今日の工房 サブメニュー
今日の工房 2025年 10月
週替わりの工房風景をご覧ください。毎日こんな仕事をしています。
2025年10月8日(水)立教大学図書館様所蔵 活字組版への処置・保存容器の作成

処置前

段ボールとガムテープで固定されていた組版

木製の台に乗せられている


周囲を糸で縛り、活字を固定している

多種多様な活字が組まれている

弊社の活字サンプル 5号活字の文字サイズは約3.5×3.5mm

弊社の活字サンプル「込物」

段ボール、ガムテープの除去作業

木製部に残った粘着剤の除去

処置後

処置後

取り外し可能なスペーサーで隙間を固定


組版はトレイごと引き出し可能

包み紙として再利用されていた試し刷りも併せて収納
立教大学図書館様より、活字組版への処置と保存容器の作成をご依頼いただきました。
この活字組版は、活版印刷が衰退していく過程で「技術を示す資料」として、印刷会社から立教大学図書館に寄贈されたものです。木製の台の上に小学館刊行「日本国語大辞典」と推測される紙面1ページ分の活字が組み上げられており、寄贈以来、大切に所蔵されてきました。今回、新たに保存環境を整えるため、処置と保存容器の作成を行いました。
「組版」とは
現代の印刷工程における「組版」とは、印刷物の紙面に文字や図版などを配置し、読みやすさや美しさを整える作業を指します。もともとは鉛合金製の活字を一本ずつ組み合わせて結束糸で固定し、印刷のための版を作る工程を意味しました。
初期の活版印刷では、この組版そのものを用いて印刷していましたが、やがて大量印刷の需要に応じて、組版から「紙型」や「鉛版」と呼ばれる型を取って複製版を作り印刷するようになりました。印刷や型取りが済んだ組版は解体され、活字は新たな版を組むために再利用されます。重く、崩れやすい組版そのものが長期間残されることは稀でした。
今回の組版は辞書の1ページで、ひらがな、カタカナ、漢字に加えて、アルファベットや記号、号数の異なる文字まで、多様な活字が組み合わされています。一見すると一枚の版のように見えますが、結束糸を解けば数千個の活字に分解されます。空白部分には隙間を埋める「インテル」「コミ」「クワタ」と呼ばれる色々なサイズの「込物(こめもの)」が詰められ、文字間が微調整されています。活字は鉛を主成分とするため、この組版の重量は約13kg。間近で見ると、その緻密さと重量感に圧倒的な迫力を感じます。
資料は今後の展示活用を想定し、安全に保管できるよう処置と保存容器の作成を行いました。
隙間に詰められていた段ボールと、これを固定していたガムテープを除去し、木製部分に付着した粘着剤は有機溶剤を用いて丁寧に除去しました。隙間部分にはアーカイバルボードと文化財保存用フォーム材プラスタゾートで作成した取り外し可能なスペーサーを入れ、組版が動いて崩れないようしっかりと固定しました。組版は木製の台ごと、高強度のポリプロピレン樹脂製パネルで底部を補強したトレイに乗せ、側面が開くフラップ付きの被せ式保存箱に収納しました。取り出す際は持ち上げずにトレイごと引き出します。また、寄贈時に用いられていた包み紙も、試し刷りを再利用した貴重な付属資料と考えられるため、仕切り板を設けて同じ保存容器に収めました。
立教大学図書館様には、弊社ホームページへの掲載をご快諾いただき、誠にありがとうございました。
ご協力に心より感謝申し上げます。