スタッフのチカラ

アーカイブの紙資料の保存-理論と実践

2009年12月4日アラン・カルメス , ラルフ・シェーファー , キース・R・エバーハート , (木部徹訳)

Theory and Practice of Paper Preservation for Archives

Alan Calmes (Preservation Officer, National Archives and Records Administration)
Ralph Schoefer (Operations Research Analyst Center for Applied Mathematics National Bureau of Standards )
Keith R.Eberhardt (Mathematical Stsatician tatistical Engineering Division Center for Applied Mathematics National Bureau of Standard)

 

[ 以下は Alan Calmes, Ralph Schoefer and Keith R. Eberhardt: Theory and Practicc of Paper Preservation for Archives, Restaurator, Vol.9,No.3, 96-110 (1988.)の全訳である。『文書管理通信』(1996,9-10)に「文書館の紙資料の保存-理論と実践」として掲載された。今回、電子テキスト化するにあたって、若干の訳語の変更(例:文書館→アーカイブ)と訳文の訂正を行った。]

この電子テキストをPDFにしたものは → こちら

要旨

膨大な量の紙資料を保存する責務には確かに圧倒的なものがある。アーキビストはどこから始めたら良いかが、また、限られた資源をどう使ったら一番いいのかがわからないかもしれない。我々アーカイブの資料保存担当者や統計学者、オペレーション・リサーチ・エンジニアらは、学際的・業際的なアプローチによって、この困難な課題に立ち向い、理論と実践に貢献し、全体的な紙資料保存の問題を管理しやすく機能的な業務に置き換えるためのモデルを提示した。アメリカ国立公文書館(National Archives and Records Administration)と国立標準局(National Bureau of Standard)の調査研究に基づいて、次のようなアーカイブの資料保存の基本方策――サンプル調査、慎重な計画立案、保護容器への収納、原資料の代わりに複製物を利用すること、利用時に行なう資料の状態の点検、専門的な保存修復手当て―が導入された。

はじめに

本稿では、アーカイブの紙資料保存の分野における筆者たちの調査研究について述べるとともに、「国立アーカイブ(NARS)資料保存20年計画」[1]の展開のためにアメリカ国立公文書館と国家基準局とが3年間行なった研究の結果や、1986年の合衆国国立科学アカデミーの『歴史資料の保存』[2]についての知見をも併せて述べている。ここで述べている資料保存戦略は、本来は規模の大きな施設(書架総延長約3,000メートル以上)のために考案されたものだが、採用されている基本方針――慎重に計画をたてる、保存容器に資料を収納する、原資料の代わりに複写物を利用に供する、利用時に資料の状態を点検する、専門的な保存手当てを適用する――は、他のどのようなアーカイブであっても有効である。

1.アーカイブにおける紙資料保存の基本方針

1.1. 図書館とアーカイブのちがい

図書館の本を保存するための戦略について書かれたものは数多いが、アーカイブの紙資料保存の戦略に関するものは、残念ながらほとんどない[3]。図書館が選ぶ手だての中には、アーカイブに適用できないものもある。図書館とアーカイブとを比べてみると、図書館の本は、資料の単位としてはかなり均質なものだといえる。各々の本の紙は、大きさや形態や状態において同一化の傾向を持っている。あるひとつの図書館システムまたは図書館協力グループのなかには複本が何冊かあるだろうから、ある図書館が複写後の原資料を自館で破棄したり、あえて大量化学処理試験に使うことも許される。

現在では図書館の管理職は、アメリカ図書館協会を中心にした共同保存マイクロフィルム計画や、共通の目的達成のためのネットワークを通じて、資料保存協力プログラムに取り組んでいる。出版物は、いくつもの図書館で複数部数あるだろうから、図書館員は保存のためのマイクロフィルム化の際の本の選択と、書誌コントロールに注意を払い、作業が重複することを避けなければならない。

一方、アーカイブにおける資料の単位は個別の記録資料だ。これは、紙の種類、インクなどのメディア材料、大きさ、状態などの点で非常に多様であり、特別な保存手当てや複製が必要なこともしばしばだ。ある特定の保存上の問題がある資料が、所蔵資料全体のなかに不規則に分散していることもある。例えば、物理的な状態の良い資料と急速に劣化しているものとが一緒にファイルされていて、そのため、ある種の保存上の問題がどこにあるかを突き止めることがきわめて難しくなっていることもある。したがって、図書館が採用しているようなマイクロフィルム化あるいは光学複写の一連の作業プロセスを、脆い紙資料の上の情報を救うために安易に実行することはできない。

