今日の工房 2020年 9月

週替わりの工房風景をご覧ください。毎日こんな仕事をしています。

2020年9月29日(火)パーチメント、ヴェラムで装丁された本の劣化を予防する

「革(leather)」とは、動物の原皮を石灰につけて毛や脂肪を除去した後、植物タンニンやクロム等で鞣し、皮のコラーゲン繊維を安定、固定化させたものです。
これに対し、「パーチメント(parchment)」「ヴェラム(vellum)」とは、原皮を石灰につけて毛や脂肪を除去した後、鞣しを行わず木枠に張った状態で乾燥させ、シート状にしたものを言います。表面は密で摩耗に強く、用途にあわせて表面を削って厚みを調整し、中世から書写材料として使用されてきました。

 

16世紀以降には、これらを本の表装材として用いたものがあります。
パーチメント、ヴェラムは吸湿性があり、反りやうねりが発生しやすい素材です。湿気を吸うことでコラーゲン繊維が膨潤し、乾燥する過程で収縮します。表装材として用いられている場合、収縮によりヒンジ部の亀裂やこれらの損傷部分の捲れ、巻き込み部分の剥がれや、表紙そのものの反りを引き起こすことがあります。
ヴェラム装丁本のように形態変化が心配な資料は、適したサイズの保存容器に収納することで、こうした周囲の環境変化による影響を最小限に抑え、損傷の拡大を予防します。

 

▶参考:画像や文化財保存のためのツール開発と教育、実践を行っている米国のImage Permanence Institute(IPI:ロチェスター工科大学画像保存研究所)が、湿度条件の変化によってヴェラム装丁本の表紙に生じる影響の実験映像をYouTubeで公開しています。

 

この実験映像は、相対湿度を55%の平衡状態から25%へ、そして55%に戻し、最後に75%に移行させながら、貴重書の表紙の物理的な変化を撮影したものです。室温で12時間かけて行われています。日常的に起こっている環境湿度の変動に対し、資料がどのように反応するのか、どういった負荷がかかり、時間の経過で劣化へと繋がるかを示唆する非常に興味深い映像です。

 

 

 

 

 

 

 

 

Effect of Humidity Fluctuation on a Rare Book

RIT | Image Permanence Institute

 

 

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2020年9月10日(木)明治新聞雑誌文庫様より、一枚物「寺家村逸雅墓銘」の修理をご依頼いただきました。

東京大学大学院法学政治学研究科附属近代日本法政史料センター明治新聞雑誌文庫様は、明治初期から昭和戦前期にかけての新聞や雑誌等の収集・調査・整理を行っており、明治期に日本で刊行された新聞雑誌類では国内最大のコレクションを有しています。現在は耐震改修工事のため休館しており、再開館は2021年の夏に予定されています。

 

ご依頼いただいた資料は、明治新聞雑誌文庫の初代主任である宮武外骨の友人・長尾藻城より寄贈された一枚物の資料です。「改進新聞」社主・寺家村逸雅の墓銘を和紙に印刷したもので、明治新聞雑誌文庫のご担当者様のお話では、そのような資料が寄贈されたことは昭和6年6月発行の「公私月報」に記載されており把握していたが、所蔵資料として整理された記録がなかったため、これまで文庫内にはないと考えられてきたそうです。しかし、今回の耐震改修工事に伴う資料整理と移転作業の際に偶然発見されました。 

 

資料は厚手の台紙に貼られ剥き出しの状態で壁に掛けられていたため、埃が堆積し全面にフォクシングが発生しており、本紙周縁には破れが生じていました。更なる劣化の進行を防ぐことを目的に、本紙を酸性度の高い台紙から剥がして全面的にドライ・クリーニングをおこなった後、着色汚れの軽減、酸化・酸性劣化の抑制処置として洗浄と水性脱酸性化処置を行いました。その後、本紙の紙力回復のため極薄の和紙で裏打ちを行いました。 

 

ご返却後は、明治新聞雑誌文庫様の新たな所蔵資料の一つとして整理される予定です。

 

 

【関連記事】
・『今日の工房』2019年7月18日(木)汚れた紙資料の水性処置では、洗浄の前にまず「濡らす」ことがなぜ重要なのか?

・『今日の工房』2015年03月18日(水)修理の各工程で使う水にはこれだけの質が要求されます 

・『今日の工房』2014年10月23日(木)新聞資料に対する洗浄・脱酸性化処置

・『スタッフのチカラ』2015年12月2日(水)資料に付着した汚れやカビのドライ・クリーニング

 

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2020年9月3日(木)「特大のポスター作品を収納するタトウフォルダー」

縦1.8×横1.2メートルの超大判ポスター作品を、3枚まとめて保管するタトウフォルダーの製作依頼を受けました。

 

タトウフォルダーは、大判で1枚物の紙資料を挟み込んで収納するための薄型のアーカイバル容器です。大きく分けて2種類のパーツを組み合わせて製作します。外側のパーツは二つ折りに加工したアーカイバルボードを使用し、縁に取り付ける平紐を結んでとじる構造です。資料を収納する内側のパーツは、無酸・無アルカリの中性紙を使ったタトウ形状の十字型フォルダーで、4辺のフラップを立ち上げ包み込むように畳む構造です。資料が直接触れる面が平滑でより良い保存状態になるように配慮されています。

 

今回製作したタトウフォルダーは縦1.8×横1.2メートルの超大型サイズのため、使用する紙・ボードの原紙サイズの都合から、内外のパーツは2分割にしつなぎ合わせています。

 

作品が収納される中性紙のタトウは外側からボードに挟み込まれ、上下左右均等に付いた平紐を結び固定されているので、垂直に立てて持ち運んでも開く心配がなく、安全に保管・管理することができます。縦置きにも対応でき、厚みの外寸が15mm程度のため場所をとらず省スペースで保管できます。

 

 

【関連情報】
『今日の工房』2014年4月24日「A1サイズのタトウフォルダーを大量に製作するための、特設作業台」

 

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