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芳賀町総合情報館様所蔵の地図資料に対する保存修復処置事例

2010年10月1日久利元昭

芳賀町総合情報館様が所蔵するコレクションのうち、地図資料の保存修復処置をお引き受けする機会を得た。対象となったのは昭和20~30年代に作成された芳賀町の地図15点で、著しい傷みが生じているものも多く見られた。『資料の電子化、ならびに原資料の閲覧提供が可能な状態にして欲しい』という情報館様からの要望に応えるため、適切な処置方針を検討したのち実際の手当てを行った。以下、その概要を掲載する。

資料の状態

資料の寸法は約800×1100(mm)のものが14点と、約400×600(mm)のものが1点。基材はパルプ紙で、主なイメージ材料は印刷インクだが、色鉛筆による彩色が全面に施されており、ペンや鉛筆による書き込みも見られる。また裏面には、芳賀町の地名や所蔵していた機関などが墨やスタンプによって記されている。いずれの資料においても本紙に著しい折れやしわが生じており、文字や図像を読み取りにくくしている。これは本紙の破れを繕うため、裏面に何層にも貼られた古紙(パルプ紙)が原因で、状態の悪いものでは無数のひび割れが生じ、折れ山の部分の図像が擦れて欠落したり、新たな破れが生じている。古紙は墨書きやスタンプの上にも貼られているため、地名などの情報が見えなくなっているものもある。さらに、周辺部の破れや裂けなどの補強として粘着テープが使われており、劣化した粘着剤が変色し茶褐色の染みになっている。

保存修復手当て方針

資料の現状記録を作成後、ドライ・クリーニングを行う。しわや折れの原因となっている古紙の裏貼りや粘着テープを除去し、歪んだ図像を整えてから、裏打ちによって本紙を補強する。フラットニング後、酸性劣化の予防手当てとしてBookkeeper法による非水性脱酸性化処置を行い、最後に、資料を不活性のポリエステルフィルムに挟んでエンキャプシュレーションする。

処置工程

①ドライ・クリーニング、粘着テープの除去

刷毛や、繊維が非常に細かいクリーニングクロスを用いて、資料表面の埃や塵等を取り除いた。破れや周辺部に貼られた粘着テープは、温めたスパチュラなどを用いて物理的に除去した。

 

②pH測定とスポットテスト

基材の紙とインク等のイメージ材料へのスポットテストを行い、使用する水溶液と有機溶剤に対する耐性を確認した。処置前pHは平均5.0で、いずれも酸性域だった。

 

③旧裏貼り紙の除去

本紙の折れやしわの原因となっている古紙による裏貼りを除去した。なお、ほとんどの資料において、本紙と古紙の裏貼りの間に薄い和紙による裏打ちがされていたが、これが原因による折れやしわは無く、本紙の補強になっていた。さらに、地名などの記載がこの裏打ち紙にされていたことから、無理に剥がすことはせず、そのまま残すことにした。古紙の裏貼りには水に可溶性のイメージ材料が使われているものもあったため、まず乾燥した状態で物理的に取り除き、残りの紙や粘着物は最小限の湿りを入れ、和紙の裏打ち紙まで剥がさないように気をつけながらピンセットで除去した。

 

④裏打ち、フラットニング

加湿やスプレーによって本紙全体に湿りを入れ、徐々に折れやしわを伸展させながら図像を整えた後、破れや紙力低下の補強として薄い和紙(楮)とデンプン糊による裏打ちを行った。裏面に地名や番号が書かれている部分については、そこだけ裏打ち紙をくり抜き、文字が見えるようにした。裏打ち後、資料をろ紙に挟んでプレスし、平らにした。

 

⑤非水性脱酸性化

Bookkeeper法による非水性脱酸性化処置を行った。Bookkeeperとは不活性液体に酸化マグネシウム微粒子が分散している液体である。これを、資料の両面から噴霧した。液中の酸化マグネシウム微粒子が紙中の繊維の間に入り込み、紙中および大気中の水分、二酸化炭素と結合して炭酸マグネシウムを形成する。この炭酸マグネシウムはアルカリバッファーとして紙中や大気中からの酸性物質による劣化を予防する。処置後のpHは平均8.3で、弱アルカリ域まで上昇した。

 

⑥エンキャプシュレーション

保存性に優れたポリエステルフィルムに資料を挟み、フィルムの下辺と左辺を超音波でL字にシールドした。使用したポリエステルフィルムは可塑剤、紫外線防止(吸収)剤、染料及び含浸剤を含まず、表面塗工を施さないもので、封印はフィルムの端を残さない溶断法を採用した。このエンキャプシュレーション処置により、資料を安全に閲覧、利用することが可能となった。また二辺が開いているので、いつでも簡単に取り出すことができる。

 

完成

処置前 処置後

 

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