今日の工房 

週替わりの工房風景をご覧ください。毎日こんな仕事をしています。

2024年7月5日(金)新薄葉紙 「Qluminくるみん」(1100×800㎜)30枚包装品を発売いたします

発売よりご愛顧いただいております新薄葉紙「Qluminくるみん」(1100×800㎜)につきまして、このほど500枚包装品に加え、30枚包装品を発売開始することとなりました。

 

これまで、1100×800㎜の平版は500枚包装品のみ販売しておりましたが、「少量で購入したい」、「費用を抑えたい」、「ロール品を自分でカットする手間を省きたい」など弊社にお寄せいただいた貴重なご意見を反映いたしました。また、紙管に巻いた状態でご納品いたしますので、省スペースで保管いただけます。
お試し利用にも適しておりますのでせひご活用ください。

 

新薄葉紙 「Qluminくるみん」 800mm×1,100mm 30枚包装品(紙管巻き)1本 価格:12,100円

※税込。別途輸送費を申し受けます。

 

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2024年5月30日(木)大判パネル作品を収納する薄型シンク容器のご紹介

現代の美術作品には、アルミプレートにプリントされた写真や樹脂板に描かれた絵画など、支持体に数ミリの極めて薄いパネルが使用されることがあります。特に大判サイズの作品を縦置きで保管できる、薄型で省スペースの容器を新たに考案・製作しました。

 

通常、額装写真やキャンバス画の保管用には差し込み箱台差し箱をご案内していますが、これらの箱型容器は構造上、厚みを3cm以下にすることが難しく、今回のような厚みが1cm未満の薄い作品を収納する場合には、内部に緩衝材や固定用の部材を組み込む必要があります。そのため、容器の外寸が元の作品よりも大幅に厚くなってしまいます。

 

今回製作した容器は、厚みを極力抑えるために、容器の周囲に5mm厚の枠を取り付け、その中に作品を収納するシンク構造にしました。本体と蓋はボードを2重に貼り合わせたシンプルな構造ですが、ボアテープの留め具でしっかりと密着・固定されるため、強度が増し、持ち運びの際もたわむことなく安全に作品を扱うことができます。

 

【関連記事】
・2020年1月29日(水) 東京造形大学附属美術館様の所蔵品、写真家高梨豊氏の作品を保存箱に収納しました。

・2017年4月5日(水)大きな額装作品を縦置きで保管する、留め具付きの台差し箱

 

【関連商品】
差し込み箱

台差し箱

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2024年4月10日(水)藤沢市文書館様所蔵 芥川龍之介直筆ノートの修復

藤沢市文書館には、芥川龍之介の直筆の手帳や東大在学中のノート、草稿の断片、はがきなどの資料565点が所蔵されています。それらは、芥川の甥の葛巻義敏氏とその妹である葛巻左登子氏によって旧蔵され、同市の市民団体「鵠沼を語る会」の多大なるご協力のもと、寄贈された資料群「葛巻文庫」の一部となっているものです。市はこれまで損傷の激しいものを中心に修復を行ってきましたが、点数が多くすべての修復を終えるには時間がかかることが見込まれるため、この度、横浜市立大学と協力し修復が進められることとなりました。

 

今回、直筆ノート100点の保存修復処置のご依頼をいただきました。

ノートは1枚ずつに解体されており、両面にインクや鉛筆などによる書き込みや繊細な描線のデッサンがあります。インクの一部には水に濡れ滲みが見受けられるものもありました。本紙の周縁部には破れなどの損傷があるほか、切り抜かれている箇所が多数あり、慎重な取り扱いが必要な状態でした。

 

資料は芥川の学生時代のノートで、東大英文科に在籍していた芥川が英文や美学の講義について細かくノートをとっていたことがうかがえます。切り抜かれている箇所は、葛巻氏が芥川龍之介の未定稿・デッサン集を編集する際に切り取ったと考えられています。学生時代のノートを通して、芥川に関する研究が進むことが期待されています。

 

資料表面をクリーニングクロスや刷毛でドライ・クリーニングし、大きな破れを和紙(楮)とでんぷん糊で修補しました。Bookkeeper法[※1]による非水性脱酸性化処置を行った後、透明なフィルムに挟み周縁部を超音波溶着機で溶着するエンキャプシュレーション処置を行いました。

エンキャプシュレーション処置により、資料は4辺を溶着したフィルムに封入された状態になります。資料表面に直接触れることなく、裏表両面の情報を視認することが可能です。また、フィルムが支えとなるため、切り抜き箇所の多い劣化した資料も最小限の修補のみで安全に取り扱うことができるようになりました。フィルムの溶着部分をカットすることで再び資料を取り出すことも可能です。この処置により、資料の保存性と取り扱い易さが向上しました。

 

この度の事例掲載にあたり、藤沢市文書館様ならびに横浜市立大学の庄司達也教授よりご協力をいただきました。誠にありがとうございました。

 

[※1]Bookkeeperとは不活性液体に酸化マグネシウム微粒子が分散している液体。この液体を本紙にスプレーし脱酸性化処置を行う。液中の酸化マグネシウム微粒子が紙中の繊維の間に入り込み、紙中および大気中の水分、二酸化炭素と結合して炭酸マグネシウムを形成する。この炭酸マグネシウムが、アルカリバッファーとして紙中や大気中からの酸性物質による劣化を予防する。

 

 

 

【関連情報】

・2024年03月28日(木)横浜市立大学 プレスリリース『芥川龍之介の直筆資料約150点を修復―横浜市立大学と藤沢市が連携し、文化・芸術の振興に貢献―

 

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・2018年2月28日(水)フィルム・ エンキャプシュレーションの現在(2)二枚のフィルム内に封じられた酸性ガスは劣化を加速させないのか?

