スタッフのチカラ

「中期保存向け」箱やフォルダーに使われる国産ボードの品質について

2013年03月27日島田要 , 木部徹

はじめに

図書館やアーカイブズ資料の「中期保存」用と称される箱やフォルダーが登場し、販売されるようになりました。この製品に使われる国産ボードの本来の用途は、ピザの宅配用などの食品の配送や保管向けですが、資料の保存向けに使用しても「添加物の少ない段ボールで安心」、「板が接する内側は中性」、「食品用途に使われているので問題はない」とされています。また、ここでいう「中期」とは、箱の製造・販売企業の顧客向けセミナーでのアナウンスによれば「約30年」とのことです。

過日、弊社の複数のお客様から、「箱やフォルダーの使用ボードの品質が不明であり、資料に接する保護紙や収納する保存箱の材料としてふさわしいものなのか調べて欲しい」との依頼を受けましたので、この「中期保存」用製品に使用されているボードの品質試験を行いました。

弊社が行った試験は、紙製保存容器の国際規格 ISO16245:2009(※1)で定められている保存容器に使われるボードの品質要件を参考に、pH、酸化への耐性(リグニン残留度)、アルカリ残留物のそれぞれにおいて、基準を満たすものかどうかを判断するための簡易評価試験です。「中期保存」箱用ボードとの比較として、弊社で使用しているアーカイバルボード、一般的に梱包材として使われている茶段ボールも同時に試験を行いました。試験の結果は以下の通りです。

 

試験対象のボードは4種類

弊社使用のアーカイバルボード 「中期保存」用箱ボード1 「中期保存」用箱ボード2 茶段ボール

 

1. 酸性か? 弱アルカリか? ― pH チェックペンの変色で

pH チェックペン(日研化学研究所製)で「L」字を書き、その変色度合いで紙の酸性度とアルカリ度を見る。弱アルカリ~アルカリ性の領域では色が青色のまま。 酸性の領域では色が緑から黄色に変わる。保存用途では炭酸カルシウムが含有されており、弱アルカリ(pH 7.5~10.0)になる。酸性紙の場合には瞬間的に色が変わる。

 

 

2. リグニンの検出 ― 試薬を使ったスポットテストで

紙の原料の木材の主成分はセルロースとリグニン(セルロースの接着剤)。紙はセルロース分が多いほど上質であり、保存用途においてはリグニン含有量が最小のものを使うのが原則。リグニンが含まれると経年により黄変化し、やがて酸性物がでてくる。リグニン含有は試薬(フロログルシノール溶液)でチェックでき る。リグニンが多いとマゼンダ~紫に呈色する。

 

3. 経年での酸化・酸性化 ― 密封チューブ法での加速劣化試験(ISO 5630-5:2008)で

密封チューブ法での加速劣化試験で、経年によって酸化・酸性化がどの程度進行するかが推測できる。加速劣化試験後のボード片をA-D ストリップとpHチェックペンを使い変色度を見る。

1) A-D ストリップの変色で

酸性ガスチェックシート(A-Dストリップ)は元の青色が黄緑になると、酸性。紙の内部から発生する酸性物(劣化要因)による影響を調べることができる。

 

2) pHチェックペンの変色で

紙のpHは経時変化によって低下するため、初期のpHが高ければ長期にわたって中性域を維持でき保存に耐えるものとなる。

 

4. 蛍光物質の含有 ― ブラックライト(紫外線)照射試験で

蛍光物質は、太陽光では見えないが、紫外線を当てると青白く光って見える。蛍光物質は、紙の白さを出すために良く使われているが、光による退色が著しいため、長期保存用には向かない。

通常光下

 

ブラックライト照射

 

5. 非セルロース分の含有 ― 燃焼試験で

セルロース以外のリグニン等が含有されている紙は燃やすと黒い灰が固まりとして残る。セルロース含有量が高い紙は、水と二酸化炭素になり、燃焼後の固形物としてはわずかに白い灰が残る。

 

まとめ ― 品質が保証された保存容器の材料とは

図書館やアーカイブズ所蔵の資料を保護するために採用されている保存容器(アーカイバル容器)は、資料をできるかぎり良い状態で維持することが目的であり、保存容器自体が資料に悪い影響を与えない材料で作られていることが必須条件になります。そのため、前述の試験の品質要件は、ボードの素性を知る上でたいへん重要になります。

現在、保存容器の材料として使用するボードは、紙製保存容器の国際規格ISO16245:2009(※1)、およびパーマネントペーパーの規格ISO9706:1994(※2)に準拠することが国際的な指針となっています。特に前者の規格に定められている品質基準をクリアしないボードは、含有する不純物や添加物(酸やリグニン、蛍光物質など)による隣接する資料への酸性物質の移行や、揮発性酸性ガスによる保管環境への影響が生じ、収納した資料の劣化を促進することにつながります。したがって、言われているところの「中期保存」用箱の「中期」が仮に30年であったとしても、収納されている資料への悪い影響がなく30年間保管できるという意味ではなく、酸性物の影響を30年間受けながらの保管であるのは間違いありません。

では、弊社のアーカイバル容器で謳っている「長期保存向け」の「長期」とはどのぐらいの期間を指すのでしょうか?弊社は500年と考えます。稲葉政満教授(東京芸術大学大学院保存科学専攻)は次のように述べています。「現在のアルカリ性紙(いわゆる中性紙)やマイクロフィルム(ポリエステルベース)は、環境が整っていれば500年から700年は保つだろうと言われている。よって、500年保たせることが資料の「永久保存」の差し当たっての目標だと考えている」(図書館・文書館の保存環境とその測定、マテリアルライフ学会誌、23[2] 55~61、May 2011)。この考え方に弊社は賛同します。

劣悪な環境下に置かれない限り、500年間は悪い影響を収納資料に及ぼすことなく保存・保管できる容器、これが過去四半世紀にわたり弊社が開発・製造・販売し、今後も継続していく製品です。

 

※1 ISO 16245:2009 Information and documentation?Boxes, file covers and other enclosures, made from cellulosic materials, for storage of paper and parchment documents (情報及びドキュメンテーション-紙及び羊皮紙文書の保管のためのセルロース素材の箱、ファイルフォルダー及びその他の容器)

→ 【参考】 資料保存容器の新しい国際規格 ISO16245(2009) と当社の取り組み

※2 ISO 9706:1994 Paper for documents? Requirements for permanence (情報及びドキュメンテーション-記録資料用紙- 耐久性のための要件)

 

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