今日の工房 2015年 2月

週替わりの工房風景をご覧ください。毎日こんな仕事をしています。

2015年02月25日(水) 新仕様のガラス乾板保存箱を開発、保護性はそのままに価格を大幅ダウン

ガラス乾板用保存箱を全面的に見直し、保護性はそのままに価格を40〜50%ダウンした新製品を開発しました。従来品は完成箱として提供してまいりましたが、新製品はお客様に組み立てていただく仕様です。従来品同様、国際規格ISO 18918:2000に規定されている「乾板の長辺を底にして、垂直に立てて収納する」保管方法に準拠しています。乾板は画像層を保護するため、1枚ごとに専用のフォルダーに包みます。乾板定型サイズの4×5インチ、5×7インチ向けの箱が定番ですが、これ以外のサイズに合わせても設計いたします。ご覧のように異なるサイズの乾板を1つの箱に部屋分けをして収納する設計もできますので、ご相談下さい。

2015年02月19日(木)大船渡で被災したアルバムの復旧に尽力してきた金野さんが工房に。元の持ち主への返却率は90%

紙本・書籍修復家の金野聡子さんが来社された。金野さんはコンサーバター養成機関である英国Camberwell College of Artsでアート・オン・ペーパーのコンサベーションを学び、地元の大船渡市で紙本・書籍保存修復の仕事をしておられる。2011年の東日本大震災では、民間の被災写真やアルバムの復旧に尽力され、弊社と東京地区の図書館員やアーキビストが協力して立ち上げたボランティアグループ東京文書救援隊の被災資料復旧システムをいち早く導入し、活用して下さった。今回は、大船渡市でお会いして以来の再会となった。現在も被災資料の復旧作業は継続中で、処置後、所在不明の資料の90%が、大船渡市の社会福祉協議会を通して持ち主のもとに返却されているとのことで、返却率の高さに金野さんらの活動に対する市民の方々の関心の高さを感じる。金野さんの活動を記録した『思い出をレスキューせよ:“記憶をつなぐ”被災地の紙本・書籍保存修復士  』(堀部薫著、くもん出版  2014)も。金野さんのブログはこちら

2015年02月13日(金) 読売新聞社様が所蔵する新聞合冊製本の保存容器を観音開きに

読売新聞社様が所蔵する新聞の合冊製本を対象に、株式会社ニチマイ様日本ファイリング株式会社様、弊社の3社で悉皆調査、脱酸性化処置、保存容器の作製、収納を2008年から行ってきた(「新聞合冊製本の保存事例―読売新聞社様の導入事例―」)。今回、担当者様から、調査業務など資料を出し入れする機会が多く、容器の扉をより開けやすくするよう要望があった。検討の結果、上下開きから観音開きに改良することで、資料の出し入れがいっそう楽にできるようになったと好評価をいただいた。

 

2015年02月05日(木) 内外ニュース&レポート編:中性保存容器はいったいだれが開発し普及させたのだろう?

安江明夫「アーカイバル・ボードの開発と普及」、『百万塔』第149号, p16-p27, 2014、紙の博物館

 

アーカイバル・ボードとは、長期に保存する文書・図書・写真等を保護するための丈夫で長持ち、資料に安全な板紙(ボード)のことである。本稿は、そのうち特に史資料を収納する容器(保存箱等)のための板紙(ボード)の1960年初頭の米国での開発と図書館やアーカイブズへの普及、そして1980年代の酸性紙問題への注目を契機としての日本での独自の開発と図書館等への普及を歴史的にあとづけたものである。

 

近代の書籍本文紙の酸性化による資料の劣化を世に知らしめた保存修復専門家のウィリアム・バローはまた、板紙(ボード)を素材とした目録カードの基準を作った人でもある。本稿はバローに始まり、資料保存分野での保存容器である箱やフォルダーの将来性に着目し、世界ではじめてアーカイバル品質の保存容器を企業化した米ホリンジャー社の取り組み、容器の導入を大規模に劣化していく資料を抱えた米国議会図書館(LC)による「段階的保存」(phased conservation)という新しい考え方に基づく、容器入れを核にした手法の開発と精力的な啓蒙・普及活動を概観する。また、当初は修理までの「時間稼ぎ」の第一段階と思われていた保存容器が「究極箱」として捉えられるようになったのが何故かが述べられる。そして1980年半ばの日本の特種製紙(現在のTTトレーディング)の独自技術に拠る中性(厳密には弱アルカリ性)板紙の開発と地道な市場開拓、それを使った保存容器の啓蒙と普及に尽力した個人の保存修復家や図書館員・アーキビスト、保存科学者らの業際的な活動が概観される。

 

特筆すべきは、私企業のホリンジャー社の先見的な開発・生産の経緯、LCの保存修復部門に結集した専門家たちのマス・コンサベーション(コレクションの全体を対象に処置を過不足なく適用すること)の登場の背景、そしてなによりも日本での「中性保存箱」の目覚ましい普及経緯が、内外の関連する個人へのインタビューや、ホリンジャー社や特種製紙など企業そして保存機関への調査にもとづき、詳述されていることだ。私どもも少なからず、日本での保存容器の開発と普及に貢献できたと自負している。「アーカイバル・ボードの開発と普及」に真っ先に取り組んだのは米国の企業であり図書館やアーカイブズなのだが、その過不足ない歴史を述べたものは米国にも未だなかった。日本でその半世紀の歴史が書かれたことの意義は大きい。

 

以下は「無いものねだり」のような蛇足である。私ども「箱屋」からすると、素材としてのボードとともに、「箱」つまり容器としての品質と基準の歴史とともに、これからの保存容器には何が求められるのか、それが欲しい。私見によれば、保存容器へのニーズはここ10年ほどで新しい局面を迎えている。一口に言えば、容器自体が資料の劣化要因にならないのは当然として、従来の「劣化要因から保護する」という受け身の容器(passive enclosure)から「積極的に劣化要因に働きかけて、それを除く容器」(active enclosure)への転換である。具体的には、外気の湿度の短期での大きな変動の影響を受けない穏やかな内部湿度環境を維持できる容器、屋内汚染ガスと資料そのものから発生する汚染ガスを除去する容器などである。また、とりわけ貴重なモノの保存に適した、不活性雰囲気下での保存を可能とする環境(米国国立公文書館で常時展示されている独立宣言等の重要文書のケースのような)を形成する容器等々だ。ただ、この課題は、私どもだけでなく、世界中の保存用品メーカーの課題でもあり、また資料保存に関わる科学者の課題である。刮目すべき研究成果が欧米ではすでに発表されつつある。私どもも遅れをとることなく、この課題に取り組みたい。

 

安江論文の構成は以下の通り。

 

 1.はじめに
 2.先駆者
 3.段階的保存-資料保存の新アプローチ
 4.日本における進展
 5.「段階箱」から「究極箱」へ
 6.おわりに

(文責:木部)

 

 

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