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2019年4月24日(水)紙の酸性度を測るためのメルク社のpHストリップの使い方。

資料の修理にとりかかる前の作業として、カルテの作成、状態撮影、スポット・テストとpH測定(※1)があります。なかでも、紙の酸性度合いをみるためのpH測定は、紙媒体記録資料の修理においてかかせない工程のひとつです。

 

和紙に墨書きされた文書や版本とは異なり、種類が豊富な近現代の文書や書籍の紙は、その劣化要因も損傷状況も様々です。特に、近現代の資料は、酸性紙問題(※2)として指摘されるように、紙の内部で化学的な酸性化が進むことで、紙力低下、それに伴う破れや欠損などの重篤な物理的損傷につながる恐れがあります。

 

こうした紙に対する修理技術の一つとして、紙中の酸を中和し内部にアルカリ・バッファー(※3)を残すための「脱酸性化処置」があります。pH値は、その化学的損傷度合いと、脱酸性化処置が問題なく、また、万遍なく行われたかを見るための指標として計測されます。pH値と、中和後のアルカリ・バッファー量とは全く別のものではあるものの、劣化度合いを測るためのいくつかある指標の中で、紙の保存性と密接につながっているといえます。

 

pHは、元々液体の水や水溶性の液体の酸性やアルカリ性を示す指標ですが、固体である紙にはそのままでは適用できません。厳密に紙のpHを測るときは、細かくカットした紙片を水の中に入れて、しばらく置いてから電極式のpH計測器で測定(JIS P 8133 1)しますが、この方法はいわゆる破壊的なサンプリング・テストになるので、修理の工程で行われることはほぼありません。代わりに使用されるのが「pHストリップ」です。これは、指示薬が塗布されている面をわずかな水分で濡らし、紙の表面と接触させ、その変色具合でpHを測定するという方法で、弊社ではメルク社のpHストリップを使用しています。

 

この方法で計測するのは紙の表面pHなので、厚みがあるものや、水の浸透性がよくない紙の内部のpHを測ることはできません。ただし、裏まで水が抜けるような紙質であればかなり正確に測定できます。

 

pHストリップの指示薬は水に濡れても色移りすることはありませんが、あまり水分が多いと、計測する紙の方がヨレたり、輪染みといわれる円形のシミを作ってしまうことがあります。pH測定もスポット・テスト同様、接触させる面をなるべく最小限に留めるために、例えば指示薬部分を半分に切って使用したり、計測後はすぐにろ紙を当ててしっかりと水分を取り除いたり、もちろん、水に滲むようなインクや色材の箇所では行わないなど、事前の準備を整えて行います。

 

[測り方]
①pHストリップを縦半分に切り、指示薬の部分も半分くらいにカットする。ポリエステルフィルムなどの小片を、計測する紙の下に敷く。
②蒸留水(脱イオン水であること)で、pHストリップの指示薬のついた面を湿らせる。浸したり、スポイトなどで滴下する。余分な水分はろ紙に吸い取らせる。
③指示薬の面を紙表面にあてて、上からもう一枚のフィルムで挟みマリネする。指で軽く押さえたり、ごく軽い重しを載せる。
④1分ほど経ったらストリップを外して、変色具合をカラーチャートと比較しpH値を確認する。

 

 

※1 pH:「水素イオン濃度指数」のこと。0~14までの数値によって水溶液の酸性またはアルカリ性の程度を表す。水溶液中のイオン化した水素イオン(H+)と、対極する水酸化物イオン(OH-)が同量存在するときが中性(pH7)、水素イオン濃度が上回ると酸性、逆に水酸化物イオンが多いとアルカリ性を示す。pはポテンシャル(potential)、Hは水素(Hydrogen)。

 

※2 酸性紙問題:紙の製造過程において、サイズ剤(にじみ止め)である「ロジン(松ヤニ)」の定着剤として、「硫酸アルミニウム(硫酸バンド)」が、19世紀後半から1980年代にかけて生産された紙に用いられた。硫酸アルミニウムと紙中の水分が反応することで強い硫酸が生成され、これが触媒となって紙のセルロースを加水分解し破断させる。さらに、硫酸の脱水作用により、潤滑油のような役割を担っている紙中の水分が奪われ、繊維の角質化が起こり紙が脆くなる。製造から50年足らずで紙力が極端に落ちてしまう資料が図書館やアーカイブズに大量に所蔵されていることが世界的な問題となり、これを契機に、中性紙の国際規格制定へとつながった。

