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国立国会図書館様所蔵の地図資料に対する保存修復処置事例

2011年04月21日久利元昭

国立国会図書館様が所蔵するコレクションのうち、地図資料への保存修復処置をお引き受けする機会を得た。対象となったのは、明治後期~昭和初期に国が作成した地形図1,200枚である。いずれの資料も紙の酸性度が高く、一部のものについては紙力低下や変色なども見られた。これらを長期的に保存するため、脱酸性化およびエンキャプシュレーションを主とした保存修復処置を行った。以下、その概要を掲載する。

資料の状態

資料の寸法は460×580㎜前後のものが大半で、基材は材木パルプ紙。紙質、厚みには多少ばらつきがあり、なかには和紙による裏打ちがされているものもある。主なイメージ材料は印刷インクで、色鉛筆やペン、墨などによる書き込み、朱肉やスタンプも見られる。全ての資料にバーコードラベルが貼られており、その部分の本紙が変色しているものもある。大きな欠損や破れもなく状態は概ね良好だが、酸性劣化、酸化劣化による紙力低下や変色が生じている資料も幾つか見受けられる。また、周辺部の破れや折れに対し、和紙や粘着テープによる補強がされている資料もあり、粘着剤が劣化によって変色し、茶褐色の染みになっているものもある。

 

保存修復手当て方針

ドライ・クリーニング後にバーコードラベルと粘着テープを剥がし、破れや欠損部の修補を行う。酸性劣化の予防手当てとしてBookkeeper法による脱酸性化処置をした後、フラットニングを行い、最後に不活性のポリエステルフィルムに挟みエンキャプシュレーションする。

処置工程

①事前調査
処置前の資料の写真撮影および、寸法や劣化状態、使用されているイメージ材料などの調査を行った。

②ドライ・クリーニング
繊維が非常に細いクリーニングクロスを用いて、表面の埃や塵等を取り除いた。汚れが著しい部分については粉状のイレーザーを振りかけ、指の腹を使って優しく擦り、汚れを吸着させて除去した。

左が処置前、右が処置後の粉状イレーザー

③スポットテストとpH測定
基材の紙とインク等のイメージ材料へのスポットテストを行い、使用する水溶液と有機溶剤に対する耐性を確認した。処置前の平均pHは4.5で、いずれも酸性域だった。


バーコードラベル剥がし、粘着テープ除去
資料に貼られていたバーコードラベルを、温めたスパチュラなどを用いて粘着剤を軟化させながら慎重に剥がした。また、周辺部の破れや折れに沿って貼られていた粘着テープについても、物理的に剥がせるものは取り除いた。バーコードラベルおよび一部の粘着テープ除去後に残った粘着剤は、固形のイレーザーを使って取り除いた。


⑤修補

過去の裏打ちや和紙による修補で糊離れが生じている部分は、デンプン糊で糊挿しを行った。破れや折れ、紙力が低下している部分は、極薄の和紙(楮)を用いて補強した。


脱酸性化処置、フラットニング
Bookkeeper法による非水性脱酸性化処置を行った。Bookkeeperとは不活性液体に酸化マグネシウム微粒子が分散している液体である。これを、資料の両面から噴霧した。液中の酸化マグネシウム微粒子が紙中の繊維の間に入り込み、紙中および大気中の水分、二酸化炭素と結合して炭酸マグネシウムを形成する。この炭酸マグネシウムはアルカリバッファーとして紙中や大気中の酸性物質による劣化を予防する。Bookkeeper処置後、資料にわずかな水分を与え、濾紙に挟んでプレスした。脱酸性化処置後にフラットニングを行うことで資料が平らになるだけではなく、加湿によって噴霧時の噴きむらがなくなり、酸性物質に対するアルカリバッファーの効果を高めると言われている[注1]。処置後のpHは平均7.8で、弱アルカリ域まで上昇した。

[注1] ?Boone, Terry et al. (1998), Bookkeeper for Spray Use in Single Item Treatments. The Book & Paper Group annual 17.


エンキャプシュレーション
資料を不活性のポリエステルフィルムで挟み、周辺部を超音波でシールドし封印した。このエンキャプシュレーション処置により、資料を安全に利用することが可能となる。また、フィルムの周辺だけを溶着しているため、シールド部分をカットすれば容易に現物を取り出すことができる。ポリエステルフィルムは可塑剤、紫外線防止(吸収)剤、染料および含浸剤を含まず、表面塗工を施さないものを使用し、封印にはフィルムの端を残さない溶断法を採用した。なお、封印に溶着法を用いなかった理由としては、溶着法で行った場合に残るフィルムの余り部分が他の資料に引っ掛かるなど、利用時に支障をきたす可能性があると判断したためである(下図参照)。

溶断法 溶着法

 

完成

処置前 処置後

処置担当:久利元昭、高田かおる、蜂谷伊代、福島 希

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