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東京国立近代美術館フィルムセンター様所蔵の小冊子と新聞に対する保存修復処置事例

2011年05月9日高田かおる , 蜂谷伊代

東京国立近代美術館フィルムセンター様が所蔵する書籍や雑誌等のコレクションへの保存修復処置をお引き受けする機会を得た。対象となったのは大正後期~昭和初期に出版された映画に関する資料で、書籍3点、月刊誌の小冊子195点、週刊新聞7点である。資料は酸性劣化による紙力低下や、ヒンジ部や綴じの構造的な損傷が著しいものもあった。以下に小冊子と新聞への処置の概要を掲載する。

1. 小冊子に対する保存修復手当て

資料の状態 「新興キネマ」、「キネマ」など映画に関する資料195点。金属のステープルによる平綴じ、または中綴じの小冊子である。寸法はA5程度とB5程度の2種類で、厚みは5mmから15mm程度である。本文紙、表紙ともに酸性劣化による紙力低下や変色、耐折強度の低下が見られる。そのため、背表紙、表紙の破れや欠損が著しく、ヒンジ部で切れて表紙が外れているものもある。また金属の錆による紙の劣化が進行している。

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保存修復手当て方針

ドライ・クリーニングを行い冊子表面の埃や塵を取り除き、ステープル等の金属物を除去する。厚みが5mm未満の資料は紙縒りで綴じ直し、5mm以上の資料は麻糸で綴じ直す。表紙、背表紙の損傷に対しては、和紙で修補する。

 

処置工程

①前調査、ドライ・クリーニング、解体
資料の基材やイメージ材料へのスポットテストを行い、処置で使用する溶剤や水溶液への耐性を確認した。繊維が非常に細いクリーニングクロスを用いて、資料表面の埃や塵等を取り除いた後、ステープル等の金属物を除去した。

 

綴じ直し
中性の紙縒り、もしくは麻糸を用いて綴じ直した。綴じ位置は基本的に元穴を利用したが、元穴が金属物の腐食によって傷んで再利用できない場合や、綴じ位置として不適切な場合は、新たに穴を開けて綴じ直した。冊子の厚みが5mm以下のものは、糸では強度があり過ぎることから、紙縒りを用いて綴じ直した。綴じ直し後は、糸や紙縒りが見えないように、綴じの部分をデンプン糊で接着した。

 

修補
今後損傷が広がる恐れのある表紙と背表紙の破れや欠損に対し、和紙(楮)とデンプン糊で修補を行った。表紙が失われているものには、和紙(楮)で新規表紙を作製した。また、表紙の欠損部分が大きいものに対しては、和紙(楮)で補填した。

 

完成

処置前 処置後

処置担当:高田かおる

2. 大日本活動写真新聞の保存修復手当て

資料の状態

「大日本活動写真新聞」7点。サイズは260×370(㎜)。金属のステープルによる平綴じと、中綴じのものがある。2つ折りの4面構成で、3~6枚を2つ折りにして一括とし、さらに表紙で包んでいる。一部の資料については、半裁の大きさのものがノドで接着されているものもある。基材はリグニンを含む機械パルプ紙で、全体的に酸化・酸性劣化による変色が著しく、カラー印刷のものは退色が見られる。また、本紙・表紙ともに、全体的に紙力が低下しており、特に資料周縁の破れや亀裂がひどく、欠損も多く見受けられる。ノド部分の損傷がひどいものは、半裁の状態になっているものもある。

 

保存修復手当て方針

3点(大日本活動写真新聞「No.45」、「No.46」、「No.48」)については、ステープルを除去し解体した後、ドライ・クリーニングを行う。破れの修補を行った後、酸性劣化の予防手当てとしてBookkeeper法による非水性脱酸性化処置を行う。フラットニングを行い、資料を一度平らにした後、半分に折って綴じ直す。

