今日の工房 2019年 11月

週替わりの工房風景をご覧ください。毎日こんな仕事をしています。

2019年11月29日(金)社内の人材育成の一環で、ブック・コンサベーションのレッスンを行いました。

営業部門と修理部門スタッフのスキルアップを目的に、ブック・コンサベーションのレッスンを行いました。

 

座学により製本の歴史や製本形態・構造、綴じや構造上の違いによる損傷要因・素材について学び、書物に関する知識を深めた後は、コンサベーション・バインディング(conservation binding)の代表的な方法の一つであるリンプ・ペーパー・バインディングを作製しました。基礎知識の習得だけで終わらない、理論に裏付けられた考え方や修理技術の習得を心掛け、損傷した資料に対する処置方法や資料を取り扱う際の留意点を再確認しました。

 

営業部門のスタッフにとっては、その作業工程を経験してみないとわからないことも多く、今回の研修で、実際に見て、触って、体感的に学ぶことで、資料の多角的な見方を身に付けることができました。バリエーションに富んだ手法の中から目的に合った、的確な保存方法や処置方針をお客様へ提案できるように、今一度、共通項目を確認する有意義な場となりました。

2019年11月22日(金)【写真油絵】を安全に保管する方法についてお客様よりご相談を受け専用保存箱を作成した。

ご相談を受けた写真油絵には、経年劣化の影響と見られる写真乳剤面の剥離が全体に広がっており、微量の風圧でさらに剥離が広がる恐れがあるほど深刻な状態だった。この剥離の進行を食い止めつつ、将来起こりうる劣化を視野に入れ、作品を取り巻く環境を整える予防的保存措置のため専用保存箱を試作し、その検証・評価を行った。

 

【写真油絵とは?】

 

写真油絵は白黒写真を油絵具で着色した絵画で、明治中期にごく一部の写真撮影技師によって製作されていた。その技法は写真印画紙から台紙の紙を削り取り、画像が写された乳剤面の薄い層に裏側から油絵具で着彩する繊細で高い技術を必要とし、継承者が途絶え失われてしまったために現存する作品数は非常に限られている。

 

保存箱の試作を行うにあたり、作品が保管される環境や条件に応じて、以下の2点を考慮しながら、個別かつ適切に対応することが必要だった。

 

・環境の温湿度変化による写真乳剤面の剥離、酸化性雰囲気による劣化の進行を防止すること。

 

・作品の出し入れの際に写真画像が擦れることなく、また、収納品への風圧防止策を施すこと。

 

保存箱の形状は、作品を物理的に安定した状態で平置き保管でき、強度面でより適しているシェル型とした。また、環境の温湿度変化による写真乳剤面の剥離の進行を防ぐため、保存箱の素材にはプルーフ加工のアーカイバルボードを使用し、身と蓋の内側に汚染ガス吸着シートGasQ®と3Fボードを貼り込む新きりなみ仕様にした。新きりなみ仕様は、写真材料に有害な汚染ガスを取り除き空気質を整えるためのガス吸着機能とともに、箱内の相対湿度を安定させる緩衝性を持ち、室内よりその変動幅を抑え、環境要因からくる収納物の劣化を最大限に抑制できる。

 

保存箱の構造は、破損や擦りキズ等の物理的損傷から作品を保護すると同時に、開閉の際に生じる風圧の影響を受けないような仕組みを検討した。

 

まず、蓋の開閉時に箱内部にどのように風が吹き込むかを検証した。ダミーの絵画表面に小さく断裁した薄葉紙を等間隔に並べ、箱の開閉を行った際の薄葉紙の動きを観察した。すると開閉で生じる僅かな風圧で薄葉紙が舞い上がったため、やはり風圧から絵画表面を保護する工夫が必要だと判断した。

 

耐風圧の仕組みとして、アクリル製の中蓋を箱内に設置する構造を検討した。中蓋は横から差し込み、静電気の影響がないよう絵画表面から十分な間隔を設けた。絵画表面の状態を目視しながら開閉でき、作品の出し入れも容易に行える。再度、薄葉紙を並べ風圧の影響を検証したところ、良好な結果を得た。

 

劣化した写真油絵に対して、ストレスを与えることなく安全に保管できる専用保存箱の設計仕様が固まった。

 

【関連リンク】
◆シェル型保存箱の用途例
2017年8月17日(水) 厚くて重い大型洋装本にはブックシュー構造のシェル型保存箱をお勧めします。

 

◆新きりなみ仕様の保存箱の用途例
2019年5月15日(水)NPOゲーム保存協会様からのご依頼でフロッピーディスクを長期保管するための専用容器を作成した。

2019年11月12日(火)第21回図書館総合展がパシフィコ横浜で開催されています。期間は11月14日(木)まで。

資料保存器材は2019年11月12日(火)~11月14日(木)の期間中、パシフィコ横浜で開催される第21回図書館総合展にブースを出展しています。

 

今年も、国産の保護紙(長期保存用中性紙)を製造・販売する(株)TTトレーディング社と並びで出展し、「素材と品質~素材からアーカイバル製品」まで流れの中で展示をご覧いただけるブースとなっております。

 

