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2018年10月3日(水) 傷みやすい資料は、保存箱に収納する前に”包む”ことで、より安全に保存し、取り扱うことができます。
弊社では、様々な資料を保存箱に収納することをお勧めしていますが、脆弱でデリケートな資料は、箱に収納する前に資料を適切な素材で”包む”ことで、より安全に保存し、取り扱うことができます。
▶︎物理的に守る
ガラス乾板やレコードなど、表面がデリケートな資料は、中性紙のフォルダーに包んで箱に収納することで、箱内での接触や、塵や埃などによる物理的な損傷を防ぎます。痛みが激しく繊細な資料は、両面がなめらかな新薄葉紙くるみん™️を1枚のせたり、巻くことで、表面を保護できます。
▶︎汚染ガスを除去する
資料にダメージを与える、空気中の有害ガスを除去するには、GasQ ®シートで包みます。折りたたむことでクッション性が出るので緩衝材にもなります。
▶︎資料をより扱いやすく
背を解体してバラバラになった本や、簿冊や新聞などの重くて持ちにくい資料、また、紙力が低下してもろくなった資料も、包んだりはさんだりすることで、しっかりと資料を持つことができ、まとめて箱から取り出せるので資料の出し入れがしやすくなります。
資料の状態によって様々な方法をご提案できますので、ぜひご相談ください。
2018年9月26日(水)閲覧時の出納をし易くした浮世絵用保存箱の作製(専修大学図書館様の事例)

①奥:画帖(スリムボックス)、中:1枚絵(3Fフォルダ)、手前:軸(巻子用台差し箱+軸受け付)

②浮世絵収納する専用の書架(上段:軸、画帖・中段、下段:1枚絵)

③1つの書架に収納するため、1番数量の多い1枚絵の箱は3段に重ねて使用した。

④積層した状態でも浮世絵のアクセスを可能にするためにトレイを敷き、上蓋を2段階に開くようにした。

⑤サイズの大きい一枚絵用

⑥出し入れの際、折れにくいように角を丸くした特注の3Fフォルダ

⑦軸物を収納した巻子台差し箱

⑧画帖はスリムボックスに収納した。

⑨軸や画帖は数が少ないため、書架の上段に設置した。
専修大学図書館様のご依頼で、浮世絵を収納する保存箱の作製を行いました。
対象の浮世絵は江戸後期~明治期の作品を中心に総数約1350点(物理点数600点弱)。同館では、これほどの数の浮世絵の収蔵ははじめてだったため、美術館や大学図書館を中心に情報収集を行い検討されたそうです。
浮世絵は保管・ 保存するだけでなく、後に閲覧利用を予定しているため、保存箱には下記のようなご要望をいただきました。
・1作品ずつ安全に館内の移動ができるようにしたい。
・閲覧要望があったときに、目的の作品に容易にアクセスできる構造にしたい。
・貴重書庫内に設置する専用書架1台になるべく全ての作品を収めるようにしたい。
そこで、1作品毎に収納する容器として、2つ折りの3Fフォルダーを提案。3Fフォルダは、画用紙ほどの厚みがあり、館内の移動であれば不安なく持ち運びができます。次に3Fフォルダを収納する保存箱には、書架から箱を出さずに資料にアクセスできる組み立て式棚はめ込み箱に、引き出し用トレイを付けました。1箱に収納する浮世絵の数は負担の軽減と取り出しやすさのため20枚にしました。
これを基本に担当の方々とやりとりを重ね、3Fフォルダは出し入れの際にフォルダの端の折れを予防するため、角を丸く加工し、棚はめ込み箱は浮世絵をより探しやすくするために、上からも取り出せるような蓋が上にも開く構造に変更しました。1枚絵以外に、軸物は軸受けをつけた巻子用台差し箱、画帖は1冊ずつスリムボックスに収納しました。
保存箱の収納を終えて、担当の方々から「作品毎にフォルダに収納すると重くなるのではと危惧したが、想定より軽くしっかりしており、館内の持ち運びに不安がない。」、「保存箱が積み重なっていても、上蓋の開け閉めができるので、中身の確認や出し入れがとても簡単にできる。」などの感想をいただきました。館内閲覧ははじまるのは少し先の話ですが、出し入れに心配がなくなったと評価をいただくことができました。
