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2019年8月7日(水)【文献紹介】「紙と水—コンサーバターのための手引き」(英文)改訂版が出版

紙と水–コンサーバターのための手引き」

Paper and Water – A Guide for Conservators, 2nd and revised edition. by Gerhard Banik and Irene Brückle.  Anton Siegl Fachbuchhandlung GmbH, Munich, 2018, ISBN: 978-3-935643-91-7, 110,00 € , 動画DVD 付属

 

この本は紙を基材としたあらゆる文化財の保存に関わるコンサーバター(保存修復専門家)のための手引きである。初版は2011年に刊行、昨年(2018年)新たに改訂・ 出版された。保存科学者、民間企業の技術者、保存修復に携わるコンサーバター等、欧米の第一人者が結集し、紙製の文化財の保存実務に必須の「紙と水」の知識を、最新の研究成果の裏付けとともに網羅的に述べている。初版刊行以来、世界中のコンサーバターに高い評価を持って迎えられた。2013年にはアメリカ文化財保存修復学会(AIC)の出版文化賞を受賞している。

 

紙と水は不可分の関係を持つ。製紙は水が無ければできない。そして書籍、文書等の紙媒体の記録資料や、紙を素材とした美術作品の保存修復にも水は不可欠である。丸まった紙資料を平らにする、汚れを洗い流す、欠損部を水溶性の接着剤で補修する、酸性の紙の中にアルカリ性の水溶液を行き渡らせ、脱酸性化しアルカリ・ バッファを付与する—。修理の際に水が関連しない工程は無いと言って良く、適切な処置を行うには、紙と水、そして両者の相互作用を理解しなければならない。

 

また、図書や文書等の紙媒体記録資料を保存し末永く利用に供する責任のある図書館員やアーキビスト、紙基材の絵画や写真、立体的な芸術作品を集め保管し、展示等の利用に供する美術館のキュレーターにとっても、紙と水の知識は不可欠である。例えば保管時の適切な湿度やその変動と、それがもたらす劣化は、紙と水との相互作用に起因するといって過言ではないから。

 

なお初版(2011年)との大幅な変更はないが、新たに「9章.   紙の特性評価」が加わった。

 

章立ては以下の通り。

 

1. 関連する化学
2. 水の物性
3. 水の電離–酸と塩基
4. 湿紙と乾紙の構造と物性
5. パルプ化工程の紙と水の相互作用への影響
6. 紙と水の相互作用への滲みどめの影響
7. 製紙時の乾燥
8. 紙の老化と水の影響
9. 紙の特性評価
10. 紙への水の導入
11. 紙からの変色物の除去
12. コンサベーション時の洗浄
13. 水性脱酸性化処置
14. コンサベーション時の乾燥
15. 一連の作業の中の水性処置

 

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