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インク焼け資料への保存修復手当て-効果の比較実験 Ⅰ

2009年05月29日久利元昭

はじめに

図1没食子インクで書かれた資料

 

没食子インク(Iron gall ink)とは、没食子(もっしょくし)や五倍子(ごばいし)などの植物の瘤に含まれるタンニンと、硫酸鉄水溶液、アラビアゴムなどから作られるインクである。また、一般的にブルーブラックインクと呼ばれているものの多くは、これらを主成分として作られている。書写したインクは大気中の酸素と反応し、紙などの基材に「焼き付いた」ようになり、水に流れなくなるという特徴がある。物理的に削らない限り改ざんができないという理由もあって、西洋では中世後期から20世紀半ばにかけて多く用いられた。日本でも明治以降、ペン書きの普及とともに、墨に替わる書写材料として多用されてきた。

しかし、没食子インクの「焼き付く」という特徴は、同時に劣化の要因でもある。劣化の度合いはインクの成分バランスや塗布量、基材の組成や厚みによって異なり、資料の保管環境も大きく影響する。劣化が進行すると、書写した部分やその周辺部が茶色に変色し、最終的には書写部分が剥落してしまうこともある(Reissland 2000a)。これがいわゆる「インク焼け」という現象で、没食子インクで書かれた資料の大きな問題となっている。

没食子インク資料に関する研究は、オランダやスロベニアを中心に海外では盛んに行われており、コンサベーションの現場で実用化されている技術もある。弊社で没食子インク資料を取り扱う際も、こういった研究を参考に保存修復処置を施してきた。しかしこれらの研究は、あくまで海外の資料を対象に行われたものであり、日本の資料に適応出来るかどうかについてはほとんど議論されていない。そこで今回の実験では、日本の没食子インク資料に対して、海外で実際に行われている幾つかの処置法、更に近年注目を集めている非水性の処置法を試験し、その効果を比較、検討した。

 

没食子インク資料の劣化と保存修復処置

<劣化のメカニズム>

没食子インクの劣化を引き起こす主な要因として、インクに含まれる二つの成分が挙げられる。一つは硫酸による酸性劣化で、これが紙の主成分であるセルロースの加水分解を引き起こす。もう一つは鉄イオン(特に二価、三価の鉄イオン)で、これらが直接、あるいは触媒となって酸化反応が起こり、セルロースを劣化させる(Neevel 1995, Reissland et al. 2000)。この二つの劣化をどのように抑制するかが、没食子インク資料を処置するときの要点となる。

<保存修復処置>

没食子インク資料に対し、現在行われている保存修復処置を大まかに分類すると、「水性処置」、「非水性処置」、「その他の処置」の三つに分けることが出来る。図2、図3にその概要を示す。

図2 没食子インク資料に対する保存修復処置の分類

 

図3没食子インク資料に対する保存修復処置 左:フィチン酸カルシウム水溶液と炭酸水素カルシウム水溶液による抗酸化(水性処置) 中央:Bookkeeper法による脱酸性化(非水性処置) 右:抗酸化作用のある間紙と資料を接触させてインクの劣化を抑制(その他の処置)

 

水性処置

水を溶媒として使う処置であり、現在は「洗浄」、「脱酸性化」、「抗酸化」の三つを連続して行う処置が広く行われている。洗浄は蒸留水、逆浸透膜水(RO水)などをそのまま、あるいは弱アルカリに調整した水溶液を処置に使用する方法で、紙やインクの中に含まれる水溶性の酸性物質や二価鉄イオンを洗い流す。

水性の脱酸性化処置には、カルシウム塩化物やマグネシウム塩化物を溶解させた水溶液を使用する。これにより不溶性の酸を中和し、アルカリを紙の中に残すことで、酸性劣化を抑制することが出来る(Gerbracht et al. 1997)。

さらに鉄イオンを触媒とする酸化劣化を抑制する方法として、フィチン酸を用いた抗酸化がある。フィチン酸が持つキレート性により、没食子インクに含まれる不安定な二価鉄イオンと反応し、二価鉄(または三価鉄)-フィチン酸化合物となることで鉄イオンの触媒作用を抑止し、酸化によるセルロースの劣化を防ぐ(Neevel 2000, Huhsmann et al. 2008)。