2018年9月19日(水)保存容器の製作のためのアルバイトスタッフを募集しています。
2018年9月12日(水)新薄葉紙「くるみん」の紙ヒモ用小型ロール品を発売しました。
今年1月に販売を開始した新薄葉紙「Qluminくるみん」を紙ヒモ用の小型ロール品にした「くるみんのひも」の販売を開始します。
文化財や美術品を梱包する現場では薄葉紙は欠かせない存在であり、「包む」以外にも、緩衝材と資料を固定する「紙ヒモ」としてよく使われています。通常は大判の薄葉紙を、お客様が自ら細長く裂いて作るため、均一に裂けずに切れやすいヒモになったり、また長いヒモが必要なときは短いものを繋ぐなど、作るのにとても手間がかかるものでした。
「くるみんのひも」は幅150ミリ×100メートルのロールタイプです。スリット加工で仕上げているため切り口が綺麗で丈夫な紙紐が作成できます。扱いやすく、好きな長さでカットできるのが特徴で、大型品の梱包に限らず、破損した資料の固定や、小物用の緩衝材としてもご利用いただけます。「薄くても丈夫」、「スペースをとらずに、すぐに作れて、扱いやすい」、「大きな紙からカットしないので無駄なく作れる」等々と好評です。
◆販売形態
・「くるみんのひも」幅150ミリ×100メートル 1本
2018年9月5日(水)NPO文化財保存支援機構が主催する実践セミナー「保護紙とその活用方法」で講義とワークショップを行いました。
NPO文化財保存支援機構が主催する平成30年度文化財保存修復を目指す人のための実践コースが8月23日(木)〜8月25日(土)にかけて東京国立博物館黒田記念館セミナー室で開催されました。3日目の基礎講座/WSでは弊社スタッフが「コレクションの保存用紙ー保護紙とその活用方法ー」というテーマのもとに、3時間にわたり講義とワークショップを行いました。
講義では文化財の「包材」に焦点を置いて、使われる素材や保存容器・包材の機能、国際的な品質規格などを解説しました。後半のワークショップでは、保存容器の「使いやすさ」という点をどう考えるかをテーマとして、素材の選定や形状を決める際のポイント、デザインや構造の設計などを、弊社での製造過程の一端を動画で紹介しながら解説し、最後に簡単な保存容器の製作実習を行いました。参加者からは具体的かつ踏み込んだ質問が多く寄せられ、私共にとっても大変有意義なセミナーとなりました。ご参加いただいた皆さま、まことにありがとうございました。
2018年8月22日(水)本を展示する際の簡易な「支え」は、アーカイバルボードで自作できます。
古い貴重な書籍を開いて展示する際、本に負担がかからないように裏側から「支え」を入れることがあります。薄葉紙などを折り畳んで作る簡易的なクッションから、本の厚さやページを開いた時の角度などを計算して作った書見台のようなものまで形態はさまざまです。
アーカイバルボードでも簡易的な展示台を作ることができます。本に合わせた大きさで三角や四角の型を作り、本を開いた角度に添わせてあてがいます。本の重みで変形する場合は、丁度よいところで型の中に詰め物(画像は包材のプチプチを使用)をすれば形が安定します。
本の状態や展示スペースなどの理由で、より精密なカスタムメイドの展示台が必要な場合は、お気軽にご相談ください。
2018年8月8日(水)粘着台紙に貼られた写真の剥離は、刃先を温めたペインティグナイフで。
粘着テープや粘着台紙に貼られた写真などの剥離に使うペインティングナイフ。慎重に進めなければならない細かい作業に必須の手道具のひとつである。
ペインティングナイフは主に油彩画の制作に使用する小さなコテ状の道具で、柄部分と段違いに菱形等の形をした金属製の刃(ブレード)がつく。刃の部分は薄く柔軟で弾力があり、平らな面に押し当てると密着してしなやかに曲がるため、隙間に差し込み剥がす作業に適している。