アーカイブは、これ一点しかない(one-of-a-kind)という原資料を扱うので、資料保存の問題については図書館とは違った取り組み方をしなければならない。アーカイブどうしで記録資料の複本を持っていることは普通はほとんどないので、機関どうしの共同保存マイクロフィルム化は役に立たない。アーカイブでの複写と廃棄のシステムには、かなり慎重な突き合わせと検証が求められるし、「この原資料には現物としてのかけがえのない価値(intrinsic value)――つまり記録資料の原形態でのみ認められる価値――はない」という判断が必要になる。

アーカイブ資料にとって唯一安全な大量資料保存技術は、資料を注意深く容器に収納することと、環境制御された保管空間の中に保管することだ。大量脱酸性化技術を適用する場合には、現在可能な技術で用いている溶剤または熱によってダメージを受けると思われる資料を除くというような慎重な選別が必要だ。

 

1.2. アーカイブの資料保存のための科学的基礎知識

国立科学アカデミーの歴史記録資料の保存に関する委員会は、以下のことを明らかにした。つまり、合衆国国立公文書館の所蔵資料は、製本されたものよりはファイル・ボックスに収納されているものがほとんどを占めており、箱の中に収められた紙資料は製本されたものよりも良い状態にある。製本された紙資料には、制御されていない環境に剥き出しで曝されている紙の周縁から冊子の内部にかけて進行する、劣化と経時変化とが典型的にあらわれている。アカデミーの所見によると、箱の内部に微小環境を形成することが、温度や湿度の変動を緩和したり汚染物質の侵入を防ぎ、中の資料を保護していることがわかった。紙の自然経時変化の速度に関してアカデミーは、制御された環境の中に保管されている紙の劣化速度はずっと遅くなると指摘している。つまり、経時変化における変化の速度が抑制されるということだ。また、一度折り曲げただけで切れてしまうほど劣化した紙でさえ、制御された環境条件で適切な容器に入れ、比較的穏やかに置かれていれば、いつまでも一枚の紙の状態を保つことができるとも指摘している[4]。

人が手ずから取り扱うことが、紙の寿命を縮めている。利用の間にページが空気にさらされて、湿気や酸化物、汚染物質、光などが、水酸基イオンや紙に残留しているリグニン、サイズ剤などと反応する機会を与えられることになる。その結果できた物質が今度はさらに前記の物質と反応して、セルロース高分子からなる繊維鎖を短かくして、繊維と繊維どうしの結合の両方を弱くしてしまう。一枚の紙資料が閲覧室まで持ち出されて、光と空気にさらされ、利用者に取り扱われることが多ければ多いほど、その資料の劣化速度は速くなる。利用の著しい資料の損傷を防ぐ最善の方法は、資料上の情報をマイクロフィルムにするか、静電式複写機で別の紙の上にコピーして、利用者には複製物を提供することだ。こうすることによって、原資料は安全に保管されて残る。

 

1.3. 紙資料保存の問題は多様な問題から成り立っている

記録資料の保存の仕事は決して完了することがない。それに注ぐことができる資源はつねに限られているし、保存業務を管理するためには、やるべきことの優先順位を決めなければならない。ここで問題になるのは、資料の現在の利用を考慮に入れながら、資源の投入に対する最大の効果をいかにあげるかということだ。アーキビストとコンサーバターがこの問いへの答えを見つけるためには、オペレーション・リサーチ分析が役に立つ。

オペレーション・リサーチとは、複雑なシステムの分析や評価や設計のための科学的手法の適用だ。オペレーション・リサーチ法は、工学や統計学・数学・経済学・心理学といった、検討対象の領域が関わるさまざまな分野を包含することがしばしばある。

アーカイブの資料保存計画には、保存修復(コンサベーション)やイクロフィルム化といった仕事も含まれるだろう。アーキビストはたいてい、資料に毎日接する結果として、これらの部門に仕事を任せる。しかし、アーカイブの紙資料保存が、このように行きあたりばったりに行なわれていては、経済的ではないし、所蔵資料全体の中での相対的な必要性に応じて確実に資源を投入することもできない。効果的な保存計画を実行するには、綿密な計画をたてることが必要だ。