 

※3 アルカリ・バッファー:紙中や大気中の酸性物質による劣化を予防するために紙に保持させるアルカリ残留物。ISO9706:1994 Paper for documents Requirements for permanence(永く残る紙)で定めている長期保存用紙の場合、「乾燥重量比で2%の炭酸カルシウム相当量を含んでいること」とされるが、文書や書籍の紙として長期に置かれ、かつ、すでに酸性化した紙に対して行う中和後のバッファー付与で、これだけの量を残留させることは難しい。

2019年2月20日(水)修理前に行うスポット・ テストとサンプリング・ テストとは?

修理にとりかかる前に行う作業として、カルテの作成、状態撮影、さらにスポットテストとpH測定があります。このうちスポット・テストは大別すると2種類に分けられ、目的がそれぞれ異なります。

 

まず一つは、資料の基材となる紙やイメージ材料に対して、スポット(点)状に試薬を接触させて行うテストです。このテストでは、処置に使用する水溶液や溶剤に対し、修理対象となる紙やインクがどのような反応を示すかを見ています。例えば水に「滲むか滲まないか」だけでなく、その程度や感度、脆弱性をみることで、想定する処置をより具体的にシミュレーションすることが可能となり、場合によってはこの段階で処置方法を再考し、より効果的な手法に転換できることもあります。簡便さ、速さが利点ではありますが、試薬を接触させることで見た目を変えることがないよう、テスト範囲は最小限に留める必要があります。一紙面の中でもどの箇所で行うべきかは慎重に判断しなければなりません。

 

もう一つは、本紙から落ちた微細な破片や、資料を構成する付属材料(粘・接着剤など)に対して試薬を用いて行うサンプリング・ テストです。反応をみるためのスポット・テストとは異なり、本紙や付属材料に含まれる物質を識別するために行います。精密な検査を求める場合はより専門的な分析機器が必要になりますが、修理の方向性を見定めたい時には短時間かつ目視で分かりやすく判別することが可能です。例えば試薬の一つにデンプンを検出する「よう素よう化カリウム溶液」があります。これは、過去の補修時にデンプン糊が使用されたことが分かれば、その補修紙を除去する際、デンプン糊の接着力を緩ませるために水を用いた水性処置は効果的で安全性が高いという判断ができます。

2018年10月3日(水) 傷みやすい資料は、保存箱に収納する前に”包む”ことで、より安全に保存し、取り扱うことができます。

弊社では、様々な資料を保存箱に収納することをお勧めしていますが、脆弱でデリケートな資料は、箱に収納する前に資料を適切な素材で”包む”ことで、より安全に保存し、取り扱うことができます。

 

▶︎物理的に守る
ガラス乾板やレコードなど、表面がデリケートな資料は、中性紙のフォルダーに包んで箱に収納することで、箱内での接触や、塵や埃などによる物理的な損傷を防ぎます。痛みが激しく繊細な資料は、両面がなめらかな新薄葉紙くるみん™️を1枚のせたり、巻くことで、表面を保護できます。

 

▶︎汚染ガスを除去する
資料にダメージを与える、空気中の有害ガスを除去するには、GasQ ®シートで包みます。折りたたむことでクッション性が出るので緩衝材にもなります。

 

▶︎資料をより扱いやすく
背を解体してバラバラになった本や、簿冊や新聞などの重くて持ちにくい資料、また、紙力が低下してもろくなった資料も、包んだりはさんだりすることで、しっかりと資料を持つことができ、まとめて箱から取り出せるので資料の出し入れがしやすくなります。

 

資料の状態によって様々な方法をご提案できますので、ぜひご相談ください。

2013年01月17日(木)

原資料のマイクロ化・デジタル化に伴う解体・復元・容器収納作業。資料を代替化のために撮影する際、安全に撮影するのに必要な見開き具合を確保するのが困難な場合、予め解体を行う。撮影後は、再製本や新規表紙作成による綴じ直し、あるいは保存容器への収納を行う。いずれの行程も所蔵者様、撮影業者様、弊社の3社で事前に方針を決める。画像は簿冊(合冊製本)、タイトバック(本体の背と背表紙が接着された構造)の革装丁本、金属による平綴じの小冊子の形態の解体前、解体後、復元後、容器収納の例。

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