アーカイバル容器部門では、ご好評いただいております「ドライクリーニング・ボックス」、無酸素パック「Moldenybeモルデナイベ®」、汚染ガス吸着シート「GasQガスキュウ®」、「新薄葉紙Qluminくるみん™」などの機能性保存用品のほか、さまざまな形状や用途のアーカイバル容器も多数出品し、導入事例も踏まえて紹介しております。また、開催期間中は修理部門のスタッフも常駐しております。資料修理に関する質問はもちろん、保存方法の悩み、費用や期間など、ぜひお持ちの資料の画像をご持参いただき、お気軽にご相談ください。

 

皆様のご来場をお待ちしております。
■ 株式会社資料保存器材 出展ブースNo.40

 

【第21回図書館総合展 開催概要】
会期:2019年11月12日(火)~11月14日(木)
会場:パシフィコ横浜 ホールD、アネックスほか

 

★入場無料、図書館・情報流通に関心をお持ちの方はどなたでもご来場いただけます。来場者情報登録のために「招待券」(企画一覧・フォーラム時間割表を兼ねる)を発行しております。「招待券」は会場入口においてありますので、手ぶらで来ていただいても大丈夫です。

2019年11月7日(木)東京造形大学附属美術館様の所蔵品、絵本作家小野かおるの立体作品の保存箱を製作しました

作品はレリーフがほどこされた円盤の上にオブジェがのる構造で、円盤にはオブジェをはめ込み固定するための金属製の支柱がついています。円盤は木製の土台に樹脂や金属粉などを複合的に組み合わせて成形されたもので、重量が10kg程あります。オブジェは円盤から外され薄葉紙で養生・梱包し別置保管されていました。

 

現状は展覧会後の輸送梱包のまま、エアキャップと茶段ボール製に入れられ荷造り用の梱包バンドで括られている状態で、作品をアーカイバル容器へ入れ替え、重量のある作品の円盤を縦置きで保管したいというご要望のもと保存箱の仕様を検討しました。

 

保存箱は、台差し箱をベースにマジックテープ留め具をつけた縦置きでも蓋が開かないような構造にしました。箱内部には、文化財保護用のフォーム材 AZOTE® (プラスタゾート)を円盤の形に沿うようカットし、前後左右の要所で作品を固定できるように設置。縦置きしても作品の重量を分散できるような仕組みです。また、作品を取り出しやすいよう手を入れられる空間もつくっています。さらに内蓋には、プラスタゾートで作成したスペーサーに穴を開け、蓋を閉める際に円盤を押さえつつ金属突起部分が干渉しないよう工夫しました。円盤を内蓋でしっかり押さえられるので、振動により箱の中で動くこともなく、繊細なレリーフを守ります。

 

重さがあり、平置きで重ねて収納することが難しい作品も、縦置きできる構造にしたことで、収蔵庫に効率よく収納できるようになりました。

 

 

【関連リンク】

東京造形大学附属美術館様

2019年11月1日(金)松竹大谷図書館様が所蔵する映画スクラップ帳のデジタル化に伴う解体・簡易補修を行いました。

公益財団法人松竹大谷図書館は、1958年に開館した演劇・映画専門の私立図書館です。歌舞伎や演劇・映画に関する資料約48万点を無料で一般公開しており、所蔵する資料の保存・活用、施設の保全・運営のための資金を募るクラウドファンディングプロジェクトを2012年より毎年継続して行っています。

 

2017年のクラウドファンディング「第6弾 歌舞伎や映画、銀幕が伝えた記憶を宝箱で守る-映画スクラップ帳の保存プロジェクト-」では、弊社がオーダーメイドで制作したアーカイバル容器を導入しています。

 

映画製作当時の記事や写真が貼り込まれた映画スクラップ帳は、作られた年代によって劣化状態に差があり、特に戦前から昭和27年までに製作された映画のスクラップ帳は、紙質が悪く、経年劣化によって表紙から内部まで傷みが進んでおり、保存が大変難しい状況でした。そこで、今回、今後の利用でさらに破損が進む恐れがあるスクラップ帳の中から、松竹京都製作作品を対象に、文化庁が進めている「アーカイブ中核拠点形成モデル事業(撮影所における映画関連の非フィルム資料)」に申請、これが採択され資料の保護と活用のためのデジタル化を行うことになりました。本事業で弊社はデジタル撮影する前のスクラップ帳の解体・復元、簡易補修といった処置のご依頼を受けました。

 

お預かりした映画スクラップ帳は、新聞の切り抜き記事や写真のほか、大型ポスターなども貼りこまれ、重なったまま貼られている箇所は情報が見えない等々–、そのまま撮影するには困難な状態でした。そこで、必要な見開き具合を確保するための解体処置と、重ね貼りの箇所は一度はがし位置をずらして再度貼り込み、閲覧可能な状態にする処置を行いました。また、撮影者が取扱いに支障がなく安全な撮影ができるよう、破損しやすい箇所を和紙で補強したり、利用による劣化防止のため簡易補修も行いました。

 

弊社でお預かりしている映画スクラップ帳の処置の様子を松竹大谷図書館武藤様、井川様が見学され「松竹京都映画スクラップの補修見学@資料保存器材工房」として、同館のクラウドファンディング新着情報でご報告しています。処置を終えた映画スクラップ帳は株式会社インフォマージュでデジタル化撮影を行い、さらに弊社で元のスクラップ帳の形態へ綴じなおす復元作業を行います。作製したデジタルデータは今後、通常の館内での閲覧や、Web公開などの活用を検討されているそうです。

 

【関連リンク】
組み立て式棚はめ込み箱

タトウ式保存箱

汚染ガス吸着シートGasQガスキュウ

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