アーカイブ所蔵資料に保存のための資源を適切に配分するために最初に取り組むべきことは、資料の状態に応じて等級と順序をつけ、最も劣悪な状態の資料にはコンサベーション処置を施し、財源がなくなるまでこの順序に応じて進めることだ。しかし言うは易く、行なうは難い。資料それぞれの状態に応じて等級付けをするには、大変コストがかかる。たとえこうした等級付けが実行可能だとしても、たとえば、ある資料とその隣に置かれている資料とでは、容器に入れたりコピーを取ったりコンサベーションを施すべき順序が、ひどくかけ離れていることはおおいにありうるだろう。また、コンサベーションのために資料を集めてきて、永久に保管される場所に再び戻すといったことはとんでもなく非能率的なことだ。そのうえ、コンサベーションを施す優先順位を設定するにあたって、資料がいまおかれている状況もしくは資料のいまの状態は、必ずしも最良の判断基準になるわけでもなければ唯一の判断基準でもない。アーキビストやコンサーバター、統計学者、オペレーション・リサーチ・アナリストらが協調的に出し合った専門家としての意見を取り入れることによって、保存の必要性の評価のしかたはより良いものになるだろう。例えばこんなことがあるかもしれない。ある資料が、それまでおかれていた悪い環境のせいで最悪の状態でアーカイブに入ってきた。しかし、それ以上の劣化は、現在の空気環境や容器への収納によって、実質的に抑制されているといえるだろう。さらに、現在その資料の利用はかなり少ないかまったくないので、利用によって今以上に劣化したり損傷するおそれはほとんどあるいはまったくない。この場合、資料の状態はかなり悪いとはいえ、コンサベーションを先に延ばしてもリスクはほとんどないということになる。

保存の必要性とは、ある資料の状態と、その資料がもつ現物価値と、その資料に予想される利用との札関関係からなっている。オペレーション・リサーチ・アナリストが資料保存の問題をシステマチックに調査することによって、資料保存戦略を選択するための判断基準がほかにもあきらかになるだろう。例えば、アーカイブ所蔵資料からシステマチックにサンプル抜き取り調査を行なえば、ある資料群の中に、[紙の変色の原因となる]リグニンを多く含んだ酸性紙に謄写版で印刷した資料があり、急速に劣化していることが分かるかもしれない。こんな状態の記録資料に載った情報を保存するためには特別なプロジェクトを始めるべきだと示唆を受けることもあるだろう。時には、ひどく劣化していて、利用によってさらに傷みそうな資料が、比較的良い状態のものの中に混在していることがある。こうした不規則に分散している資料がどこにあるかは、サンプル調査では分からない。利用者に提供する全ての資料に目を通して、こうした傷みやすいものはどれかを、あらかじめ把握しておく必要がある。

アーカイブはそれぞれに違っているし、そこにある資料の状態も、状態の組合せも様々だ。それぞれが置かれている状況についてシステマチックに調査を行ない、適切な資料保存戦略を開発するべきだ。オペレーション・リサーチは、アーカイブの領域や専門的なコンサベーションの領域と協力しながら、アーカイブの資料保存戦略の開発のための有効な取り組み方を提供する。

オペレーション・リサーチの研究は、大まかな見積りに基づいているにしても、実際に行なってみることで、限られた資源を最大の効果が上がるようなところに的を絞って投入することに役立つ。特に、利用状況の分析は子細に行なうべきだろう。ある特定の一枚の紙資料が手に取って利用されることは、どのくらいあるのだろう?

ときには、ある資料群がたびたび閲覧されることが分かるかもしれない。しかし、これに対してアナリストは以下のように指摘してくれるかもしれない。その資料群には目録から引きやすい(well-indexed)ケース・ファイルが含まれていて、たいていの利用者は研究主題――例えば利用者が家計の研究者ならばその家族に関係する主題――に関係のあるそのケース・ファイルだけが見たいのだ。ではその資料群全体としてはどうかというと、あまりに膨大なために、個々の資料が利用されるのは平均しておよそ百年に一度だけだ、といったことだ。これが判ったならば、目録化されていなかったり(unindexed)、内容が分散しているために、利用者が求めている情報を見つけだすには、その都度始めから終わりまで詳しく見なければならないような資料群に目を向けて、そこにある利用頻度の高い資料のコピーをとってこれを提供する、という判断になるだろう[5]。アメリカ合衆国連邦政府年金ファイルについて、資料保存対策の対投資効果を調べた最近の研究によれば、つぎのことが明らかになっている。マイクロフィルム化は、実質的に原資料を保管するのに必要だったスペースを少なくして閲覧出納業務の労働コストを減らす。しかし、マイクロフィルム化の後に原資料を廃棄し、その他には一切出費がないとしても、ファイル資料のマイクロフィルム化は、スペースや取り扱いにかかる費用(operating costs)の節約を帳消しにしてしまう以上の、非常に高いものになる[6]。