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2024年3月28日(木)中性紙管で作る太巻き芯:掛軸、巻子の安全な保管方法の一提案

太巻き芯は絵画や書跡の掛軸装、巻子装を保管する際に使う便利なアイテムです。特に、本紙が傷んで紙質が硬化しているものは、細く巻くと負担がかかるため、軸を挟み込んで太くし、本紙を大きく巻くことで、描画材の剥離や開閉による損傷・劣化を最小限に抑えます。太巻き芯は、掛軸や巻子装の形態に合わせた間接的な予防保存処置であり、巻き癖を和らげ、開閉による擦れや横折れを軽減する効果があります。

 

一般的な太巻き芯は杉や桐などの木材を使い、削り出して作られますが、弊社が製作したものは中性紙管を使用しています。紙管を使う場合は、まず紙管を2つに半裁分割します。しかし、この作業にはかなりの手間がかかり、さらに、スパイラル紙管(紙の帯をらせん状に巻きつけて製造される紙管)を半裁すると、その製造上の特性から、ねじれが発生して全体が歪んでしまうことがわかりました。この歪みを矯正し、全体的な寸法精度を向上させるために、プラスタゾートから切り出した支軸パーツを作り、それを2つの分割紙管に固定することで、この歪みを解消しました。また、紙管の両端に円形の保護材を設置し、プラスタゾートと一緒に半裁紙管に固定することで、さらに安定した状態になります。半月状のプラスタゾートは、積層した状態で均等に貼り合わせ、軸木の太さに合わせてカットできるだけでなく、軸木の歪みや軸首の形態に応じて形状を設計・切り出し加工することもできます。紙管を分割する加工には、半裁するための専用治具を開発しました。この治具を使えば、硬く丈夫な中性紙管を特別な機具なしで安定した状態で均等に半裁できます。この専用治具は紙管径に合わせて制作でき、様々なサイズの中性紙管に対応できます。

 

太巻を装着して閉じた際の開口部分には、わずかな隙間を残し、巻き始めの裂地を傷めないように配慮しています。軸受け付きの保存箱に収納すれば、掛軸に負担をかけずに安全に保管することができます。

 

 

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・2020年10月23日(金)絨毯を保管する大型の保存箱を製作しました。 
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巻子台差し箱

 

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2024年3月11日(月)繁忙期が佳境に入り、年度末のご納品に向けて奮闘中です

3月に入り、今年もたくさんのお問い合わせやご相談をいただいており、弊社では一年の中で最も忙しい時期を迎えています。スタッフ一同、日々お客様からのお問い合わせにフル稼働で対応し、修理作業や保存製品の製作に取り組んでいます。

 

修理部門では、ご所蔵先へ赴いて行う出張修理や資料の保存整理業務に加えて、工房内の仕事も年度末のご納品に向けて駆け足で仕事を進めています。保存容器部門はこの時期、大型の保存箱や工程数が多く複雑な構造の箱など、熟練工しか対応できないカスタムメイドの保存箱のほか、多種多様な保存箱を製作しており、完成したものから順次お客様にお届けしています。

 

弊社では、一般資料向けにサイズ、形状、保存に適した保存容器を「定型品」としてご用意しています。これらの定型品は、比較的低価格でシンプルなデザインながらも、使いやすさや収納のしやすさを考慮したアイテムです。形状と価格がホームページに掲載されておりますので、お見積り前にご使用やご予算をイメージしていただけます。現在、アーカイバルバインダーアーカイバル・クリアホルダーファイルボックスRなどの定型品や、GasQくるみんモルデナイベなどの保存用品は在庫がございますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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2024年1月29日(月)2023年度 東京造形大学附属美術館様 博物館実習の一環で見学会を行いました

東京造形大学附属美術館では、桑澤洋子関連資料や小野かおる関連資料をはじめとする多数の資料を所蔵し、授業や展示に活用しています。これらの資料群は、これまで株式会社紀伊國屋書店によるプロデュースのもと一貫した資料の保存整理と電子化事業が進められてきました。弊社は紀伊國屋書店との業務提携において、資料の保存整理作業や電子化前後の処置を担当しています。

 

2023年11月、紀伊國屋書店のアテンドにより、東京造形大学附属美術館博物館実習の一環として、学芸員課程を学ぶ学生の方々に提携する各社をご見学いただきました。
電子化を行う株式会社インフォマージュでは、近年大学に追加で寄贈され、保存整理作業を行っている最中の「小野かおる」絵本原画の電子化工程を見学しました。
弊社の保存容器製作部門では、保存容器を切り出し組み立てるまでの工程をスタッフが実演し、さまざまな種類の保存容器を実際に手に取って見ていただきました。修理部門では近現代資料の修復の現場をご紹介し、サンプル資料によるリーフキャスティングの体験実習も行いました。

 

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『今日の工房』2019年11月7日(木)東京造形大学附属美術館様の所蔵品、絵本作家小野かおるの立体作品の保存箱を製作しました

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2024年1月4日(木)あけましておめでとうございます。

謹んで新年のご挨拶を申し上げます。

 

旧年中は格別のお引き立てを賜り、厚く御礼申し上げます。
本年は弊社にとって創業25周年の節目の年となります。
従業員一同、気持ちを新たに、皆さまにより良い製品・サービスをご提供できますよう努めてまいります。

 