粘着テープの除去、粘着台紙のアルバムに貼られた写真を剥がす処置などでは、刃をアイロンで温め、隙間に滑り込ませて熱で粘着剤を緩ませながら取り外す。特に写真の場合は、写真を折り曲げて傷つけないよう、しなやかさを生かして台紙に刃を沿わせながら分離してゆく。
2018年7月18日(水)紙力が著しく低下したものの薄葉紙での裏打ちは、噴霧器での糊さしと不織布の補助で。
酸化・酸性化により、あるいは水損やカビで紙が「老け」(ふけ=紙の繊維化)て、紙力が著しく低下した本紙を、不安なく取り扱える状態にするためには、裏打ちによる紙力強化が有効です。ただし、そうした資料は水分を含むとさらに脆くなり、直接本紙に刷毛を当てるのも困難な場合があります。こういう場合にはスプレーによる裏打ちを採用しています。
まず、薄めたデンプン糊を噴霧器に入れて準備をします。不織布の上に本紙を置き、その上に極薄の和紙(3.6 g/m2)を被せて、上から糊を均一に噴霧し、不織布をかぶせた上から刷毛で撫でて裏打ちをします。
この方法は、必要最小限の水分と糊で裏打ちができ、不織布越しで刷毛を使用するため、本紙を傷める心配がなく、安全に行えます。また、本紙と和紙の接着が面状ではなく、点状での接着のため、硬くならず柔らかな仕上がりとなります。
※和紙の上から糊を噴霧し本紙と接着させるので、使用する和紙が厚いと糊が本紙まで浸透しません。このため、使用する和紙は3.6 g/m2 程度の極薄紙を使用します。ここでは裏打ちを紹介していますが、文字や画像などがある面への「表打ち」としても使います。
2018年7月4日(水) 爽やかな暑中お見舞いの手ぬぐいができました。
2018年6月13日(水) 紙ヒモ用の「薄葉紙くるみん」を試作しました。
1月に販売を開始した新薄葉紙「Qluminくるみん」で、このほど紙ヒモ用の小型ロール品を試作しました。お客様に試していただいている段階ですが、「薄くても丈夫」、「スペースをとらずに、すぐに作れて、扱いやすい」、「大きな紙からカットしないので無駄なく作れる」等々と好評です。
文化財や美術品を梱包する現場では薄葉紙は欠かせない存在であり、「包む」以外にも、緩衝材と資料を固定する「紙ヒモ」としてよく使われています。大判の薄葉紙を細長く裂き、それをしごいてヒモ状にするのですが、紙の柔らかさと加工性の良さで資料を傷つけず、手早く作れるのが利点です。
今回、より簡単に紙ヒモを作るための「紙ヒモ用くるみん」を試作しました。ロール型なので扱いやすく、好きな長さでカットできるのが特徴です。大型品の梱包に限らず、破損した資料の固定や、小物用の緩衝材としてもご利用いただけます。
※追記:小型ロール品「くるみんのひも」、販売を開始しました。新薄葉紙「Qluminくるみん」のページをご覧ください。
2018年6月6日(水) 修復業務のアシスタントを募集します。
近現代紙資料(図書、雑誌、和装本、洋装本、新聞、地図、図面、写真など)の修復業務のアシスタントを募集します。
仕事内容は、資材の準備などのほか、実際の処置に携わる業務をお任せします。そのほか、保存容器の作製、劣化調査、出向業務、事務作業などをお手伝いいただきます。
募集要項はこちらをご確認下さい。
2018年5月30日(水)保存箱のサンプル撮影をプロに依頼しました。
デザインや仕様が変更になった保存箱9点の商品撮影を行いました。今回は美術品の撮影などを専門にされているフォトグラファーに依頼しました。
撮影画像はカメラと接続したPCにリアルタイムで出力されるので、構図の修正などの作業がスムーズに行えました。実際に箱へ資料を収納する時の使用イメージがお客様へ伝わるような商品の見せ方を心掛けました。準備が整い次第、商品カタログやホームページに掲載いたします。
2018年5月16日(水)夏のごあいさつにむけて手拭いの柄はどれに?