フィチン酸のように、インクの酸化を抑制する物質を「抗酸化剤」と呼び、他の抗酸化剤としてはゼラチンなどのタンパク質が挙げられる。ゼラチンはサイズ剤として西洋では古くから使用されているが、遷移金属イオン(特に二価鉄イオン)と結びつきやすいという性質を持っており、抗酸化剤として作用する(Kolbe 2004, Huhsmann et al. 2008)。

洗浄、脱酸性化、抗酸化の三つの処置を組み合わせることで、没食子インクの劣化を大幅に抑制することができる。特にフィチン酸カルシウムと炭酸水素カルシ ウムを組み合わせた抗酸化は非常に効果があると言われており、現在、インク焼け資料に対する代表的な処置となっている。

 

非水性処置

処置に水を使用しない方法で、「脱酸性化」と「抗酸化」が主な処置として挙げられる。非水性の脱酸性化処置としては、アルコール等の水以外の液体にアルカリを溶け込ませた溶液を使用する液相式(Papersave、CSC Booksaverなど)や、不活性の液体にアルカリ微粒子を分散させた懸濁液を使用する固相式(Bookkeeper)、ガス状のアルカリを使用する気相式(DAE法など)がある(Porck 1996, SNL 2006, 須藤 2007)。脱酸性化処置により紙やインクの中に含まれる酸を中和し、紙の中に少量のアルカリを残すことで、アルカリ緩衝材として作用する。

非水性の抗酸化処置についてはまだ研究段階であり、フィチン酸カルシウムのように広く実用化されているものは無い。しかし、臭素やヨウ素などのハロゲン化合物には、鉄イオンが触媒として作用することによって発生する過酸化物を抑制、分解する効果があると言われており、これが抗酸化に繋がると考えられている(Kolar et al. 2000, Mali et al. 2005)。また最近の研究では、イミダゾリウム臭化物とマグネシウムエトキシドを使用した非水性の抗酸化処置が、フィチン酸を用いた水性処置よりも高い 抗酸化効果を示したことが報告されている(Kolar et al. 2008)。

 

その他の処置

上記以外の処置としては、「紙力強化」や「間接的な抑制」などがある。紙力強化の方法としては、裏打ちやペーパースプリッティング法などがある。間接的な抑制法としては、臭化ナトリウムと水酸化カルシウムを含ませた間紙で資料を挟むという方法がある。これらの物質を含浸させた間紙から、インク焼け資料に臭化ナトリウムが移行することで、酸化やインクの変色を抑制する効果があると言われている(Hansen 2004)。

 

実験方法

図4 比較試験の方法

 

没食子インクで書かれた原稿用紙(図4a)に対し、以下の実験を行った。

  1. 没食子インクで書かれた原稿を同じ大きさの紙片に分割し、サンプルごとに二価鉄指示薬紙を用いてインクの呈色反応を確かめた(図4b、二価鉄指示薬紙については補足1参照)。
  2. それぞれのサンプルに対し、水性、非水性の処置を行った(図4c)。
  3. アメリカ材料試験協会(ASTM)の試験法を参考に、処置を施したサンプルの一部を試験管に入れ密封し(図4d)、95℃に設定したオーブンに90時間入れて加速劣化させた(図4e、ASTMの加速劣化試験については補足2参照)。
  4. 未処置、処置後、加速劣化後の各サンプルについて、pHや指示薬紙の呈色反応、インクや紙の視覚的な変化や紙の強度について比較した。

 

各サンプルに行った処置内容を表1に示す(材料、処置内容の詳細については補足3参照)。

処置内容
  未処置 (Untreated)
水性処置 逆浸透膜水(RO水)による洗浄 (Water)
フィチン酸カルシウム+炭酸水素マグネシウム (Ca-phytate)
フィチン酸カルシウム+炭酸水素マグネシウム+ゼラチン (Ca-phytate+gelatin)
非水性処置 Bookkeeper
マグネシウムエトキシド (MgEtO)
1-エチル-3-メチルイミダゾリウムブロミド (EMIMBr)
EMIMBr+MgEtO
EMIMBr+Bookkeeper
1-ブチル-2,3-ジメチル-イミダゾリウムブロミド (BDMIMBr)
BDMIMBr+MgEtO
BDMIMBr+Bookkeeper