どうぞ変わらぬご愛顧を賜りますようお願い申し上げます。

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2023年12月28日(木)本年もお世話になりました。

2023年も残すところあとわずかとなりました。

仕事納めには道具や機械、工房を綺麗にして一年の労をねぎらいます。

 

今年は新しいスタッフも加わり、仕事においても多くのご縁に恵まれ、無事に年末を迎えることができました。そして、2024年は弊社にとって創業25周年の節目の年となります。ここまで弊社を支えていただいた皆さまへ、一層の感謝の気持ちをお伝えする一年にしてまいります。

 

今年も1年間、弊社ブログをご覧いただき、ありがとうございました。来年も引き続き、資料保存に関する私どもの取り組みの様子を発信してまいりますので、ご覧いただければ幸いです。

 

どうかみなさま、よいお年をお迎えください。

 

 

年内(2023年)は12月28日(木)17時まで営業、
新年(2024年)は1月4日(木)より通常営業いたします。

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2023年12月19日(火)和装本修理の舞台裏:無酸素パックMoldenybe®モルデナイベの殺虫効果と虫害のひどい和装本の修理について

最近、和装本の修理の仕事で、虫害がひどいものがありました。本を動かすたび、黒い粒状の虫糞が砂のように舞い散り、表紙から本文まで大量の虫食いによる損傷が目立ちました。表紙は題箋や装飾紙までが食い荒らされ、芯材がむき出しになっていました。本紙も同様に食害がひどく、ページ同士が固着し開くことが難しいほどの状態でした。

 

こうした和装本への被害を引き起こすのは、「シバンムシ」と呼ばれる昆虫です。被害は主に幼虫が与え、書籍や古文書、巻物などに穿孔して食害します。成虫は幼虫の餌となるものの表面やくぼみに産卵し、孵化した幼虫は、その内部を食べながら成長します。成長した幼虫は表層近くまで移動し、そこで蛹室(ようしつ)をつくって蛹化(ようか)します。春先になると、この穴の中で蛹となり、このとき糞やかじり屑を唾液で固めて蛹室をつくるため、紙がくっついて開きにくくなります。その後、成虫になり円形の脱出孔を開けて外に脱出します。成虫は餌を食べずに交尾・産卵し死亡します。卵から成虫になるのに1~数年かかると言われており、温湿度が成長に好条件の場合には卵から成虫になるのに2~3ヶ月程度です。シバンムシは一度発生すると、特殊な殺虫処理をしない限り被害を抑えることが難しい厄介な害虫です。

 

シバンムシの主な発生時期は5~10月で、冬眠せずに幼虫の姿で越冬します。成虫が発生し始めるのは5月で、今回の依頼も初夏から梅雨明けの時期でした。修理に取り掛かる前に、まずは無酸素パック『Moldenybe®モルデナイベ』を使い害虫を駆除しました。

 

封入時の様子 3週間後の様子

 

ガスバリア袋内に6冊組の和装本2点と脱酸素剤を封入して酸素濃度を0.1%以下の無酸素状態で書籍中の害虫を駆除します。この殺虫処理は20℃前後の室内常温で3週間にわたり行いました。3週間後、袋を確認すると、シバンムシの死骸が本の外側に散在しているのを確認しました。袋内の酸素が次第に減少する中、シバンムシは息苦しさに抗いながらも光と空気を求めて、外の世界に逃れようとしたのでしょうか。3週間で書籍のシバンムシの成虫と幼虫に対して100%の殺虫効果が得られ、モルデナイベによる無酸素処理の効果を肌で感じる実例となりました。

 

 

 

 

その後は本を袋から出し、表面のクリーニングを行った後、虫損箇所にこびりついた虫糞を丁寧に取り除き、1丁ずつの状態になるよう解体しました。殺虫処理の際に出てきたシバンムシはほんの一部で、本紙の中にも多くの死骸がありました。本紙の欠損部は丁寧に繕い、虫損でレース状になってしまった本紙については、裏打ちにて補強し、その後、仕立て直しを行いました。

 

無酸素パック『Moldenybe®モルデナイベ』は、ガスバリア袋内で資料を密閉する保管法としても有効で、新たな害虫の侵入を防ぐことができます。殺虫が完了した後は密封状態で保管し、資料を使用する際に清潔な場所で開封し、使用後に新しい脱酸素剤とともに再び密閉することで、劣悪な環境でも書籍を虫害から守ることができます。

 

▶タバコシバンムシは、文化財を損傷させる害虫のなかでも、特に無酸素の環境に強いとされています。アメリカのゲッティ文化財保存研究所(GCI)が2003年に発行した文献によれば、この害虫は温度25.5℃湿度55%RHの条件下で、成虫は120時間(5日)、蛹は144時間(6日)、卵の状態では192時間(8日)で駆除できることが確認されています。この文献は、文化財害虫を無酸素環境で駆除する条件を示した唯一のものであり、非常に貴重な情報源となっています。著者である保存科学者の前川信氏は、無酸素保存における予防保存技術の先駆者として知られています。
(文献) The Use of Oxygen-Free Environments in the Control of Museum Insect Pests by Shin Maekawa and Kerstin Elert 2003(GCI)

https://www.getty.edu/conservation/publications_resources/books/oxygen_free_enviro.html

 

 

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・2021年4月23日(金)和装本にみられる虫害

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・2015年3月27日(金)無酸素パックの大型タイプを開発—-段ボール4箱をそのままパックして安全に殺虫

・一般的な文化財害虫を100%致死させるのに必要な無酸素処理時間 (PDF)

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2023年11月8日(水)日本大学図書館法学部分館様所蔵の貴重書への保存修復処置について

