今日の工房 2020年 8月

週替わりの工房風景をご覧ください。毎日こんな仕事をしています。

2020年8月26日(水)お客様の現場に出かけて和装本の綴じ直し作業を行いました。

目白にある徳川林政史研究所様にて、和装本の綴じ直し作業を行いました。

徳川林政史研究所は尾張徳川家第19代当主徳川義親によって設立された公益財団法人徳川黎明会に所属する研究所です。国内で唯一の民間林政史研究機関であり、現在は林政史の分野に留まらず、尾張藩の研究や江戸幕府に関する研究なども行っています。

 

同研究所の所蔵史料のうち、和綴じ、主に四ツ目綴じの糸が切れている史料を綴じ直す作業を2017年度より継続的に行っています。史料の持ち出しが難しいことや、特殊な道具が必要なく、糸、針、はさみがあればできる処置のため、研究所の閲覧室の一角をお借りし、スタッフ2名、約一日かけて70~80冊の綴じ直し作業を行います。

 

歴史ある重厚な建物の内部は、都会の喧騒を感じさせない静謐な空気に包まれています。趣のある閲覧室での作業は、工房とはまた違う雰囲気を味わうことができ、毎年の楽しみとなっています。

 

 

【関連記事】
・『今日の工房』2015年9月9日(水)和装本の綴じ直しに使う絹の糸と布。
・『今日の工房』2017年3月15日(水)和装本(四つ目)を仕立て直す。 

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2020年8月20日(木)たばこと塩の博物館様からのご依頼で「嗅ぎたばこ入れ」を収納する保存容器を製作しました。

「嗅ぎたばこ入れ」はヨーロッパで嗅ぎたばこが広く嗜まれ始めた17~18世紀ごろ、外出時の携帯や卓上での保管のために使われていました。当時の宮廷社会を中心に広まり、その流行は上流階級の人々のファッションとなったことに深い関係があります。貴金属製の本体にエナメル加工を施したものや宝石を散りばめたものなど、美麗な装飾を施した嗅ぎたばこ入れもありました。また、嗅ぎたばこ入れは中国にももたらされ、瓶や壺の形をした独特の鼻煙壺(びえんこ)となりました。単なる道具にとどまらないその優れた意匠や質感から工芸品的価値が高く、現在でも収集家は少なくありません。

 

*たばこの歴史と文化-嗅ぎたばこ- たばこと塩の博物館様ホームページ参照
https://www.tabashio.jp/collection/tobacco/t7/index.html

 

たばこと塩の博物館様所蔵の嗅ぎたばこ入れは、ある収集家から寄贈されたものが中心で、貴金属や動物の角などの様々な素材からできています。そのうち約400点は収集家自身がしつらえた仕切り付きの布張り箱に収納され、恒温恒湿の収蔵庫の棚に2段に重ねて保管されていましたが、この元箱には蓋が無く、粉塵や紫外線など外環境からの影響が懸念されました。

 

そこで、容器内の仕切りや棚に2段重ねできるサイズ、といった元の布張り箱の利点を踏襲しながら、「仕切りを嗅ぎたばこ入れのサイズに合わせて動かせる」、「より安定して2段に重ねられる」、「外環境からの影響を低減させる」といった機能を追加したアーカイバル容器をご依頼頂きました。

 

今回製作した保存容器には、内部に可動式の仕切り、底面に2段重ねを安定させる凸部、天面に開口部を覆う蓋を付けています。

 

容器の長辺側内壁には複数の切り込みを設け、任意の位置で仕切りを差し込むことができます。これにより嗅ぎたばこ入れのサイズに合わせて容器内を仕切ることができます。また、容器を2段に重ねる際、下段容器に本体の裏側に設けた凸部を嵌め合う構造で安定性が増すとともに構造上の補強となり歪みに強い作りです。この構造は全ての容器に共通しているため、従来の運用と同じく、どの容器の組み合わせでも2段に重ねることができます。

 

そして上段容器には平板状の蓋をのせ、粉塵や紫外線などの影響を防ぎます。蓋の裏側には容器裏側と同様、開口部に合わせて設計した凸部を貼り付け、容器の幅と奥行きを増やすことなく、本体容器にぴたっと嵌まる構造になっています。

 

なお、本稿の掲載ならびに写真の撮影・使用にあたり、たばこと塩の博物館様の多大なるご協力を頂きました。誠にありがとうございました。

 

 

【関連商品】
・アーカイバル容器オプション 仕切り

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2020年8月6日(木)超音波ミストを作る -修理に用いる手道具

修理に用いる道具や機械は様々ありますが、専門の道具(リーフキャスターや刷毛など)を使用する場合もあれば、ほかの分野の用途、例えばキッチンツールや医療用器具、ホビーグッズなどの中にも応用できる道具があります。私たちが普段使っている手道具もそうした工夫から見つけることが多く、「ポータブル超音波ミストスプレー」もその一つです。装置の中に水を入れてスイッチをつけると、超音波振動により微細なミストが発生する仕組みで、本来、喉や肌が乾燥した際にミストを顔に吹きかけたり口から吸引するための機器です。

 

このスプレーは、狙った範囲に部分的にミストを当てることができるので、書写材料や本の構造に負担をかけずに紙を伸ばしたい時や、破れの修補を行う際、あらかじめシワや折れを伸展しておきたい時などに使用しています。

 

また、超音波振動により発生するミストは、紙に対しゆっくり穏やかに水分を与えることができ、紙資料の修理分野ではトレーシングペーパーなど水分に敏感な素材のフラットニング処置にも用いられています。「少しの水分で十分」という場面ですぐ手に取れる小回りの良さと、瞬時に均一な加湿が行える点で重宝しています。

 

【関連記事】
・2019年5月22日(水)アーカイバル容器の折り筋に骨ヘラでひと手間加えると、仕上がりがいちだんときれいになります。

・2018年8月8日(水)粘着台紙に貼られた写真の剥離は、刃先を温めたペインティグナイフで。

・2017年12月20日(水)小ぶりの真鍮製の重石は、さまざまな作業で使い重宝しています。

・2017年11月15日(水) 修理工房で使う2種類の加湿器

・2017年8月9日(水)資料の修理に不可欠な道具のひとつがプレス機です。

・2017年5月31日(水) 耐水性を付与できるシクロドデカンを線状に資料に含浸して水性処置をする。

・2017年1月18日(水)修理に欠かせない道具・材料—リーフキャスティング(漉き嵌め)で使用する竹簾

・2016年2月17日(水) 大判の汚染ガス吸着シートGasQは手作業で一枚ずつカット

・2007年03月05日 いろいろな重さと形の重石

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