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阪神・淡路大震災の記録を残す:「1995年1月16日~31日付け 神戸新聞」への保存修復手当て

2009年03月31日蜂谷伊代

資料の状態

人と防災未来センター様所蔵「神戸新聞」1995年1月16日~31日分。計28点79枚(22日朝刊の挟み込み1枚含む)。1995年1月17日に起きた阪神・淡路大震災の教訓を後世に伝えていくため、震災とその復興に関する資料・記録の収集・保存事業の一環として、今回、保存修復処置を行うことになったものである。元は厚紙で表紙を作り、本紙背部分に穴を開けて平綴じ、閲覧に供していた。

新聞自体は、周辺部に小さな破損があるものも中にはあるが、大きな破損は見られない。紙力も保たれており、資料の状態は概ね良好である。ただし、1月16日朝刊は、綴じた束の一番上にあったため、本紙が全体的に茶褐色化しているほか、汚れが目立つ。また、1月16日朝刊の第1面と1月31日夕刊の第8面(最終面)の綴じ穴には、補強として粘着テープが貼られている。

保存修復手当て方針

ブランケット判の新聞は、所蔵者様とご相談の上、綴じ直した際に資料に負担がかからず、かつアクセスがしやすい形態にするため、半分に裁断して全ての大きさを揃える。綴じ穴の補強として貼られていた粘着テープを除去してから、ドライ・クリーニングを行う。破損箇所の修補を行った後に、非水性脱酸性化処置を行う。ただし、1月16日朝刊に関しては、他の日付の新聞に比べて汚れが目立ったため、洗浄を行い、白色度を上げてから、修補を行うことにする。フラットニングを行い、平らにしたものを、和紙で作った足と共にエンキャプシュレーションする。新聞を順番通りに並べ替え、適切なところで分割し、足の部分に新たな綴じ穴を開け、新規表紙を付けて綴じ直す。

 

処置工程

裁断、粘着テープ除去、ドライ・クリーニング

ブランケット判の半分の大きさになるように裁断した。裁断後の枚数は154枚(挟み込み含む)。綴じ穴の補強として貼られていた粘着テープは、温めたスパチュラを用いて慎重に取り除いた。その後、超極細繊維の布で資料表面の塵や埃を取り除いた。

スポットテストとpHチェック

基材の紙とインク等のイメージ材料へのスポットテストを行い、使用する水溶液と有機溶剤に対する耐性を確認した。処置前の平均はpH4.4。

洗浄

汚れの目立つ1月16日朝刊のみ、白色度をあげるために洗浄を行った。洗浄水の浸透性をよくするため、イソプロパノール水溶液に濡らした後、水酸化カルシウム水溶液を加えた弱アルカリ水(pH7.5)で、可溶性の酸性物質が出なくなるまで洗浄水を替え、繰り返し洗浄を行った。

④修補

資料の周辺部にある破れや欠損は、極薄の和紙(楮)で補強した。接着にはデンプン糊を使用した。

非水性脱酸性化処置、フラットニング

Bookkeeper法による非水性脱酸性化処置を行った。不活性液体に酸化マグネシウム微粒子が分散している液体を資料の両面から噴霧した。液中の酸化マグネシウム微粒子が紙中の繊維の間に入り込み、紙中および大気中の水分、二酸化炭素と結合して炭酸マグネシウムを形成する。この炭酸マグネシウムはアルカリバッファーとして紙中や大気中からの酸性物質による劣化を予防する。その後フラットニングのため、水をスプレーし、濾紙に挟んでプレスして平らにした。処置後pHは平均8.4。

 

エンキャプシュレーション

綴じ直す際の綴じ代とするため、和紙(楮)で一枚一枚足を付けた。この足は新聞に貼らずに、突き付けるように配置し、新聞と共に不活性のポリエステルフィルムに挟んで、フィルム周辺を超音波でシールドした。綴じた時に背側にくる辺のみフィルムと和紙の足を一緒に溶断し、足の固定とした。また、新聞に近い部分の足の天地と中央に、それぞれ数ミリの溶着箇所を作り、万が一新聞がフィルム内で動いた時のストッパーとした。新聞と足同士は全く接着していないので、フィルムの周辺をカットすれば、いつでも簡単に新聞だけを取り出すことができる。挟み込みについても、新聞と同様の方法でエンキャプシュレーションを行ったが、資料サイズに合わせ、新聞とは別寸法でエンキャプシュレーションを行った。この処置により、支障なく資料を閲覧や展示、複写することが可能となった。

綴じ直し

新聞を順番通りに並べ替えてから、足部分に新たな綴じ穴を開けた。ページ数が多く、一冊にまとめるとかなりの重量になるため、区切りのよい所で七つに分割し(分割の詳細については最終ページを参照のこと)、弱アルカリ性のハードボードで作成した新規の表紙と共にポリエステル製の平紐で綴じ直した。綴じ代を広く取ったことで、見開き度が上がって資料を閲覧しやすくなった。綴じは平紐で結んであるだけなので、解けば一枚ずつ取り外しが可能である。

 

 

処置担当:蜂谷伊代、福島 希

 

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