日本大学図書館法学部分館様より、書籍約60点を図書館貴重書庫へ移管するにあたり、害虫やカビを書庫内へ持ち込まないよう虫菌害対策と保存処置のご依頼をいただき、無酸素パックMoldenybe®モルデナイベを用いた殺虫・カビの不活性化処置、書籍のドライ・クリーニングを実施しました。

 

具体的な手順として、折りたたみコンテナにセットしたガスバリア袋に対象資料と脱酸素剤を封入し、3週間程の無酸素状態を維持・殺虫期間の経過後、各書籍を一冊ずつ専用のクリーニング・クロスを使って、表面のチリやほこり、蓄積した汚れを丁寧に取り除きました。書籍群の中には、レッドロットが進んだ革装丁本、本体から表紙や背表紙が外れた書籍などがあり、これらの損傷し利用に支障のある書籍に対しては保存修復処置を施しました。

 

無酸素パックMoldenybe®モルデナイベは、熱や殺虫剤を使わずに虫菌害を駆除できるため、変退色が気になる革装丁本や表装材、製本材料の変化を気にせずに安心して使用できます。そして、今回のような貴重資料の移動に伴う殺虫処理にも適しており、コンパクトに対応できます。

 

 

【関連記事】
・2019年12月6日(金)オリジナルの背表紙を生かして修理するための事前処置

東京学芸大学附属図書館様 耐震改修工事に伴う、貴重書のモルデナイベ収納、および資料・書棚のクリーニング

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2023年10月25日(水)国立工芸館様所蔵のガラス乾板の整理と保全作業

国立工芸館は1977年、東京都千代田区北の丸公園に「東京国立近代美術館工芸館」として開館しました。2020年秋、石川県金沢市に移転し、2021年4月に正式名を「国立工芸館」として再オープンしました。

 

今回、移転準備中に発見されたガラス乾板(以下、乾板)の保全処置をご依頼いただき、乾板のクリーニング、状態等の記録、写真保存包材への入替え・整理作業を行いました。これらの乾板は、1977年の開館記念展で展示した資料の記録画像で、酸性紙製の箱(元箱)に収められており、同一サイズの乾板347枚と、プリント写真やネガフィルム125枚が含まれています。元箱には分類名や当時のメモ書きが残っており、乾板にはマジックで固有の番号が振られたものもありました。(写真①②③)

 

乾板のクリーニングと保存・整理作業は以下の手順で行いました。まず、作業環境を整え、マスクと手袋を着用し、HEPAフィルターを搭載した空気清浄機を使用しました。また、乾板の取り扱い中に損傷しないよう、ポリエチレンフォーム緩衝材AZOTE®を下敷きにして作業しました。

 

最初に、各元箱に収納されている乾板の全体写真を撮り、分類名、固有番号、状態(剥離や割れなど)を記録しました。

 

乾板に付着したチリ、ほこり等の汚れをクリーニングしました。乳剤面は柔らかい刷毛を使用し、ガラス面は刷毛によるクリーニングの後、写真専用クリーナーPEC PADで汚れを拭き取り、カビや汚れがひどい場合にはエタノールを使用してから乾いたクリーナーで拭き取りました(写真④⑤)。

 

クリーニング後、乾板は一枚ずつ中性紙のタトウ乾板フォルダーに収納し、プリント写真とネガは二つ折りフォルダーに包みました。各フォルダーには、分類名と固有番号を記載した中性紙ラベルを貼付しました。損傷のない乾板、プリント写真、ネガは、縦置き専用保存箱に納め、割れや膜面が剥離している乾板は、平置き用の保存箱に収納しました。平置きの場合、落とし込み式の容器シンクに収納し、シンクは5枚をまとめて1つの台差し箱に収納しました。シンク型容器は、重ねても乾板に負担がかからないように設計されており、安全です(写真⑥⑦⑧)。

 

今後、専門の撮影業者によって電子化が行われる予定です。

 

本記事の掲載にあたり、国立工芸館様にご協力をいただきました。誠にありがとうございました。

 

▼ガラス乾板について
乾板は、ガラス板の上に感光乳剤(ゼラチンを媒体とした臭化銀)を塗布・乾燥したもので、写真フィルムが普及するまで様々な分野で活用されていました。ガラスは高い解像度と歪みがないため、天文学、物理学など専門的な研究分野では1990年代まで使用されていました。
しかし、乾板は取り扱いに注意が必要で、衝撃や落下によって割れやヒビが生じやすく、乾板同士がぶつかることで傷ができることもあります。また、保存環境の影響も受けやすく、光、温度、湿度、大気中の汚染物質などが原因でカビ、銀鏡化、剥離などが発生することがあります。さらに、乾板の劣化の特徴として、ゼラチンをバインダーとする画像層と支持体であるガラスとで性質が異なるため、数種類の劣化症状が複合的に生じることもあります。

 

そのため、ガラス乾板の適切な保存方法と保管環境は、ISO18918:2000 imaging materials−Processed photographic plates−Storage practices(JIS K7644:2010 写真―現像処理済み写真乾板―保存方法)として規格化されています。保存箱やフォルダーには、PAT(ISO18916:2007)合格品の素材を使用し、乾板に悪影響を与えないことが求められている他、保管については、乳剤同士が接触しないよう立てて保管することが推奨され、水平に保管する場合は、下部の乾板に負担がかかるため重ねて保存しないことなど、適切な保管方法、保管環境が規格化されています。

 

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・2017年5月24日(水)あらゆるサイズのガラス乾板に対応できるように専用フォルダーを品揃えしました。

