今日の工房 2025年 10月

週替わりの工房風景をご覧ください。毎日こんな仕事をしています。

2025年10月21日(火)博多人形を保管する保存箱を製作しました

博多人形は、素焼きの土人形に彩色を施した、博多を代表する伝統工芸品です。釉薬をかけて本焼きする陶人形に比べて脆く、湿度の変化や摩擦に弱いため、取り扱いには注意が必要です。保存環境では、湿度の急変防止と接触・振動をできるだけ抑えることが重要です。

 

今回ご依頼いただいた人形は、歌舞伎の一場面を表現したもので、立ち姿や座り姿など、さまざまな型が見られます。サイズは小さいものが約5㎝、大きいものは約10㎝で、全体で約80点あり、保管方法についてご相談を受けました。

 

保存箱は、人形の高さに合わせて「背の低い人形用」と「背の高い人形用」に分け、1体ずつ独立した部屋に収められるよう仕切りを設けました。箱は取り扱いやすい550㎜角程度のサイズで、3箱に収まる構成としています。

 

陶器やガラス製品などの壊れやすいものを保管する際は、まずポリエステル製の綿布団で全体を包む方法を基本とします。ポリエステル綿は、繊維の間に空気層を多く含み、押してもすぐに形が戻る弾力性があります。この構造によって外部からの衝撃を吸収し、内部へ伝わる力を分散させることができます。ただし、厚みが均一なため、人形のように凹凸のある形を包むと、一部に圧力がかかったり、隙間ができて動いてしまうことがあります。そのため、姿勢や形に合わせて巻く方向や折り返し方を工夫し、安定した状態で支えることが重要です。

 

今回は、こうした保護方法に加えて、輸送と保管の両方に対応できる保存箱が求められました。そこで、現場での作業性と安全性を考慮し、綿布団の代わりに薄葉紙 Qluminを用い、人形を一体ずつ包んで保護する方法をご提案しました。

 

Qlumin は、表面の滑らかさによって彩色面への摩擦を抑えます。また、軽く巻きつけるだけで形状に沿う柔軟性があり、引取り現場での包み直しや位置の調整にも適しています。保存作業のしやすさと安全性を兼ね備えた素材です。

 

博多人形は、1点ずつ薄葉紙で包み、表面の彩色を守ります。箱内の隙間には薄葉紙を詰めて固定し、仕切り内で動かないように保持する構成としました。底には綿布団を敷き、素焼きの人形を下からの衝撃や振動から守る設計としています。

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2025年10月8日(水)立教大学図書館様所蔵 活字組版への処置・保存容器の作成

立教大学図書館様より、活字組版への処置と保存容器の作成をご依頼いただきました。
この活字組版は、活版印刷が衰退していく過程で「技術を示す資料」として、印刷会社から立教大学図書館に寄贈されたものです。木製の台の上に小学館刊行「日本国語大辞典」と推測される紙面1ページ分の活字が組み上げられており、寄贈以来、大切に所蔵されてきました。今回、新たに保存環境を整えるため、処置と保存容器の作成を行いました。

 

「組版」とは
現代の印刷工程における「組版」とは、印刷物の紙面に文字や図版などを配置し、読みやすさや美しさを整える作業を指します。もともとは鉛合金製の活字を一本ずつ組み合わせて結束糸で固定し、印刷のための版を作る工程を意味しました。
初期の活版印刷では、この組版そのものを用いて印刷していましたが、やがて大量印刷の需要に応じて、組版から「紙型」や「鉛版」と呼ばれる型を取って複製版を作り印刷するようになりました。印刷や型取りが済んだ組版は解体され、活字は新たな版を組むために再利用されます。重く、崩れやすい組版そのものが長期間残されることは稀でした。

 

今回の組版は辞書の1ページで、ひらがな、カタカナ、漢字に加えて、アルファベットや記号、号数の異なる文字まで、多様な活字が組み合わされています。一見すると一枚の版のように見えますが、結束糸を解けば数千個の活字に分解されます。空白部分には隙間を埋める「インテル」「コミ」「クワタ」と呼ばれる色々なサイズの「込物(こめもの)」が詰められ、文字間が微調整されています。活字は鉛を主成分とするため、この組版の重量は約13kg。間近で見ると、その緻密さと重量感に圧倒的な迫力を感じます。

 

資料は今後の展示活用を想定し、安全に保管できるよう処置と保存容器の作成を行いました。
隙間に詰められていた段ボールと、これを固定していたガムテープを除去し、木製部分に付着した粘着剤は有機溶剤を用いて丁寧に除去しました。隙間部分にはアーカイバルボードと文化財保存用フォーム材プラスタゾートで作成した取り外し可能なスペーサーを入れ、組版が動いて崩れないようしっかりと固定しました。組版は木製の台ごと、高強度のポリプロピレン樹脂製パネルで底部を補強したトレイに乗せ、側面が開くフラップ付きの被せ式保存箱に収納しました。取り出す際は持ち上げずにトレイごと引き出します。また、寄贈時に用いられていた包み紙も、試し刷りを再利用した貴重な付属資料と考えられるため、仕切り板を設けて同じ保存容器に収めました。

 

立教大学図書館様には、弊社ホームページへの掲載をご快諾いただき、誠にありがとうございました。
ご協力に心より感謝申し上げます。

 

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