毎年お正月と夏にお客様にお配りする弊社オリジナルの手拭い。風鈴、ラムネ、金魚と夏らしい柄が候補にあがりました。これからスタッフ一同どれにするか検討します。どのデザインかは、皆さまのお手元に届く7月中頃までお待ちください。
2018年5月9日(水)資料を洗浄する時の水の物性の変化を確認する計測機器。
修理作業では、毎回異なる性質の資料を扱うにあたり、処置結果を同じレベルにするための目安として、計測機器を用いて処置に使用する材料の物性の変化も測り、その値を参考にしながら処置を行います。特に資料の洗浄などの水性処置では、処置中の水のpH・TDS(総溶解固形分)・温度等の変化を測り、処置後の各種値の変化を確認します。
これまでは計測結果の表示画面と計測用の電極が一体になったハンディータイプの計測機を使用していましたが、新たに、河川などの水質検査用の電極投げ込みタイプを導入しました。手元の画面で数値の変化を確認しながらチェックシートの記入が行え、また、大きな洗浄槽の中でも計測機の水濡れを気にせず処置を行いながら数値が確認できるようになり、重宝しています。なお、4枚目の画像は処置中・処置後の洗浄液の色の変化を比較したもので、数値の確認と併せてこうした目視観察・記録も行っています。
2018年4月25日(水) アニメプロダクションのアーカイブ構築に大型ドライ・クリーニングボックスが活躍
アニメ製作プロダクションの株式会社トムス・エンタテインメントのアーカイブ部様よりご依頼をいただき、セル画や原稿、絵コンテなどのクリーニング用に大型サイズのドライ・クリーニングボックスを製作しました。
同社では、映像資産としての利活用を目的としたアニメーション資料のアーカイブ化に取り組んでおり、整理作業の一環で資料のクリーニングを行っています。セル画のクリーニング作業では、固着したセルを剥がしたり、作画時のインクの 微細な飛び散りを除去する際に有機溶剤を使用し、また、セル画の材料である酢酸セルロース(トリアセチルセルロース)は経年劣化によって加水分解し酢酸ガスが生じるなど、チリやホコリだけでなく、作業者がこうした有害化学物質を吸引しないように、これまでも様々な対策を講じられてきました。
今回製作したのは、ボックス内の作業スペースが定型品(幅550×奥行き350×高さ220ミリ)に比べて約2倍の幅1,000×奥行き700×高さ330ミリのもの。幅、奥行き、高さ共に広くしたことで、資料が収納されたB4やA3サイズのクリアブックからセル画を出し入れしながら作業できる十分なスペースが確保できました。また、周囲へのホコリの飛散防止のために取り付ける透明アクリル板のたわみを抑制するため端にL字曲げ加工を施し、サイドバーには開閉時の衝撃吸収とボックス内の密閉度を高めるための緩衝材(プラスタゾート)を設置。十分な吸引気流が発生するよう作業に支障のない範囲内で開口部も小さく調整し、作業中に舞い散る細かいチリやホコリ、カビ、有機溶剤蒸気などに汚染された空気を作業者が吸い込まないようになっています。
関連情報
・『今日の工房』2018年2月7日(水)スタッフの健康を守るために、 有機溶剤などの化学物質、粉塵・ カビなどへの対策の一環として、防塵・ 防カビマスクを一新しました。
2018年4月19日(木) 北原白秋の晩年を記す籔田義雄の日記を修理し展示へ
小田原市立図書館様より、昭和初期の日記帳2点の修理製本をご依頼頂きました。この日記帳は、北原白秋のお弟子さんで、秘書も務めた、詩人の籔田義雄(1902-1984)の昭和14年と昭和17年のもの。ともに、白秋の晩年の記録にあたります。4月21日(土)からの町田市民文学館ことばらんどの企画展「童謡誕生100年 童謡とわらべ唄 ー 北原白秋から藪田義雄へ 」に、昭和17年のものが展示されます。
処置としては、破れや欠損のあるブックジャケットへの修補と、外れたヒンジの修理を行いました。修補ではジャケットの色に染色した和紙とでんぷん糊で繕い、ヒンジの修理ではオリジナルの背ごしらえを除去し、新たに和紙や中性紙で背ごしらえを行いました。新しい背ごしらえにより背が支えられ、本体を開いた状態での展示にも、安全に対応できるようになりました。