表1 各サンプルに行った処置内容

 

結果と考察

<二価鉄指示薬紙の反応の変化について>

各サンプルについて、未処置、処置後、さらにこれらを加速劣化させたものについて、二価鉄指示薬紙の呈色反応とpHの変化を図5、表2に示す。

図5 各サンプルの処置前、処置後、加速劣化後における二価鉄指示薬紙の呈色反応の様子

 

  二価鉄指示薬紙の反応 pH (処置前平均 4.6)
処置内容 処置前 処置後
(未劣化)
劣化後
(95℃,90h)
処置後
(未劣化)
劣化後
(95℃,90h)
Untreated ++   +++   4.6
Water ++ ++ 5.3 5.2
Ca-phytate ++ 5.7 5.6
Ca-phytate + gelatin ++ 5.7 5
Bookkeeper ++ 8.8 8.5
MgEtO ++ ++ +++ 7.8 5.8
EMIMBr ++ ++ +++ 5.2 5
EMIMBr + MgEtO ++ ++ +++ 6.9 6.3
EMIMBr + Bookkeeper ++ 8.4 8.3
BDMIMBr ++ ++ +++ 4.9 4.9
BDMIMBr+MgEtO ++ +++ 6.4 5.7
BDMIMBr + Bookkeeper ++ 8.2 8.2

- 反応なし  +わずかに反応あり  ++反応あり  +++ 顕著な反応あり 表2 各サンプルの処置前、処置後、加速劣化後における二価鉄指示薬紙の呈色反応とpHの変化

 

・水性処置の結果(サンプル②~④)

いずれのサンプルも処置後は二価鉄イオンの反応が無くなっているが、逆浸透膜水(RO水)による処置(サンプル②)については加速劣化後に再びピンク色の反応を示している。それに対しフィチン酸カルシウムと炭酸水素カルシウムによる抗酸化処置(サンプル③)については加速劣化後も呈色反応を示さなかった。これは、二価鉄イオンがフィチン酸と化合物を形成し安定したからだと考えられる。一方、サンプル②については、洗浄により可溶性の二価鉄イオンは取り除かれたが、二価鉄イオンの働きそのものを抑制したわけではない。そのため、今まで安定状態にあった鉄イオンが加速劣化によって不安定となり、再びセルロースの酸化反応に影響していると考えられる。実際、没食子インク資料を蒸留水に30分浸漬させても、書写されたインクの内部には鉄が存在しているという分析結果も報告されている(Eusman et al. 2000)。

なお、サンプル④については、フィチン酸+ゼラチンという、いずれも抗酸化作用のある処置を施したが、加速劣化後にわずかな呈色反応を示した。この原因については不明であり、更に調査を進めたい。

 

・非水性抗酸化剤とマグネシウムエトキシドを使用した処置(サンプル⑥~⑧、⑩、⑪)

二価鉄指示薬紙の反応を見ると、処置後も処置前とほぼ同じような呈色反応を示している。更に加速劣化後はピンク色だけではなく、インクそのものの色移りもしており、未処置(サンプル①)と同じ反応である。結果から見れば新しい抗酸化剤は効果が無いように思えるが、この非水性処置は研究段階であり、詳細はまだ明らかにされていない。そのため、溶液の作り方や処置方法が異なっていた可能性がある。

 

・Bookkeeperを使用した非水性処置(サンプル⑤、⑨、⑫)

加速劣化後の反応を見ると、わずかにインクの色移りはしているものの、処置前や未処置のサンプルよりは呈色反応が弱くなっており、また紙のpHも上がっている。これについて、新しい抗酸化剤の効果(サンプル⑨、⑫)が出ているのかどうかは不明だが、Bookkeeperによる脱酸性化で、インクの劣化が抑制されていることが考えられる。脱酸性化により紙やインクの酸性劣化が抑制されるとともに、二価鉄はアルカリ環境下で三価鉄となり、酸化反応の触媒として作用しないと言われており(Reissland1999)、こういったことも影響しているのかもしれない。