安全で適切に保管されている紙資料は、人が手にとって利用される場合に比べると、劣化の進行は遅くなる。この原則にしたがえば、容器に収納しなおすべき資料を選ぶ効果的な方法とは、利用者に提供される全ての資料を把握して、最も利用の多い資料から先に容器に収納しなおすことを基本にしたプロジェクトの開発だろう。容器再収納(reboxing)のプロジェクトの対象になる資料がどんどん滞貨していくのを避けるためには、新規に受け入れた資料がまずアーカイブに着いたときに、もし必要なら折らずに中性紙のファイル・フォルダーと中性紙の箱に入れるのがよい。このプロジェクトを効率よく行なうためには、所蔵資料全体の端から端まで何度も繰り返すよりも、一度にできるだけ多くの資料に対して行なうのが望ましい。一般的にいって、保存箱を取り入れた資料保存対策を実施するための労働コストが、アーカイブの仕事のうちで一番高くつくからだ。

2.紙資料保存の実践

2.1. 資料保存の必要性の性格と範囲を決めるための調査

統計学的なサンプル抽出調査は、アーカイブの所蔵資料の中でも様々なタイプの状態にある紙資料の量の概算に利用できる。統計学者は、不確定な部分も統計的に数量化できて、信頼性の高い概算結果が得られるような調査方法を作ることができる。

統計学的調査は、所蔵資料から無作為に選ばれた一部の資料―これを「サンプル」と呼ぶ―について情報を得ることによって行なわれる。一つの保存容器の中身または、もしそれが適当なら一冊の薄冊の中身を単位にすると、観察に都合が良い。サンプルの量を決めるときは、実際的な経験則で言うと、1,000単位以下または所蔵資料の総単位数の1%以下、100単位以上を選ぶのがよい。

サンプル単位を選び出すのに簡単で効果的なのは、次のように「ランダム・スタート」でシステマチックなサンプル抽出を行なう方法だ。まず棚の総数をサンプルに必要な単位の数で割って「サンプル抽出間隔」-X-を決める。乱数表を使って、全所蔵資料の中の最初のX棚の中から無作為に一つの棚を選ぶ。そしてその棚から無作為に最初のサンプル単位を一つ抜き出す。そのサンプルを選んだ棚から数え始めて、X番目の棚ごとに無作為にサンプル単位を一つ抜き出す。全所蔵資料から抜き出し終わるまで、これを続ける。

調査の成果で最も役に立つのは、所蔵資料全体の規模の概算だろう。この概算は、調査の過程で、各サンプル単位の中のページ数や、棚から抜き出した単位の数、アーカイブで使用している棚の数を計算することで出てくる。

各サンプル単位ごとに別々の調査表にデータが記録される。この調査表は、分かりやすく使いやすいように、充分気をつけて作成されるべきだ。データの記録の正確さと質とが、調査の成否を左右する。だから、他の調査方法にならって、フル・スケールの調査にかなり労力を注ぐ前に、調査表を小規模の予備調査で試してみる必要がある。調査担当者の打ち合せに加えて、この予備調査や調査担当者の副サンプルを他の調査担当者が再調査することなども、データの質と整合性を維持するのに役立つだろう。

一つのサンプル単位について求める情報は、できるだけ「Yes/No」で答える質問による調査表に記録するのが良い(図1)。こういった質問なら、調査の過程で答えを出すのも簡単だし、データを分析する段階で要約したり解釈するのも簡単だ。いくつかの目的のためには、例えばある種の条件に該当する箱の中の紙資料の数といったような、さらに詳しい記録が必要かもしれない。こういった場合は、図2に示したように、答えの選択肢を限定することによって、調査担当者どうしの観察の整合性を高めることができる。しかし、調査結果の有効な要約を一般化するためには、調査の細部の水準を保つことが必要だし、それを確実にするためにはこうしたデータを減らすように配慮するべきだ。刊行された『国立アーカイブ資料保存20年計画』[7]には、こうしたタイプの質問を使った統計的方法が書かれている。

 

図1 調査表の比較的簡単な箇所(可否選択式)

現物価値がある資料か? Yes □ No □
頻繁に利用される資料か? Yes □ No □
保護容器の中に詰め込まれ過ぎているか? Yes □ No □
フォルダーは脆くなっているか? Yes □ No □
資料の半分以上が感熱コピーか? Yes □ No □
資料の半分以上が謄写資料か? Yes □ No □

 

 

図2 調査票の比較的複雑な箇所 (概算)

紙の大きさ 箱の容積に占める割合
少し 1/4 1/2 3/4 全部
?—————————————————————————————-
レターサイズ以下
レターサイズ/リーガルサイズ
大型サイズ

 

 

2.2. 保存の必要性に応じた実践の種類を決める

資料の状態や状況と、それに適用できる資料保存手段の選択肢との対応表を作ることはとても有益だ。計画をたてる人が適切な問題に的を絞るのに、この対応表が役に立つ。調査データは集計ののちに、いくつかに分類された資料保存の方法の中に振り分けられる。