2018年4月11日(水) より安全に出し入れしたい資料にはフラップ付きをお勧めしています。
資料を保管するための容器に大切なことは、使用材料の品質や、容器としての強度もさることながら、資料の出し入れの際の「使いやすさ」が挙げられます。容器への出し入れがスムーズにできれば、資料にかかるストレスを軽減し、かつ安全に取り扱うことができるからです。
弊社の製品も、なるべく使いやすい形状にすることを心がけています。例えば、被せ蓋式保存箱は蓋と身からなる最も基本的な形状の箱ですが、ご希望に合わせて箱の身の側板が開く「フラップ式」という構造にすることができます。これにより、資料を箱の横から取り出すことができるようになります。例えば、壊れやすく高さのある花瓶は、箱の上から手を入れて持ち上げて出し入れするよりも、フラップを倒して横からしっかり持って引き出す方が安全です。また、つかみにくい書類束や重量のある書籍など、箱の底までしっかりと手先を入れて取り出したい資料にも効果的です。
箱型の容器に入れたいのだが「どうも出し入れが面倒だな」という資料がありましたら、ちょっとした工夫で解消できるかもしれません。お気軽にご相談ください。
2018年4月4日(水) 修復業務のアシスタントを募集します。
近現代紙資料(図書、雑誌、和装本、洋装本、新聞、地図、図面、写真など)の修復業務のアシスタントを募集します。
仕事内容は、処置に必要な資材の準備などのほか、実際の処置業務の補助をお任せします。そのほか、保存容器の作製、劣化調査、出向業務、事務作業などもお手伝いいただきます。
募集要項はこちらをご確認下さい。
2018年3月21日(水) 神奈川県立歴史博物館様所蔵の屏風を収納するコンテナ・ ボックス
神奈川県立歴史博物館は横浜市にある博物館で、神奈川にまつわる歴史・民俗資料や美術品などを収蔵・展示している。今回、同館からご依頼をいただき、屏風を立てて収納するコンテナ・ ボックスを製作した。
ボックスは外寸が高さ1800㎜×幅900㎜×奥行800㎜あり、1ボックスに屏風が4〜6隻程度収納出来る。蓋は慳貪式の前扉にし、留め具などの飛び出しがない設計になっている。また前扉の密閉度を高めるため、ボックス本体の壁にはアルミの補強材を垂直に入れている。これによって紙製の箱とは思えない程の強度が得られ、屏風を立てかけても壁がたわまない構造になった。 屏風の重みでボックス内部の床が凹まないよう、プラスチック製の底板を貼り込んだ。製作時にはスタッフが乗って強度を確かめている。
2018年3月08日(木)フィルム・ エンキャプシュレーションの現在(3) ガス吸着シートの同封が開く新しい可能性
9. 大英図書館の新聞資料は年間1.4t の VOCs を出している
保管環境内の汚染ガス対策が紙資料の劣化を抑制することは古くから指摘されていたが、資料自体から発するガスを再び資料が吸着し劣化をもたらすことが広く注目されるようになったのは近年になってである。なかでも英国図書館が2009年に発表した「新聞資料の保管庫内の新聞から発生するガス」の問題は、明快な数値で示したこともあってか、同種の資料を持つ機関に衝撃を与えた。曰く、英国図書館の新聞資料を並べると、棚長は33km、重量は5,300t、そこから発生するガス(VOCs 揮発性有機化合物)は年間 1,4t、放散させ消滅するのには3,800年かかる(画像①)。
フィルム・ エンキャプシュレーションでは、この書庫内のような大きな環境と同じことがフィルムの間で生じていることになる。しかも、放散しない密閉環境では、酸性ガスは凝縮されて強い酸になる。これを除去するにはどうすれば良いのか?
10. フランスの研究機関CRCDG、ガス吸着シート MicroChamber®︎と同封で抑制効果
酸性紙をエンキャプシュレーションをする際に、Shahaniが実証したように、フィルム内で発生するガスをアルカリ性の本文紙が吸着するならば、吸着性能のより高いものを採用すれば、劣化抑制効果は一層高くなるのではないか?