 

<インクと紙の視覚的な変化について>

各サンプルの未劣化、加速劣化後の状態を図6 に示す。

図6 各サンプルの未劣化、劣化後の様子

 

・紙の変色について

どのサンプルも加速劣化後は変色しているが、フィチン酸カルシウム+炭酸水素カルシウム処置を行ったもの(サンプル③)については、変色がかなり抑えられている。この他の水性処置(サンプル②、④)、またBookkeeperを行ったもの(サンプル⑤、⑨、⑫)についても、比較的変色が抑えられている。一方、マグネシウムエトキシドや非水性の抗酸化剤を使用したもの(サンプル⑥、⑦、⑧、⑩、⑪)については、未処置(サンプル①)と同じような劣化を示した。

 

・インクの変化について

図7 インクの滲みの比較(顕微鏡拡大写真)
左:未処置、未劣化
中央:サンプル③処置後、加速劣化
右:サンプル⑦処置後、加速劣化

最も大きなインクの変化としては、加速劣化後に生じたインクの滲みである(図6、図7)。滲みを生じているものは未処置(サンプル①)と、マグネシウムエトキシドと抗酸化剤による処置を施したもの(サンプル⑥、⑦、⑧、⑩、⑪)である。どのサンプルも、処置中、処置直後の段階ではインクの変化が見られないが、加速劣化後に滲みを生じている。その一方で、水性処置を施したもの(サンプル②、③、④)はどれもインクの滲みは見られない。また、サンプル⑨、⑫については、Bookkeeper処置以外は、滲みが生じたサンプル(⑦、⑩)と同じ溶液を使用しているにもかかわらず、劣化後も滲みが見られなかった。インクの滲みについてはReisslandらが報告しており、没食子インクの主成分ではないがインクの中に含まれる可溶性の色材、もしくは紙やタンニンの劣化によって出来た物質の可能性を挙げているが(Reissland 2000b)、詳しいことはまだ分かっていない。

 

・紙の物理的強度の変化

物理的強度の変化については、官能法(紙の端部を軽く折り曲げて物理的強度を測定する方法)によりその変化を確認したが、今回の実験では大きな変化が見られなかった。だがこれについては試験サンプルを増やし、また加速劣化の条件を変えて再び試験を行うなどして、次回以降に詳細な報告をしたい。

 

まとめ

世界的に行われているフィチン酸カルシウムと炭酸水素カルシウムを用いた抗酸化処置は、今回の実験で使用した日本の没食子インク資料に対しては効果があることが確認できた。一方、非水性の抗酸化処置については十分な効果が得られなかった。しかしこれらの結果は、あくまで今回の実験で用いたサンプルに対しての結果である。そのほかの没食子インク資料(楽譜や書簡、わら半紙への書き込みなど)に対する抗酸化処置の効果や影響については現在試験中であり、追って詳細を報告する予定である。

 

<補足 1> 二価鉄指示薬紙の呈色反応

実験で使用した二価鉄指示薬紙(商品名 Iron Gall Ink Test Paper)とは、資料に使われているインクが没食子インクであるかどうかを素早く簡単にチェックするために、オランダ国立文化財研究所(ICN)のNeevelらが開発したものである。没食子インクに含まれる二価鉄イオンと、指示薬のバソフェナントロリン(Bathophenanthroline)という物質が反応し、ピンク色の化合物を形成することを利用している。指示薬紙はバソフェナントロリンを含んでおり、インクをチェックする時は指示薬紙を蒸留水で軽く湿らせ、調べたいインクに接触させる。もし使われているインクが二価鉄を含む没食子インクであれば、水に可溶性の二価鉄イオンが指示薬紙に移行し、ピンク色の呈色反応を示す(Neeveletal.2005)。このように、わずかな水分でインクのチェックが出来るため、没食子インクの有効な判別法として広く利用されている。ただし、この方法で呈色反応を示さないインクが、すべて没食子インクではないと断定することは出来ない(例えばサイズ剤などの影響で二価鉄が指示薬紙に移行しない場合がある)。また、鉄以外の遷移金属(銅など)で作られた没食子インクに対しても反応を示さないので注意が必要である。