あるデータが表の中のどこに位置付けられるかは、―コンピューターのプログラミング言語に似た―次の論理式の結論に従うだろう(図3)。

 

図3

もし資料が傷んでいるならば、
そして、もしその資料が頻繁に利用されるならば、
そして、もしその資料に現物価値があるならば
その資料の複製物をできるだけ早く作り、
その複製物を利用者に供し、
そして、原資料を保護容器に入れ、
そして、コンサベーション部門で手当てを行う予定を組みなさい。

 

この図3は、サンプル調査データについて考えられるいくつかの分類図式の一つを示している。資料の利用や状態、価値、大きさ、すでにコピーが作られているかどうかなどに注意した所見は様々に組合せられ、多様な資料保存の方法の分類の中にあてはまる。

各々の表は紙資料の全枚数の概数、またはある特定の複合した保存上の問題があると思われる資料の、所蔵資料中のパーセンテージで表すこともできる。概数がパーセントで分かると、アーカイブも資料保存業務のための計画や予算を認めるようになる。図4では資料保存手段の一覧表を簡略化して示した。

 

図4

容器 エンキャプシュレーション マイクロフィルム 電子コピー コンサベーション 利用時点検
?容器に入っていない ?○
?全部が長持ちしない複製物 ?○
?長持ちしない一枚ものが混在
?利用が多くてしかも貴重 ?○ ?○ ?○
?傷んだ一枚ものが混在 ?○ ?○

 

資料保存の必要性の種類によって数量化するこのシステムは、ある保存上の問題が複合しているような資料が入っている特定の箱を全て同定したり配架場所を突き止めたりするわけではない。なんらかの資料保存手段が必要な資料が発見されて、しかるべき処置がとられるのは、アーキビストがその資料が入っている箱の中を見たときだけだ。ある資料を取り扱う頻度が紙資料の寿命を決める鍵になる。だから、効果的な資料保存計画とは、保存を必要としている資料を同定する、日々の出納と再出納の仕事にかかっているといえる。資料保存手段の一覧表の上の優先順位を適用して、可能なかぎり長年月にわたり、緊急度に応じて作業を配分することができるだろう。

3.紙資料保存計画のモデル

これから述べる計画は、次のような前提に基づいている。

資料は―アーカイブ資料ではありがちなように―利用頻度はかなり低く、環境が管理された空間で適切に保管・収納されれば実質的には劣化は止まる[8]。一枚一枚の紙資料を相手にするには膨大な費用と時間がかかるので、大量の所蔵資料をマイクロフィルムまたは他のどんな媒体に変換するのも非現実的な目標だ[9]。

この資料保存計画で示される6つの方策は、優先順位にしたがって提示されているわけではないが、アーカイブ運営は主な予算を後の4つ(利用時点検、媒体変換、複本の配置、最終手段としてのコンサベーション処置)に向ける前に、初めの2つ(環境管理とホールディング・メンテナンス)にあてるべきだろう。これまで述べてきたサンプル調査とその分析結果を利用すれば、それぞれの種類の仕事量が概算できるはずだ。

 

3.1. 環境管理

資料は、火の気のない、安全な、暗い部屋の中に保管され、そこでは常に清浄で涼しく乾いた空気を供給するように、空気環境が管理されているのが望ましい。

資料が保管されている場所の空気環境を管理することによって、望ましい温度と相対湿度にして、紙資料の経時変化や劣化を促進するホコリや有害ガスを取り除く。温度は摂氏20度から22度の間に、相対湿度は40%から50%の間に保つようにする(これは24時間以上の単位時間内の平均値。一日の平均値がこの範囲内ならば、短時間に少しこの範囲を超えてもかまわない)。適切な測定器、特に相対湿度の測定器を持つことも、大切だ。市街地域では、活性炭のような化学フィルター(chemical bed)で空気を濾過して、二酸化硫黄(亜硫酸ガス)、窒素酸化物、オゾンを除去するのがよい[10]。

水漏れの被害のおそれはあるにしても、紙資料が保管されている全ての場所にスプリンクラーは必須の設備だ。紙資料は、慎重な乾燥技術によって、水浸しの状態から完全に利用可能な状態へと修復することができる。だが、燃えた紙が修復できることはめったにないし、できるとしても気の遠くなるような単調な方法しかない。

 

3.2. ホールディング・メンテナンス

「ホールディング・メンテナンス」とは、アーカイブ資料の劣化の速度を遅くするような、保管状態の改善をさす用語だ。すぐれた保管の技術には、中性紙の箱やファイル・フォルダーを使うこととか、紙資料を平らな状態で、折り畳まず、きちんとファイルすることも含まれる。