・2018年10月3日(水) 傷みやすい資料は、保存箱に収納する前に”包む”ことで、より安全に保存し、取り扱うことができます。

・2023年3月29日(水)上智学院ソフィア・アーカイブズ様所蔵の歴史資料「大学紛争ビラ」の保存処置事例

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2023年9月22日(金)立正大学図書館様 移動書架用棚はめ込み箱の導入事例

立正大学図書館様より、立正大学でも教鞭をとられた法学者鈴木安蔵(1904-1983)の旧蔵資料である「鈴木安蔵旧蔵資料」を収納するためのアーカイバル容器をご依頼いただきました。資料は文書や書籍などが封筒に収納されており、これらを貴重書庫の移動書架へ配置するため、書架に合わせた保存容器を検討する必要がありました。

 

今回採用されたアーカイバル容器は、棚の寸法に合わせてつくる「組み立て式棚はめ込み箱」です。箱の外面が棚の内側にぴったりと沿うように設計するため内寸を広く確保できます。さらに、箱の蓋前面が開く仕様になっているため、資料の出し入れが、棚に配架されている状態と同じくらい簡単に行えます。平積みの資料に対しても、箱の蓋を前面から開けることで、側面から資料を確認できます。通常の棚はめ込み箱は、蓋の留め具に樹脂製のひねり留め具を使用しますが、移動書架に設置されることから、向い合う棚の箱同士が干渉しないようにマジックテープを使いました。

 

本記事の掲載にあたり、立正大学図書館の吉水様にご協力をいただきました。誠にありがとうございました。

 

 

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・2019年11月7日(木)東京造形大学附属美術館様の所蔵品、絵本作家小野かおるの立体作品の保存箱を製作しました

・2016年4月20日(水)早稲田大学演劇博物館の森律子等身大人形のコンテナ型保存箱。

・2022年2月18日(金)早稲田大学中央図書館様での組み立て式棚はめ込み箱の設置事例。

・2021年2月15日(月)山階鳥類研究所様のご依頼で棚はめ込み式保存箱を製作しました。

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2023年8月17日(木)大田区立勝海舟記念館所蔵「伯爵勝家所有地実測平面図」の修復を行いました。

大田区立勝海舟記念館は、大田区洗足池のすぐ近くにある国登録有形文化財「旧清明文庫」を活用し、2019年にオープンしました。この度、勝海舟生誕200年を記念した特別展開催にあたり、勝海舟が過ごした赤坂氷川邸の図面「伯爵勝家所有地実測平面図」の修復を弊社にて行いました。これは2021年に実施された、大田区のクラウドファンディングで集まった支援を元に実現されたプロジェクトのうちの一つです。図面の解説についてはこちら、『【勝海舟生誕200年記念】クラウドファンディング「家族展を実現させたい!」プロジェクト』のページをご参照ください。

 

 

 

今回対象となった資料はシアノタイプの複写図面です。一般的には青焼き、青写真などと呼ばれ、感光性物質の化学反応によって図像を形成しています。シアノタイプの青色の発色は鉄化合物によるもので、表面にはプルシアンブルーが生成されています。感光処理の過程において紙は酸性になるため、温湿度環境の良くないところに置かれていた場合、酸性劣化による物理的強度の低下や、鉄イオン周辺に褐色の染み、フォクシング等が生じることがあります。

 

シアノ図面は光に弱い傾向があり、展示には特に注意が必要とされます。光に晒されると非常に早く褪色が進行するため、近現代紙資料の中でも、電子化をはじめとする代替化が急がれる資料形態の一つでもあります。また、プルシアンブルーはアルカリ環境に弱く、青焼き図面の場合、アルカリと反応して黄変~茶褐色になり白抜けが生じます。そのため、酸性紙ではあるものの、中和化やアルカリによる脱酸性化処置といった、紙の保存性を向上させるための修復処置を行うことができず、また、弱アルカリ性の長期保存用の保護紙などを図面に接触させて使用することもできません。さらに、図面が大型であるほど取り扱いによる破損も生じやすく、保管のために小さく折り畳まれたりきつく巻かれることも多いので、展開する際に破れが広がり、それを留めるためにテープを貼ることで変色や汚損の原因となってしまいます。

 

 

 

「伯爵勝家所有地実測平面図」は、2紙が貼り繋がれた大型のシアノ図面で、右半分と左半分で青色の発色が微妙に異なるのが特徴です。巻いて紐で縛られていたため強い巻き癖がついており、紙端は潰れて破れや折れが生じていました。さらに巻きを開いてみると、中央で上下に裂け、紙片の分離、周縁の欠損が多数見受けられました。部分的にクラフト紙やセロハンテープによる補修痕もあり、経年により茶変色化したテープ痕が見られました。

 

修復処置では、過去の補修紙やテープを除去し、ドライ・クリーニングを行った後、全体の巻き癖と細かな折れや皺を伸展しました。破損箇所の修補作業時には、勝海舟記念館学芸員の皆様にご来社いただき、大きな欠損箇所に対して使用する補填紙について打ち合わせを行いました。シアノ図面は今後も徐々に変色が進むため、補填紙は現時点の青色に合わせるのではなく、白抜きの部分、褪色が進んでいる周縁、ほかにも経年で褪色した青焼き図面のサンプル等とも比較し、馴染みの良い染色和紙を検討し適用しました。

 

 

最後に図面を中性紙製紙管に巻きつけ、外側をポリエステルフィルムで保護した後、アーカイバル容器「巻子用台差し箱」へ収納しました。処置の解説についてはこちら、『勝海舟生誕 200 年記念特別展「家族展」に係る修復と映像制作のご報告』のページもご参照ください。

 

