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2017年11月29日(水)東京大学経済学部図書館資料室と慶應義塾大学のスタッフの方々を弊社にお招きし、洋式製本についての研修を行いました。

東京大学経済学部図書館資料室は経済学図書館が所蔵する貴重な一次資料を保存・管理することを主な目的としています。資料保存についてもさまざまな調査・ 研究を行い、その成果を発表しています

 

今回の研修では、同資料室と慶應義塾大学などのスタッフの方々による科学研究費助成事業(科研)の、「日本の洋式製本の技術伝播に関する歴史的研究 : 洋装本資料保存のための基盤整備」というテーマに即して、実際の書籍やモデルを使い、明治期に日本に伝わってきた洋式製本の構造の紹介と、手作業による体験講座を行いました。

 

洋式製本の構造は西洋では19世紀初めに、それまでの綴じ付け製本(sewn board binding, laced-in binding)からくるみ製本(cased binding)へと大きく転換します。前者は本文紙の綴じを行った後に、表紙の芯材(board)を、綴じた本文紙の束(本体=text block)に綴じ付け、その後に革や布で表装しますが、後者のくるみ製本は、本体の綴じとは別に、表装も含めた表紙を別工程で作り、これで本体をくるむ(casing)という方法です。本体と表紙を別々に作成できるため、商業的な大量製本向けの方法として採用され、以後、現在に至るまでハードカバーの書籍の製本方法として多く使われています。

 

日本では明治期に、当時の大蔵省印刷局がお雇い外国人を招き、洋式製本技術を教わるとともに、民間への普及に努めました。この時に、古典的な綴じ付け製本も伝わりましたが、すぐにくるみ製本に移行したようです。

 

今回の研修では、明治期に伝わった複式帳簿の製本(stationary binding )を軸として、綴じ付け製本法やくるみ製本法などを用いて、本体の構造や綴じ方、本体と表紙の接合方法の違いを比較するため、製本を解体し、通常では隠れているところをご覧いただきました。また、かがり綴じや、表紙と本体の接合などの工程を実践し、製本モデルの試作も行いました。

 

帳簿は、あらかじめ本文が印刷された「読むための本」と違い、製本されたものに記帳していく「書き込むための本」であることから、頻繁な開閉にも耐えるように、堅牢でバネ(spring)の効いた背であること、記帳しやすいようにノドの奥まで180度開くことが要求されます。これらを叶えるため、構造的な工夫がいくつも施されています。

 

書籍は、製本後は中の構造や構成物が見えなくなる立体物のため、酷い傷みによりバラバラになった本を目の当たりにしない限り、内側まで見る機会はあまりないとのことでしたので、一層のご理解をいただけたことと思います。研修中は様々な意見交換ができ、私どもにとっても大変有意義な時間でした。

 

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