密閉された容器内の微小環境の中では、紙資料は保管庫内部の温度や湿度の変動の影響をじかに受けずにすむ。さらに箱の弱アルカリ性が、汚染物質の吸収にすぐれ、酸性のガスが資料に届くのを防ぐ。言うまでもないが、ほこりや光を遮断してもくれる。

ホールディング・メンテナンスを促進し、システマチックに実施することによって、将来の、実質的にもっと時間と費用がかかる複製作成や保存修復手当ては必要なくなる。例を挙げれば、多くの資料は酸性の箱に入っており、酸性のフォルダーに入っている。この状況は、長期的に見れば資料に有害だ。酸性の素材と接している資料に引き起こされるダメージ(黄変と脆化)は、すぐに現れる。さらに、資料を折り曲げたときに、紙に無理な力が加わり、割れたりすることになる。こういうあきらかな状態を発見したら、資料は折り曲げず、新たにフォルダーに入れなおし、新たな安定した箱に入れなおす。手にした資料の中に、短期の利用のための非常に不安定な複製方式による資料(3.3.参照)があったならば、コピーをとって差し替える。メンテナンス・チームは、利用時点検の過程(3.4.参照)で決定した優先順位にしたがい、書庫全体にわたるシステマチックなスケジュールで、現在の所蔵資料の予防的メンテナンスを行なうことになる。

ホールディング・メンテナンスは、すべての新規受け入れ資料にも、システマチックに適用されるべきだ。受け入れの過程の一部としてホールディング・メンテ ナンスを行なうことの意義と必要性とは、いくら強調してもよいだろう。館内に入ってくる資料が適切に収納されることを保障することによってしか、ホール ディング・メンテナンスの手つかずの資料の増加を防ぐことはできない。

 

3.3. 資料の利用時に点検を行う  (Interception and inspection of documents)

資料保存計画のこの項目では、職員または利用者が利用しようとするすべての資料に対してシステマチックに行なう、利用時点検(inter-ception)と評価と、(もし必要なら)保護について述べる。このプロセスは、資料の状態を評価することや、またもしその資料が利用によって傷むおそれがあれば、コピーをとったり容器に入れるなどの方法で資料を保護することも含んでいる。またこの方法は本来は短期利用のための非常に不安定な複製方式による記録資料を、コピーすることも含んでいる(3.4.参照)。

利用時点検や評価(interception and assessment)は、利用される資料に的を絞って注意を払うのがよい。資料保存においては、利用されない資料よりも利用される資料の方が、より優先順位が高いとみなされるはずだ。詳しい手順は以下の通り。

 a.利用者に渡される資料は、フォルダーと箱の中に整然と正しく整理されていることを確実にする。もし利用者が正しく配列された資料を受け取れば、たぶん彼らは正しく配列した資料を返すだろう。利用する資料が正しい順序になっていれば、資料の全体に目を通すことが容易になり、返却の際に資料を点検するのも容易になる。

 b.資料保存箱は清潔で、ホコリが入らず、箱自体が傷みにくいものにする。このことは、アーカイブの来館者に対する良いイメージを与えるという意味でも重要だし、資料をきちんと整理することが持つ「見直し作業」の側面も有益だ。

 c.(もともと短期利用を目的としているため、末永く利用されるには非常に不安定な)傷みやすい資料を、利用による傷みから保護するために、ポリエステル・フィルムの封筒に入れるか静電式複写機でコピーをとって利用者に渡す。利用者によって傷みそうな資料が多ければ、利用者その人も資料の取り扱いに慎重になるだろうし、稀な状況のもとでは、その資料を保護容器などに入れるかコピーをとりおわるまで、利用を差し控えてもらうことにもなるだろう。

 d.システマチックな資料保存の必要性について、書庫担当にも照会し、一貫した情報を資料の保管責任者に提供する。この情報は、アーカイブがホールディング・メンテナンスのスケジュールを組むにあたって優先順位を決めるための数量データを提供することになる。

 e.所蔵資料の定期点検の必要を減らす。資料の利用時に集められた情報は、利用されている資料のまさにその時点での正確な状態の記録になる。

 

利用される回数がおびただしいことによる、物理的かつ幾分かは化学的な傷みは、損耗の原因となるので予防すべきだし、さらに/またはその資料を補修するかまたはコピーを取るべきだ。しかし、この種の物理的/化学的傷みを引き起こすほどアーカイブ資料の利用がおびただしいことはめったにない。利用による傷みによって寿命が脅かされているような一群の資料においては、その記録資料の保存のためのコンサベーション処置とコピーの両方またはいずれかを行なって備えるべきだ。利用時点検プログラムは、まさにこの種の問題を抱える資料を特定して数をあきらかにできる手法だ。

