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百万塔陀羅尼への保存修復手当て2008年08月25日伊藤美樹
資料の状態
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塔は既製の桐箱に収められ、陀羅尼経(自心印百万塔陀羅尼)は塔とは別に、プラスチック製の筒型容器にナフタリンとともに収められていた。経は強く巻き癖がついており、柔軟性は著しく低下していて、虫損と思われる大きな損傷が上辺にある。
経と塔のそれぞれのサイズは以下の通り。
自心印陀羅尼:50mm×404mm
塔身:(底辺直径)105mm×(高さ)126mm 九輪:(最大の輪の直径)34mm×(高さ)75mm
手当ての方針
巻きを解いて平らな状態にし、この状態を維持できるようマッティング処置を行う。マッティングは経の表裏両面を見ることができる構造にする。汚れは紙の表面に付着しているものを除去するのみにし、染み等の紙の厚みの内側にある汚れは現状のままにし、洗浄処置は行わない。欠損部にも補填処置はしない。
処置行程
1.フラットニング
ゴアテックスと水による蒸気加湿を繰り返して、時間をかけて巻きを徐々に解いた。
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2.ドライ・クリーニング
練り消しゴムで、表面裏面ともにクリーニングを行った。
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3.固定枠の作成
平らにした経を固定するための「枠」を作った。経の形の通りにくり抜いた和紙(紙舗直製 楮RK-17 )で、くり抜き部は喰い先にして和紙の繊維の先端にデンプン糊を付け、経の周辺をのせた。和紙は一枚を経全体に合わせてくり抜くのではなく、陀羅尼経の周辺を八等分した大きさのものを使用した。また、陀羅尼経本紙が湿度の変化により伸縮が起こることを予想し、この動きに追随するよう、隣合う和紙どうしは接着せずに遊びをもたせた。
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4.フレーミング
陀羅尼につけた和紙の枠を、窓を開けた調湿シート(特種製紙製 HCシート)に載せ、同じく窓を開けたマッティングボード(特種製紙製 ピュアガード)に挟んだ。両面に窓を開けたことで資料を表裏両面から見ることができるようにした。これを2枚のアクリル板で挟み、四隅に貫通孔を作り、ポリカーボネート製のネジで固定した。
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![]() フレーミングの構造図 |
5.保存容器への収納
外部からの酸性物質の進入を防ぐため、表面にポリプロピレンフィルムを被覆したアーカイバル・コルゲートボードで作成した弊社製品の保存容器に収納した。塔には、緩衝材として不活性のポリエステル綿布団を作り、添えた。
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繊維分析
資料の保持者からの希望により、経の破損部からの小片による繊維分析を宍倉ペーパー・ラボに依頼した。結果は次の通り。
水の吸収は遅い、細く長い繊維で分散は容易。繊維は切断が少なく、非繊維細胞が残っている楮70%に雁皮30%が混合されている。水の吸収が遅いのはニカワが塗布されていることによる。繊維写真で繊維の周辺に付着している物質が非繊維細胞、C染色液染め写真で赤茶色の太い繊維が楮、灰青色の細い繊維が雁皮。
宍倉佐敏氏のコメント:
「百万塔陀羅尼の紙は一般に麻紙と言われていますが、私の調査結果では切断された楮・切断の少ない楮などが主体で麻紙や雁皮混合・オニシバリ混合などいろいろの繊維が使用されています。この資料は数少ない雁皮混合紙です。表面塗布物もニカワ単独やキハダのみ、二品併用、無塗布などがあり、墨のニジミ具合でこれらが判断できます。この資料は墨が繊維の上にのっていると思われます。」