なお、今後の研究利用と原資料保存、展示活用の観点から、こちらの図面は修復後にレプリカが制作されました。このレプリカは8月11日より開催の特別展第三弾「家族と歩んだ明治 海舟書屋へのいざない」にて展示中です、是非ご覧ください。

 

大田区立勝海舟記念館
SNS:   (大田区公式チャンネル内)
URL:https://www.city.ota.tokyo.jp/shisetsu/hakubutsukan/katsu_kinenkan/index.html
住所:〒145-0063 東京都大田区南千束二丁目3番1号
お問合せ:03-6425-7608
交通: 東急池上線「洗足池」駅下車徒歩6分
開館時間:午前10時から午後6時まで(入館は午後5時30分まで)
休館日:毎週月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始、臨時休館日
入場料:一般300円、小中学生100円、高齢者(65歳以上)240円

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2023年8月4日(金)お客様にお届けする暑中お見舞いが完成しました。

今年の柄は、夏野菜づくし。色鮮やかなビタミンカラーのバンダナと挨拶状をお送りします。

 

甘くてジューシーなトマトにトウモロコシ、暑い夏の味方キュウリ、個性的な味が美味しいゴーヤにミョウガ。
夏が旬の野菜には、暑い季節に不足しがちなビタミンや水分がたくさん含まれています。夏野菜から元気をもらい、暑い夏を乗り切りましょう!
猛暑の折りから、みなさまのご健康をお祈り申し上げます。

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2023年7月18日(火)1点物の陶彫作品を収納する保存容器を製作しました。

美術画廊GALLERY SCENA様からのご依頼で、陶造形作家・村上仁美様の陶彫作品を収納するアーカイバル容器を製作しました。

 

作品は陶製のオブジェで、表面にアクリル絵の具等で焼成後の彩色が部分的に施されています。以前は作品を購入されたお客様へご納品する際、桐箱などをご利用されていたとのことですが、市販の桐箱ではぴったりと合うものがなく、作品の大きさと形状の正確な測定や固定治具の取り付けなど、カスタムフィットの対応が難しいと感じていたとの事です。また、木材から放散される有機酸などのガスが作品の彩色部に悪影響を与える危険性を憂慮されており、なるべく製作当初の状態のままご購入されたお客様の手元で大切にしていただきたいとの思いで、弊社のアーカイバル容器をご活用いただいております。

 

アーカイバル容器は、身の前面が開くフラップ仕様の被せ式保存箱です。この形状により、作品を横から安全に出し入れすることができます。作品のサイズや重量に応じて、底面や側面に補強を施しています。収納対象となる陶彫作品には、植物がモチーフの繊細な装飾が施されており、些細な衝撃で破損してしまう可能性があります。そのため、容器内で作品が横に動かないように、容器の底面には作品の輪郭に合わせてくり抜いた固定用のスペーサーを取り付けました。作品をお客様に納品する際などの輸送時には、緩衝材として新薄葉紙『Qlumin™くるみん』やエアキャップなどが使用されます。さらに、容器の外側には樹脂製の取っ手を取り付けています。これにより、収納された作品を安全に運搬することができるようになっています。

 

今回掲載させていただいた作品の展示会は既に終了しておりますが、2023年7月15日から30日までBunkamura Gallery 8にて開催される企画展『Opening Selection -Bright,Calm,Dark- Vol.3 Dark』にて村上様の作品も展示されます。

 

本記事の掲載にあたり、GALLERY SCENA様、村上仁美様にご協力をいただきました。誠にありがとうございました。

 

 

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2023年7月5日(水)愛知県長久手市にあるトヨタ博物館にて資料保存の出張講座を行いました。

トヨタ博物館の文化館3階にある図書室は、国内外の自動車に関する書籍、雑誌、カタログ、AV資料を幅広く所蔵しています。その中で、弊社は貴重書に分類される書籍の修理を年々担当していることから、今回の講座のご依頼となりました。

 

講座内容は、事前に要望をお伺いしながら詳細を詰め、当日は4時間にわたり図書室スタッフの方々を対象に行いました。

 

講座では、「治す」「防ぐ」「取り替える」という3つの資料保存の方策の中で、修復の役割や意義について理解していただくとともに、資料の損傷状態に基づいてどの選択肢を選ぶべきかについて説明し、スタッフの皆さんに共通の理解を持っていただくことを重視しました。

 

次に、図書室に所蔵されている雑誌資料の中で、金属綴じの資料への適切な処置方法について学びました。修復に必要な道具や適切な修復材料の選択方法を解説し、具体的な修復処置として、小冊子の金属除去や綴じ直し、本紙の破れの修補まで、専門知識と実践的なスキルを習得していただきました。その他、合本の解体から分冊までの実演、デンプン糊の作製などを行いました。

 

講座の中で、同図書室での資料保存の取り組みや課題についてもお伺いすることができ、私たちにとっても非常に有意義な時間となりました。

 

ご依頼をいただき、誠にありがとうございました。

 

 

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2023年6月13日(火)中性紙製紙管による大型作品のローリング(巻き取り)保管について

弊社では、中性紙製紙管を、大判の古地図、織物や染織品資料、大型ポスターなどを巻き取り保管するための太巻き用資材として利用しています。

 

非常に大きなシート状の資料は、マップケースや大型の保存箱に平らに広げて保管するのが理想的なのですが、専用の収納具やフォルダを使用してさらに保護する必要があり、特にマウントされていない場合や補強がない場合には、取り扱いによる物理的な破損を受けることがあります。こうした資料は、平らな状態で保存するのには大きすぎるため、紙管に巻き取り、箱へ収納することも一つの解決策です。また、この方法によって保管庫のスペースも有効に利用することができます。