利用時点検の結果、その資料を適切に保護する唯一の方法がコンサベーション処置だということなら、極端な場合には、しばらくその資料が利用できなくなることもあるだろう。こういったことは、簡単にはコピーできなかったり保護できないような資料に限っておきることだ。理想的には、こうした資料はコンサベーション部門での適切な保存手当てまたはその他の保護的な手当てが適用されるまで、利用は差し控えるのが良い。しかし実際には、優先順位に基づいたスケジュールの中で、しばしばこうした手当ての必要性に気づいて手当てが実施される。

 

3.4. 最も劣化のはやい記録資料をマイクロフィルムまたは電子コピーに写し替える

1940年代、50年代、60年代の謄写版やクイック・コピー(quick-copy)で作成された資料の上の重要な情報の消失を防ぐためには、迅速な対応が求められる。とりわけ脆弱なこれらの記録物の紙質やインクの鮮明さは急速に劣化・低下しており、それに伴って判読できなくなりつつある。印刷されたイメージ(文字や図像)と紙とのコントラストがなくなってきて、もしフォトコピーかマイクロコピーにとるまでに時間が経ちすぎてしまったら、その情報が失われてしまうか、途方もない費用をかけなければ再生できなくなってしまうかのどちらかだ。

最も危険な状態にあるこれらの紙資料は、ただちに再コピーされなければならない。危険度の高いものを、以下に示す。

 a.第二次世界大戦中と戦後約十年間に、非常に質の悪い化学パルプの紙で作成された記録物。謄写版印刷物で証明された。期待寿命は約65年だ。

 b.電子コピー時代以前の、1950年代、60年代に―サーモ・ファックスThermo-fax(3M社)のような―いわゆる「クイック・コピー」で作られたもの。

こうした危険度の高い紙資料の初期のものがもつ情報は、今後5年間で消滅し始め、強制的な対策がなければ情報の消滅は容赦なく拡大していくと見込まれている。

紙資料保存モデル・プランでは、まとまった量の謄写版印刷やサーモ・ファックスの紙資料が見つかったときにはそれらをマイクロフィルム化するという、「加速プログラム」を呼びかけている。マイクロフィルムはアーカイバル品質基準に適合していなければならない。所蔵資料全体にわたってバラバラに散在している謄写版やサーモ・ファックスの資料は、弱アルカリ性の上質紙に静電式複写機でコピーするのが良い[11]。こういった「あぶない」紙資料は、利用時点検またはホールディング・メンテナンスの過程で発見されることになる。

 

3.5. 利用頻度の高い記録資料の複製物を作る

研究上の価値が高く、しかもその価値が継続的で、出版されたかたちでは利用できず、絶えず利用され傷んでしまうような記録資料は、複製を作るスケジュールに組み込むのがよい。その際の資料の選択と優先順位の設定は、3.3で述べたような利用時点検プログラムで集まったデータをもとにして行う。マイクロフィルム化のための資料の選択には、利用パターンがもっとも良い指標になる。

アーカイブの個々の資料はたぶん、平均すれば百年に一回利用されるだけだ。だから、複製物をつくることは、継続的なメンテナンスと原資料の利用に比べれば、たいていの場合、対投資効果はよくないだろう。

 

3.6. 最後の解決方法としてのコンサベーション処置

この計画の目標は、コンサベーション部門の日常業務をできるだけ少なくして、同部門の業務を、希少で非常に貴重な資料とか、取り扱いや展示が頻繁な資料のための専門的レベルの手当てに集中させることだ。

傷んでいるか、傷みそうでしかも利用が多いために本当にコンサベーション部門での手当てが必要な現物価値のある資料の一覧は、前述した利用時点検の中から作られるだろう。「コンサベーション部門での手当て」とは、アーカイブ資料に対して工房で行なう、特別な設備や技能を必要とする様々な労働集約的作業をさす用語だ。例えば劣化している補修テープの除去には、たいてい溶剤やガス換気装置が要るし、溶剤とインクの相互の反応を熟知していることも必要だ。コンサベーション部門での手当ては、粘着テープの除去とか補修、強化、クリーニング、脱酸処理その他の化学的処理のように、労働集約的で、だからこそ高くつく、毎葉(一枚ずつ)ごとの対処になる。

非常に貴重なものとか、取り扱いや展示が頻繁な資料の手当ての他にも、傷みのひどい資料や、それほど貴重ではなくてコピーをとるのが難しく、かつ利用の多い資料に対しても、これをマイクロ化する前にコンサベーション部門での手当てを施さなければならない。

