。



 

 

ページトップへ