これに取り組んだのがフランスの国立紙資料保存研究センター( CRCDG: Centre de recherches sur la conservation des documents graphiques) のFloréal Danielらの研究チームである。Daniel らは、汚染ガスを吸着する MicroChamber®︎に着目した。
MicroChamber®︎は 米Conservation Resources International が1992年に製品化したもので、大気中の亜硫酸化物や窒素酸化物などを吸着して、紙焼き写真や文書の変色を抑制できる新しい素材として注目された。ガス吸着材としては活性炭が一般には知られているが、MicroChamber®︎は微細なゼオライト粉の持つ分子ふるい機能(molecular sieve)を紙に担持させたものだ。これまでの吸着材の100倍以上のガス吸着力を持つとされる。MicroChamber®︎は文化財の保存のための革新的な材料として用途開拓が進み、美術館・ 博物館むけの板材 ArtCare®︎もその後開発されたことで、世界的に市場が広がった。
Daniel らはまず、Shahani が採用したアルカリ性の本文紙とMicroChamber®︎シートの吸着性能を比較して後者の圧倒的な優位と、フィルムのガスバリア性により外部からの汚染ガスの侵食が無いことを確認し、4種類の紙(ろ紙=コットン紙、酸性紙、弱アルカリ性本文紙、MicroChamber®シート)を亜硫酸化物と窒素酸化物を含む環境下に晒したのち、これをエンキャプシュレーション処置をし、強制劣化後のそれぞれの紙のセルロース重合度の変化を見た。その結果、酸性紙は予想通り重合度の低下が著しいことを再確認した。また、密閉環境下では中性のコットン紙(ろ紙)も自ら発するガスによる劣化は免れないものの、MicroChamber®紙と同封したものは、重合度低下の抑制効果が確認された(画像② グラフ線上から、エンキャプしない元の紙、弱アルカリ性紙同封、MicroChamber®同封、同封なし)。さらにMicroChamber®シートは下敷きのかたちで接しておらずに近接していても、同様の結果が得られるという新しい知見を明らかにした。
11. 当社の現在の取り組み— 汚染ガス吸着シートGasQをエンキャプシュレーションに
当社は一枚ものの紙資料を安寧に保存・ 利用できる方法として、エンキャプシュレーション技術をいち早く導入した企業である。その後も、ここに紹介してきたような海外での研究の進展を怠りなく見守り、実用上問題ないと判断したものは積極的に取り入れてきた。また、エンキャプシュレーション処置をする酸性の資料については、水性および非水性の脱酸性化処置を封印前に行うことを必須としている。
ただ、酸性紙であっても、アルカリ性の炭酸カルシウムやマグネシウムを紙に与える脱酸性処置はしないという資料はある。資料に使われているインクなどのアルカリ耐性が不明で、その確認試験もインクなどを変色させるかもしれない場合だ。また設計図面などに多用されてきた青写真も、基材の紙の酸性度は高いが、アルカリ処置は画像面の変色をもたらすことから、御法度とされている。
こうした資料へのエンキャプシュレーションの適用を可能にするのが、MicroChamber®︎に代表されるガス吸着材の同封だ。当社では2012年に汚染ガス吸着シートGasQ®︎を開発・ 上市した。分子ふるい機能を持つゼオライトがセルロース内で高密度に結晶化しており、従来品のようなゼオライト粉体の脱落はなく、シート表面もザラつきがない。接触する資料への影響もPAT等で確認している。肝心の吸着力も、紙の劣化時に最も多く発生する酢酸を例にとると、当初100pm が60分後には1ppmにまで低減する。
両製品とも現在、応用開拓に取り組んでいるが、その一つがエンキャプシュレーションへの導入(画像③〜⑥)である。これまでならば封印前の脱酸性化処置に躊躇するような資料へも下敷きとして適用できる。また、上述した Daniel らの研究が述べるように、資料に接しなくて近接していても効果があるならば、下敷きではなく、GasQをフレームのように資料を囲むかたちでエンキャプシュレーションすれば、両面に情報がある資料にも適用可能である。
12. エンドユーザー自らがエンキャプシュレーション処置ができる
もうひとつの応用の可能性が、エンドユーザー自らがエンキャプシュレーションする際のガス吸着材としての採用である。図書館やアーカイブズ、あるいは美術館・ 博物館が自ら実施したいと思っても、これまでは限界があった。脱酸性化処置ができる機関は限られているし、フィルムの端のシール法も、現在ではスタンダードな方法である高周波溶着機を導入するのは、予算やマンパワーの上で難しい。結局は、当社のような外部の業者に任せるしかなかった。
しかし、ガス吸着紙の同封という方法ならば、あらかじめ2辺(L字)、あるいは1辺だけをシールしてあるエンキャプシュレーション用フィルムを購入すれば、自館ですぐに着手できる。L字型なら他の2辺、1辺なら他の3辺は開封されているが、Shahani が指摘しているように、辺が開封しているか否かは関係なく、発生するガスはフィルムの間に行き渡るのだから、ガスを吸着するものと一緒に封印すれば良い。
なお、画像⑦ は酸性の本文紙とろ紙とGasQと共にエンキャプシュレーションし、そのまま加速劣化させたもののフィルム内部の酸性度をAD(acid detective)ストリップで測ったものである。GasQの優れた性能がお解り頂けると思う。しかし、GasQ®︎は市場に出したばかりの製品であり、確かな基本性能とは別に、応用分野でのデータの蓄積はスタートしたばかりだ。当社では社内でできる簡易な試験とともに、外部の専門機関への委託試験も数多く行なっており、今後適時、その成果を発表し、お客様のより確かな信頼を得たいと考えている。
(終り)
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