 

今回製作した紙管付きの保存容器には、サイズが約2,100×2,800ミリの鳥の子紙に描かれたペン画作品が収納されます。巨大な作品を、直径の大きくて長い紙管で緩やかに巻き取ることで、作品の皺や折れを最小限に抑えて保存することができます。国内ではこのサイズに対応する紙管が手に入らなかったため、ドイツのKLUG Conservation社から紙管(Tubes)を取り寄せました。紙管は2本を歪みができないよう平行に連結加工し、保存箱には紙管を乗せる軸受けを取り付けています。さらに、上から軸受けを被せ、紙管を360度囲むことによって、箱の中で固定できるよう工夫されています。収納後は綿布団や薄葉紙をあて、全体を包み込むようにして作品を保管します。

 

▶︎ドイツKLUG Conservation社の紙管Tubesについて

ドイツのKLUG Conservation社では、文化財保護用資材として使用される紙管Tubesについて、品質試験であるPATの結果を公開しています。製品ページから品質表をダウンロードすることができます。また、同社では保存箱や紙管の主素材である、紙・ボードのPAT[※1]合格証明書やODDY Test[※2]結果、その他の品質表も公開しており、ユーザーにとっては安心できる情報となっています。

 

KLUG Conservation – Tubes made from conservation board -  

 

[※1] PAT Test(Photographic Activity Test)PATテストは、写真画像に損傷を与える可能性のある材料(紙・ボード、布、接着剤、フィルム、保存資材など)を評価するための試験です。一部の材料は、写真画像と化学反応を起こし、モノクロ・カラー写真の劣化や変色を引き起こす可能性があります。PATテストでは、潜在的にネガティブな反応を示す有害な物資の影響を検査します。もし影響が確認された場合、その材料は不合格となり、写真包材や文化財保護用包材として使用できません。PATは、写真保存材料の品質をテストし検証するために開発された公式なラボ試験です。この試験は米国のImage Permanence Instituteによって設計されました。PATに合格した接着剤などの写真保存製品は、安全であり、時間の経過とともに写真や他の素材への損傷を引き起こすことはありません。したがって、PAT合格製品は信頼できると言えます。

 

Rochester Institute of Technology/IPI – PAT testing –  

PAT(写真活性度試験=Photographic Activity Test)の概要と有用性 -アーカイバル容器の確かな信頼性のために- 

 

[※2] ODDY Test  ODDYテスト(オディテスト)は、1973年に大英博物館の保存科学者アンドリュー・オディによって開発された加速腐食試験です。この試験は、素材(展示、保管に使用される紙、ボード、木、布、発泡体、プラスチック、接着剤など)から発生する可能性のあるオフガス(放出ガス)を予測し、収蔵品に使用しても安全かどうかを判断するためのテストです。ODDYテストでは、収蔵品と密接に接触する素材が長期間にわたって有害な揮発性物質を放出する程度を半定量的に測定し、その素材の適合性を予測することができます。さらに、素材の安定性はImage Permanence Instituteの「A-Dストリップ」を使用してさらに評価することもできます。このストリップは、揮発性有機酸の短期間の放出を測定するために使用されます。

 

米国文化財保存学会(AIC)が提供する情報サイトで、さまざまな素材のODDYテストによる品質試験結果がまとめられています。ODDYテストでは、対象素材を高温恒湿環境で28日間置き、素材から発生する物質やガスが3種類の金属クーポン(銀、銅、鉛)にどのような腐食や変質を引き起こすかを調べます。このテストによって、対象素材が安心して使用できるかどうかが評価されます。結果はP、T、Uの3つの基準で判定されています。

 

P = Pass, Permanent: 長期利用可能(金属クーポンに腐食が見られない)

T = Temporary: 一時的な利用のみ(金属クーポンにわずかな変色や腐食が見られ、変色の膜が形成される)

U = Fail, Unsuitable: 使用不可(金属クーポンに明確な腐食が見られる)

 

AIC Conservation Materials & Materials Testing – Oddy Test Protocols – 

 

▶︎弊社では、強度のある箱や紙製保存箱を作成する際に、合成接着剤や接着テープ、樹脂系部品、紐などの素材を使用しています。保存箱や保存資材は、アーカイバルボードや厚紙(特種東海製紙社製/TTトレーディング社販売品)を主素材に、接着剤やテープなど、他の素材と組み合わせて作られています。これらの箱や資材は、単体、複合材においてODDY testやA-Dストリップテスト結果が良好でPAT合格品です。また、保存箱内の腐食性ガスの影響を測定するために、エコチェッカII(蛍光X線分析専用腐食性ガス測定キット)を使用した品質確認試験を行っています。このキットには、電機・電子機器に一般的に用いられる金属である、銅(Cu)、銀(Ag)、鉄ニッケル(FeNi)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)の金属片がセットされており、一定期間暴露した後に腐食性物質のスクリーニングや金属の変色を観察することで、腐食性物質の有無と種類、ごく低濃度の数ppbの腐食性ガスの影響を定量化し、大気環境の監視、腐食性物質や腐食性ガスの改善を正確に行うことができます。保存箱の内部、収蔵庫、保管倉庫、オフィスなどで長期間保管されている製品において、梱包部材による腐食性ガスの影響や保存箱の内部をテストし、金属クーポンの腐食によって腐食性物質やガスの有無とおおよその腐食度合いを診断し、放散ガスの影響がないことを確認しています。

 

 

 

ユーロフィン社製 蛍光X線分析専用腐食性ガス測定キット - エコチェッカⅡ –

 