 

<補足 2> 加速劣化試験

今回の実験で行った加速劣化試験法は、アメリカ材料試験協会(ASTM)が正式な試験法として採用している 「ASTM D 6819-02: Temperature aging method」 を参考にしたものである。同試験法は、これまでの強制劣化試験法で問題になっていた「自然に経時した場合の劣化度との整合」がつく方法と言われており、サンプル紙片(一枚物および束にしたもの)を密閉した試験管に入れて、これを100℃のオーブンに5日間入れるだけで結果が出る。このサンプルを、同じ組成の紙だが、すでに自然劣化しているものとクロマトグラフ等で比較すると、自然の経時劣化のときの酸性物と同じものが検出でき、劣化パターンもほぼ同じになるとし、資料が自ら生み出す酸性物等は長期にわたって劣化の原因になっていることも分かった。従来法のような湿度調整が不要のため、手間とコストが格段にかからず、結果が早く出るのも特徴である。またこの方法は密閉性の高い試験管を使用することで、それぞれの試験管内に小環境が形成されるため、サンプル間の相互的な影響が無い。そのため、今回のような処置の比較試験にも適している。なお、今回の実験は自然劣化のシミュレーションではなく、処置法の比較が目的であったため、設定温度や劣化時間はASTMの規格とは異なっている。

 

<補足 3> 使用した溶液の作り方と処置方法

実験で使用した溶液の作り方と処置方法を以下に示す。

 

逆浸透膜水(RO水)による処置(サンプル②)

  1. 35~40℃に暖めたRO水に、水酸化カルシウム飽和水溶液を少量加え、pHが7.5~8.0になるように調整した。
  2. サンプルをイソプロピルアルコール(30%水溶液)で濡らしたあと、1の水溶液に30分浸漬した。

 

フィチン酸カルシウム+炭酸水素カルシウム+(ゼラチン)による処置(サンプル③、④)

図8 フィチン酸カルシウム水溶液の作り方

 

A:フィチン酸カルシウム水溶液の作り方

  1. 2.28gのフィチン酸(50.4%溶液)に、0.44gの炭酸カルシウムを加えて攪拌した(図8左)。
  2. 1000mlのRO水を1の溶液に加え、更にアンモニア水溶液(25%)を少量ずつ加え、水溶液のpHが5.8付近になるように調整した(図8中央)。

 

B:炭酸水素カルシウム水溶液の作り方

  1. 1000mlのRO水に7.3gの炭酸カルシウムを加えてよく攪拌した。
  2. 1の水溶液に二酸化炭素を注入し、時々攪拌しながら冷蔵庫に保管した。

 

C:ゼラチン水溶液(2%)の作り方

  1. 1000mlのRO水に20gの粉末ゼラチン(アルカリ処理されたもの)を入れて攪拌し、しばらく膨潤させた。
  2. 1の水溶液を湯せんし、40℃を保持した(図8右)。

 

処置方法

  1. サンプル②と同じ処置を行ったのち、Aの水溶液に30分浸漬し、更にBの水溶液に30分浸漬した。
  2. サンプル④については、1を行ったあと余分な水気をろ紙で吸い取り、Cの水溶液に1分浸漬した。

*フィチン酸カルシウムと炭酸水素カルシウム、ゼラチンを用いた抗酸化処置については、以下のHPに詳しい処置方法が掲載されており、上記の処置法もこれに倣った。 The ink corrosion website

 

非水性抗酸化処置(サンプル⑥~⑫)

  1. エタノール(99.5%)に対し、マグネシウムエトキシドは0.05mol/L、イミダゾリウム化合物(EMIMBr,BDMIMBr)は0.03mol/Lの割合でそれぞれ加え、攪拌した(Kolar et al. 2008)。
  2. 1の割合にしたがって作った溶液に、各サンプルを30分浸漬した。サンプル⑨、⑫については、溶液に浸漬したあと、完全に乾いてからBookkeeperを両面に噴霧した。

 

参考文献

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