紙力の低下が著しい4点(「No.99」、「No.101」、「4月第2,3週合併」、「11月第2週」)については、綴じ直した際に資料に負担がかからず、かつアクセスがしやすい形態にするため、半分に裁断して全ての大きさを揃える。解体した後、ドライ・クリーニング、修補、Bookkeeper法による非水性脱酸性化処置を行う。フラットニングを行い、平らにしたものを、和紙で作った足と共にエンキャプシュレーションする。足の部分に新たな綴じ穴を開けて綴じ直す。

 

処置工程

解体、裁断、ドライ・クリーニング
資料を綴じているステープルを外して解体を行った。「No.99」、「No.101」、「4月第2,3週合併」、「11月第2週」については、半分の大きさに裁断した。その後、先端が柔らかい刷毛や、繊維が非常に細いクリーニングクロスを用い、埃や塵を取り除いた。

 

pH測定・スポットテスト
基材のパルプ紙と、イメージ材料へのスポットテストを行い、使用する水溶液と有機溶剤に対する耐性を確認した。処置前平均pHは4.0。

 

修補
周辺部の破れや欠損は、極薄の和紙(楮)をデンプン糊で接着し、補強した。表紙の欠損部分は、色調を合わせるために染色した和紙(楮)で補填した。「No.45」、「No.46」、「No.48」の3点については、本紙のノド部分を、1枚ずつ和紙(楮)とデンプン糊で繋ぎ直し、綴じ直しができるように補強した。また、接着剤で貼られていた半裁サイズのものは、ノド側に和紙で足を付けた。

 

非水性脱酸性化とフラットニング
紙中のリグニン含有量が多い資料に対し、高アルカリの水性脱酸性化処置を行うと、資料が黄変する恐れがある。それを防ぐために、Bookkeeper法による非水性脱酸性化処置を行った。Bookkeeperとは不活性液体に酸化マグネシウム微粒子が分散している液体である。これを、資料の両面から噴霧した。液中の酸化マグネシウム微粒子が紙中の繊維の間に入り込み、紙中および大気中の水分、二酸化炭素と結合して炭酸マグネシウムを形成する。この炭酸マグネシウムはアルカリバッファーとして紙中や大気中の酸性物質による劣化を予防する。処置後pHは平均7.7で、弱アルカリ域まで上昇した。その後、資料にわずかな水分を与え、ろ紙に挟んでプレスし平らにした。「No.45」、「No.46」、「No.48」の3点については、その後半分に折った。

 

エンキャプシュレーション
「No.99」、「No.101」、「4月第2,3週合併」、「11月第2週」の4点については、エンキャプシュレーションを行った。綴じ直す際の綴じ代とするため、和紙(楮)で一枚一枚足を付けた。この足は資料に貼らず、突き付けるように配置し、資料と共に不活性のポリエステルフィルムに挟んで、フィルム周辺を超音波でシールドした。綴じた時に背側にくる辺のみフィルムと和紙の足を一緒に溶断し、足の固定とした。また、資料側の足の天地と中央に、それぞれ数ミリの溶着箇所を作り、万が一資料がフィルム内で動いた時のストッパーとした。資料と足同士は全く接着していないので、フィルムの周辺をカットすれば、いつでも簡単に資料だけを取り出すことができる。この処置により、支障なく資料を閲覧や展示、複写することが可能となった。

 

綴じ直し
「No.99」、「No.101」、「4月第2,3週合併」、「11月第2週」の4点については、資料を順番通りに並べ替えてから、足部分に新たな綴じ穴を開け、ポリエステル製の平紐で綴じ直した。綴じ代を広く取ったことで、見開き度が上がって資料を閲覧しやすくなった。綴じは平紐で結んであるだけなので、解けば一枚ずつ取り外しが可能である。

「No.45」、「No.46」、「No.48」の3点については、括構造を組み直した本体を表紙で包み、中性の紙縒りで綴じ直した。

 

完成

処置前 処置後

処置担当:蜂谷伊代

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