 

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2023年5月19日(金)『獣医学教育用掛図展~獣医解剖学の系譜と本学の教育~』にて、修理を終えた掛図が展示中です

東京都武蔵野市にある日本獣医生命科学大学付属博物館が所蔵する獣医学教育用掛図コレクションのうち、弊社で修理を行った掛図が展示されています。同大学は日本で最初の私立獣医学校として創立された歴史的背景があることから、博物館では大学史関連資料や獣医畜産学の歴史資料の収集・展示に重点を置いて取り組まれています。また、博物館の常設展示のうち自然系展示室では、骨格標本、動物の剥製が展示され、イノシシ・ツキノワグマ・ニホンジカなどの哺乳類や身近な野鳥など、日本の里山に見られる野生動物の、迫力ある展示をご覧いただけます。

 

獣医学教育用掛図コレクションとは、馬、牛等の動物の解剖学的な情報等が描かれている掛図120点(企画展開始当時)からなるコレクションで、代々、獣医学部獣医解剖学研究室に保管されていました。大学史はもちろん、獣医学教育の歴史上でも貴重な歴史資料であるとされ、博物館へ移管されて以降は調査が急がれましたが、カビや虫害、水濡れ痕、煤汚れのような汚損が目立ち、一部の資料は本紙・表装ともに著しい損傷のため開くことが出来ず、調査を進めることが困難な状況でした。こうしたご相談を受けて、弊社では、掛図全点の撮影と調査を行い、資料情報、使用されている描画材、形態、損傷状態等の記録を行いました。この調査結果を受けて、歴史的な重要度が高いものから修理が実施されました。弊社にて修理を行った掛図4点は、掛け軸装から本紙のみを取り出し、ドライ・クリーニング、洗浄、水性脱酸性化処置、裏打ち等の修補を行った後、保存容器へと収納しました。現在は額装され、企画展示室にて展示されています。

 

企画展は5月31日(水)までご覧いただけます。現在は事前予約制となっておりますので、入館方法についてはこちらをご参照ください。また、学芸員の方々による博物館の活動報告、博物館実習の記録、多岐にわたる所蔵資料の詳細な解説をFacebookで見ることが出来ます。その中から、獣医学教育用掛図コレクション関連の記事をご紹介させていただきます。

 

 

【活動日誌6】大学史資料の保存と活用 
【資料紹介2】獣医教育用掛図コレクション 
【活動日誌31】獣医教育用掛図の修復を進めています 
【活動日誌62】獣医教育用掛図の修復が完了しました 
【活動日誌90】掛図の額装 
【学芸員課程レポート】3年生見学実習―作業体験5班 
【活動日誌116】新たな掛図の収集
【活動日誌123】掛図の調査を行います

 

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2023年4月18日(火)大型で重量のある作品の保管に「つづら式保存箱」の改良版を製作しました

つづら式保存箱は、上箱、底箱、側板の3つのパーツで構成される箱で、底箱に立てた側板に上箱を被せる形状です。底箱には紐を貼り付け、上箱で結んで固定します。

 

この保存箱の特徴は、側板を外せば、箱の中に入った作品に360度どの方向からでもアクセスでき、複雑で立体的な作品の取り扱いが簡単にできます。また、収納時は上箱を被せることができるため、大型で重い作品の保管にも適しています。

 

今回、大型作品を覆いそのまま管理できるような保管箱をご依頼いただき、つづら式保存箱をベースに、応用して製作しました。

 

5メートルを超える大型形状のため、側板を取り回しやすいサイズに分割し、収納品の取り出しやすさを確保するとともに、製造の効率化も図りました。また、側板をヒネリ留め具でつなぎ、2重のボードで強度を出すことで、大型作品をしっかりと保管できる強度を確保できます。さらに、ボードをずらして貼り合わせて隙間をなくすことで埃の侵入を防ぎます。最後に、補強した上箱を被せることで、保存箱全体の強度を高めることができます。

 

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2023年3月29日(水)上智学院ソフィア・アーカイブズ様所蔵の歴史資料「大学紛争ビラ」の保存処置事例

上智学院ソフィア・アーカイブズ様より大学紛争ビラ約3,100枚の保存処置をご依頼いただきました。ビラは上智大学を中心とした学生運動に関係する資料群で、市販の事務用品リフィルに収納され、リングファイルで年代順に整理・保管されていました。全体的に保存状態は良好でしたが、経年劣化によりファイルの樹脂製リングがベタつき、ステープルやクリップなど鉄製の留め具の腐食が進行していました。今後の利用を考慮し、資料の閲覧性をそのままに、長期保存を目的とした保存処置と小環境の整備を行いました。

 

具体的な整理作業に着手する前に状態調査を行い、個々の資料の状態、形態、必要な取り扱いを考慮しつつ、ステープルやクリップ類の金属除去とクロスや刷毛を使い資料に付着したホコリなどの細かい汚れを除去するドライ・クリーニングを行いました。クリーニングを終えた資料は中性紙(リフィル用間紙:収納する資料が曲がらないようサポートし出し入れもしやすくなる。またバインダーの開閉時に資料が摩擦して傷つくことを防ぐ)と一緒に透明リフィル(A4用リフィル)に入れ替え、アーカイバル・バインダーに収納しました。最後に、元の資料番号を印字したラベルをバインダー内のインデックスシートとアーカイバル・バインダー本体に貼付しました。

 

この度の事例掲載にあたり、上智学院ソフィア・アーカイブズの後藤様、大塚様にご協力をいただきました。誠にありがとうございました。

 

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