紙資料のコンサベーションは、まだ歴史が浅く、開発途上にある。ただ、作業に使う材料への理解、そして技術は、近年目ざましく向上してきた。時には、以前になんらかの修復処置が行われた資料をもとの状態に戻すこともあるし、やり直しすることもある。両方必要なこともある。以前に適用された熱圧着によるラミネーションがその典型的な例だ。ラミネーションはもはや流れ作業的なコンサベーションの方法としては認められてはいない。なぜなら、この作業は資料群を構成する資料が持つ多様な保存の必要性を無視して、資料群全部にラミネーションを適用してしまうからだ。しかも、この高価で、可逆性がなく、ときには資料を損なうこともある手当ては、その必要もないのに、状態の良い多くの資料にも施されてきた(12)。資料への物理的・化学的な手当ては少ないほど良く、その手当ては可逆的なのが良い、というのが紙資料のコンサーバターの現在の考え方だ(13)。

4. 結論

以下の図5でまとめたように、このモデル・プランは、アーカイブに紙資料保存の現実的な目標設定の枠組みを提供できるだろう。包括的な戦略は、乏しい資源を有効に利用して記録資料を保存するための、慎重な計画立案の必要性に基づいている。

 

図5

状 態 方 法
—————————————————————————————————————————
A ?虫損/湿害 ?環境管理
B ?不適切な容器 ?ホールディング・メンテナンス
C ?傷んだものが不規則に混在している ?利用時点検
D ?長持ちしない複製物 ?媒体変換
E ?利用頻度が高い ?利用のための電子コピー
F ?貴重/脆くて傷みやすい ?コンサベーション部門での手当て

 

 

紙資料のための保存活動は、そのほとんどが長期間に振り分けて行なわれるものだろう(アメリカ国立公文書館では20年間)。なぜなら、紙資料は―酸性紙でさえも―利用頻度が低い場合(これは個々のアーカイブ資料についてみれば普通のことだが)、適切に収納されて環境管理された中に保管されていれば、劣化の進行は非常にゆっくりだからだ。利用時点検で集められる、資料の状態や利用頻度についてのデータは、そのアーカイブにとってどのくらいの資料保存対策費が必要かをはっきりさせるはずだし、優先順位を設定したり、必要性の変化に応じて限りある資源を配分するのに役立つはずだ。

利用だけが原因で傷む資料は、利用の時に保護すればよい。特に貴重だったり利用が頻繁だとみなされるものは、その必要が生じたら優先的にコンサベーション部門での手当てを施されるべきだ。資料の中でも最も劣化の進行が速いものについては、その内容情報を保存するために、早い段階でシステマチックに再コピーをとるようにスケジュールをたてるべきだ。利用時点検を行ないながら決定された優先順位に基づいて、書庫ではシステマチックなホールディング・メンテナンスが行なわれるべきだ。また、ホールディング・メンテナンスは、資料保存の手つかずの資料の山を作らないために、受け入れの時にもシステマチックに実行されるべきだ。

引用文献

  1. Calms,A., Schoefer, R., Eberhardt,K.R.: National Archives and Records Service (NARS) Twenty-Year Preservation Plan. Publication NBSIR85-2999 (January 1985,Gaithersburig, MD).
  2. Preservation of Historical Records. July 1986. Committee on the Preservation of Historical Records, National Academy of Sciences Press, Wsashington,DC.
  3. Ritzenthaler,M.L.: Archives & Manuscripts: Conservation, A Manual on Physical Care and Management. Society of American Archives Basic Manual Series, Chicag o, 1983. Appendix D, “Bibliography”:126-33.
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  5. Eberhardt,K.R. The Effect of Indexing a Series of Archival Records. Appendix C of Ralph Schoefer, Cost Comparison of Selected Alternatives for Preserving Historic Files, National Bureau of Standards, Publication NBSIR86-3335 (June 1986,? Gaithersburg,MD): 50-2.
  6. Schoefer,R. Cost Comparison of Selected Alternatives for Preserving Historic Files, National Bureau of Standards, Publication NBSIR86-3335?(June 1986,? Gaithersburg,MD): 14-5.
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  10. Mathey,R.G., Faison,T.K., Silberstein, S., et al.: Air Quality Criteria for Storage of Paper-Based Archival Records. National Bureau of Standards. Publication NBSIR83-2795 (November 1983: NBS,Gaithersburg. MD): 21-2.
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  12. Resolutions? (Rome: June 2, 1983), International Council on Archives / Committee on Conservation and Restoration? (60, Rue des Francs-Bourgeois F75003, Paris): unpubished.
  13. Code of Ethics and Standards of Practice (1975, American Institute for the Conservation of Historic and Artistic Works, Washington, DC), Part One II(E).
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